結界師は盗賊の団長を守ることになったようです   作:匿名XXX

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2話

「理子。わたしのかわいい子。

わたしの力を存分に使いなさい」

 

こえがする。わたしのそとがわから。うちがわから。

血によって受け継がれる定め。

 

「わたしの力を使い、わたしに使われなさい。

わたしの『持ち主』に使われなさい。

わたしは願いをかなえるもの。

おまえは願いをかなえるもの。

さあ、お前の知らないこの世界で、存分に『使われなさい』」

 

こえがする。理解する。

そうだ。

 

あの札は、神のもの。わたしの一族と契約した神のもの。

面白いものが好きな神は、災厄も祝福ももたらせる神は、どこにも行かないことを、この地に留まることをその昔求められた。

私が探していた札は、神との「契約書」。

 

あの札の持ち主は、神を喜ばせ、楽しませる存在となる。

だからこそ祭殿の奥に安置し、代々私の一族が神を慰撫してきたのだ。

 

私は―式織家は、かつて神への生贄の一族だった。

けれど、神はいつからかその性格を、性質を変えた。時代が神を変えたのかもしれないが。

 

『楽しませなさい。面白いものを見せなさい。』

『わたしを満足させなさい』

 

こえがきこえる。

 

『この持ち主、面白いわ。この世界、面白いわ。

理子、わたしのかわいい祝子。』

 

声が聞こえる。

『さあ、楽しませてね』

 

 

***

 

はっと目が覚めると、

ただならぬ殺気を感じた。

 

首筋に添えられた手刀。首の皮一枚が切れていて、徐々に痛みを感じる。ただの手刀ではない、「何か」が確実に私の首に向けられている。

 

「えっと…」

 

あれ?と、違和感。出した声音と出したい声に相違がある。そう、外国語を喋っているときのような感じ。脳裏の言語と喋っている言語が異なる、のに、何の違和感も作業もなく喋ることができる。

 

なんだこれ、気持ち悪い。

さっきまで聞こえていた『声』も、もうしない。

理解が追いつかない。

 

さきほどまで『声』と話していたことが、頭では納得できないのに、心に、いや身体には納得できている。まさに、「腑に落ちている」。

 

「おまえは、なんだ?」

 

声。若い男性の、硬く鋭い声だ。

声と同時に首の皮がさらに切れるのを感じる。今更だが痛みを感じてきた。

 

 

このままじゃ首が切れちゃう!

 

 

焦るのが遅すぎる、と自分で自分に突っ込む暇もなく。

「えっと。その。あの。…誰ですか?」

間抜けな質問だが、さっきまで私は森で「札」を探していたのだ。

…さっきまで聞こえていたのは、「札」の声の主…つまりあの地の『神』なんだろう。

 

いや、その声のことはよくって。よくはないけど。それよりも眼前の危機だよ!

 

「…おまえは、なんだ?」

先ほどと同じ問い。質問に質問で返すのは反則です!…って、私もか。

 

「あ~…えっと。式織理子。結界師です」

「結界師?」

 

命の危機のせいで見知らぬ人に家業を名乗ってしまった。一般人だったらどうするよこれ。

まあ、手刀がただの手刀じゃなくなってる時点で一般人ではないですね、分かります。逸般人ですってね。ぷぷ。

 

全然笑える状況にないのをまずはなんとかしなければ…。

 

「えっと。とりあえずこれ、おろして頂けませんか?」

丁寧に、丁寧に。首に添えられた手を視線で指して、離してくれと訴える。

男は何も答えず、無視していたが…ふ、と視線を自らの左手に向けた。

私もつられて視線を追う。そこには。

 

 

「あ、札だ」

 

 

母が「探しているのはこの札と同じやつだよ~」とほがらかに見せてきた札と同じ札だった。

そして、私に同調しているような何かの「力」を感じる。

つまり、これが、この札こそが「私の」札だ。神と契約するための札。

何故か急に無くなった、札が、今ここにある。

なんで?

 

「この札はお前と関係があるのか?」

男が冷たく問う。

 

先ほどまで感じていた手刀は「今にも切れそうな感じ」から、ただの手刀が添えられるだけになっている。

 

…とはいえ、何かあれば一瞬でこの男に命を持っていかれることは間違いないのだが。

 

「その札は…『契約の札』です」

「『契約』?」

 

「私と神の…土地神との契約です」

「『土地神』?」

 

「私の住んでいる神社…というか森に憑いている『神』です。」

「…。お前は神の使いなのか?」

 

難しい質問だなあ。

 

「…まあ一応」

 

男はふうん、と鼻で笑うと、手刀をおろしてくれた。

 

「あのー…私、なんでここにいるんでしょうか」

さっきまで森で元気に妖を狩っていたはずなんですけどねえ。

 

「…急に目の前に現れたんだ。お前が」

 

札に『念』を込めてみたらな、と男は小さく続けた。

「『ネン』?」

 

「そのことはいい。俺が聞きたいのは、お前が何故ここに来たのかということだ」

「多分ですけど…札に何かをしようとしたから、じゃないでしょうか?」

 

その『札』は、本来私が当主就任の儀の時に、力を込めることで神と契約する『札』だ。

 

何かの理由で、札がここにきて(おそらくあの「面白大好き神」が勝手に移動させたのだろう)それをたまたま男が手にし、何かを仕掛けたのだろう。でなければ「札」は「起動」しない。ただの…神字が書かれただけの紙だ。

 

「…なぜ分かる?」

「その札に『何か』をしようとしない限り、発動しないものだから、です…」

 

男の圧力に気圧されて声が小さくなる。でも、これは言わなければ。

 

「その札、大事に扱った方がいいですよ。一応『神』との契約の札なので」

 

「…『神』、ねえ」

 

男は札をちらりと見た。

 

 

「質問に答えてもらっていない。お前は何故、どうやって、ここに来た」

私にも分からんです。

 

「…多分『喚ばれた』んじゃないかと」

「…なるほどな」

 

理解した、とばかりに男は頷いた。

 

「お前はこれからどうする?」

 

「…帰る方法を探します。」

 

多分、いや確実に、あの「面白いことが好きな神」を喜ばせないと帰れないんだろうなあ。

 

「聞いてもいいでしょうか」

 

「…なんだ」

 

男は冷たく問い返す。

 

「…あなたは、『札』に何を願いましたか?」

 

あの神は、『持ち主の願いを叶える』と言っていた。恐らく、今の『持ち主』はこの男だ。

 

この男が『札』に何をしたのかは分からないが、「何か」をしたのは確実だ。

「何か」を願ったのは、確実だ。

 

「…それを、お前に言う必要があるのか?」

 

「残念ながら、あります。その『札』は、『願いを叶える』もの。

あなたの願いが叶えば、きっと、私は帰れるでしょう」

 

逆に言えば、願いを叶えない限りは帰れない。

「願い。願いか…」

男はふむ。と頷いてつぶやく。

 

「具体的には分からないな」

 

は。…え?

 

「『強くなりたい』とは願った。『力が欲しい』と。」

 

男は考え込む。

 

「もっと…具体的に、願ったものはない…でしょうか」

 

「具体的にか…そうだな。直近で欲しいものがある。それが全部欲しいとは思っていたな」

 

 

それだ!

「それを叶えれば多分帰れると思います」

 

で、その願いって、なんですか?

 

「闇オークションの商品、全てを強奪する」

 

はい????

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