蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第7話 ~ブインの精鋭艦娘達~

「あ、アイオワ!ヤッホー!ブイン基地に来てくれたのね、ありがとう!」

 

神通に連れられて訓練海域に到着したアイオワ達を、まずは大きく手を振って出迎えてくれたのは、金髪碧眼の結構なボリュームの金髪をツインテールに纏めた艦娘。

その姿を視認したアイオワは、思わず笑顔になって同じく手を振って応える。

 

「ガンビー!良かった、貴女にこうして会えて嬉しいわ!最近、どう?」

「何とか生きてるよ!でも、この海域、深海棲艦が強いからきついかも………。」

 

そう言いながら、その艦娘は少しだけ苦笑する。

彼女は、アメリカでアイオワと仲が良かったガンビア・ベイ。

愛称であるガンビーと呼ばれる事が多く、夜戦を得意としている軽空母だ。

只、本人はあまり夜が好きではない為、元々の性格と合わせて、海戦等ではオドオドする事があるらしい。

そんな彼女ではあるが、今は精神的に余裕があるらしく、砲撃訓練を行っている3人の艦娘を呼び寄せる。

 

「霧島!リシュリュー!雪風!ちょっと来て!神通が、アイオワを連れてきてくれたよ!」

 

ガンビーの言葉に気付いたのか、彼女達は訓練を止めて、桟橋から上陸すると、アイオワ達の元へとやって来る。

まず、最初にやって来たのは、黒髪のボブカットに、フレームが緑色のオーバル型の眼鏡を付けた戦艦娘。

彼女は、アイオワを見ると、色々とその全身をジーっと見てくる。

 

「えっと………。」

「ああ、ごめんなさい。私は霧島、金剛型の高速戦艦よ。………アメリカの決戦艦娘というだけあって、色々と大きいのね。」

「………貴女、何処を見て言っているの?」

 

明らかにグラマラスな体型や過重量とも思える艤装を見て、対抗意識を燃やしているような霧島の言葉に、思わず訝しんでしまうアイオワ。

しかし、そこで沖波が苦笑いを浮かべながら言う。

 

「霧島さん………こう見えてアイオワさんは、高速戦艦ですよ?」

「高速戦艦っ!?」

「うわ!?」

 

その瞬間、霧島の眼鏡越しの目が輝き、アイオワの両手を思いっきり掴んでくる。

思わず固まるアイオワに対し、霧島はその手をしっかりと離さず大声で言う。

 

「その積載量でありながら、高速戦艦の名を確立しているとは………!流石、アメリカの決戦艦娘!貴女、高速戦艦の会に入りましょう!!」

「高速戦艦の………会?」

 

アイオワは思い出す。

そういえばショートランド泊地で、プリンツが確か、霧島は高速戦艦の会というのを作っていると言っていたような………。

 

「その………何?その高速戦艦の会って?」

「文字通り、高速戦艦による高速戦艦の為の高速戦艦最高!………といえる会合よ!みんなで一緒に飲んだり騒いだりする楽しい会だから、安心して!」

「ええ………?」

 

テンションがいきなり振り切れてしまった霧島の言葉に、アイオワは怪訝な顔を見せる。

もしかして、ビスマルクもイタリアもローマも、こんな感じで入会させられたのだろうか?

そんな霧島は、隣で腹を抱えて笑っている膝くらいまである癖の強いプラチナブロンドに、金眼の玲瓏たる美女である戦艦娘の方を向いて言う。

 

「リシュリュー!貴女も何か言ってあげて!高速戦艦の素晴らしさを!」

「ふふふ………!やっぱり、霧島。貴女面白いわね。」

「ええっと………貴女がフランスのリシュリュー?」

 

無理にでも、話題を変えたいと思ったアイオワは、リシュリューと呼ばれた艦娘に問いかける。

彼女は、腰に左手を当て、右手を胸に当てて自己紹介をする。

 

「そう、私がフランスのリシュリューよ。霧島が言った通り高速戦艦。だから、その高速戦艦の会の1人であるわね。宜しく。」

「こっちこそ宜しく。………じゃあ何?たまに霧島と一緒にショートランド泊地に遊びに行って、将棋や囲碁をしているの?」

「ええ。あのゲーム、奥が深いわよね。貴女も学んでみるといいわ。」

 

勝気そうな笑みと共に、リシュリューはアイオワに語っていく。

自信満々の表情だが、彼女もフランスの威信を賭けて、あのゲームに没頭している姿をイメージしてしまうと、アイオワはギャップに心の中で苦笑してしまう。

しかし、そう考えると、霧島が発足させた高速戦艦の会というのは、艦娘のサラダボウルの中で、異文化交流に役立っているようである。

 

「異常が無い時は、ガンビーも連れて行くわ。彼女、こう見えてカクテルの作り方がとっても上手なの。」

「へー………。ガンビー、貴女いつの間に上手くなったの?」

「えーっと、ラバウル基地にいる師匠に色々と教えて貰って………。師匠ほど上手くは無いけれどね。」

「それでも私達の舌を唸らせるくらいには、味が良いわ。貴女も、機会があったら飲んでみるといいわよ。」

 

アイオワにしてみれば、旧知の仲であるガンビーの新たな側面に感心させられる。

この後訪れるラバウルでは、その師匠にも会えるのだろうか?

 

「どんな人なのかしらね、その師匠って。」

「紹介しますから、安心してください。ちょっと驚くかもしれませんけれど………。」

 

珍しく沖波が含みのある言葉を使うのを見て、アイオワは首を傾げる。

………と、そこで、2人の戦艦娘の後ろで待機をしていた駆逐艦娘が、ここで前に出てくる。

身長が駆逐艦娘の中でも低く、屈託のない笑顔に白い歯が眩しい、白いスカートと一体化したワンピースを着ているのが特徴であった。

彼女に合わせて深雪も前に出ると、ニカっと笑みを浮かべて拳でグータッチを交わす。

 

「よう、雪風!元気にしてるか?」

「はい、深雪さん!雪風は、毎日元気に過ごしています!」

 

彼女は陽炎型の雪風。

アイオワが習った記録だと、日本の中ではとにかく幸運艦と言われており、「呉の雪風、佐世保の時雨」という言葉が海外でも浸透する程の武勲艦だ。

そんな彼女だからこそ、アイオワは違和感を覚えた。

これだけ強力な力を持つ艦娘を、わざわざ本土から離れた辺境に転籍させるだろうかと。

勿論、アイオワ達のように、最前線だからこそ、強力無比な艦娘を派遣する必要があるのも事実であるから、この疑問は黙っていようと思った彼女であったが………。

 

「アイオワさん、宜しくお願いしますね!………もしかして雪風がこの基地にいる事を疑問に思っています?」

「よ、宜しく………。鋭いわね。そんなに顔に出てた?」

「大抵、着任した皆さんに、疑問を持たれますから………言葉にはしないでくれますけれどね。」

 

雪風はそう言うと、少し寂しい笑みを浮かべながらアイオワを見る。

ようやく霧島から手を離して貰ったアイオワが雪風の方を振り向くと、彼女は手で頭をかきながら説明を始めた。

 

「実は、雪風は………私は、本土で一回やらかした事があるんです。艦隊が全滅をした中で、1人だけ生き残っちゃって………。」

「ご、ごめんなさい!?」

 

いきなり重い話を言われて、アイオワは思わず頭を下げる。

雪風はそんな彼女を手で制すると、少しだけ悲しそうな顔をする。

 

「いいんです。遅かれ早かれ、こういう事は話しておいた方がいいですから。………それに雪風より辛い目にあっている人もいますし。」

「……………。」

 

誰の事を示しているのか、アイオワは分からなかった。

そもそも一緒に同行してくれた第零駆逐隊の面々だけで見ても、心当たりがあり過ぎる。

だからアイオワは何も言わず、雪風の次の発言を待つ。

彼女は僅かに俯くと、こう言った。

 

「そんな経験をしたからか、本土では「死神」とか「雪風の面汚し」とか色々言われたなぁ………。幸運艦なのに「私は」、みんなを守れていないんですから………。」

「雪風………それは、貴女に悪口を言った人達が酷いだけよ………。」

「ありがとうございます。でも、本当に許せないのは、深雪さんを巻き込んでしまった事です。」

「深雪を………?」

「おいおい、今更それは無いだろ………?」

 

思わず深雪が片膝を立てて、雪風を覗き込む。

雪風は説明した。

本土で一緒の大規模攻勢作戦に組み込まれる事になった深雪は、この雪風に悪口を言った大本営の高官を、ぶん殴ってしまったらしい。

その為、纏めてこの最前線に転籍させられる羽目になったらしいのだ。

 

「それは………貴女に非は無いけれど、気にするわよね………。」

「はい。第零駆逐隊で、深雪さんは苦労しているみたいですし………。」

「だーから、気にするなって!これはあたしが選んだ道なんだからよ!後悔なんて微塵もないぜ?」

 

深雪は、雪風の頭を撫でながら笑みを見せる。

その精神的な強さが、雪風にとってもアイオワにとっても有り難かった。

深雪はアイオワを見ると、補足説明をする。

 

「こう見えて雪風は、第零駆逐隊の8人目のメンバーなんだ。あたし達に何かあった時は、臨時で駆け付けて組み込まれるんだよ。それだけ強いって事だな!」

「あの駆逐隊に入れるって事は、練度も十分に高いのね………。」

「神通さんに、みっちりと鍛えて貰ってますから。………でも、メンタル面はまだまだですけれどね。だから雪風は、強い深雪さんに憧れているんです。」

「あたしとしては、丹陽を越して改二にまでなった雪風の実力が、羨ましいけどなぁ………。」

 

隣の芝生は青く見える………という言葉が日本にはあるが、深雪と雪風は、お互いに足りない物を欲しがるような関係なのかもしれない。

だからこそ、2人はこうして、互いに尊重し合う事が出来るのかもしれなかった。

 

「とにかく、このブイン基地が、貴女達5人の精鋭艦娘によって守られている事はよく分かったわ。」

「本当は何かあった時の為に、6人目の艦娘に来て欲しいというのが、司令の言葉ですけれどね。」

「艦隊運用を考えるとね………って、そうだわ!そのブイン基地のアドミラルって何処にいらっしゃる?挨拶をしたいんだけれど………。」

 

神通の話だと訓練海域にいると言っていたが、彼の姿が見当たらない。

リシュリューが、ああ………と腕を組むと、近くの少し高台となっている岬を見る。

 

「アミラルならば、あそこでいつもの釣りをし始めているわ。………またいつもの通りに、ぼんやりしているみたいね。ああなったら、深海棲艦が出ない限り、誰が話しかけても反応しないわよ?」

「困りましたね………。大潮さん、どうしましょうか?」

 

神通がここで、何故か旗艦である初霜ではなく、大潮に話を振る。

彼女は左肩に背負っている荷物を降ろすと、中から何か細い棒を取り出す。

それは、釣り竿。

どうやらバッグの中身は、ルアー等の釣り用具であるらしい。

 

「大潮………貴女、何で釣りの用具を持って来ているの?」

「時間的に、こうなるかもしれないと思ったんで………。後、こう見えて大潮は、釣りが趣味なんです。アイオワさんも持って下さい。」

 

そう言うと、大潮は釣り用具一式をアイオワに渡す。

戸惑いながらも受け取った彼女は、大潮にこれでどうするのかと聞く。

 

「あの方が釣りに没頭している時は、私達も同じところで、のんびりと一緒に釣りをするのが一番なんです。初霜達は、しばらく神通さん達と会話をしていて下さい。ちょっと行ってきますね。」

「分かったわ、提督に宜しく伝えといてね。」

「では、アイオワさん。行きましょう。」

「え、ええ………。」

 

どうやらブイン基地の提督への対応はこれが初めてではないらしく、慣れっこである大潮に連れられて、アイオワは岬へと向かう事になる。

一体、この基地の提督はどういう人物なのか?

アイオワの頭に疑問符が湧いた。




ブイン基地の日本艦娘の本名

神通…「雪菜(せつな)」
霧島…「美知留(みちる)」
雪風…「蛍(ほたる)」

大潮の釣り好き設定は、F作業のイラストからです。
また、ガンビーのカクテルが得意な設定は、公式漫画「今宵もサルーテ!」からです。
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