彼と彼女の物語   作:GIZEN

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君はある戦争で彼に助けられた。
死に行くしか無いはずの絶望に舞い降りた赤い希望に救われたのだ。
君は彼に憧れた。
その彼が……無実の罪で死刑宣告された事に憤りながら……。

君は彼の話を聞く為にある国のある牢獄へと忍び込みました。


プロローグ

その光を……その姿を私は一生涯忘れまい。

この身が出会った黄金の輝きを。

ほんの少ししか共にはいられなかったものの……この身が恋い焦がれた少女の姿を。

 

「……ここは危険だ。早々に立ち去りなさい」

 

言葉は鮮明に。その姿が幾ら摩耗しようとも、その声だけは覚えている。

否、姿が摩耗するに比例してその声が確かに刻まれて行く。

 

「…また来たのですか?いえ、来て欲しくない訳ではありません。シロウの作る食事はとても美味ですから」

 

それは、彼と彼女の関係だった。

その場から動けぬという少女にせめてと弁当の差し入れを持っていく。

彼女は何時も渋い顔をしていたが、弁当を持って行くことで仕方ないと呆れた表情を浮かべ彼の来訪を受け入れてくれたのだ。

 

「私は何れ自我がなくなるのでしょう。それは、時間の問題で……どうにも出来ないことだ。だから……シロウ。私がもしも…」

 

その約束は果たして守れたのか?

否、彼は彼女との約束を破ったのだ。

彼女を喪いたくは無かったから……彼女を救うと彼は戦った。

 

「シロウ。私は貴方を…」

 

晩年の時。

冷たい壁を背に懐かしい彼女の姿を思い出した。

記憶は古く錆び付いている。あの時の心の在り方すら思い出すのは難しい。

 

「それでも……いいのかね?」

 

目の前の人物に問い掛ける。

物語の聞き手は頷いた。

それは今回の戦争で助け出せた一人。そして、私の無実を唯一信じてくれる者だ。

ならば、無益には出来ないだろう。

昔話の一つくらい……是としよう。

 

「では、話そうか。彼と彼女の……たった十日にも満たない物語を」

 

 

 

 

 

 

そうだな。その頃の彼は何も知らない子供だったのだ。

神秘とは無縁であり、そんな物は物語の中の物だと……綺麗な何かだと勘違いしていた。

ああ、でもそんな彼にもそれを欲した時期もある。

……ふむ、笑われたか。

まあ、なんだ。とにかく、当時の彼はそれでもそんな神秘の存在には見切りをつけていた。

だから、彼はせめて自分の願いを叶えられる可能性に手を伸ばし続けていたのだ。

例えば、壊れた学校の備品を直すこと。例えば、己自身を鍛えること。例えば、目の前で困っている人に手を差し伸べること。

ああ、そうだったな。先ずは彼のなりたい物が何なのか話すべきだった。

 

彼は……正義の味方に憧れていた。

彼は馬鹿だった。そんな、創造の産物にしか希望を見出せない大馬鹿ものだった。

 

だから、なのだろうな。

彼が彼女に歩み寄れたのは。

そうだな、あの日は今日と同じ様に月の綺麗な日だったよ。

 

 

 

 

 

 

月の綺麗な日だと思った。

弓道部の面々が用事があるからと早々に帰ってしまった日。

衛宮士郎は当然の様に一人で残り、当然の様に一人で道場を片付けていた。

 

「不味いな。これはセラに怒られかねないぞ」

 

物音一つしない敷地の中で白い吐息を吐く。

まるで、此処だけは町のどの場所よりも冷気に覆われている様だと感じた。

 

「……ん?」

 

シャラン と何かの音が聞こえた気がした。

とても綺麗な音だったから自分の耳は自然とソレを聞こうとした。

 

「校庭の方か?」

 

また、シャランと聞こえた。

確かめようとそちらへと足を向ける。

それ程までにその音は綺麗だったのだ。

もしかしたら、幽霊にでも魅入られたかとも悪寒は感じたけども……どうしても真偽を確かめたくて俺は、その場所へと向かった。

 

それが、彼女との出会い。

校庭には一人の少女が月明かりの下で佇んでいた。

銀色の月光がまるで彼女を照らす為だけに輝いていた。

 

「………」

 

声なんて出るはずが無かった。

ただ、その少女の綺麗な姿に言葉を失っていたのだ。

少女の宝石の様な瞳が俺を見据えた。

感情など無く、ただ、いたから目に入っただけだと言う様に。

 

「……ここは危険だ。早々に立ち去りなさい」

 

凛とした声はそう告げる。

確かに少女の姿は騎士の様なソレだ。

しかも、コスプレの様な物でもない。

否、それと同じとするのは余りにも無粋かもしれない。

 

「魔術師でも無く、私を回収しに来た者でもない。なら、今日の事は忘れて日常へと戻るべきです」

 

告げられた言葉の意味など分からない。

でも、何と無く……この少女は自分とは違うのだと…それだけは理解していた。

何と無く、爺さんやアイリさんに似た……いや、それとは比較にもならない様な雰囲気を感じ取れたのだ。

 

「………」

 

少女は無言のまま背を向けた。

最早、語るべき事など無いと告げていたのだ。

時間が止まった様だと感じた。去り行く彼女の背を見送りながら……俺はまた、彼女と会いたいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

ふむ、今日は此処までとするか。

まあ、プロローグとはどの物語でも短いものだ。

気になるのならまた来ると良い。私はどうせ何時でも此処にいるのだからな。

さて、早く行きたまえ。牢の番人はそろそろ目を覚ました時だ。




君は物語の続きを気にしながらもその場を去る。
彼への警備は……実は緩い。
皆が皆理解しているのだ。
彼は……逃げたりなんかしないと。
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