結界師は盗賊の団長を守ることになったようです 作:匿名XXX
少し時間は遡る。
クロロが部屋でひとり戦利品を眺めていたとき。戦利品の中の「紙」が気になり、左手で手にした。
そして、右手には「盗賊の極意」を。左手には「紙」を持って。
クロロはそのとき、明確に言語化せずとも願っていた。
「力が欲しい」「この『盗賊の極意』を進化させるきっかけにならないか」と。
「あわよくば次のオークション強奪に使える力が欲しい」と。
そして、次の瞬間には、どこから現れたのか知れない女が目の前に現れていたのだ。
***
クロロは溜息をついて、女に警戒心を向けるのをやめる。
女からは戸惑いの感情しか出ていない、敵意も害意も一切ないのだ。
自分の自室に急にひとりで現れた時点で怪しいことこのうえないのだが、クロロの直観が告げていた。
『この女を殺すのはまずい』というカンを。
明らかにこの札に、よく見れば神字が書かれた札に念を込めた瞬間に現れた少女なのだ。
恐らく何かの念能力によるもの。
もしかすると、何かの「契約」がこの札には込められているのではないか。
この女を安易に殺すことは、札の能力を「死後強まる念」として強化してしまうのではないか、ということをクロロは察した。
実はまさにその通りであり、この札は「神」と「式織家の娘」との契約書であり、それを第三者―特に持ち主が破損させてしまうと、
破損させたものに「札」に与えたダメージがそっくり返る仕組みとなっている。(式織理子はそのことまでは知らないが、母親より『大事にしないとバチがあたる』と聞いている)
ケータイを取り出す。
とにもかくにも、この女が敵か味方か、何者なのかを検めなければならない。
クロロはメールで、旅団のメンバーのうちの何人かを呼び出すことにした。
その間、女はただただ気まずそうに、居づらそうに姿勢を正して座っていたのだった。
***
「呼び出しなんて珍しいじゃん。どしたの?」
クロロが呼び出したのは、シャルナーク、パグノダ、マチの3人。
マチは近くにいるのであれば、とクロロはメールに書いたが、たまたまパグノダと一緒にショッピングをしていたところだったため、パグノダについてきたというあらましだ。
「見ればわかる」
クロロの私室(街中にある普通の部屋)に入るのは相当に久しぶりな3人だった。
この部屋は、クロロが『仕事』を終えた後、ただただ戦利品を鑑賞するための目的で一時的に利用することが多い部屋だ。
といっても、倉庫のように戦利品をまとめておいてある訳ではなく、一時的に保管し鑑賞するためだけに利用する。
保管しておきたいものはアジトへと運び、一時的に愛でて飽きたものはすぐに売り払う。
クロロが一人でリラックスできる場所、としてこの部屋は旅団に認知されていた。それゆえ、あまり訪れることがないのだ。
その部屋に来い、という珍しい呼び出し。
軽口を叩くシャルナークを先頭にして、パグノダ、マチと3人は部屋の中に入っていく。
そして、そこで目にしたのは。
「えっと…」と困惑した少女1名。
「クロロが女の子を連れ込んでる…」
シャルナークが口笛を吹いてクロロをからかう。
クロロはそれには何も応えず、「パグノダ、ちょっと」と呼んだ。
「何?」
「あいつの素性を探ってほしい」
「…自分で捕まえてきた女の子なんじゃないの?」
パグノダは軽薄そうに言うが、対するクロロは真剣な眼差しだ。
「いいから」
「…わかったわ」
パグノダは女に近づき、その肩にそっと手を置く。
「あなたのお名前は?」
「式織理子…です」
パグノダには、理子が山で「知らない能力」を使い「怪物」を倒している様子が脳裏に浮かんだ。
「出身はどこ?」
「●●神社という山があるところです」
不思議にも。パグノダの耳に「●●」の部分は聞き取れなかった。
まるで異国の言葉のように。
(まあ、ウチは田舎なんだけどね)
そうして、パグノダの脳裏に広がる、神社の外側の景色。
文明化された社会。高いビル群。知らない都市。
「なに…なにこれは…」
パグノダはパッと理子から手を放す。
まるでここではない世界のようだった。
まるでここではない世界の都市のようだった。
高度に文明化された都市。「この世界」のどこでも見たことがないほど、高いビル群の山。
「あなたは、誰?」
「私は…結界師の一族の末裔。
『願い』の札の契約を元に、喚ばれたもの。…多分」
理子はおずおずと言う。
シャルが興味深そうにへえ、と薄く笑い、対照的にマチはフンと鼻で笑った。
「この世界」ではありえないような景色を見たパグノダは、固まっている。
「『札』って、ナニ?」
今度はシャルナークの問い。
すっと音もなくパグノダは彼女に触れておく。
「あれ…です」
理子はクロロの左手を視線で示す。
拘束されてはいないが、不用意に動いて敵意があると思われるのも怖い、といった様子だ。
「試しに『盗賊の極意』を起動した状態で、触れてみたんだ。そしたら、こいつが突然目の前に現れた」
クロロの端的な説明に、ようやく連絡を受けた3人は合点がいく。
「誘拐犯じゃなかったんだ」
「女の子連れ込んだだけかと」
シャルナークの軽口と、マチの軽蔑。
だが、異様な景色を見たパグノダは沈黙し、何かを考えている様子だった。
「どうだった、パグノダ」
クロロが水を向けると、パグノダは「そうね…」と言葉を濁してから語り始める。
「この子は噓は言っていない。彼女は確かに、『この世界の外』から来た…と思われるわ。
彼女の出身の、山や街を、私は一切見たことがなったもの。」
この子は異世界からやってきたのよ。
パグノダはそう締め括った。