シナリオ100点道徳0点の世界に料理人をぶち込んだお話   作:エヴォルヴ

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皆正直だなぁ!? 更新だオラァッ!


四品目、リシテアと桃のパフェ

 士官学校での生活は、まぁまぁ慣れてきた。子供扱いしてくる人も……少なからずいるけど、まぁ? わたしは大人ですから、寛容な心で許して上げましょうとも。

 

 ……そんなことを思いながら、休日を部屋で過ごしていると、ノックの音が聞こえた。

 

「? どなたですか?」

 

「あ、リシテアさん。俺俺、フロムだよ」

 

「……フロム先生?」

 

 ドアを開けると、処女雪のように白い髪を短く整えた先生がいた。こんな休日に、どうしたんでしょう? 

 

「どうかしたんですか?」

 

「ああ、いやね? 生徒との交流をしたいなぁって思って。……皆用事があるからまた今度ーって言われちゃってさぁ……とほほ」

 

 多分、課外授業でも行われると思ったのだろう。フロム先生は真面目────というか、公私を分ける先生だから絶対にあり得ないはずだけど。

 

「で、もしかしたらリシテアさんならって思って声をかけたんだ」

 

「どうしてわたしに行き着いたのかは、聞いた方がいいですか?」

 

「甘いものが好きだって聞いたから!」

 

 ……ベレス先生から聞いたのでしょうか。フロム先生に甘いものが好きということは言っていないはず……あ、でもわたしの食生活を見ていたら分かるかも……? 

 

「確かに甘いものは好きですけど……」

 

「よーし、味見係確保ー!」

 

「ちょっ────!?」

 

 力強っ!? タワーシールドと呼ばれる盾を軽々と振り回していたから当然なのかもしれないけど……!? で、でもこの力は明らかに……いえ、ディミトリさんとかならできそうですね。

 

「ど、どこに連れていくつもりですか!?」

 

「俺のお店。休日の夜開店だし、まだまだ時間はあるのさ!」

 

 この人いつか過労死するのでは? ベレス先生からのお説教で懲りてないんですか…………って!? 

 

「あの空に飛び込めぇえええええ!!」

 

「きゃあああああああ!!?」

 

「あ、リシテアさん高いところ苦手だったりした? それはごめん!」

 

 こ、この人本当に人間ですか!? なんであんなに高いところから飛び降りて無傷なんです!? わたしなんて走馬灯が見えましたが!? 

 

「フロム先生の馬鹿!!」

 

「あらら……ごめんなさいね。美味しいの食べさせるから許して」

 

 絶対にベレス先生とジェラルトさんに言いつけてやる。そう決意し、私は連れてこられた店内へと入る。……いつもテイクアウトしかしていなかったけど……とても落ち着く感じですね。こういった場所で読書をするのも悪くない、かも。

 

「それで……何を作ってくれるんですか?」

 

「桃のパフェ」

 

 パフェ……? パフェとは、どんな料理なのでしょう? 桃を使うということは甘いものであるはずなんですが……全く分からないですね。

 

「よーしやっていくぞ」

 

 フロム先生が取り出したのは、大きな桃。熟した桃は微かに甘い匂いを漂わせている。あれが主役となる、みたい? 

 

「あ、リシテアさん、甘いものでも食べれないものってある?」

 

「え? いえ、ありませんよ?」

 

「はーい、んじゃ全部使うね」

 

 ぜ、全部? 

 疑問符を浮かべていると、大きなグラスの中に、黄色い……プディングのようなものを入れ、赤いソースを注ぎ込んだ。

 

「次は……」

 

「わぁ……」

 

 桃を一瞬で真っ二つにしたフロム先生は、その中に冷気を放つものを氷の中から取り出して詰め込み始めた。今日は少々暑いから、冷たいものは体に潤いを与えるでしょうね。

 

「あ、リシテアさんってこれ食べたことあったっけ?」

 

「え? パフェですか?」

 

「いや、こっち。アイスクリームって言うんだけどね。食べてみて」

 

 試食を促されて一匙口に含めると、わたしの口の中にひんやりとした清涼感とミルクのようや濃厚な甘味が広がった。滑らかですっきりした舌触りでありながら、その味は濃厚そのもの……暑い日に食べたら最高だと思う。

 

「せ、先生、これは……!」

 

「驚くよね。俺もびっくりした」

 

 先生曰く、生クリームを冷やしながら撹拌、分離させるとバターになるが、そこに牛乳と卵と砂糖を入れたらどうなるのか気になり、四六時中かき混ぜたら生まれた代物だそう。……もしかして研究肌だったりするのでしょうか、フロム先生って。

 

「ああ、俺は知りたいことは全部調べる人間だよ」

 

「……顔に出てました?」

 

「うん。────料理は実験だからね。美味しいものができたり、美味しくない料理ができたり、さ。……ほらクッキーの実習の時のやつ」

 

 調理を進めながらも話を続けるフロム先生。言われてみれば、家庭科の授業で調理実習を行ったけど、そこでクッキーを土台にした黒いケーキを焼いてくれたことがありました。

 

「ザッハトルテって言ってね? あれができたのも、失敗作があったからなんだよ」

 

「あんなに美味しいケーキが!?」

 

「ふふ……美味しかったなら良かった」

 

 あんなにも美味しいケーキが失敗作から生まれていたとは思いもしませんでした。あの暴力的なまでに甘い味わい……お店に並んだりしないのかな、と思うことが多々ある。

 

「この世に失敗作なんて存在しないんだよ、リシテアさん」

 

「……?」

 

「世界が失敗に満ちてたら、俺は今頃墓の中だしね!」

 

 ああ、なんて眩しいのだろう。同じ白髪だから親近感が湧いたのかもしれないけど、フロム先生はわたしと比べて本当に眩しい人です。この人が見据えている未来は……きっと明るいのでしょうね。

 

「ま、それはともかく、できたよ!」

 

 配膳されたものを見て、わたしは生唾を飲み込んでしまった。

 

 光を反射して輝く桃とそこに添えられたフロランタンやラングドシャ……そしてその下に入っている不思議なスイーツと生クリーム。

 

 こんなものを食べたあかつきには、下手なスイーツでは満足できないでしょう……なんて背徳的……なんて魅力的な食べ物……! これがパフェ……! 

 

「完全なデザート、なんて言われてる料理、それがパフェさ。さぁ、召し上がれ」

 

「────いただきます」

 

 先程まで冷やされていたであろう桃にフォークとナイフを入れる。熟して柔らかくなった桃を一切れ口に含むと、果汁が口いっぱいに広がる。果物特有の濃厚かつ爽やかな甘味……うん、美味しい。

 

 ……これと、詰め込まれたアイスクリームを合わせて食べたら────

 

「ッ~~~~!」

 

「いい反応してくれるなぁ」

 

 なんて……なんて悪魔的な美味しさ! 別系統の甘さを重ねることでこんなにも素晴らしいものができあがるなんて! 

 

「……下のこれは……」

 

 プディングのようなものを口に入れた途端、口の中でとろけてしまった。味わいたいのに、舌の上ですぐに溶けてなくなってしまう。

 

 桃にアイスクリームにプディングのようなもの……どれもこれも主張が激しいのに、難なく食べ進められるのは、この甘酸っぱいソースが一役買っている。

 

 前にベレス先生からお裾分けしてもらったベリーのソースに似ているこれは、甘さよりも酸味を重視して作られているのか、パフェを甘ったるいだけだけではないものに作り上げていた。

 

「これ、期間限定商品にしようと思っててね。人間って期間限定って言葉に弱いじゃない?」

 

「むぐ……確かにそうですね。期間限定でしか、これを食べられないとなると……」

 

 わたしが買う前に、売り切れてしまう。だからと言って開店前から並ぶのも、ちょっと子供っぽいような気がしますし……

 

「だから、予約制にしようって思ってるんだ。これ、作るのちょーっと大変だから」

 

「予約制、ですか?」

 

「うん。予約してくれた人にだけ作るってことだね。これでもコース料理を予約されたりもしてるんだ、俺は」

 

 コース料理…………あ、そういえば昔、わたしの誕生日の時に使用人の方々も揃っての会食をしたことがあった。あの時に出た華やかで繊細な料理の数々……美味しかったなぁ……

 

「あれも大変なんだ。前菜、スープ、魚料理、肉料理、ソルベ、ロースト肉の料理、生野菜、甘味、果物、ドリンクの順番に手際よく配膳しないとだから」

 

「へぇ……あ、このフロランタン美味しい」

 

「そりゃあ良かった」

 

 そんな調子で食べ進めていけば、桃のパフェをすぐに食べ終えてしまった。……ああ、もっと大きいパフェがあればいいのに……

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末様。あ、これ口直しの紅茶ね」

 

「ありがとうございます」

 

 香り豊かな紅茶を飲みながら、ふと、目の前の先生について考える。彼の髪……どうして白く染まっているんだろう、と。

 

「あの、先生。失礼でなければ、お聞きしたいんですけど……」

 

「ん? 何?」

 

「先生の髪が白いのは……どうしてですか?」

 

 ずっと思っていたことを聞いてみる。すると、フロム先生は何も気にしていないような笑みを浮かべて、自分の髪を引っ張った。

 

「これかぁ……嫌な話、かもよ?」

 

「……聞かせて、くれますか……?」

 

「もちろん。聞いてくれるならね」

 

 そう言って話し始めたのは、フロム先生の来歴。戦場医師の子供として生まれた先生は、幼い頃から戦場にいたそうです。だから、人の死に直面することも、吐き気を催すような、涙すら流れない程の地獄に足を踏み入れることもあった。そこに拍車をかけたのは、とある場所で見た────

 

「父さんも、母さんも、魔術師の魔法で焼き殺されてね。目の前だよ、目の前……はぁ……参っちゃうよね……」

 

「……っ」

 

 先生のご両親が率いていた戦場医師団は、先生を逃がすために自ら盾となり、魔法や武器に貫かれていったという。それだけなら、まだ────家族同然の人達を殺されて、まだ、というのは良くないけど────耐えられた。

 

 だけど……ご両親に助けられた村人達が、女子供すら先生を逃がすために盾となったらしい。

 

「聞こえてくる悲鳴、絶叫……何度も、何度も振り向いて、戻ろうとしたけど……言われたんだ」

 

 生きろ……って。

 

「生きろ……」

 

 先生のことを子供のように可愛がっていた医師団のメンバー達から、村人達から、言われた言葉は、フロム先生の心に残り続けている。

 

「その後、ジェラルト団長に拾われて、ベレスと出会って……結局、俺は今日まで生き延びてきた」

 

「先生は……辛くなかったんですか? その……生き続けて」

 

「んー……まぁ、苦しかったよ。本当に……どうして俺が、って思ったのは何度もある」

 

 それはそうでしょう。自分だけが生き残ってしまって、自分を責めることもあったはず。

 

「まぁ、そんなストレスの結果がこの白髪ってわけ。これは戒めだけど……もう一つ理由を付け加えた」

 

「それは一体……?」

 

「祝福」

 

 祝福……? 

 

「リシテアさんはさ、ウェディングドレスって見たことある?」

 

「へ? ……まぁ、見たことありますよ」

 

 わたしが袖を通す機会は訪れないであろう、美しいドレス。どんなドレスよりも煌めいて見えるあのドレスが、なんだというのか。

 

「俺の髪は祝福なんだ。ご飯を作って、誰かに幸せになってもらえますように……っていう祝福」

 

「幸せに……」

 

「ウェディングドレスが祝福に満ちたものだって聞いた時、ピンと来たんだよね!」

 

 前向き、ですね先生は。……思えば、考えたこともなかった。わたしの全てを奪っていった忌々しいだけの、象徴に、新しい意味を与える、なんて。

 

「そして俺の夢はね……士官学校の皆が、大切な人と結ばれた時に挙げる式で料理を作ること!」

 

「ふふ、なんですか、それ」

 

「おいおい、めでたい日を彩る食事を作れるのは、料理人としての名誉なんだぜ?」

 

「そうなんですか?」

 

「そう! ……リシテアさんとか、マリアンヌさんとか、エーデルガルトさんとか……ベレスとか。幸せな思い出の一つに、俺の料理があったら、最高じゃない?」

 

 ああ……この先生は、本当に……わたしにも、そんな未来が訪れると信じてくれている。家族や使用人の人達だけではなく、わたし達のことを親身になって考えてくれる先生まで信じてくれるなら……この体をどうにかする方法を、今よりも本気で考えなくてはいけませんね。

 

「先生、パフェ、ありがとうございます」

 

「ん? ああ、うん。どういたしまして!」

 

 わたしはやる気を漲らせて席を立ち上がり、店を後にする。

 

「パフェ、また食べに来ます。予約お願いしますね?」

 

「はーい、ご予約、ありがとうございます! またのご来店、お待ちしておりまーす!」

 

 ……うん、なんだかやれそうな気がしてきました。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

「……ふふ、元気になったみたいで良かった」

 

 リシテアが店を出た後、フロムは洗い物をしながら微笑んだ。

 

「落ち込んでる人、諦めてる人とかに手を差しのべようとしちゃうのは、悪いことかな、皆?」

 

 いないことも、答えてくれる人もいないのは分かっている。でも、それでもフロムはここにはいない誰かに問いかける。問いかけてから、目を細めた。

 

「うん。多分間違いじゃない……はずだよね」

 

『何をぶつぶつと言っておるのじゃフロム』

 

「うわっと……やぁソティス。ベレスは一緒じゃないのかい?」

 

『もうすぐ父親と来るぞ』

 

 現れたソティスの答えにそう返し、フロムはパフェと酒の準備を始めた。一応フロムもベレスも酒は飲める。甘いものをツマミに少々強めのカクテルを飲むのだ。昼間から飲むな、などのツッコミは受け付けないものとする。

 

『しっかし、おぬしも罪な男じゃのう。ベレス、マリアンヌ、エーデルガルト……そしてリシテアじゃったか? ……随分とお手つきが多い』

 

「人を女たらしみたいに言うのやめてくれるかい? 俺は別にたらしじゃないよ」

 

『よく言うわ。……ま、おぬしの来歴じゃあ、分からぬかもしれぬがのう』

 

 ソティスはフロムの来歴を知っている。フロム自身からも、ベレスからも聞いているためだ。

 

『まぁ、いつか分かる日が来る。その時のために、身構えておけ?』

 

「身構えるって、そんな大袈裟な……」

 

『偉い人は言うておったぞ? 身構えている時は死神は来ない……とな!』

 

「ベレスめ……まーた変な小説読んだな……?」

 

 フロムが溜め息を吐いた直後、店のドアが開く。

 

「フロム、来たよ」

 

「よう、元気にしてそうで良かったぜ、フロム」

 

 やってきた家族のような二人を見て、フロムは満面の笑顔を見せて口を開いた。

 

「おかえりなさい、二人共。今日は試作品の試食をお願いしようと思ってね」

 

「リシテアが言ってたパフェ?」

 

「あら、聞いたの?」

 

「途中で少しな。なんでも滅茶苦茶美味いらしいじゃねぇか」

 

 満足させてくれるんだろうな? という期待の込められた二人────否、三人の視線に怯むことなく、フロムはトレーに人数分のパフェと酒を乗せる。

 

「もちろん! さぁ、召し上がれ。桃のパフェ&ラスティネイルだよ!」

 

「ほぉ、ロックタイプのカクテルか。ベレス、お前飲めんのか?」

 

「む……飲める」

 

「本当かぁ? 無理すんなよ? フロムにカッコ悪────いででで! 冗談だっての」

 

 ────こうして、三人の休日は過ぎていった。

 

 

 

 




ちょっとしたお話。ジェラルトと焼き肉では、ベレスも登場します。家族でご飯を食べるのを書きたいんじゃ……!!

次のご飯は?

  • ディミトリとステーキ御膳
  • クロードと握り寿司
  • フロムとホットケーキ
  • ジェラルトと焼き肉
  • ベレス先生とチーズケーキ
  • イングリットと牛丼大盛り
  • ドゥドゥーとケバブ
  • ベルナデッタとマカロンタワー
  • シルヴァンとハンバーガー
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