シナリオ100点道徳0点の世界に料理人をぶち込んだお話   作:エヴォルヴ

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お久しぶりです。

久しぶりの投稿だし……バレへんやろ。


九品目、ベルナデッタとマカロンタワー

 ベルにとって、フロム先生はちょっと苦手な先生です。過度な期待を向けられているわけでも、怒られるわけでもないですけど、時折見せる異常性が怖くて、話しかけられると驚いてしまうのです。

 

 でも……

 

「ベルナデッタさんは……優しい人だね」

 

 今行っている裁縫の補習授業の際に、そう言ってくれました。

 

「優しいから、人よりも人の痛みを分かるから、見ないように閉じ籠ってしまう」

 

「そ、そんな大層なことじゃないですよ? ベルは……」

 

 ただ、引きこもりたいだけです。ベルを傷付けるものも、嫌なものもない世界に引きこもっていたい。それだけ。

 

「そう? ……まぁ、俺の所感だからね。気にしないで」

 

 踏み込んでくることはない。それをやるのは自分じゃないと言っているような感じがする。ディミトリさんやクロードさんは結構踏み込まれたと聞いていましたが、その差は何なのでしょうか。

 

「……ところで先生」

 

「ん? 何か質問あった?」

 

「あったどころじゃなくありますよ。今、現在進行形で建築されてます!」

 

 そう、目の前に色とりどりの極彩色な甘い摩天楼が築き上げられているのです! フロム先生、さっきまでハンカチ作ってたと思ってたんですが!? 

 

「あ、これ? マカロンタワー」

 

「名称を聞いてるんじゃないですよ!?」

 

「苦労したよ。ベレスにつまみ食いされないようにこっそり作って、誰にも見つからずにここに持ってくるのには……」

 

 ダメですこの先生、話を聞いてくれません……! ……それにしても、美味しそうな建築物ですねぇ……

 

「先生、なぜここでこれを?」

 

「課題が終わった時のご褒美……っと、もう終わってたんだね。ならよし。紅茶淹れてくるから、食べてていいよ」

 

 そう言って、教室から出ていってしまったフロム先生。残されたのは私と、綺麗に作られたハンカチと穴の塞がれた服……そしてベルを見下ろすマカロンタワーのみ。……食べてもいいそうですけど、本当にいいんでしょ────

 

「甘い香りがするのはここですか?」

 

「ひょえええええええ!?」

 

「あ、ベルナデッタ」

 

 突然現れたリシテアさんに驚いてしまった。甘い香りを辿ってここまで来たんでしょうか……

 

「ここから甘い香りがしたので来たのですが……壮観ですね」

 

「そ、そうですね……」

 

 天高く積み上げられた甘美な塔は、色とりどりのマカロンで建設されています。食べるのが少し勿体ない気がするくらいですねぇ……

 

「ベルナデッタはどうしてここに?」

 

「えと……裁縫の補講を……」

 

「ああ、あれですか。針仕事って難しいですよね。……先生は異常でしたが」

 

 私達が一枚仕上げる頃には、鎧の形状を機織り機に変えて機織りしてましたもんね。フロム先生のあの鎧、誰が作ったんでしょうか。たまに会うあの変なお面を着けた呪術師の方? それともまた別の人でしょうか? 

 

「紅茶淹れてきたよ────って、おやリシテアさん。こんにちは」

 

「こんにちは、フロム先生。甘い匂いを辿ってきました」

 

「凄いねぇ……友達にもそういう人いるけど……君達の嗅覚どうなってるの?」

 

 フロム先生の交友関係……気になる話題です。意外と秘密主義というか、自分のことを語りたがらないですからね、フロム先生。聞けば答えてくれるでしょうけど、一線引いているというか……

 

「まぁいいや。二人共、これ食べていいよ」

 

「食べるのもったいないくらい綺麗なんですが……」

 

「食べない方がもったいないって。色々こだわったから、食べて感想聞かせてほしいな」

 

 そ、そこまで言われたら……食べないわけにはいきませんね。

 理由を心の中で(したた)めつつ、マカロンタワーの手前にあった真紅のマカロンを手に取って口にする。……絹のような口当たりと共に、甘く、芳醇なバラの香りが突き抜けました。

 

「バラのマカロンなんて初めて食べました……!」

 

「こっちは……何でしょう? さっぱりしてて美味しいです」

 

「お、二人共変わり種を引いたね。リシテアさんが食べてるのはマスカット……うちを贔屓にしてくれてるブドウ農園から送られてきた白ブドウを使ってるんだ」

 

 マカロンはベリーやバニラなどが多い。変わり種としてミントなどもあるようですが、やはり嗜好品。制作にも時間がかかるため、あまりレパートリーがないイメージがありましたが……フロム先生の作るものはたくさんの味があり、凄く楽しい。

 

 ……あ、これは王道のバニラですね。普通のバニラよりも香りがいいですし、甘さも不自然な感じがしない。お、これはチョコというやつですね? 

 

「ちなみに……ブドウは基本的に需要がなくならない」

 

「「なくならない?」」

 

「うん。保存食、ワイン、ジュースにお菓子……生で食べるなど、今のフォドラじゃ需要がなくなることがない」

 

 ……確かに、言われてみれば色んなところでブドウを使った品を見ますね。この学園でも毎年行われるパーティー、収穫祭、酒場に誕生日、貴族達の会合……上流階級の場にはよくブドウを使った品が並ぶ。

 

「特にワインは凄いね。今年落札された最高級品、何Gだったと思う?」

 

「……69000G?」

 

「70000Gくらい、でしょうか?」

 

「正解は……9300000Gでした」

 

「「はい!?」」

 

 ワイン一本のためだけにそこまで出すんですか!? ベルの家も結構なお金を持ってましたけど、貴族というのはワインを何かのステータスだと思ってるんでしょうか? 

 

「あはは、凄いよね。でも、それくらいの価値が質のいいブドウにはあるんだ」

 

「質、ですか」

 

「一点を極める。究極の一を得る。それは強い武器になる」

 

 苦手なところは普通までに伸ばして、得意なものを極める。ベレス先生が言っていることでしたね。

 

「引きこもりたいって思うその思考だって武器になる」

 

「へ?」

 

 引きこもりたいというネガティブな思考が武器に……? 

 

「ちょっとやってみようか。……ベルナデッタさんの手元には、貴重な本があるとする」

 

 フロム先生が渡してきたのは、二冊の本。────あれ? これって確か、フロム先生が持ってるレシピ本の一冊だったような……? 

 

 そう思い本のタイトルを見ると、淡い桃色の本には【導きの蜘蛛の春レシピ】、オレンジ色の本には【導きの蜘蛛の夏レシピ】と書いており、目を見開く。著書にあまり蘊蓄のないベルであっても知っている有名な本だったのです。しかも、恐らくこれは────

 

「せ、せせせ、せせせせ、先生!? この本まさか……!?」

 

「ん? うん、うちの初代様が書いた本の原本」

 

「原本!?」

 

 これを歴史家や料理人に売れば、どれほどのお金になるのか……全く想像が付きません。……というか、フロム先生とんでもないこと言いませんでした? 

 

「導きの蜘蛛が、フロム先生の初代様?」

 

「うん。マナーを破れば女神だろうが殴って蹴って叩き込む、導きの蜘蛛ヘンリー・アリアドネは俺のご先祖様だよ」

 

 とんでもない家系だったのですね、フロム先生は。

 

「ま、そんな血筋も俺の代で最後だけどねー」

 

「? 先生には好きな方がいるんですよね? その方と結婚したいとは思わないんですか?」

 

「んー……ちょーっと難しい、かな? まぁ、それは置いといて。その本を売るとして、どうやって売る?」

 

 どうやって売る……? …………ただ売るのではなく、ベルが引きこもるためには……仲介してくれる方を探す? でも、それだと仲介料がかかるし……なら、別の方法…………絞り込んで……絞り、込んで……? 

 

「料理人への投資、でしょうか?」

 

「お、いいね。継続的なお金の確保。上手く行けば引きこもり生活の資金を確保できる」

 

「そこから……広めます。系列のお店を」

 

「系列店……なるほど。娼館とかもよくやってるね」

 

「フロム先生、なぜそれを知っているんですか?」

 

「俺は医者もやれるんだよ。娼館なんかは病魔の温床だから……定期的に診察しに行ってるの」

 

 この人に弱点とかあるんでしょうか? ……武器を扱えないくらいですかね? それでも武器を砕きながら進んでくるくらいはやってくるので、弱点でもない気がしますが。

 

「女の子にこういう話するのはどうかと思うけどね、娼館と言っても何も、女性や男性を抱くためだけの施設じゃないよ」

 

「「え?」」

 

「高級娼館、なんて呼ばれてるところだと、お酒や料理……あとは舞や歌を楽しむ場所でもあったりする」

 

 遊郭とか言ってたかな? と話す先生に私達は驚かざるを得なかった。これでもベルだって年頃の女子で、ちょっといかがわしい本に興味を持ったりした時とかありましたよ、ええ。女子であっても多分そういうことあるんじゃないでしょうか? 

 

 娼館と聞いたら、まず思い浮かべるのがそういう行為をするお店です。固定観念とも言えました。

 

「このマカロンもね、そういうお店の人達から考案されたんだ」

 

「ほへぇ……」

 

「あの人達は夜の仕事のプロ……下手な料理人より食文化やお酒とかにも詳しくなる。目から鱗だったよ」

 

「確かに華やかですも────」

 

「昼間に女子会なるものをやるためのスイーツが欲しいって言われたのは」

 

「「なんて?」」

 

 女子会……つまり女の子だけで集まってお茶やお菓子を楽しむものですよね? それを、娼館で? 

 

「今流行ってるらしいよ。昼間に娼館でケーキとかを女の子だけで楽しむ女子会」

 

「ちょっと危険な気がするのですが……」

 

「下手な砦より警備の質がいいよ。最近なんかは信頼第一でお金を使ってるからねぇ……娼館って」

 

 なんでも、引退した軍人や騎士を警備員として雇っているんだとか。

 

「ま、そういうわけだから何かあった時は、ここに行くと比較的安全かな。紹介状渡しておくね」

 

「白百合の館……?」

 

「女性専用娼館。俺のお得意様で……男女での交わりをしなくても病気は出るんだよ」

 

 フロム先生の授業で習ったことはしっかり覚えていたので、私もリシテアさんも納得して頷く。粘膜への接触によって病気になる可能性はゼロじゃない。

 

「マカロンの味のレパートリーが増えたのもこのお店が理由だね。ここの料理人もいい腕してるんだよ」

 

「へぇ……」

 

「まぁ、それはそれとして。色んな視点から見聞を広めるってのは大事なことだね。────あれ? 今何時だ?」

 

 フロム先生が懐を漁り、取り出した懐中時計が示す時間は四時。マカロンタワーをゆっくり食べてましたけど、もうそんな時間だったんですね。

 

「ああ……しまった……花屋閉まったかなぁ……」

 

「「花屋?」」

 

「いや、ちょっとね。俺、花屋に行くから! マカロンは二人で山分けしちゃって!」

 

 そう言って荷物をまとめたフロム先生は窓を開けて飛び降り、花屋へと走り出してしまいました。……ベルの、ネガティブな考えも、やろうと思えば強い武器になる……その言葉、騙されたと思って────いいえ、信じてみようと思いました。だって、フロム先生は生徒に嘘を吐くような方ではないですから。

 

 

 




その後、フロム君が買ったお花は

7本のバラ
ジンチョウゲ
パンジー
カーネーション
です。

花言葉は上から順に

密かな愛
実らぬ恋
一人にしないで
あなたに会いたい

となります。
二度と会えない初恋の人を忘れられず拗らせている姿……美しい……これ以上の芸術品はないでしょう。もっと引きずって生きようね。

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