ソウルハッカーズをやり始めたんですけど、近年のメガテンとペルソナをちょろっとしかやってない新参者なので「普通の人間が魔法なんて使えるわけないだろ!(MP0)」ってされて「た、たしかに……!」ってなりました。それはそう。
でも真1系列は人間も魔法使ってましたよね。デビサバはCOMP依存だっけ。設定把握できてない安定のにわかの姿。
コピー用紙の束をぱらぱらと検分している姿は、見ている方が暑くなるくらい、相変わらずの厚着だった。体格が誤魔化されていることもあって、性別すら未だに判断がつかないままだ。それでいいのだろう。あえてそうしていることは明らかだったし、深入りすることもない。そんな関係性ではないし、そうなりたくもなかった。
彼、あるいは彼女は、コピー用紙から顔を上げてにんまりと笑う。そして、その手元にある用済みの紙が、ごうっと燃え上がった。熱気に肌が炙られたのは一瞬だけで、既に真っ黒な燃え滓がぱらぱらと散っている。それを無反応に見ていたが、内心では冷や汗ものだ。何せ、その炎を向けられれば人間だって燃えるに違いないのだから。
「毎度あり~。今後ともご贔屓に、ってね」
軽やかな言葉を向けられた男は、ほっと息を吐いた。ギブアンドテイクではあれども、力関係は全くつり合っていない。短絡的な相手ではなかったが、かといって寛大とも言い難いのだ。明言はされていないが、まず間違いなく相手はガイア教徒、あるいはそれに準ずる立場であろうから。
男はメシア教徒である。本来ならば関わり合いになることも許されない相手だろう。けれども、信仰は己を救ってくれるものではないと確信してしまった以上、自分の身は自分で守らねばならない。対価さえ支払えば同等の品を提供してくれる相手は、たとえそれが恐ろしきガイア教徒であろうとも、いつ己の命を奪うかもわからない天使よりはマシだったのだ。
「人間のガワだけ作ってもマグネタイトの収集効率は悪いから、ってクローン系統の研究は投げたんじゃなかったっけ。魔法を使えば洗脳も魅了もお手の物な天使どもが、何で今更人体に興味持ち始めたのかなぁ」
はぁ、と溜め息を吐いている。どうせろくなことではない、という感情が顔に出ていた。その点は男も同意する。天使というものは人間とは全く違う倫理観で動く、神の兵でしかないのだ。人間からすればどれほどおぞましいことだろうが、神の名のもとであれば躊躇いなく行うのが天使である。嫌な予感しかしない、と男も思っているからこそ情報提供をしているのだ。
「目的はわからん。だが、人の中身を、ああも……罪もないメシア教徒の末端が犠牲になる前に、どうにかしていただきたいものだ」
男の取り繕う気もない言葉に、嘲り交じりの笑みを浮かべられた。当然のことだろうから、男は言い訳もしない。だって、それはつまり、身内であるメシア教徒以外についてはあまり気にしていないということだ。実際、その通りである。男が心配しているのは、善良な人間の犠牲であって、害のあるダークサマナーたちは天使と適度に共倒れしてくれればいいとさえ思っていた。
「ま、君のそういう愚直なところは嫌いじゃないとも。わかりやすくて結構、結構」
わざとらしい笑い声が響く。それを男は聞き流した。少しの苛立ちがないわけではないが、内心吐き捨てるだけで済んだ。だって、笑っている方だって他人のことを言えるような人間ではないなんて、明らかなのだ。
善人に糾弾されれば言い訳をしたくなるくらいには男には苛まれる罪悪感があるけれども、そんなものを抱かなければならないような相手ではない。少なくとも、自分と比べて言い訳のしようもないくらい悪行を重ねているのは間違いなかった。
「はは、俺も天使を火炙りにできたらそれでいいからね。君を責める権利なんて、当然持ち合わせてないから安心してくれ」
平常心を努めていたが、微かに顔に出ていたのか、男を見る目がさらに細められる。大袈裟に肩を竦めて、まるで舞台役者のように朗々とした声を聞かせてきた。それは表面上だけみれば男への気遣いなのだろうが、翻って同じ穴の狢だと指摘しているようでもある。どちらが真意かなんて問えるわけもないが、どうせ後者で違いあるまい。ただの利害関係者でしかなくて、それも今は手を組んでいるだけで本来は敵対者だ。
それにしても、火炙りに、だなんて。
「いけないいけない、長居は無用だった。貰うものも貰ったんだ、俺もさっさと撤収させてもらうよ」
上着の袖でほとんど隠れた手を払いながらそう言った。微かに残っていたらしい灰が舞う。フードまで被ってしまえば、完全に季節感を間違えていた。真冬でもなければおかしいくらいの服装だ。まあ、顔を見られると困る、ということなのだろうが。
「……ああ、そういえば。お得意様だからね、お節介の忠告なんだけど。天使がメシア教徒の裏切り者を粛清してるって噂を聞いたから、君みたいなのは気を付けた方がいいよ?」
フードの下で、微かに見える唇が薄く弧を描いている。忠告、とは。いい情報元がなくなると困る、くらいはっきり言えばいいのに。男はそんな風に思いながら、顔を強張らせた。どこから情報を持ってきているのか知らないが、ただの噂だと切り捨てるには今までの積み重ねが大きすぎる。相容れない相手でありながらも取引を行い続けた程度には、お互い誠実ではあったのだ。
「刀使いのテンプルナイト、知らない? 知らないかぁ、結構遠い地区の所属だし。一部じゃ有名なんだけどね。悪魔や異教徒はともかく、天使に命じられたら同じメシア教徒だろうと顔色変えずに斬り捨てるってさ」
男が黙って聞いているのをいいことに、ぺらぺらと一人で話し続けている。身振り手振りまで不必要なほど大袈裟で、こういうところが人を騙すのだろう、と男はひどく失礼なことを感じたくらいだ。
「俺も昔邪魔されたよ。未だに何であの時バレたのかわかんなくて怖いんだけど……ってのはまあ関係ないか。ともかく、その刀使いがこの辺りにいるとか。メシア教内部で裏切り者を殺してるとか」
親指で首を斬るジェスチャーまでして、怖い怖いと身を震わせる。口は笑っているので、あまりにもわざとらしいのだが。
「天使ってのは酷いよねぇ、人間同士殺させるより自分たちで殺せばいいのに。あいつらのお綺麗な言葉は、いつだって口先だけだ。燃えてしまえばいい」
最後だけ、冷たい声色で吐き捨てた。それが本音なのだろう。殺意の篭った言葉は、きっと恨むだけの何かがあったのだろうと誰が聞いても察せられる。
そもそも、そうでもなければ天使相手に敵対しようなんて普通の人間は思わない、と男は考えてしまうけれど。人間は天使や悪魔たちに対してあまりにも非力すぎる。このガイア教徒は人間にしては強いのだろうと思われるが、それでも所詮は人間の範疇だ。低位ならばともかく、高位の天使なんて人間の敵う相手ではなく、そんな存在が別世界にはいくらでも存在している。今はこの世界には現れることもできないようだが、それもいつまで続くかわからないような状況だ。何せ、少なくとも今いる天使は異界から仲間を呼び出そうと活動を続けているらしいのだから。
「おっと失敬、つい恨み言が漏れてしまったよ。じゃあ、ここらで本当に退散するさ」
相変わらず本当にそう思っているのか定かではない軽薄な声色でそう締めくくって、足早に去っていく。足音もなく暗がりに消えていく後ろ姿を最後まで見送って、ようやく男は肩の力を抜いた。対価として受け取ったUSBを握りしめて、身を翻す。ばくばくとうるさい心臓の音はどうしようもなかったが、努めて普段通りの表情を取り繕った。
暗闇の中で、パソコンのディスプレイだけが光っていた。その眩しさに目を細めながら、男は画面に映る文字列に視線を這わせる。機械の駆動音しか聞こえないはずの部屋で、けれどもそんなものよりも己の心音の方がよほどうるさく聞こえた。気持ちだけが急いていたが、画面端に表示されている読み込み速度が変わるわけもない。
はやく、はやく。そう思いながら、画面を睨み続けている、その時だった。
どかん、とけたたましい破裂音のようなものが聞こえ、次いで地震かと間違うほどの揺れが襲う。立っていられないほどのそれにしゃがみこんで、男は目を瞬かせた。とっさに見たパソコンは無事のようだったが、問題はそれだけではない。
揺れだけならば地震だと思っただろうが、その前の轟音は明らかに爆発の類だ。この部屋には窓がないせいで外の確認さえできないが、この建物内部か、あるいはかなり近くで爆発が起こっているのは間違いない。ガイア教徒の襲撃か、あるいは先に聞いていたように内部での粛清でも始まったのか。何もわからないが、少なくともこの場に居続けることが悪手なのは確かだろう。
しゃがみ込んだまま、パソコンの画面を凝視する。あと2%。轟音も振動も一回切りだったが、いつ次が起こるかわからない。何なら、攻撃がこの部屋にまで届いて、死ぬ可能性だって考えられるような状況だ。それでもこんな途中で逃げられるわけがなかった。男はそれくらいの覚悟をしていたし、逆に言えば追い詰められてもいるのだ。
実際はたった数分だっただろうが、人生で一番長く感じた時を過ごし、やっと処理の完了を示すウィンドウが見えた。男は急いでUSBメモリを引き抜いて、パソコンの電源を落とす。握りしめた手ごとポケットに突っ込んで、大慌てで部屋を出た。
重い扉がひとりでに閉まるのを放置して、廊下を駆ける。元々出入りが厳しく、人の少ないフロアだ。人影もなく、機械的な警報が遠くから聞こえてくるだけだった。男の不格好な足音が響いているが、この状況で隠れようとする方が怪しすぎるだろうと気にしないことにする。データの持ち出しさえバレなければそれでいい、このフロアに己がいること自体はおかしくはないのだから。
厳重データを扱うフロアを抜けて、やっと窓が見えた。覗き込む必要すらなく、窓から見える光景の半分を黒い煙が覆っている。逆方向の出入口を頭に思い浮かべて、そちらに向かおうと男は方向転換した。
「こんにちは」
ひゅっ、と男は自分の喉から息を呑む音を確かに聞いた。目を見開いて、そこにいた人間に向ける。振り返った先に、いつの間にか人がいた。気配なんて全く感じ取れなくて、いきなり挨拶をされたことに心臓が痛いくらいに跳ねている。警戒する暇もない。まるでホラー映画の演出みたいで、けれどもこれは現実だ。ただ驚愕しかなかった。
白い布地に青い刺繍が施された衣装は、典型的なメシア教徒のそれである。深くフードを被っているせいで、その表情は見にくかった。とはいえ、顔が一切見えていないわけではない。若い青年だということは間違いないだろう。微かに揺れるマントは、おそらくはテンプルナイトのものである。
「ガイア教徒が紛れ込んだと聞いたんですが……貴方はメシア教徒ですよね?」
そう問われて、男はやっと気を取り戻す。先ほどまで極度の緊張状態であったので衝撃が強すぎたが、それで呆然としている場合ではなかった。青年を観察しつつも、心の底からの困惑を露わにして返答する。
「あ、ああ。そうだ。爆発音が聞こえたので、逃げなければと……」
言わなくてもわかると思うが、それでも言い訳のようなよくわからないことまで言った。そもそも、男の衣装だってメシア教徒のそれだ。見ればわかることだし、その上でガイア教徒の変装を疑われるなら問答自体無意味だろう。早く逃げたい、と仄めかしたかったというのが一番である。痛い腹を抱えていることを除いても、近場で爆発があったのだ。逃げたいのは心の底から本心だった。
明らかに急いているのに、対する青年は何故か非常にのんびりとしていた。こくりと一つ頷く姿は、言っては悪いがまるで老人のそれである。
「ああ、いえ。逃げる必要はありませんよ」
おそらく、男が不安げな表情を隠しもしなかったからだろう。青年は気付いたとばかりにそう告げて、やはりそこを動く気はなさそうだった。人の通るゆとりはあるのに、何故かその隣を通って逃げることが憚られる。青年が己をじっと見つめているからだろうか。
「それは、その、侵入者が捕らえられたということかな。それでも、爆発が終わったとは限らないし、建物にダメージがあるかもしれないだろうから、早く外に出るべきだと思うんだが……」
青年はぱちり、と一つ瞬きした。まるで、意外そうに。その表情の意図がわからず、男は余計に困惑する。何だろうか、この、何を考えているのか読み取れない感覚は。言葉は通じているはずなのに、先ほどから妙にずれているような気がする。
青年はゆるゆると首を横に振った。それから、マントの下から腕を覗かせる。その隙間からそれが見えて――ぞっ、と男の肌が粟立った。
「いいえ。建物内に残っている人間は全て殺せ、と天使さまのご命令ですので」
抜刀は一瞬だった。身を翻す暇もない。そもそも、男は研究者だ。戦闘を生業とし、悪魔そのものと対峙するようなテンプルナイトの速度に対応できるわけがない。ただ、青年が刀を振るわなかっただけである。お前を殺す、と言っておきながら、そのための凶器を晒しながら、けれども急ぐ必要性を感じていないようだというだけで。
そして、男もまた、それどころではなくなっていた。刀を見た瞬間に死を覚悟しながらも、そうではない部分に気を取られたのだ。
抜刀のさいに翻ったマントでフードが落ちて晒された――痛々しい縫い目の痕が残る青年の頭部に。
「ほ、本当に……本当にやったのか、天使は! 人間の冒涜を!」
男の裏返った声と、その視線が己の頭部にしか向いていなかったからか、青年は一瞬きょとんと抜けた表情を、青白い顔に浮かべた。一拍おいて、男の台詞が何を示しているのか把握したようで、青年は無感動な表情で口を開く。
「ゾンビだのグールだの、よく見ましたけど。まさか、ここまで生きた人間に近づけるとは僕も驚きました」
青年はやっぱりどこかずれた発言をしていた。そこではないだろう。
死んだ人間を蘇らせる奇跡というものは、奇跡ではあるが世にはありふれているものだ。異界にこの世界が近づいているのか、近年ではそんな魔法を使える人間すらいるらしいくらいには。だから、問題はそこではない。人の死を踏みにじることではなくて、頭を好きに弄ろうとする、そのおぞましさを指している。
「自覚がないんだろう、きみは脳味噌を弄られているんだぞ!?」
元々、洗脳や魅了の類は魔法を使えば可能だ。けれども、魔法である以上基本的には解呪が可能なのである。脳味噌そのものに細工することの何が非道であるかといえば、元に戻すことが不可能な点だ。少なくとも研究者である男はそう考えていた。心や精神と表せるようなものを、根本から他人が歪めてしまえる恐ろしさ。
青年は何も感じていないのか、無表情のままだ。あるいは、そう作り変えられてしまったのだろう。動揺すら欠片もなく、男の慟哭にも無反応。そして、躊躇いもなく一歩を踏み出した。男がそこでようやく自身の死の危険を思い出したとばかりに肩を跳ねさせても、表情の失せたままに。
「死後の救いすらありませんでした。貴方にはあるそれを、僕は羨ましく思います」
淡々と口にされるそれは、本心なのだろうか。それとも、死後に救いがあるとするメシア教の思想を口にさせられているだけなのだろうか。男にはどちらが正しいのか、全くわからなかった。ただ、もはや恐怖が薄れるほどに、目の前の青年が憐れで仕方がなくなる。
「どうか、二度と目覚めませんように」
能面のような無表情でそう言って、青年は一切の躊躇いもなく刀を振るった。
過去編だと思った? 残念!
というわけでメシア教書くならこのネタ書くしかねぇ!と書いた原作オマージュ()でした。
やったねメシアン手駒が増えるよ!