蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第53話 ~人工筋肉~

自己紹介の後に、缶とタービンを強化した「最速」装備で訓練して貰う事になった薄雲達。

ここで、大潮が懸念していた事が、ある意味当たってしまう。

 

『うわあああああああああああ!?』

『……………。』

 

主機の加速力を全然コントロールできずに、素っ頓狂な悲鳴を上げる、泊地の新人達………第零駆逐隊の新人候補性達の姿に、思わず頭を抱える沖波達。

 

まず、射撃の苦手な神風は狙いが付かず、明後日の方向に砲撃をしてしまい薄雲の顔に盛大にペイント弾をぶつけてしまう。

菊月は居合を試そうとしたが、的との距離感を誤ってしまい激突。

練度が足りていない雷は、山雲と正面衝突してしまい、転んで派手に頭にお星さまを浮かべる。

照月は妖精さんのラジコンを使った対空迎撃を行おうとするが、長10cm砲ちゃんが上手く照準を合わせる事が出来ず、砲撃できない。

高波は目の動きこそ追いついていたが、技量はまだ完全には付いて行っていなかった。

 

「ああ………竹や斉藤提督が見える………。」

「ご、ゴメン!薄雲!しっかり!?」

「ふ、不覚!………というか痛い!?」

「あーん!山雲、ごめんー!」

「あら~?お星さまがいっぱい~?」

「長10cm砲ちゃん!落ち着いて何とかして~!?」

「あわわわわ!?もしかしなくても、大丈夫じゃ無いかも!?」

 

『……………。』

 

勿論、第零駆逐隊の7名も、初期の頃は缶とタービンに振り回されていた為、彼女達を笑う事は出来ない。

むしろ、昔の自分達の滑稽な姿を思い出してしまい、かなり恥ずかしくなってしまった。

 

「こうして見ると、対応力のあった磯波さん達って、かなり凄かったんだね。陽炎さん、真面目な話………戦力としてどうなのかな?」

「現状だと全員、厳しいわね………。改二艦の高波や練度のある薄雲は、慣れる事が出来たら頼りになりそうだけど………他は未知数ね。敢えていうなら、菊月と山雲?」

 

沖波の質問に、陽炎はシビアに答えていく。

第零駆逐隊の任務は過酷である上に、緊急性を伴う事も多い。

その為、艦隊の艦娘に求められる条件は、かなり多いのだ。

結局その日の夜は、缶とタービンに慣れる為の一歩目を踏み出しただけで、まともな演習等は行う事は出来無かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

とりあえず第零駆逐隊候補生としての初日の訓練は、一通り終わり、皆で風呂に入りながら反省会をした後、朝食を食べて(今朝の担当はプリンツ)眠りに着く事になる。

只、事前の言葉通り、その前に敷波は、山雲を自室に呼ぶ事になった。

同部屋には深雪がいたが、彼女は敷波が話したい事を察していたので、先に眠る事をせず、部屋の中で胡坐をかいて座って待っている。

深雪は、敷波と山雲に椅子を譲ってくれた。

 

「まず、いきなり呼んでゴメン。泊地の空気には慣れた?」

「はい~、慣れました~。後、気にしなくても、大丈夫ですよ~。山雲の部屋だと~、照月さんの長10cm砲ちゃんがピョンピョン跳ねていますからね~。」

「後で、照月にも謝っておくよ。」

 

薄雲達7人が来た事で、寮の駆逐艦達の部屋割りも変わった。

まず、沖波の部屋に、親友との関係に戻った薄雲が同居する事になり、大潮が春風の部屋に移動する事に。

それによって、初霜&陽炎、沖波&薄雲、深雪&敷波、春風&大潮、高波&雷、神風&菊月、山雲&照月と割り振りが変わった。

照月は、ペットとして懐いている長10cm砲ちゃんが五月蠅いから、1人部屋の方がいいのでは?と進言したが、マイペースな山雲が、気にせず彼女と同居してあげたのだ。

とにかくそういうわけで、敷波は真剣な話をしたかったので、申し訳なかったが、山雲を自室に呼ぶ事にした。

 

「それで~、山雲に興味を持つって事は~、この左腕の人工筋肉の事ですよね~?」

「うん、もう一度見せて貰ってもいいかな?」

「どうぞ~。何なら、外して見てみます~?」

 

山雲はそう言うと、左肘のサポーターを取って、右手で腕に巻いたギプスを外そうとして………思わず敷波に止められた。

 

「ちょ、ちょっと待って!?それ、風呂でも付けていたよね!?もしかして、神経接続しているんじゃないの!?」

「してますよ~?でも、外す時は痛くないから大丈夫ですよ~。」

「ダメだって!?再び付ける時、滅茶苦茶痛いんでしょ!?アタシ、初霜や沖波から聞いてるから、ある程度は分かるんだって!」

 

敷波は何とかストップさせるが、山雲は首を傾げながら聞いてくる。

 

「ん~、でも、敷波さん~………確かめたいんじゃ無いんですか~?山雲~、のんびり屋ですけれど~、鈍感では無いんですよ~?自己紹介で言ってましたよね~、綾波さんの事~。」

「うん………そうだよ。アタシ、その人工筋肉を、綾波に使えないかなって思って………。」

 

療養施設も兼ねているラバウル基地にいる綾波は、過去の海戦で、左腕と右脚に酷い怪我を負って、まともに動かせなくなってしまった。

それ故に、たまに会いに行っても自暴自棄になっており、日向やサラトガ、喜多見提督等を困らせてばかりである。

そして、彼女の負の側面に当てられた影響で、仲間であった海風と文月も、酷い自己嫌悪に陥っていて、もはやバラバラの状態になっていた。

 

「敷波さんは~、仇討ちを望んでいるって言ってましたけれど~、綾波さんを助けたいって想いもあるんじゃないのかな~って、山雲なりに思ったんです~。」

「うん………アタシは、出来る事ならば助けたい。綾波も海風も文月も………あのままでいいわけが無いじゃないか!」

「だったら~、しっかりと山雲の人工筋肉~、確かめた方がいいと思いますよ~?」

「……………。」

 

山雲は、あくまで笑顔でいる。

恐らく、貸してくれと言ったら、喜んで貸してくれるだろう。

だが、何度も初霜と沖波から、神経接続の辛さを聞いている敷波は、その優しさに甘えていいのだろうか?………と疑問になってしまった。

ここで、ずっと黙って腕を組んでいた深雪が口を挟んでくる。

 

「なあ、山雲。人工筋肉のスペアは無いのか?初霜の義腕も、沖波の義眼も、スペアは工廠で保管されている。山雲の人工筋肉だって………。」

「う~ん、あるにはあるんですが~………そう簡単に触れる物では無いですよ~?藤原司令さんに~成宮司令さんに~秋津洲さんに~………許可を取らないといけない人が多いですね~………。」

「どうせ、将来的には大々的に使って、リハビリをさせたいんだ。今の敷波の想いを、全員に伝えた方がいい。………そうじゃないのか?」

 

深雪は敷波を見る。

敷波はしばらく俯いていたが、頷くと立ち上がる。

彼女は、改めて2人に頭を下げた。

 

「本当にゴメン!疲れていると思うけど、ちょっと執務室まで付き合って!」

「いいですよ~。」

「乗り掛かった船だ。構わないぜ!」

 

山雲も深雪も立ち上がり、敷波の手を取った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「成程な………ラバウルの綾波に、人工筋肉を施す………か。」

 

執務室にいたのは、藤原提督と昼間の秘書艦の由良、そして、杖を持って椅子に座っていた成宮提督(正確には成宮元提督)であった。

3人に敷波が自身の想いを伝えた所、真っ先に反応をしたのは、やはり山雲の人工筋肉の管理をしていた成宮提督。

彼は、藤原提督に頼み、ラバウル基地の綾波に関する資料を貰うと、溜息を付きながら呟いた。

 

「敷波………まず、俺はお前に厳しい事を伝えなければならない。」

「厳しい事………?」

「初霜や沖波の事例を知っているのならば理解しているとは思うが………大本営の人工筋肉の開発部は、艦娘を道具としか見ていない者が多い。」

「道具………。」

 

敷波は、後ろに控えていた山雲を見る。

彼女は、ちょっと困ったように頷きながら言う。

 

「山雲は~、人工筋肉を貰った代わりに~、報告書等を書かないといけないんです~。初霜さんや~沖波さんと~同じですね~。」

「じゃあ………何さ。綾波に人工筋肉を付ける場合も………。」

「道具扱いだろうな。」

 

成宮提督はハッキリと言うと、杖を突きながら立ち上がり、敷波の元に向かう。

身長差は彼の方が上だったので、見下ろす形になったが、敷波の目を見ながら言った。

 

「………人工筋肉による「堕ちた鬼神」の復活劇。大本営の開発部にしてみれば、これ以上にも無く、興味深く美味しいシナリオだ。だから、申請すれば、ほぼ間違いなく受理されるだろう。」

「あ、アタシはそんなつもりじゃ………!?」

「そうだ。だが、お前の純粋な想いは、間違いなく捻じ曲げられる。」

 

思わず視線を逸らしてしまう敷波に対し、山雲とは反対側の後ろに控えていた深雪が聞く。

 

「大本営がそのつもりでも、人工筋肉さえ手に入れば、こっちの物じゃないのか?神経接続の痛みは元々覚悟しないといけないんだし、報告書くらい何てこと無いだろ?」

「確かに、そう捉える事も出来る。だが、あくまでそれは「敷波の場合」だ。実際に付ける事になる「綾波の場合」はどうなる?」

「っ!?」

 

成宮提督の言葉に、敷波は2、3歩後ろにふらつく。

綾波に人工筋肉を付けて欲しいと願っているのは、敷波だ。

だが、今の綾波は全てに懐疑的になっている。

只でさえその状態であるのに、ギリギリ信頼出来る敷波から、黒い思惑をたっぷりと秘めた人工筋肉の件を打診されたら、どうなるだろうか?

間違いなく、彼女は敷波を罵倒し、拒絶をするだろう。

 

「……………。」

「新参者の俺だから、ハッキリと言わせて貰う。最悪、お前達の友情が完全に壊れるぞ。その覚悟があるのか?」

 

成宮提督の言霊の力に、敷波は蒼白になる。

敷波は、綾波のストレスに気付けなかった。

だから、彼女の被弾………そして、取返しの付かない怪我に、繋がってしまったとも言える。

敷波は、また綾波を傷つけるのかもしれない。

彼女の頭に、色々な考えが渦巻く。

不安、後悔、疑念………しかし………。

 

「人工筋肉………申請………して下さい………。」

「………本気か?」

「綾波は、アタシのせいでああなったんだ!説得は、アタシがする!だから………お願いします!!」

 

敷波は、成宮提督に対して頭を下げて懇願した。

もうこれ以上、相棒が狂う姿を見たくない。

その為ならば、泥を被る覚悟だってあった。

強い意志を、感じたのだろう。

成宮提督は、藤原提督を見て言った。

 

「………提督、お願いできますか?ラバウルには私も赴きます。」

「貴方に頼まれると、肩身が狭いですが………立場上、仕方ありませんね。」

 

元上官であった現補佐から頼まれて、藤原提督は軽く嘆息して電話を取る。

まずは、ラバウルの喜多見提督に、話を伝える事からであった。

それを見た敷波は、顔を輝かせ、藤原提督に頭を下げる。

 

「ありがとうございます!」

 

その様子を深雪と山雲は、穏やかな笑みを浮かべて見ていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

後日、穏やかな日光が差す中、ラバウル基地に、5人の艦娘と1隻の船が向かっていた。

艦娘は、先頭から敷波、深雪、山雲、沖波、大潮。

船………大潮がコントロールしている大発動艇には、杖を持った成宮提督が乗っていた。

あの後の、訓練の成長具合を踏まえて皆と話し合った結果、第零駆逐隊の出撃が掛かった時は、初霜、陽炎、春風、高波、薄雲、菊月で対応して貰う事になっている。

 

「綾波………。」

「敷波さん、大丈夫?」

「大丈夫だよ………だから、行こう!」

 

心配する沖波を制しながらも、敷波は応える。

目指すべきラバウル基地は、もう少しであった。




敷波が着目した、山雲が装着していた人工筋肉。
外付けのギプスのような物ですが、これで筋肉を補強できるのならば、彼女は綾波に試してみたいですよね。
しかし、その純粋な想いは、どうしても捻じ曲げられてしまうわけで…。
果たして、その敷波の心は通じるかどうか。
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