蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第52話 ~新たな仲間として~

沖波が懲罰艦隊でのしがらみを脱する事が出来た後、ショートランド泊地は、少し慌ただしくなった。

成宮提督(正確には元提督だが、面倒なので提督と呼んでいる)のリハビリ。

ブリッジを破壊された、調査船しらさぎの修復。

貨物船らいちょうに協力して貰い、犠牲になった乗組員の亡骸や、生きている乗組員の本土への輸送。

色々とやる事は多かったが、それ以上に、重要な事があった。

それが、成宮提督の護衛である、転籍してきた7人の艦娘達の扱い。

一番良いのは、過度の負荷が掛かっている第零駆逐隊に編入させて、1人1人を休み休み運用させる事であった。

只、まずそれに伴い、一朝一夕では解決できない幾つかの問題が生じてしまう。

 

「まずは言語。この泊地は日本語でも通じるけれど、現地の言語を学ばないと、任務に支障が出るからね。」

 

成宮提督がリハビリをしている中、7人の嚮導艦を勤める事になった陽炎が配布したのは、分厚い教科書。

座学になるが、地元の言葉を徐々に学んでいかなければ、救助対象の人々とのコミュニケーションが出来ない。

比較的こういう事が苦手な深雪も、最終的にはマスターをしたのだから、嫌でも学んで貰わなければならなかった。

 

「次は、身体を昼夜逆転生活に慣らす事。………と言っても、状況次第で昼にも出撃するし、最初は苦労するとは思うけど。」

 

更に陽炎は、簡単に順序を持って説明していく。

ここら辺は、夏にサミュエル………サムを指導した経験が活きた。

勿論、彼女の時もそうだったが、いきなり夜戦特化の身体になれと言われても難しいので、徐々に慣らしていって貰う。

その上で、ある日の夜、第零駆逐隊の面々を集めた上で、7人を演習海域に呼んだ。

 

「陽炎さん、何をするの?」

「自己紹介よ、自己紹介。思えば薄雲を始め、ハッキリとした自己紹介を聞いた事無かったじゃない。この機会に、全員と交流しておきたくて。」

 

沖波の質問に答えた陽炎は、艤装を背負って並んだ7人の艦娘達を見ていた。

ここ最近の様々なドタバタで、ハッキリとした挨拶がされて無かった為、一旦しっかりと聞こうと彼女は考えたのだ。

 

「じゃあ、簡単にだけれど、まずは私達から話すわね。」

 

旗艦である初霜を筆頭に、順に語って行く。

初霜は、義腕の事や、若葉の事。

陽炎は、師匠の神通の事や、秘書艦の任務の事。

沖波は、懲罰艦隊での事や、義眼の事。

大潮は、初期艦である事や、PTSDだった事。

深雪は、雪風との事や、改二艦で無い苦労の事。

敷波は、綾波達の事や、仇討ちの事。

そして、春風は、秘書艦補佐の任務の事。

一通り話した後で、質問を設けて、答えられる事に付いては答えていく。

その際、印象的だったのは、神風から深雪に出た質問であった。

 

「缶とタービンを限界まで強化しているって聞いたけれど………改二艦で無いと、どうなるの?」

「そうだなぁ………長距離を航行すると主機が耐え切れず、煙を吹く事がある。ヤバい時は抽水をして加熱を抑えないと、最悪主機が焼けるな。秋津洲さんに修理を頼む事も多い。」

「逆に言えば、そこまでしないと第零駆逐隊の任務はこなせないって事ね………。」

「速力を活かして、救難信号を発している人達の命を助ける艦隊だからな。守る為には、我儘を言っていられない。」

 

第零駆逐隊の信念に関わる質問であった為、これには神風だけでなく、他の艦娘達も熱心に聞いていた。

一通り質問と回答が終わって、情報が頭の中で纏められたら、今度は薄雲達の番であった。

只、ここで陽炎がとんでもない事を言い始める。

 

「じゃあ、ここからは沖波が仕切って。」

「ええ!?」

 

あまり旗艦適性や嚮導艦適性が無い沖波は、陽炎の言葉に思わず驚く。

しかし、陽炎はこれも練習だと言うと、理由を述べる。

 

「海戦の時、一番重要なのは沖波の義眼による索敵でしょ?もし、交代制になった時に私が秘書艦の仕事に回って、初霜が休む事になったら、沖波が仕切らないと。」

「う………そ、そうなのかな?」

「それに、成宮司令を助けた時の海戦だと、指示しっかりと出してたでしょ?自信を持てば大丈夫よ。」

「わ、分かったよ………。」

 

正論を言われた事で、沖波は緊張しながらも仕切り始める。

とりあえず、7人に自己紹介をして貰わなければならない。

まずは、話しやすい薄雲に話を振った。

 

「とりあえず、薄雲から順番に自己紹介をしていってね。答えられる範囲でいいから、自由に話して欲しいかな。可能ならば、冤罪の理由とかも………って、ゴメン、薄雲。過去話をする際に貴女の事は、話しちゃったから………。」

「大丈夫だよ、沖波。………じゃあ一応、私からもう一度話すね。」

 

薄雲は第零駆逐隊の面々を見渡すと、自己紹介を始める。

 

「私は吹雪型の薄雲。本名は「優(ゆう)」。冤罪の理由は、夫である「斉藤 久樹(さいとう ひさき)」提督が、嫉妬と妬みで殺されて、その罪を擦り付けられたから………かな。」

 

ペンダントにしている指輪を見せた薄雲に対し、初霜が質問をする。

 

「ケッコンカッコカリをしているって事は………練度限界突破をしているのよね?」

「うん、多少はね。………改二艦じゃないけれど、妖精さんとのシンクロ率が上がっているから、缶とタービンに主機は耐えられるかな?」

 

薄雲は、自身の右肩に乗っている、同じ制服を着た妖精さんに聞いてみるが、彼女はバツマークを示して、無理だと示す。

どうやら練度限界突破をしても、艤装その物が強化されるわけでは無いらしい。

 

「ゴメン。もしかしたら、あまり海戦では役には立てないかも。………そういう意味では、高波さんはどうかな?」

 

薄雲は次に、隣に並んでいる高波に聞く。

彼女は、腕を前に組んで、もじもじとしながらも答えていく。

 

「夕雲型の高波です。本名は「沙織(さおり)」。一応、先行警戒艦と呼ばれているかもです。缶とタービンによる最速化は、秋津洲さんの話だと、艤装の面では問題ないかもです。」

「高波さんの冤罪の理由は、先に聞いたけど、一応もう一度教えて貰えるかな?」

「はい。竹さんと同じ軍港都市にいましたけれど、セクハラを働く司令官だったので、我慢できずに、ボッコボコのギッタギタの半殺しにしたかもです。」

「………本当に、鬱憤溜まってたんだね。」

 

もはや乾いた笑いを浮かべるしかない沖波に対し、高波は恥ずかしそうにする。

しかし、改二艦である上に、視力が異様に良い事もあって、第零駆逐隊の候補生の中では、旗艦向けの能力を備えていると言えた。

更に主機が、缶とタービンの強化に耐えられるのならば、厳しい任務を前にしても、戦力としては一番期待出来るようにも感じたのだ。

 

「次は………神風さん、お願いします。」

「分かったわ。」

 

バトンを引き継いだ神風は、軽く敬礼をする。

 

「私は、神風型ネームシップの神風。「蓮実(はすみ)」って本名を持ってるわ。この2本の刀が最大の武器かしら?」

「二刀流とは凄いわね。私もバルジトンファーの二刀流を操るけど、旗艦向け装備に悩んだ事があったの?」

 

陽炎が首を傾げながら聞いてくるが、ここで神風は少し苦い顔。

徐にマウントしてあった単装砲を、両手で抱えるように握ると、肩を落として理由を話す。

 

「これは冤罪の理由と関係していて………、私、砲撃が下手なのよ。」

「砲撃が下手?」

「うん………実は、演習中に明後日の方向に主砲のペイント弾を撃っちゃって、昔の司令官の顔面に当てちゃったのよね………。」

「えぇ………それで怒りを買って懲罰艦隊に………?」

「そうなの、沖波。そこで、引き抜いてくれた成宮司令官に、何か近接武器でも持ってみたら?って言われて………隣の菊月の抜刀術も参考にして決めたの。」

 

最後は少し舌を出しながら答えた神風を見て、沖波達………特に春風が顔をしかめる。

神風型の艤装は、他の駆逐艦に比べると特殊で、手持ち用の主砲の他に、艤装の凸フレームの両端にも単装砲が付いている。

しかし、今の神風の話が確かならば、この両端の単装砲を活かした砲門の数に任せた戦術は取りにくい。

また、雷撃に関しても、魚雷を背面撃ちで放つ独特のスタイルである為、命中率が良さそうには見えなかった。

 

「神風御姉様………。真に申し訳ありませんが、ここに来た以上、斬撃だけでなく、砲撃や雷撃も練習する事になると思います。でないと戦力には………。」

「う………やっぱり………。と、とにかく、次は菊月!」

 

神風に背中を叩かれた事で、菊月は軽く会釈をした。

 

「菊月だ。本名は「千夏(ちなつ)」。睦月型の火力の低さを補う為に、昔からこの刀を帯刀している。神風ほどでは無いが、砲撃より斬撃派だな。」

「先程の話だと、神風御姉様に二刀流を教えたのは、菊月さんですよね?」

「うむ。春風の言う通り、頼まれてな。冤罪の内容だが………軍港都市での鎮守府内の待遇が異様に悪かったので、単艦でその司令官を脅した結果だ。」

「た、竹みたいに実力行使に出ちゃったの!?」

「所謂、「ブラック鎮守府」という物ですわね………。」

 

驚く沖波と怪訝な顔をする春風に頷きながら、菊月は答えていく。

単艦で脅したのは、周りの艦娘達を巻き込まないようにする為だと。

結果的には、提督は交代する事になり、待遇面は良くなったが、自身は懲罰艦隊行きになった。

しかし、そこを成宮提督に救われたのだ。

 

「成宮司令官には恩義しかない。故に救ってくれた事、改めて感謝する。」

 

頭を下げられた沖波は、とりあえず同じように頭を下げて応える。

只、改二では無い睦月型は、かなり小柄な部類に入る為、第零駆逐隊としては、任務をこなせるか少し不安が出た。

抜刀術は頼りになりそうであったが、そこまでの距離に踏み込めなければ、本人の言う通り、睦月型の単装砲1門という火力の低さが、影響しそうではあったからだ。

 

「菊月さんには、いずれ夕雲型の主砲を扱って貰う訓練も必要かもしれないね。」

「沖波………そんな訓練もするのか?………とにかく、次は雷だな。」

 

菊月に横目で見られて、雷は、自信満々に腕を組んだ。

 

「私が雷よ!「胡桃(くるみ)」っていう本名があるわ!見ての通り、暁型ね!」

「明るいなぁ………。正直、深雪さまから見たら、懲罰艦隊とは無関係に見えるんだが………?」

「うーん………実は私、ちょっと男の人にトラウマあるのよね。前の司令官がちょっと………。」

「ん?お前も冤罪はセクハラ系?なーんか、嫌な予感がするんだが………。」

 

深雪が顔をしかめると、雷は軽く溜息を付きながら答えていく。

 

「かなり仕事で病んでいたみたいで、母性を求められたのよ。母親のように振る舞って欲しかったらしくて………拒んだら、怒りを買っちゃって………。」

『うわあ………。』

 

雷の回答に、思わず第零駆逐隊全員が引いてしまう。

確かに雷は、周りを包み込むような性格をしているし、ストレス過多な提督業をしていると、癒しを求めたくなる気持ちもあるだろうが、この事例は酷いと思えた。

特に沖波からしてみれば、過去に新郷提督という大惨事になった事例を経験している為、ここに雷が無事にいる事に、ホッとしてしまう程である。

 

「救助対象には男の人も勿論いるけど、大丈夫か?」

「そこら辺は割り切れるわ。只、セクハラをしてくるならば、流石にねぇ………。」

「だよなぁ………。女の悩みってヤツだ。」

 

深雪と共に愚痴る雷を見て、沖波は考える。

大人しい高波に比べれば、雷はまだ、自身のストレスを溜め込むタイプでは無さそうだが、彼女も小柄な暁型であるのは気になる所であった。

何せ小柄であればあるほど、体力面で鍛えないといけないのは事実なのだから。

 

「沖波………さっきから貴女、私達を見定めているみたいだけど、どんな評価?」

「うん………正直に言えば、体力と練度をもうちょっと鍛えた方がいいかなって。」

「厳しいわね………。」

 

先の海戦で、最初に大破していた事もあって、自覚があるのだろう。

雷は再び溜息を付くと、隣の山雲を見た。

彼女は呑気そうに腕を後ろで組むと、自己紹介を始める。

 

「朝潮型の~山雲です~。本名は「柑奈(かんな)」~。冤罪の理由は~、司令さんの〜大事にしている壺を落として~割ってしまったから~。」

「ず、随分とマイペースだね。………というか、冤罪内容あんまりじゃない?」

 

敷波のツッコみを受けて、山雲はちょっと寂しい笑みを浮かべる。

 

「実は山雲は~、元々過去の海戦で左腕の腱が切れて~、力が入らなかったんです~。それで………前の司令さんに役立たずと思われて~、意図的に捨てられちゃったのかな~と。」

「そんな………。」

 

沖波は、思わず悲しみを覚える。

確かに改二でない朝潮型は左手に魚雷を付けているので、左腕に力が入らなければ雷撃戦が出来ない。

だから、彼女は懲罰艦隊に捨てられてしまったというのだ。

敷波も、ラバウル基地の綾波の事を思い出したのだろう。

両手を握り締めながら下を向いて、歯を食いしばって怒りを堪える。

しかしここで、山雲が笑顔で意外な事を言ってきた。

 

「でもでも~、成宮司令さんの所に行ったら~、大本営の上層部で開発された「人工筋肉」を貰って~。山雲~、今はしっかりと海戦が出来るようになったんです~。」

「人工………筋肉?」

 

敷波が見上げたので、山雲は左肘のサポーターを外す。

そこには、腕に巻くギプスのような物が取り付けられていた。

 

「山雲の総評はどうですか~?」

「ゴメン。その前に………後で、アタシの部屋に来て貰っていいかな?」

「はい~?」

 

真剣そうな顔をした敷波に、山雲はクエスチョンマークを沢山浮かべるが、とりあえず了承する。

沖波としては、人工筋肉の強度や補強能力次第で、海戦での力に直結すると思ったので、すぐには結論を出せなかった。

とりあえず、最後の艦娘………照月に自己紹介をして貰う。

話を振られた彼女は、艤装の両サイドに取り付けられた、2匹の「長10cm砲ちゃん」を慌てて大人しくさせた。

 

「あ、秋月型の照月だよ!本名は「星花(せいか)」!冤罪の理由は………その………。」

「言いたく無いのですか?言いたく無いのならば、大潮達は無理に聞きませんが………。」

「ううん、そうじゃなくて………実は、長10cm砲ちゃんが五月蠅いっていう騒音妨害みたいで………わあ!?怒らないで!」

 

途端に怒ったように騒ぎ始めた長10cm砲ちゃんをなだめながら、何とか照月は落ち着かせようとする。

秋月型は、この長10cm砲ちゃんによる対空迎撃が得意な、比較的長身の駆逐艦だ。

長10cm砲ちゃんは、単独で自立稼働する主砲のような物で、艦娘とシンクロさせる事で、連携を取る事が出来るらしい。

その特性から、秋月型は「防空駆逐艦」とも呼ばれていた。

 

「ご、ごめんね………本当に騒がしくて………。」

「気にしなくていいよ。でも、防空駆逐艦の秋月型って夜戦は好きなの?」

「私は比較的、好きな方かな?照月って艦名だし。この泊地周辺だと、夜に飛ばして来る空母もいるんでしょ?」

 

照月の言葉は正しかった。

姫クラスや強力な空母系の中には、夜でも攻撃機を飛ばせる存在がいる。

その中で、防空駆逐艦のような存在がいるのは、第零駆逐隊にとっては有難いとも思えた。

 

「只、問題は缶とタービンを強化した中で、迎撃が可能か?………という事でしょうね。」

「そこは慣れしか無いと思うよ、大潮さん。」

 

沖波達第零駆逐隊は、この癖の強い7人の艦娘達をどうやって鍛えて行けばいいか考える事になった。

ひとまず、彼女達には缶とタービンを強化した「最速」での挙動を試して貰う事になる。




第零駆逐隊候補生…として編入する事になったのは、薄雲・高波・神風・菊月・雷・山雲・照月の7人。
この話を読んで貰えれば分かると思いますが、いずれもかなり癖の強い艦娘達となっています。
彼女達7人が本当に零駆の戦力になるのかは、この話の時点ではまだ未知数ですが、頼もしい?艦娘達が来てくれた事は確かでしょうね。
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