シナリオ100点道徳0点の世界に料理人をぶち込んだお話 作:エヴォルヴ
皆様は、カレーのトッピングは何が好きですか?私はチーズが好きです。
フロム先生は、本当にいい人だ。
オデみたいな覚えの悪いやつにも、時間をかけて授業をしてくれるし、色んなことを気にかけてくれる。前にエプロンが壊れた時も、エプロンを貸してくれたし、オデの体に合うように作ってくれた。
「ラファエル君、君はこの手のものに才能があるのかもね」
「まさかこんなところにヒントがあるなんて……! 凄いですよ、ラファエル! これは発見です!」
そんな先生と一緒に補講をやってると、リシテアさんが難しそうな本を持ってきたんだけども、オデは難しすぎて、大事そうなことだけを見てた。そしたら、オデが苦手にしていた構文がたくさん出てきて……
けど、なんだか構文が滅茶苦茶なのに気付いて呟いたら、二人がオデのことを凄く褒めてくれた。なんだか、照れるなぁ。
「言われてみれば、この本、構文の滅茶苦茶振りが凄いね」
「はい。古い本だからと気にしてませんでしたが……組み替えてやれば……!」
「おお! オデでも読みやすい文になったぞ!」
組み換えながら羊皮紙に書き綴るなんて、リシテアさんは凄ぇ人なんだなぁ。
「……そういえばラファエル君、前に言ってた食べ物だけど、もしかしたらこれかもっていうのがあったよ」
「本当か!?」
「うん。多分あれじゃないかなぁ……」
昔、オデの住んでた村にやって来た旅人さんが作ってくれた料理が忘れられなくて、フロム先生に頼んで探してもらってたんだ。妹のマーヤが生まれる前の話だったから、マーヤにも食べさせてやりてぇなぁと思っていたけど……さすがフロム先生。ずっと探してくれてたんだなぁ。
「多分カレーだと思うんだよね」
「「カレー?」」
「うん。多分だけどね。スパイス、野菜、独特の香りとなると……多分カレーだよ」
カレー。どんな料理だろうな?
「時間もいい感じだし、お店に行こうか」
ほら、行こうとオデ達の背中を押すフロム先生に促される形で学校の近くにある店に近付いていくと……胃袋を刺激するいい匂いがした。これだ! この匂いだ! 旅人さんが振舞ってくれたあの料理の匂い!
「その表情、当たってたみたいだね」
「ああ! 先生、ありがとうな!」
店の扉を開いた瞬間、吹き抜けるスパイスの香りに食欲が刺激される。嗅ぎなれないけれど、嗅ぐだけで涎が出てくるこの香りに、補講で頭を使ったせいか凄く空腹だったオデの胃袋が大きな音を鳴らした。
「ふわぁ……凄い香り……」
「さぁ、召し上がれ」
そう言ってフロム先生がオデらの前に置いたのは、茶色い液体────多分小麦とかが炒められてるんだ────カレー……と、黄色いライスが盛りつけられた大皿だった。食欲をガツンと刺激してくるそれを一口頬張ると……香辛料の香りや味が頭を殴りつけてきた。
あの時食べたあのカレーと同じ味だ! 皆びっくりして驚きの声を上げながら二回はおかわりをした、あの時食べたカレーはこれだった!
「辛……!? でも美味しい……!」
リシテアさんの言う通り、とても辛い。辛いけど、辛いだけじゃない。
何重にも重なり合った香辛料と野菜と肉のうま味が複雑かつ繊細に絡み合い、味が喧嘩せずに一つの味としてまとまっていて……こう……なんだろうなぁ……表現が難しいくらい美味しい。
じゃがいもはホクホクなのにトロリと溶けて、ニンジンは煮込まれたお蔭で柔らかくて甘い。そして玉ねぎは歯が要らないくらいだ。そこにしっかり煮込まれているのに噛み応えがあり、しかも柔らかくて、噛めば噛むほど旨味が広がっていく。これは、どこの部位だろう?
「先生、この肉は?」
「ああ、牛すじだよ。すじ肉」
「「すじ!?」」
あの硬くて臭くて食えたものじゃないって捨てられることが多いすじがこれか!? 村にいた時もあの部位だけはどうしても食べられなくて肥料にしていたけど、勿体ないことしてたんだなぁ……
「まぁ、結構手間がかかるからね、牛すじの下処理。生姜、にんにく、ワインで何時間も煮込んで臭み抜きするんだ。で、そこにセロリとかも入れて、旨味を抽出する。あ、その実物がこれね」
小皿に張られた透き通ったスープを口にすると、塩味が無いのに美味しいと感じる強い旨味を感じた。力強いのに、凄く繊細なそれにが土台になってこのカレーができているのだろう。カレー、凄く手間のかかる料理だ。
「うう……辛い……でも止まらない……」
「そんな君にマンゴーラッシーをどうぞ」
少し大きめのグラスに注がれたドロリとしたオレンジ色が混ざった白い液体が、オデらに手渡される。少し匂いを嗅いでみると、甘酸っぱい香りが鼻の奥まで一気に吹き抜けた。ヒリヒリとし始めた口の中をリセットしたいと口にすると、優しい甘さと酸味が口を包み込んで口の中のヒリヒリが緩和される。甘くて美味しいそれと、カレーを交互に食べると、辛さがまろやかになって食べやすくなった。
そうやってオデもリシテアさんも凄い勢いでカレーを食べ続け────大皿が空になってしまった。
「おかわり、いるかい?」
「「いただきます!」」
「うん、じゃあ次はこっちを食べるといい」
次に用意されたのはオレンジ色のポタージュのようなカレー。さっきのカレーとは違い、スパイシーな香りよりもまろやかで優しい香りがする。
んん……? これもカレーなのか? ポタージュにしか見えねぇんだけども……でもフロム先生が料理を間違えるわけがないし…………なんて考えながらそのカレーらしきものを口にすると────さっきとは全く違うはずなのにしっかりカレーであることを主張するスパイスの香りと、魚介の優しくてどっしりとした濃厚な味が舌を支配した。
「か、カレーだ……!?」
「ポタージュっぽいですけどこれ、カレーですね!?」
「カレーも千差万別でね。それはエビとトマトのカレーだよ」
オデが食べたカレーとは違うけれど、これはこれで美味しい。この優しい味……正直オデはこっちの方が好きだなぁ。
そうしてさっきのカレーと同じくらいの速度で食べきったオデは、ラッシーなる飲み物で口の中をスッキリさせてから椅子の背もたれに背中を預けた。
「「ごちそうさまでした!」」
「はい、お粗末様。ああ、ラファエル君、これ渡しておくね」
「え? …………!? ふ、フロム先生! これって……!?」
「カレーのレシピ。君が卒業して村に帰った時、村の人達にカレーを振舞ってあげな」
優しく笑みを浮かべるフロム先生が渡してくれたのは、たくさんのカレーのレシピが書かれたリストだった。こんな貴重なものをオデに渡していいのだろうか……
「まぁ、レシピは全部暗記してるからね。それ、原本ってわけでもないし遠慮なく持っていきな」
「そ、それなら……ありがとうな、先生」
「ラファエル、あとでそれ見せてください。わたしも知りたいです」
リシテアさんが興奮したように羊皮紙に書かれたリストを見せろとせがんでくる。リシテアさん、結構食いしん坊なんだなぁ。
そんなこともあった後、食後のお茶を口にしていると、そういえばとリシテアさんが口を開く。
「フロム先生、そろそろ三クラス対抗の演習が始まるのはご存知ですよね?」
「ああ、うん。聞いてるよ。正直現状の実力差だと金鹿が勝つと思うけど」
オデらの担任を務めているベレス先生の指導はとても的確で、それでいて厳しい。そこにフロム先生が加わると地獄のような訓練が待っている。他のクラスの皆もたまに参加しているけど、授業が終わる頃には皆吐きそうな顔で倒れ伏していることが多い。
最初に受けた時は、何人かは吐いて、何人かは気絶していた。今だってベルナデッタさんとかリシテアさんとか、後方支援に徹する人達が特に吐きそうになりながら地面に突っ伏している。
「ううん……それだけの差があるとは思えないけどなぁ……他のクラスの皆も凄く強いし……」
「いや、ラファエル君とリシテアさんでほぼほぼ制圧できると思うよ?」
「「ええ!?」」
驚きのあまり大きな声を出してしまった。オデとリシテアさんだけで、他のクラスの代表メンバーをほぼほぼ倒せるって……さすがに過大評価ってやつじゃないのか……?
「ラファエル君がリシテアさんを背中に乗せて走るでしょ? リシテアさんが魔法を撃つでしょ? それだけで大体解決しちゃうよ、きっと」
「あの、それはさすがに大雑把すぎるような……」
「大雑把な作戦で勝てちゃうくらい君達の組み合わせは強いんだよ。ラファエル君が鎧着て走ってきたら恐怖だと思う」
他の皆よりも体格に恵まれているオデは、確かに皆から鎧を着ると威圧感が凄いって言われることが多いけど……そんなに怖いのか……? リシテアさんが頷いているってことは本当なんだろうけど……
「君、俺が鎧を使ってやってることの半分を────っと、そうだラファエル君、君、ウォーマスターになるための修行受けてみるつもりはないかい?」
「ウォーマスター……?」
「間違いなく最強のウォーマスターになれると思うんだよねぇ、俺の見立てだと。それかグラップラー」
戦いが嫌いだと公言してるフロム先生だけど、強くなって誰かを守ることに関しては嫌ではないらしく、オデらのことをしっかり見ていてくれる。そんなフロム先生の見解でそうなら、きっとそうに違いない。
「フロム先生、わたしはどうでしょうか?」
「リシテアさん? リシテアさんの魔法への精通振りなら……グレモリィとか?」
う、ううん? また知らない名前が出てきたぞ……? リシテアさんも首をかしげているけど、そんな兵種があるのか……?
「まぁ、とにかく、対抗戦はこのままやるなら普通に金鹿が勝つよ、きっと……っと、そうだ。今日はちょっと用事があってね。早めにお店を閉めるんだ。夜にまた開けるんだけど」
すまないね、と謝りながら閉店作業を始めるフロム先生。……このお店、朝方までやってるって噂を聞くけども、ベレス先生もそれ知ってるのか?
焼け焦げた手記
煤だらけとなり、読める箇所がほぼ存在しない手記。
フロムが後生大事に抱え続けている焼け焦げた手記。
まだどうにか読み取れる文字は丁寧かつ達筆な女性の文字だ。
辛うじて読める手記の一文を見た時、フロムは女性の思い出を噛み締めた。
『仲良くなったあの人と、また明日、たくさん話せるかしら?』
それは、呪いの言葉であった。