この破綻者に憐れみを 作:熾烈
入学式の帰り道、ふと気づいたら見慣れた町並みは無く、舗装のされていない道、建物の代わりに木々が生い茂っていた。そして、目の前には血で両手を濡らした知人がいた。
◇◇◇
私は異常者だ。他者の苦痛と不幸を好み、万人が「美しい」と感じるものを美しいと思えず、「醜い」ものを好む破綻者だ。━━『確認しました。ユニークスキル「欠陥者(スクワレヌモノ)」を獲得、成功しました』 そんな醜い己が苦痛だった。
私の父は聖職者で、深い信仰心を抱いている。真っ当な倫理観をもち、私に与え、愛情を持って接し、尊敬すべき人物だ。そんな父と共にいると、如何に己が醜悪であるか嫌でも理解させられる。さらに、父の影響か物心つく頃には私自身も敬虐なる信徒、神父見習いとなっていた。━━『確認しました。「聖職者」を獲得、成功しました』
成長するにつれ、色々なことを知るようになった。その分、己の在り方、性質に苦悩するようになった。私は教えられた道徳を理解し、信じ、人として善であることが正しいとする良識を持っていた。常識から外れた自分を正し、人並みの幸福を得ようとひたすら苦行や試みを繰り返していたが結局どうあっても正すことはできず、悪である自身が生まれた理由を探し求めた。━━『確認しました。「探求者(コタエエルモノ)」を獲得、成功しました』
ある日、一人の少女と出会った。彼女とは同じ学校たったので接触しやすかった。
初め、彼女の目には幸福があった。しかしある日を境にそれは段々と陰っていった。聞けば、彼女の父の会社が倒産したらしい。それから荒れた家内では、父はギャンブルにはまり、母には暴力をふるっている。そんな彼女が不幸になる様を見たとき、自分が悦んでいるのを知った。家庭崩壊は進み、彼女は苦しむ。その暗い瞳は私を楽しませる。私はそんな己を律するため、神父見習いとしても彼女に言葉をかけた。安らぐ声を与え、相談に乗る。が、彼女の父は死んだ。状況からして蒸発したように見えるが、私は確信している。彼女が、殺したのだと。それを隠して私に報告し、母に笑顔を取り戻させたいと。歪みそうになる口元を必死に抑え込んだ。
非常に残念だが彼女の思惑通りにはいかなかった。あれでも結婚をした相手、思うことはある。不安定になった彼女の母は宗教に救いを求めた。耳障りのよい言葉などいくらでもある。救いなど早々簡単な話ではない。
父が死に母は壊れた。彼女から大切なものが次々と喪われてゆく。それを私は眺めていた。その口元がどうなっているかは分からない。
◇◇◇
「アハハハハハハ」
彼女の目には絶望が宿っていたが、今は狂気と生気と怒りが混ざり暗い光が灯っていた。
彼女は壊れてしまった。
「坂口日向。初めての殺し……いや、二度目の殺しはどうだった?」
「…………どうして、」
どうして此処にいるのか、どうして父を殺したと知っているのか。と思っているのだろう。
「………言永智誓。なぜここに?」
「分からない、気が付いた時には既にこうなっていた」
気付いてるだろうか、目の前の男の歪さに。無惨に撲殺された男どもを足元に、血に濡れた殺人者を前に動揺ひとつしない、むしろ薄ら笑いを浮かべている彼に。
人里求めて道なりに歩くことにした。
「貴方、さっき質問したわよね?」
「ああ、したとも」
「二度目ってどういうこと?」
「、君は父を殺したのではないのかね?」
「…………………………」
「君と色々話をしていたんだ、何かを察するぐらい出来る。それに私は人を観察するのは得意なのでね」
はあ、と日向は息を吐きそれまでの張りつめた雰囲気を解いた。
「許しが欲しいか?」
問うと。
「いいえ、私は欲しくない。だけど、母をああしてしまったのには後悔している」
成る程、贖罪がしたいと。
殺しは別段感じるものもなく、むしろ肯定気味のようだった。