蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第51話 ~沖波の信念~

「魚雷を投棄だと………!?何を考えている………!?」

「アレだけ速ければ、雷撃は当たりません。下手に持っていても、過重量なだけです。」

 

沖波は、右肩に担いでいる成宮提督に対してそう言うと、両脚に力を入れて主機にエネルギーを貯め始める。

速力が異様に強化された防空棲姫………成宮提督が言うには、「防空棲姫改二速」と単艦で対峙する形になった沖波は、左手の連装砲を少しだけ見る。

頼りになる武装はこれだけだ。

だが………それでも、負けるつもりは無かった。

 

「どうする気だ………?」

「嘗て、竹や潮さんが教えてくれました。射程が長ければ長くなるほど、敵艦の砲撃は弧を描く形になると。」

「まさか………?」

 

高速で近づいてくる防空棲姫改二速は、沖波達を射程に捉えると、台座の艤装の砲塔の仰角を上げる。

そして、中距離の最大射程に入った途端、砲撃を仕掛けて来た。

 

「潜り抜けます!」

 

その瞬間、沖波は主機に蓄えられた力を解き放った。

缶とタービンを強化した艤装のエネルギーが伝わり、凄まじい加速力を発揮する。

山なりに飛んできた、防空棲姫改二速の一撃目の砲撃は、空振りに終わった。

だが………。

 

「奴は駆逐艦だ!?連射が出来るぞ!?」

 

成宮提督が言う通り、敵はル級改のような戦艦や、水母棲姫のような水上機母艦では無い。

巨体ではあるが、駆逐艦故に、連射が効く。

しかし、沖波は構わず突っ込んでいく。

何故ならば、敵の姫は玉座に足を組んで腰かけているからだ。

それは言い換えれば、艤装の砲塔に砲撃を頼り切っているという事。

 

「いくら駆逐艦でも………砲塔の仰角は、すぐには直りません!」

 

沖波の言葉通り、防空棲姫改二速は慌てて砲塔を下げてくるが、姫クラス自身が速力に任せて突っ込んでいる事も有り、高速で接近する沖波達に砲撃が当てられない。

あっという間に2人と1隻の距離が迫って行く。

 

「行けっ!」

 

本来の駆逐艦の射程距離に入った事で、沖波は左手の連装砲を姫の頭部に向けて放つ。

一撃必殺のヘッドショット狙い。

だが、その砲撃は、目を見開いた防空棲姫改二速に左に身をよじられる事で、回避されてしまう。

 

「避けられた!?」

「違います!避けて貰ったんですよ!」

 

これも、嘗て貨物船らいちょうに同船した際の、潮の入れ知恵。

一撃目をわざと避けて貰い、二撃目を確実に決める連撃技術。

もはや零距離に迫った沖波の主砲は、目を見開いた防空棲姫改二速の顔に確実に向けられた。

 

「決めたんです………!どんな事があっても、絶対に守って見せるって!!」

 

砲撃音と共に、防空棲姫改二速の頭部が吹き飛ぶ。

同時に沖波は、玉座に右足を蹴飛ばすように付ける事で、ぶつかる勢いのスピードを殺した。

 

「滅茶苦茶だ………。」

 

姫クラスに単艦で立ち向かった、沖波の大胆過ぎる戦術。

それを、特等席で目の当たりにした成宮提督は、思わず呆気に取られていた。

沖波は、横目で少しだけ笑みを見せながら言った。

 

「ジュース………後で奢って貰いますよ。」

「そうだな………まだ生きる理由が………出来たみたい………だ………。」

「成宮提督………?」

 

沖波は、嫌な予感を覚えた。

成宮提督が安心した為か、その言葉を最後に、力を無くしたからだ。

 

「提督!まだ死なないでください!貴方が死んだら、貴方を信じる人達が!!」

 

沖波は、早急にしらさぎの中へと戻ろうとする。

中には医務室もあるはずだ。

治療はまだ間に合う。

いつしか海戦は、第零駆逐隊や高速戦艦を主力とした本隊の活躍もあって、終わりを迎えようとしていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

どれだけの時が、経ったのだろうか?

成宮提督は、ぼんやりとではあるが意識を覚醒させた。

身体は重く、思うように動かない。

瓦礫の下敷きになっていたのだから、所々骨が折れていても、おかしくは無いのかもしれなかった。

只、その痛みがあるから分かった。

自分は、まだ生きているのだと………。

自分が苦しめた駆逐艦………沖波達によって、助けられたのだと。

 

「………目を覚ましましたか?」

 

声が掛かった事で、成宮提督は少しだけ横を見てみる。

どうやら彼自身は、ベッドで寝ているみたいであった。

そして、看病をしているのは、その沖波であった。

ここはショートランド泊地であるらしい。

 

「お前に看病をされるとはな………。これは、夢か?」

「残念ながら、現実です。………その証拠に、私は今、良いお知らせと悪いお知らせを話せます。」

「そうか………。」

 

沖波は少し憔悴していたように思えた。

ショートランド泊地の第零駆逐隊の実情は知っていたので、何となくは分かる。

恐らく、周りに無理を言って看病に専念させて貰ったのだろう。

昼夜逆転生活が基本の艦娘が、他人の看病までするというのだから、その疲労は洒落にならない。

その点では、本当に申し訳ない事をしたと、成宮提督は心の中で思った。

 

「………悪い方から聞こうか。」

「約1週間、貴方は眠っていました。その間に、大本営から通達があったんです。」

「どんな通達だ?」

「人事異動です。ショートランド泊地の藤原提督の補佐となり、現地の状況を把握せよ………との事です。」

「事実上の左遷か………。」

 

当然だな………と成宮提督は思った。

自分自身は、移動鎮守府である調査船しらさぎに多大な被害を出し、乗組員に多大な犠牲を出してしまった。

大本営所属とはいえ、ここ最近は末端の身分であるにも関わらず、懲罰艦隊送りの艦娘の引き抜きを行う等、色々と強引な事をやっていたので、トカゲの尻尾切りをされたのだろう。

それに関しては、仕方ないと思った。

 

「苦笑いを浮かべていますね。」

「そうか?………そうだな。正に無様に生きるべきだと言わんばかりの事になったからな。お前はこんな俺の姿を見て、どう思う?」

「悲しいです。」

 

沖波は、本当に悲しそうにしていた。

少なくとも、ざまあみろといった感情等は、持ち合わせていないのは分かった。

だからこそ、成宮提督は踏み込んでみる。

 

「お前は………俺の事をどう思っているんだ?」

「今は………、純粋に全ての責任を押し付けられた貴方に同情をしています。冷静に考えれば、貴方だって大本営の被害者なんですから。」

「被害者………か。」

 

思えば今まで、そう言ってくれる艦娘は居なかった気がした。

望んでいたわけでも無い。

何故ならば、成宮提督は、自分が被害者面をして良いわけも無いと思っているからだ。

同時に、色々な葛藤をしながらも被害者と言えた沖波は、やはり優しすぎる艦娘だと彼は思った。

 

「それで………良い知らせは何だ?」

「良い知らせですか?そうですね………今回、貴方の異動に伴って、この泊地に転籍してきた艦娘が7人いる事です。」

 

そこで、沖波が笑みを見せた。

まさか………と思った成宮提督の目の前で、部屋の扉が開き、大潮に連れられて7人の艦娘達が入って来る。

薄雲、高波、神風、菊月、雷、山雲、照月………。

みんな、自分が懲罰艦隊から救い出した艦娘だった。

思わず片手で頭を抱えながら、成宮提督は告げる。

 

「俺なんかに縛られず、本土で悠々と過ごせばいい物を………。」

「生き様を見て欲しいと言ったのは、貴方ですよ?」

 

代表して、秘書艦であった薄雲が答える。

そう言われてしまったら、成宮提督は何も言えなくなった。

最後に沖波は、笑顔でこう言った。

 

「これからも、生き続けて下さい。貴方の背負う罪がある限り………そして、貴方の生き様を見届けてくれる艦娘達がいる限り。」

「そうだな………それが、俺の贖罪か。」

 

成宮提督は、少しだけ笑う。

もう氷の仮面は被っていなかった。

こんな自分を信じてくれる艦娘達に、満足をしていたから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

成宮提督が目覚めてから3日後。

沖波は、看病を薄雲達に任せて、久々にゆっくりと休みを取った。

そして、少し早く起きて、日が沈んだ浜辺を歩いていた。

 

(これで………良かったんだよね、竹………。)

 

沖波は、自問自答をする。

一時は負の感情に支配されて、成宮提督を見捨てる選択肢も浮かべてしまった。

だが、寸での所で、自分の本当にやりたい事………もう絶対に守って見せるという想いに気付いて、薄雲の罪を許し、成宮提督を生かす道を選んだ。

だが………それで、竹が許すかは分からない。

死人に口なしと言うし、結局の所、彼女の本当の想いまでは分からないのだ。

 

「私のやった事は………。」

「あの………宜しいかもですか?」

「かも?」

 

後ろから掛かった声に、沖波は振り向く。

そこには薄雲に連れられて、夕雲型の姉妹艦である高波が立っていた。

 

「薄雲………?」

「沖波、高波さんの話を聞いてくれないかな?」

「高波姉さん………どうしたの?」

「えっと………その………薄雲さんと一緒に、竹さんと仲良くしてくれて、ありがとうございます!」

 

高波はそう言うと、思いっきりペコリと頭を下げる。

沖波は、最初その意味が分からず薄雲を見る。

確かに、自分達は竹と仲良くしていたはずだが、それは高波が成宮提督の元に来る前の話であるはずだ。

わざわざお礼を言う意味が、分からない。

薄雲も、それを察したのだろう。

再び高波に囁きかける。

 

「高波さん、それじゃ沖波が戸惑うだけだよ?」

「あ、はい………。竹さんから、彼女が懲罰艦隊に入る事になった理由は聞いているかもですよね?」

「え、うん………。確か、呉の近くの軍港都市で、提督からセクハラを受けていた艦娘を助ける為に、実力行使で半殺しにしたって………あ!?」

 

そこで合点が行った沖波は、思わず高波を指さしてしまう。

彼女は恥ずかしそうにしながら、言葉を紡いだ。

 

「そうです………。私がその、セクハラを受けていた艦娘なんです。竹さんからは、司令官から酷い扱いを受けるならば、ぶん殴ってやればいいと、何度も教えられました。」

「も、もしかして懲罰艦隊に入った理由って………。」

「退院してきた司令官が、凝りもせずにセクハラをしてきたんで、竹さんの教え通りに実力行使に出たんです。2度も半殺しになった司令官は、流石にトラウマで退役する事になったかもです。」

「う、鬱憤………溜まってたんだね………。」

 

思わず沖波は、口が引きつってしまう。

竹は好戦的な性格故に、まだ半殺しにしたのは納得できるが、高波のような大人しい艦娘が、同じように半殺しにしたのだから、余程酷い提督だったのだろう。

そういうわけで、彼女は冤罪で懲罰艦隊行きになってしまったが、事情を知った成宮提督によって、護衛艦隊の旗艦に選ばれる事になったのだ。

そして、そこで薄雲達から、その後の竹の事を詳しく知ったのだろう。

高波は顔を上げると、沖波に笑みを見せた。

 

「そういうわけで、沖波さんにお礼が言いたかったんです。成宮司令官を救ってくれた事と………竹さんと仲良くして、その想いを守ってくれた事を含めて。」

「あ………。」

 

沖波は気付く。

自分の色々なしがらみを超えて守りたいと願った行為は、確かに竹の想いや周りの人物達を救う事になっていたのだ。

 

「だから、改めて、御礼を言わせて下さいね!ありがとうございます。竹さんも喜んでくれます………って、沖波さん!?」

 

高波は驚く。

沖波は、義眼でない右目から涙を流していた。

自分は、正しい事をしたのだと分かったから。

そして、喧嘩別れになってしまった竹と、ようやく分かり合えた気がしたから。

その様子を悟ったのだろう、薄雲も穏やかな笑みを見せて言う。

 

「良かったね、沖波。竹と………仲直り出来て。」

「うん………良かった。本当に良かった………!」

 

涙を流し続けながらも、沖波は、満面の笑みを見せながら薄雲に抱き着いて、しばらくその胸に埋もれていた。




一度は、バラバラになってしまった3人の友情。
特に、永遠の喧嘩別れになってしまった竹とは、もう一生分かり合えないと覚悟していただけあって、高波の言葉は、沖波にとって救われる物になったでしょう。
沖波にとって、ここからが新たなスタートになりそうですね。

さて、この沖波編ですが、もうちょっとだけ「蛇足」が続きます。
新たに転籍した、7人の艦娘達をどうするか?
もうちょっとだけ、お楽しみください。
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