シナリオ100点道徳0点の世界に料理人をぶち込んだお話 作:エヴォルヴ
フロムを格ゲーに例えると、攻めればカウンターからの七~十割コンボを叩き込んでくるし、カウンターを狙うとガード崩しから七~十割コンボを叩き込んでくる超鬼畜CPUとでも考えてください。
ルナティックのあの馬鹿みたいな命中精度を持った滅殺持ちか流星持ち。
闘技場の控え室で、フロムは目を閉じて瞑想を行っていた。……相変わらず凄い集中力と闘気。戦いが嫌いなのに、戦いの才能に長けているというのは、皮肉なことだ。
『フロムよ、此度の戦い、どう見る?』
「……俺を試すのと、俺の全力を見ておくこと……かな?」
ソティスの質問に対して、目を開けたフロムが答える。
「うん、父さんも同じ考えだった」
フロムがここにいる理由は、教会の内部で「フロムの武勇が本当なのか」という声が上がったためである。なので、教会内でも有数の実力者として名高い騎士との御前試合を行うそうだ。
────面倒だからパス、とフロムは言ったのだが、その後が面倒になると父さんが進言したため、やることになった。
向こうからすれば、フロムは取るに足らないものの、得体の知れない存在なのだろうと父さん含めた傭兵団の皆と、フロム自身が言っていたけど……うん、腹立たしいな。
『じゃが、今回の相手の実力を鑑みても、お主が全力を出す相手ではあるまい』
「どうせエキシビション的な感じで【雷霆】を出してくるよ。絶対に回避させるけどね」
『コスいことするのう』
ソティスの言う通り、何だかんだと理由を付けてカトリーヌと戦わせるつもりだろう。【雷霆】のカトリーヌ……英雄の遺産とやらを持ったセイロス聖教会屈指の実力者。少し前の月末課題の際に実力を見せてもらったけど……フロムの防御を突破できるとは思えない。あの剣があってギリギリ……だろうか。
「まぁ、何にせよ……舐められてるのは確かだよね」
『舐められとるのかのう……?』
「だって、俺のこと知ってるなら一対一は絶対やらないでしょ」
「『あー……』」
私だったらフロムとの一対一は絶対にやらない。父さんも多分やらないんじゃないかな?
やりたくはないけど、正面からフロムと戦うとなれば……リシテア、マリアンヌ、ディミトリ、エーデルガルト、クロード、ベルナデッタに……ラファエルは欲しい…かも? …………いやどうだろう、それで突破できるほどフロムは甘くないぞ?
「んじゃー、行ってくるよ。…………ところでベレス」
「何?」
「この御前試合に賭けが発生してるって本当?」
「………………」
言えない……フロムのことを知らない連中の挑発に乗って、色々賭けてしまったなんて。絶対に怒られる。私の色んなものに関して賭けたなんて言ったら────
「正直に言わなかったら、今度のチョコレートサンデー無しね」
「私の色んなものを賭けた。命も、全部」
『食欲に負けるのじゃな、お主……』
呆れるソティスを尻目に、フロムの反応を伺う。神聖さと禍々しさが混在する白い鎧を身に纏った彼の表情は読めないけど、とても怒っていることは理解できた。
「はぁ…………ベレス」
「……何?」
怒られる────そう思い、身構えた瞬間。フロムは鎧をいつもの服に戻し、私のことを強く抱き締めてきた。
「馬鹿かい、君は」
……いつもなら、私がフロムに抱きついてるけど、今回は逆。フロムは怒っている。怒ってはいるけど、それ以上に私を心配してくれているのが、痛いくらい分かる。
「……あいつら、フロムを馬鹿にしてきた」
落ち着かせるように、背中を叩かれる。
「うん」
「料理しかできない、臆病者だって」
「うん」
思い返しただけで腸が煮え繰り返るような思いになる。フロムは、誰よりも強くて、誰よりも優しくて……カッコいい人なのに。あまつさえ生徒達すら馬鹿にしてきて、悔しくて、カッとなって私の色んなものを賭けの対象にしてしまった。
担任を務めている金鹿の皆だけではなく、青獅子にも黒鷲にも凄く怒られたし、皆、フロムを馬鹿にした奴らに怒ってた。もちろんソティスも。
「俺はさ、ベレスや団長……傭兵団の皆や生徒達が嗤われたり、馬鹿にされたりしたら火を吐くように怒るよ」
「……うん」
諭すように、宥めるように、私の頭を撫でながら、フロムは続ける。
「でもね、怒ると同時にさ……そんな奴らの嘲笑なんて聞き流せるくらい、ベレスや皆は凄いんだって思うんだよ」
いつもと変わらない優しい声音。暖かくて、心安らぐような声が耳を通り、頭と心に溶けていく。
「俺のことで怒ってくれたのは嬉しい。けど……自分をもっと大事にして……もう、嫌だよ……俺は……」
家族が傷付くのも、いなくなるのも、奪われるのも嫌だよ────と、悲しそうな声が聞こえてきて、私は頭を殴られたように感じた。私がやったのは、フロムのトラウマを抉るかもしれない行為だったのだと、今更気付く。
「……ごめんなさい」
「もうしない?」
「しない」
「ソティスにも約束できる?」
「できる」
『わしは審判者か何かなのか?』
心の底から反省している私は、どんな罰でも受けようと覚悟を決める。それだけのことをしてしまったのだから、当然だろう。
「拳骨一発で許してあげる」
「うぼぁ」
フロムの拳骨は……痛い。
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フロム・アリアドネという先生について、私……マリアンヌ=フォン=エドマンドが知っていることは、とても少ない。ベレス先生と同じ傭兵団に所属していて、【白磁の要塞】として有名で……料理がとても上手なことと……人体についてよく知っている、くらいでしょうか? あ、あと、とても強いです。
「あの、マリアンヌさん。フロム先生、大丈夫だと思いますか?」
「そう、ですね……大丈夫だとは、思いますけど……」
「けど?」
「お相手がどうなるかが……その……」
「「「ああ……」」」
私とリシテアさんの会話に聞き耳を立てていたらしい皆さんが、納得したように呟いた。ベレス先生から話を聞いたであろうフロム先生が、これから相手をする騎士に対して、どれほどの戦いをするのか……未知数だった。
「まぁ、何にせよ……教会の思い通りにはならないだろうな」
「ああ。フロム先生の怒った姿は想像するだけで恐ろしい」
「ディミトリなんて、フリルがたくさん付いたエプロン着せられてたものね」
「エーデルガルト……それはもう忘れてくれないか?」
フロム先生の怒った姿はごく稀に発見されています。そのどれもが怒鳴るとかではなく、目だけが笑っていない笑顔を見せるだけなのですが……それがとても怖いのです。
調理実習でエプロンを忘れた人は、フロム先生手製のピンクのフリルがたくさん付いた────しかも胸にハートマークも付いている────エプロンを強制貸し出しとなる。今までそれを着たのは……ディミトリさん、クロードさん……あとエプロンが破けてしまったラファエルさんでしたね。ラファエルさんは……ええ、なぜかとても似合っていました。
「とにかくフロム先生がどんな戦いをするのか、見物だな」
「まだ始まってないよね?」
「「「ベレス先生!」」」
私達が話をしている間に、ベレス先生が観客席に戻ってきました。フロム先生に怒られたのか、頭を擦りながら席に座った先生は、フロム先生から渡されたというクッキーを麻袋から取り出し、全員に配り始める。……あ、このクッキー、調理実習でやったものですね。
しっとりしたクッキーは喉に詰まりにくくて、飲み物がなくても難なく食べられる。皆でそれを食べている間に、闘技場の入口からフロム先生が現れました。
「フロムの強さ、その一つが、覚悟にある」
「覚悟? それは一体────」
「フロムは戦いが嫌いだからな」
よく通る低い声が響き、その方向を見ると、【壊刃】のジェラルトさん────敬称を付けるとしても、さんにしてくれ、と頼まれました────が立っており、ベレス先生の隣に座る。ジェラルトさんって、ここにいていいのでしょうか?
「父さん、こっちに来ていいの?」
「あ? 今回の件……いや、いつであろうと俺は団員の側に付くって決めてんだよ。もちろん、可愛い娘と息子のためにもな」
「そっか。……あ、父さん、フロムについて」
「ああ。……戦い嫌いのフロムが鎧を着る時はな、腹を括った時が多い。つまり……何だ……他の奴らとの覚悟の差が明らかに違う」
ジェラルトさんがそう言った矢先、フロム先生の服が変化を遂げる。猛々しい炎、流れる水、吹き荒む風────様々な魔法を思わせる音が鳴り響き、鎧が形成されていく。
神聖さと、禍々しさが混在した鎧は、見る者を萎縮させるオーラを纏っていた。
「オオオオオォォアアアアアア!!」
空間が悲鳴を上げるように、大地が揺れていると錯覚するほどの叫び声が、私達の鼓膜を叩く。闘技場にいる誰もが思わず耳を塞いでしまう。
「うっるさ……!?」
「先生の闘気、ビリビリ来る、ます……!」
「なんて凄まじい……!」
フロム先生の咆哮が収まり、間もなく試合開始の銅鑼が鳴り響いた。アーマーナイトの上位職であるジェネラルの資格を持つ騎士は、油断なく槍と盾を構えて攻撃に備える。さすが教会の騎士と言うべきなのでしょうか……技量は間違いなく高い。
「ああ、こりゃダメだな」
「うん。フロムの勝ち」
『じゃな』
ジェラルトさんとベレス先生が呟いた。
「え? どうしてですか?」
フロム先生の逸話を知ってるなら、確かに守りを固めるのがセオリーだと思うのですが……ジェラルトさんとベレス先生の見解に、誰もが首をかしげ、疑問符を浮かべる。
「フロムの戦いは確かに防衛戦が多い。防衛じゃ、あいつに勝てるやつはまずいねぇ」
「けど、前線での戦いだって何度も経験してる。フロムと一対一の戦いをしろって言われて、やりたがる人を私は知らない。防御を考える人を、私は知らない」
────だって、確実に壊されるから。
ベレス先生から放たれた経験を感じさせる言葉を聞き、私達は思い出す。フロム先生がどんな授業を担当しているのかを。フロム先生の授業は料理や裁縫などの家庭科と、ダンスやボードゲームなどの娯楽、人体の構造や応急措置などについて学ぶ保健体育です。
……ああ、何て、何て恐ろしいことを忘れていたのでしょう。人体に詳しく、治し方を知っているということは……壊し方もよく知っているということなのですから。
ゆっくりと、緩慢な動きで、まるで友人と会ったような自然体のまま近付いていき、放たれた槍を溶けるように躱したフロム先生。そして、ついに反撃の拳を突き付け────────騎士の盾ごと、腕を粉砕した。
「なぁッ……!?」
『発勁……じゃったかの?』
「……フロムの戦闘技術は、色んな技術が混ざってる。東から流れてきた柔術、体術のあれこれ……それに、医術や料理も全部、フロムの戦闘技術に繋がってる」
盾から鎧、鎧から肉体へと浸透していく打撃を喰らい、あまりの痛みに怯んだ騎士に、フロム先生はさらに追撃を加える。跳ねるように踏み込み、高速で放たれた拳は怯んで動けなくなっていた騎士の顎に直撃し、体が浮いた。そこへ容赦なく踵落としを決めてダウン────────踵落とし?
「ねぇ、ベレス先生?」
「何?」
「フロム先生の挙動おかしくない?」
ドロテアさんやヒルダさんが聞いたように、フロム先生の動きは人間ができるようなものではなかった。
「鎧に蓄積した魔力の噴射だよ」
「噴射……?」
「フロムの鎧は形状が変わる。フロムが魔力の操作で変形させたりしてるんだけど……ほら、脚のところ」
「……なんだ、あれ」
土煙で見えていなかった先生の足鎧が不思議な形状となっていたことに気付く。外側と内側に取り付けられた噴射口────ベレス先生はブースターと呼んでいました────から漏れ出ている赤い炎と、緑色の風。
「変幻自在の鎧、名を
盾も合わせればあのジェラルトさんですら危ういかもしれないという、【白磁の要塞】。彼の容赦の無さは、まさに吟遊詩人が唄う逸話そのものだった。現に今も追撃していますし……
「ああもタフだと、憐れになってくるな。お、いい蹴りだ」
「痛みが気付けになって気絶できない。……あ、壁に叩きつけてから綺麗に絞め始めた」
「……あのジェネラル、何もしてなくないか?」
フェリクスさんの呟きに頷く。……ああ、私も大分染まっているのでしょうね……先生を罵っていた方々の目が死んでいるのが見えて、心の隅でいい気味だと思っているのですから。
────レア様達の目が死んでいるような……ここまで一方的になるのは予想外だったのでしょうか……?
「あ、墜ちた」
「死んでないよな?」
「さすがに大丈夫じゃないかな。ほら、フロムも焦ってないし」
てきぱきと応急措置してますね……粉砕した骨はさすがに治せないようですが。
試合終了の銅鑼が鳴り響き、恐ろしく短い御前試合が終了する。鎧を元の白衣と服に戻したフロム先生は、ニコニコと笑いながらこちらへ歩いてきます。……何でしょう、とても嫌な予感がします。
「三学級の皆に連絡。今度の授業でダンスをやるから、ペア決めといてね! 決めてなかったら、知り合いのダンサーか、俺と組んでもらうから」
「「「決めておきます!!」」」
「あら、俺の人気のなさ素晴らしいね」
人気がないというより、ベレス先生の目が痛いからではないでしょうか……?
「んじゃ、決めといてー。────んでもう一つ。ケーキ用意してあるから、食べたい人、お店においで!」
リシテアさんを筆頭に、甘いものに目がない方々が目を輝かせる。心なしかディミトリさんも目を輝かせているような気がします。
「よろしい。では半刻後、お店に集まるようにね!」
……ギャップが凄まじいですね、本当に。
次のご飯は?
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ジェラルトと焼き肉
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フロムとホットケーキ
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ベレス先生とチーズケーキ
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ドゥドゥーとケバブ
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ベルナデッタとマカロンタワー
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マリアンヌと角煮
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シルヴァンとハンバーガー
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ドロテアとタコス
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ラファエルと天丼
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ペトラとアクアパッツァ
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教団とフルコース
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イエリッツァとシチュー
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メルセデスとビーフシチュー
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箸休め、盾を持った少年