蒼海の鉢巻と鋼鉄の艤装を風に乗せて   作:擬態人形P

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第9話 ~夫婦漫才~

その日の夕刻、アイオワ達は先行してくれた二式大艇ちゃんと合流し、ラバウル基地へと無事に辿り着く事になる。

敷波の話があった為か、全員言葉数は少なめであった。

 

「あらいらっしゃい~。」

 

しかし、そんな暗い面持ちの彼女達を桟橋で出迎えた艦娘は、どんな事情でも関わらず、常に笑顔を絶やさない人物らしく………。

まず、紫がかった黒のセミロングヘアーと同色の瞳を持った背丈の高い美女で、左頬に泣き黒子があるのが特徴。

更に、背中には巨大な薙刀を背負っており、艦娘の中でも近接戦闘にも長けているのは、一目で分かった。

但し、この艦娘も只者で無いオーラを纏っており、下手に近寄るとその薙刀で首をはねられそうである。

 

「ラバウル基地にようこそ~。秘書艦である天龍型の軽巡の龍田よ。貴女がアイオワさんね。宜しくお願いしますね~。」

「よ、宜しく………。流石秘書艦というだけあって、後ろから近付いても隙が無さそうね………。」

 

加えてこちらのペースを乱すような言葉遣いに、アイオワは困惑してしまった。

もしかしたら彼女の素なのかもしれないが、どうも慣れるには少し時間が掛かりそうだ。

そんなアイオワに変わって、初霜が前に進み出て話しかける。

 

「龍田さん、ラバウル基地の提督はおられますか?私達、提督に挨拶に来たんです。」

「アイオワさんの紹介~?そうね~提督なら~………。」

「龍田ーーーっ!!」

 

龍田が、首を傾げて言おうとした時であった。

基地の中から、軍服姿である20代後半くらいの男が飛び出して来て、龍田の元に向かうと………その近寄りがたいオーラを全く物ともせず、何と横合いから平然と飛びつき抱きしめる。

もしも、彼女が鍛えられた艦娘で無かったら、そのまま倒れ込んでいただろう。

 

「愛してるぜーーーっ!!」

「も~~~、提督ったら!今、仕事中ですよ~!セクハラで訴えますからね~!」

 

先程までの空気はどこに行ったのか。

いきなり周りに見せつけるように、頬にキスをする提督に対し、かなり困ったように押しのけようとする龍田。

それでも離されない………いや、離しきれない辺り、龍田はこの提督と呼んだ男を受け入れている様子であった。

 

「………何………これ?」

 

いきなりの展開に茫然とするアイオワ。

その様子を見て、初霜達は全員苦笑していた。

どうやら彼女達にとって、この光景は初めてでは無いらしい。

 

「………何で、龍田はそのセクハラなアドミラルを引きはがさないの?」

「引き離せないんですよ。」

「だって、嫁艦ですし。」

「というか、妻艦でしょうか?」

「母艦と言った方がいいんじゃないの?」

「初霜ちゃん!陽炎ちゃん!大潮ちゃん!敷波ちゃん!意地悪言わないで~!」

 

第零駆逐隊の言葉に、笑顔は消さないでいながらも、顔を赤らめている様子の龍田。

アイオワは彼女達の言葉に、更なる衝撃を受ける。

嫁艦、妻艦、母艦………これらの言葉が表す意味はつまり………。

 

「あ、貴方達………ケッコンカッコカリをしてるの!?というか、子供もいるの!?」

「実は、そうなんです~。この人に押し切られちゃいまして~。娘は別の所で預かって貰ってますけれどね。………ほら、恥ずかしいから、そろそろどいてね。」

「うお!?」

 

いい加減、しつこいと思ったのだろう。

薙刀を取り出し、柄の部分で思いっきり押し飛ばすと、ラバウル基地の提督と思われる男は引きはがされ、砂浜を転がる。

転がった男は起き上がると砂を払い、アイオワ達を見た。

 

「おっと、すまない。龍田が急にいなくなったから、寂しさで愛が爆発してしまった。」

「それくらいで寂しくならないの~。」

「そう言われても寂しいものは寂しい!………とりあえず、自己紹介だな。俺の名前は「喜多見 源次郎(きたみ げんじろう)」。アイオワ、お前を歓迎する。」

「ええっと………宜しくお願いします。………それで失礼ながら、貴方と龍田がケッコンカッコカリをしているというのは………本当なのですか?」

「無論事実だ!証拠もあるぞ!!」

 

セクハラを働いていた男………喜多見提督は左の手袋を外すと、薬指の指輪を見せてくる。

龍田も若干戸惑っていたが、同じように手袋を外し、指輪を見せてくれた。

これで疑いようが無くなった。

2人は完全な夫婦である。

 

「………ええっと、幸せそうで何よりです。」

「幸せだぞ!龍田はこう見えて、良妻賢母だからな!子供に対しても俺と一緒に手紙を書くし、秘書艦としても優秀だし、その上………ぐお!?」

「も~~~!いい加減に、話を進めて!」

 

今度はやや強めに腹を蹴り飛ばされた事で、再び砂浜を転がる喜多見提督。

そして、同じように立ち上がり砂を払うと、何事も無かったようにコホンと息を吐く。

 

「まあ何だ。とにかく、ゆっくりとしていってくれ。」

「提督………綾波達はどう?」

 

一通り、夫婦漫才を見た後で、敷波が少し声のトーンを下げて聞いてくる。

すると喜多見提督は、それまでとは一転、真面目な顔になって彼女を見る。

 

「相変わらず………と言えばいいだろうか。すまない………ここで預かっている以上、何かしら進展して欲しいのだが………。」

「いやいいよ。提督が良くしてくれているのは、知ってるし。………後は、綾波達の問題だからさ。」

 

寂しそうに言う敷波を見て、ここが療養施設である事を思い出すアイオワ。

喜多見提督は、秘書艦である龍田を伴い、基地に向けて歩き始める。

 

「あまり広くは無いが、案内しよう。………無論、綾波達の所にも寄る。」

 

彼はそう言うと、基地の中へと入って行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

最初に案内をしてくれたのは、執務室の隣にある秘書艦室であった。

その中に入ると、2人の駆逐艦娘が書類仕事に没頭していた。

1人は、腰を超える長さの夕暮時を思わせる色の髪を、後ろと二つに分けて先の方でロールを巻いている艦娘。

もう1人は、芦黄色のツインの長めの三つ編みを垂らしている艦娘である。

 

「夕暮ちゃん~、峯雲ちゃん~、ごめんなさいね~。手伝わせちゃって。提督が暴走しなければ、手伝わせるんだけど~。」

「いえ、気にしないでくださいまし。慣れていますから。」

「そうですよ。提督が暴走するのはいつもの事です。」

「じゃあ、アイオワさんに挨拶をして頂戴ね~。」

 

夕暮と峯雲と呼ばれた艦娘は、書類仕事をいったん止めると、席を立ちアイオワの前に向かい、敬礼をする。

 

「初春型の夕暮ですわ。宜しくお願いしますね。」

「朝潮型の峯雲です!仲良くしてくださいね!」

「こちらこそ、頼むわね。………貴女達も秘書艦?」

 

答礼をしたアイオワは、療養施設故に、龍田だけでは秘書艦が足りないんだろうか?と質問をする。

返って来た答えは半分当たりで半分外れであった。

 

「確かに龍田さんだけでは、書類仕事等は足りませんわ。………提督が仕事中に彼女との、のろけ話ばかりするのも有りますけれども。」

「あはは………でも、肩書としては夕暮さんが秘書艦補佐、私はその手伝いなんです。なんでも、秘書艦が複数いたら浮気になるからって………ねえ。」

「あの、そういう所に………拘る必要があるのですか?」

「俺は単婚派だからな!………って痛っ!?」

 

今度は龍田に足で思いっきり頭にかかと落としを喰らった事で、床を転がる喜多見提督。

完全に上司である提督が、秘書艦(妻)に尻に敷かれているが、夕暮も峯雲も全く動揺していない。

どうやら、この濃密な夫婦漫才と上下関係は、この基地ではデフォルトであるらしい。

しかし、肩書を設定していないとはいえ、3人掛かりで秘書艦の仕事を担当する位には、この基地の役割が重いのは確かではあった。

 

「提督ったら………ごめんなさいね~こんな夫で~。」

「ま、まあ………程々にね………。でも、やっぱり色々と大変なのですね。ラバウル基地の運用は………。」

「痛たたた………まあな。基本、3人は療養中の艦娘の………今は綾波達の食事や清掃、メンタルケア等も担当してくれている。」

 

起き上がった喜多見提督は、軽く溜息を付くと、また真面目モードに移行したのか、龍田の顔を真剣な顔で見る。

龍田は一瞬だけ悩む素振りを見せたが、静かに了承の意を示す。

その様子に訝しんだアイオワに対し、喜多見提督は説明を始めた。

 

「実は………龍田も以前は、ここで療養される側だった。」

「え………?」

「昔にね~、調子に乗っちゃいまして………。危うく轟沈しそうになっちゃったんです。というよりも………半分轟沈してたかな………。」

 

龍田が言うには、海戦で主機が壊れ、浮力を失って実際に轟沈してしまったらしい。

ところが、たまたま輸送任務で近くを通りかかった潜水艦娘が、龍田の働かなくなった艤装を咄嗟に外し、緊急浮上をして助けてくれたのだ。

 

「それでですね~海が怖くなっちゃいましてね………。怯えてばかりの生活になって………他にも色々と怖かったんです、臆病になった自分に対して、周りの態度が変わるのが。」

「もしかして、アドミラルは………。」

「あ、分かっちゃいます?そうなんですよ~………この人、私が着任した時から一目惚れだったみたいで………さっきみたいな熱いアプローチばかり掛けてきて………。」

 

その時は正直ウザイと思って、何度も何度も躱していた龍田。

だが、轟沈未遂から臆病になってしまった事で、彼の態度も変わるのでは?と目を合わせる事が怖くなったらしい。

しかし………。

 

「流石に療養中の私に突撃する事は無くなりましたけれど~………真っ直ぐな姿勢は変わらなかったんですよね~………。」

「文字通り、お前の全てを愛していたからな。強い部分は当たり前だし、その裏に隠された弱さだって。」

 

勿論、ブイン基地の工藤提督を始め、多くの者に反対された。

それでも、この男は愛を貫き通したのだ。

片方が艦娘である以上、いつか轟沈という名の生き別れを経験するかもしれないのに。

いや、生き別れになる可能性があるからこそ、それまでに後悔をしないように。

 

(ブイン基地のアドミラルが脱帽していたのは、この事だったのね………。)

 

アイオワは、工藤提督がこの男を、熱血と称していた事を思い出す。

確かにここまで自分を押し通せるのならば、龍田のような艦娘でも、惚れてしまうのは分かる気がした。

 

「結果的に、この人とケッコンカッコカリをして………子供も産んで………その娘の可愛い姿を見ている内に、頑張らなくちゃって思えるようになって………。」

「貴女は………愛の力で復活できたのね。」

「恥ずかしいけれど、そうなんですよ~。だから、この経験を活かして、この人と療養する事になった綾波ちゃん達も救いたいって思っているんですけれど~………。」

 

自身の経験があるからこそ、他者を救う立場になりたい。

そう思った龍田の言葉が、心に染み入るアイオワであったが………。

 

「提督、龍田、聞こえるか。また「彼女」が暴れ出した。」

『!?』

 

秘書艦室に設置されたスピーカーから、独特の低い女性の声が聞こえてくる。

どうやら、療養施設で何かあったらしく、すぐさま喜多見提督がスピーカーの傍の電話の受話器を取り、その女性と話をする。

 

「日向か。今そちらに向かう。状況は?」

「サラトガが何とか羽交い絞めにしているが、中々収まらない。」

「分かった、少しだけ我慢してくれ。………折角の機会だ。アイオワ、お前も一度その光景を実際に見た方がいいだろう。」

「え、ええ………。」

 

喜多見提督は受話器を置くと、龍田達や第零駆逐隊を伴って、秘書艦室を出て、早歩きで廊下を歩いていく。

アイオワは不安を覚えながらも、彼等に付いて行くことになった。




実は昔、艦これの公式アンソロジーコミックを幾つか読んでいました。
その中で、龍田と提督の甘酸っぱい恋愛話?シリーズみたいなのが印象的で…。
それが忘れられなくて、もしも夫婦になったらどうだったのか?と思っていたら、いつの間にか設定が出来ていました。
あのシリーズのインパクトは、未だに忘れられませんね。
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