『Starter Of Cainsaw』RTA 『愛なき支配』取得チャート(3:48:20)   作:完熟幸運

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期間空きすぎたので初投稿です。


Part3 裏

 病室に消毒液の香りが漂い、生活感のない無機質な香りが部屋には満ちていた。薄い色の病院着で体を覆われた本郷は何をするでもなくベットの上で体を起こしていた。瞳の先には赤い夕焼けが広がっていた。

 

 公安のデビルハンターは福利厚生の手当が厚い。その一環で負傷の多いデビルハンターは治療に当たる料金を軽減することが出来る。本郷が今居るこの病院もその福利厚生の一環で利用される事が多い。

 

 市内の歯科院に唐突に発生した鹿の悪魔。黒瀬や天童と共に現場パトロールに赴いていた本郷は通報を一速く聞きつけ、その対応に駆け付けた。その後迅速な対応と本郷の活躍によって民間人に被害は及ばず、鹿の悪魔討伐は成功した。と、ここまでが報告書に記入された内容の要約である。

 

 実際は悪魔の報告を受けた本郷自身が民間人の誘導をそっちのけで血眼になって悪魔を討伐に向かい、天童に誘導の役割をぶん投げ、慌てて追い駆けた黒瀬が現場に辿り着いた頃には首から上を狐に喰われてる鹿の悪魔が…と言う結末だ。

 

 それから数日経って病院のベットの上にいるのが現在である。日課のように悪魔探しをしていた本郷は病院に行動を拘束された状態では窓の外を眺める事しか出来なかった。

 

 悪魔を狩る時と同じよう無表情で佇む彼の病室に音が響いた。コンコンと扉から二度音が響いた。

 

「入ってますかぁー。」

 

 気の抜けた、と言うよりかは揶揄うような声が扉ごしくぐもって聞こえた。黒瀬の声である。気づいた本郷が入室の許可を与える前に扉が音を立てて開いた。

 

 「邪魔するでー、本郷。」

 

 「ここはトイレじゃない、黒瀬。何の用だ。」

 

 部屋に入ってきたのは本郷の先輩にあたる黒瀬とその後ろから遅れて入って来た天童であった。片手をあげて本郷へと近づく黒瀬はそのままベッド横に設置された椅子に座り込んだ。

 

 「んな面接じゃあらへんのやろうし。どや、迅速な対応で民間人の命を救い出したヒーローの気分は。」

 

 ニヤニヤとした笑顔で本郷に話す黒瀬。それに対しても一切の反応を示さない本郷はついで天童に一瞥を向けた。

 

 「先輩には敬語使えや、本郷。うちらは今回見舞いに来たのと、ついでに事件についてあんたにも言うとく事がある。」

 

 椅子に腰掛ける黒瀬の後ろから続いて天童も入室する。その手にはいくつかの林檎が入れられた籠が握られており、見舞いに来たと言う発言は本当である事が察せられた。

 

 入院から数日経った本郷は今日が退院日であった。結果として先日の戦闘で負った傷は軽傷であった。しかし最後に攻撃を受けた箇所から内臓に被害が及んだ可能性を考慮して検査の為入院する顛末となった。

 

 医者には長期に響く内臓の損傷や身体への負担は見られないとのことだった為、明日からは仕事に復帰しても問題が無いとのことだった。

 

 「ああ、分かった。それで事件に関して言うこととは何だ。」

 

 「…分かってへんやろ。」

 

 天童が呆れた声に次いでため息を溢す。それから懐から何枚にもファイリングされた書類を取り出す天童。

 

 「これ、あんた宛のお偉いさんからのアツいラブレターや、腕、使えるやろ?」

 

 本郷の腕を指差しながらそう言う天童。指された方の腕を使い差し出された書類を受け取る。そのうち一枚の表紙に目を通すと、鹿の悪魔も討伐に伴い発生した病院の損害についての説明処分であった。

 

 天童の言うラブレターとは後処理の書類の事の様だ。毎度上司への連絡もなく目に付いた悪魔を討伐する本郷にはこの手の書類は珍しく無かった。

 

 「要件はこれだけか?早いうちに処理してそちらに持っていく。」

 

 「…あのな、普通こないに書類は出えへんさかい、もう少し遠慮を覚えてな。」

 

 諭す様に話す天童。しかし本郷は表情を一切変えず、短い返事のみを行う。

 

 期待の新入り、そうスバルに言われて預けられた後輩は実に気難しい存在であった。黒瀬と天童は惰性で仕事を行ってるわけでは無い、そうでなければ公安のデビルハンターで先輩と呼ばれる事はない。

 

 しかし、二人は通常の人間。初めて仕事で悪魔を見た時、憎しみよりも恐怖が勝った。同僚や先輩の訃報が耳に入る度に次は自分かと不安を覚えた。そんな日々を繰り返してる内に、二人の殺意は錆びついてしまった。

 

 生き残ること、その上に悪魔を殺すことが乗った。そう言ったデビルハンターは少なく無く、むしろ通常なのだ。

 

 だが、目の前の新人は違った。初めて手にすると言う刀に、斬ると言う行為になんら疑問も不安も覚えず自分の技術に昇格させた。

 

 次いで、悪魔を討伐した。真っ赤に染まったスーツを着て自分たちにそう報告する本郷の姿は、挨拶をする時と同様になんの感慨を無かった。

 

 そして今回、死にかけた。正確には死に面するような致命傷は無かったが、自分達の記憶する本郷の報告書の内容では、今まで怪我に関する報告は無かったはずだ。

 

 殺気を覚え、恐怖の象徴を目の当たりにし、死を肌で感じたのだ。それでも尚、目の前の男は表情ひとつ変えないのだ。

 

 「ま、ええで。それより形だけの入院やろ?今日退院でおうてんでな。」

 

 怪我は特に無く、内臓に響く怪我の可能性を考慮して黒瀬達が勧めた検査を兼ねた入院だ。

 

 「ああ、明日からでも悪魔を殺せる。」

 

 自身の無事を分かりやすく伝える本郷。その言葉に頷いた後、黒瀬は腰を下ろしていた椅子から立ち上がり手を叩いた。

 

 「ほな、今日この後飲みに行こか!結局いっぺんもお前の酒飲んでる姿見てへんしな。天童もええーな?」

 

 一応安静を医師から伝えられてるはずの本郷だ。その事を天童も理解しているはずである。しかし、天童にも興味があった。ここまで何度か本郷を飲みに誘った事があったが、その都度本人の口から断りを入れられていた。

 

 鹿の悪魔は新人が相手にするには強大な悪魔であった。世間の認知が広いため、誰にだって身近な存在である。鹿と聞いたらそこまで怖く無いのかもしれないが、鹿と聞いて連想するその角や自然の姿は僅かながらの恐怖を与えるには十分だった。

 

 それのほぼ単独撃破である。新人には十分以上の成果だろう。そのため、今日くらいはその労いを目的として誘えば俗世と別居し続けている本郷も乗るのではないか。

 

 そう言った算段が黒瀬にはあった。そしてそれは天童も察しがついていた。後輩の酒の場での姿に軽い興味があるのは天童も同じであった。

 

 「断る。」

 

 短く告げたのはベッドの上の本郷であった。その言葉に黒瀬は分かりやすく肩を落とす。

 

 「そないな、堅いこと言わんといてな。先輩の誘いくらいひとつ返事でOKしろや。」

 

 「断る。」

 

 同じトーン、同じ抑揚で答える本郷には気遣いの様子は見受けられなかった。今日も無理だろうか。そう思って諦めるよう目で促す天童。

 

 その視線を受けて黒瀬はため息を吐いて口を結ぶ。そして最後の抵抗として一言だけ本郷に言葉をかける。

 

 「ほな、次の仕事についての話しのついでで、どや?もちろん悪魔関連の。」

 

 間髪入れず断りの言葉が出る。

 

 そしてそんな二人の予想を覆すように本郷は少し考えた後口を開いた。

 

 

__________

 

 「まさか居酒屋で仕事の話したがる奴がおるとはな。」

 

 コップに注がれているビールを喉に流し、それから黒瀬がそう言った。だが本郷は無言で牛すじ煮込みに箸を伸ばしていた。傍には空になった泡の付いたコップと、黒い烏龍茶が注がれたコップが置いてあった。

 

 「…分かっとったけど、盛り上がりには欠けるな。」

 

 こちらはハイボールが入ったコップ。既に半分ほど飲み干されているそれを手に取りながら天童は言った。

 

 「ほんまにな。来て早々酒一杯だけでアルコール止めるとは思わへんかったわ。」

 

 呆れるような、少し咎めるようなトーンで黒瀬が本郷に目をやる。店で席に着き次第酒と軽いつまみを頼む事に意義を唱える者は居なかった。

 

 事前に黒瀬は本郷に酒を飲むよう促していた。その意図は酔っ払った本郷を見てみたいと言う下世話な目論見もあった。

 

 が、その目論見は店に頼んだ四杯分の注文で打ち破られた。店に入ったのは三人の団体。つまりは四人分の飲み物は必要ないのだが、勿論店員はそんな事に口を出さないし、黒瀬と天童も少し疑問に思う程度だった。  

 

 本郷は飲みの定番など知らない。よって飲み物だけを頼んでその他の食事の注文は先輩に投げ、自分は飲む酒の注文だけを行った。

 

 しかし頼んだのは二杯。黒瀬と同様のビールと烏龍茶だった。

 

 どうして二杯を注文したのか。定員が厨房の方面に帰っていく事を確認してから天童は本郷に尋ねた。

 

 「飲むと約束しただろう、酒を。」

 

 「いや、いや、ビールの方じゃ無くて烏龍茶の方。なんでいきなり二杯注文したんや?」

 

 当然の疑問であった。その為、本郷も当然の様に答えた。

 

 「一杯で十分だからだ。」

 

 平然と答える本郷の言葉は短く簡潔だった。しかし、意味は分からなかった。もう良い加減慣れてきた本郷の口下手だが、これには疑問を覚えずにはいられなかった。

 

 それから何度か適当な会話を続けて注文の品が届くまでの時間を潰す三人。それから最初の品が届くまで多くの時間は要しなかった。

 

 テーブルに店員の手で置かれたのは二品の適当なつまみ、それから四杯の酒と烏龍茶。

 

 「で、それなんで頼んだ…。」

 

 黒瀬が改めて疑問を告げる前に本郷は行動していた。それは清々しく感じるほどの一連の動作だった。口元に泡の盛り上がるコップを近づけ、それから中の酒を煽る。

 

 一息であった。そして中身は空になり、杯にはその残骸として泡だけが残っていた。

 

 唖然とする黒瀬と天童。そしてその二人の反応を置いて本郷は口元の泡を取り出したハンカチで拭っていた。

 

 「…乾杯くらいしろや。」

 

 やっと出たその一言は黒瀬から発せられた。

 

 そんなやり取りが初めのうちにあって、それから十数分経っての会話に至るのであった。

 

 「なんだ?俺は言われた通りに飲んだだろう。酒は必要以上に好まない。」

 

 口下手を通り越して無愛想なくらいである。もはや直接の先輩に当たる黒瀬や天童以外でなければ反感を買ってもおかしくない態度であった。

 

 しかし不思議と、黒瀬も天童も大きな苛立ちを覚えることはなかった。

 

 「デビルハンターの才能ある奴は頭のおかしい奴って話、ほんまかもな。」

 

 若干の小言も添えて話すが、当然本郷の心には響かないし、そのことを薄々黒瀬たちも気づいていた。

 

 「…それより、悪魔の話についてだ。聞かせてくれ。」

 

 ある程度腹を満たした本郷は、本題と言わんばかりに悪魔の話を促した。

 

 「結局仕事の話かいな。まあ、ええか。仕事ってのはお前の殺した鹿の悪魔に関係あるんや。」

 

 もう一度杯に口を近づけ、中身を飲む。それから黒瀬が口を開いた。

 

 「渡した資料、まだ読めてへん思うけど、アレ(鹿の悪魔)、実は公安からしたら結構な大事らしい。」

 

 先ほどまで少し抜けていた、脱力していた飲みの雰囲気を少しだけ引き締め、周りの客に聞こえないくらいの声で黒瀬が続けた。

 

 「大声で言える内容とちがうが、あの悪魔は公安と協力関係にあった悪魔なんだわ。」

 

 話たあと軽く周囲を見渡して確認する黒瀬。上司から民間人への他言をやめるよう念押されているため他に聞かれる訳にはいかないのだ。

 

 一番近い隣の席はほとんどが酔い潰れているのか眠っており、他の席も酔っ払いと潰れた者がほとんどだ。

 

 「しかも古株のな。私達には直接影響無かったけど、デビルハンターの中には突然契約切れて動揺しとった連中もおる。」

 

 天童も続いて中身を語る。二人は入院していた本郷に替わって事件の現場の様子を細かく報告した為、上の動揺も伝わっていた。

 

 「それはどうしてだ?」

 

 本郷は完全に箸を置いて話に聞き入っていた。

 

 「それが分からへん。」

 

 黒瀬は両手を肩の横に持っていき、お手上げの体制をとる。

 

 「分からへんさかい、ウチらに捜査の仕事入る。なんせ鹿の悪魔を殺した関係者やさかいな。」

 

 「なるほどな。」

 

 大体の内情を理解した本郷は納得の言葉を漏らす。それから横に置いてあった鞘に収まっている刀を手に取り、そしてその場で立ち上がる。

 

 「は?何してん?」

 

 突然の意味の分からない本郷の行動に驚愕の声を漏らす黒瀬。驚いたのは天童も同様で、咄嗟に周りの客や店員の目にこの奇行が留まってないか見渡す。

 

 「は?」

 

 そして天童もその異変に気づく。

 すぐ横の席では、先ほど大半であった酔い潰れて伏せていた客が、ほぼ全員同じように伏せていた(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 それはその席では無く、見渡す限りの全てのテーブル。見えないがその先の厨房でも同じ様になっているのだろう。

 

 全員眠っている(・・・・・・・)。その特異な光景は平常を奪うに十分だった。

 

 「ど、どないなってるんや。なんで全員寝て_」

 

 流石に危機感を覚え、二人も立ち上がり周囲を注意深く観察し始める。

 

 それとほぼ同時に、その光景に変化が訪れる。不気味なほど静かな居酒屋は、唐突に一つの音を鳴らす。

 

 バサッ。布の擦れる音、それも素早く。その音は大きく、つまり全く同時に複数の布が擦れ合って発生した音だ。

 

 黒瀬と天童、それから本郷の位置する席は丁度真ん中付近、つまり三人を囲む様に眠っていた客が一斉に立ち上がったのだ。

 

 そしてその目は全て閉じられていた 。だが目線は確かにこちらを見ている、そんな感覚が黒瀬達を襲った。

 

 

 

 

 

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