この破綻者に憐れみを   作:熾烈

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ACT.1

 

 何も知らぬ世界を歩くのは不安だ。立ち寄った町で見たのは不思議な動物だった。翼を持つ獣、今まで見たことのない動物。あれを動物と呼んでいいか定かではないが、それと戦う人間。聖騎士と呼ばれる彼らがあった。

 彼らを見ていた日向は希望を見つけた。

 神ルミナスを崇めるこの国の首都は、全てが神の下に平等。つまり元の世界での共産主義を掲げるものだ。徹底された管理社会。何一つ不自由なく『幸せ』に笑い合って暮らせる理想郷。

 『幸せ』は彼女が失い、求めたもの。歪ではあるが、少し違うかもしれないが、そこにあった。

 

◇◇◇

 

 盗賊を片付けたあと、駆けつけた者共に保護されイングラシア王国の自由学園に入ることになった。シズと名乗る人と出会った。シズ先生は我々にこの世界と生きる術を教えてくれた。日向が心を許す数少ない人物だ。そんな彼女に日向は母を重ねてしまうのだろう。突き放されるのが怖くて、日向は彼女の元を去った。私は勿論日向に付いていった。

 

 その後、彼女は聖教会に入り聖騎士になった。私も何の因縁か、信仰する主は違えど聖職者にこの世界でもなった。

 

◇◇◇

 

 ヒナタ・サカグチは折れない。正義感が強く、自分より他人を優先し、人々を守るための自己犠牲を厭わない。まさに聖女と呼ぶのにふさわしいものだ。

 その聖女は今、剣を私に向かって振り回している。

 

 「崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)!」

 

 刺突が目を掠める。足払いをするが、跳躍して後ろへ下がられる。

 立ち上がり黒鍵を投げた。

 黒鍵とは、十字架を模した投擲剣で指の間に挟み使う。剣のように扱うことも出来るが、突き刺すことに特化しているため切りつけることには向かない。

 3本の黒鍵がヒナタを囲むように迫る。それを弾き落とすが、先ほどいた場所にチセイはおらず、ヒナタの目の前にいた。

 背中からの体当たり。ヒナタは吹き飛び背中を強打した。

 

 「かはっ!」

 「さて、私の勝ちだ。━━━━━━気絶しているのか。仕方がない」

 

 気絶した彼女を抱え部屋に運んだ。

 この世界に来て約2年。聖騎士団長となったヒナタは幸せのために突き進んでいる。ルミナス教の教義に従い魔物を狩り、人々の暮らしを豊かにしようとしている。

 彼女は頭が堅すぎる。ここの教義には「魔物と対話をしてはならない」などの魔物に関するものしかない。不可解な部分もあるが、むやみやたらに魔物を殺す彼女の頑固な愚直さは時に身を傷つける場合もある。

 安らかに眠っているその顔を見ながら数ヶ月前を思い出した。

 

 「不幸になるということは、誰かがその幸福を取り上げたの。だから皆が平等に幸福になれる世界が私の理想。だから、この国ルベリオスは私の理想ともいえる」

 

 かつて、共産主義は平等を目指した。だが、国としてあるためには国を運営する者が必要だった。そのため、人の上に人が立った。同じ人間だからこそ失敗に終わったのだ。平等にしようとしても、必然的に差は生まれる。権力、財力、それは人間が欲望するもの。持つ者、持たない者、後者は前者を羨み、平等を謳う社会を恨む。

 そしてこの国では、神という圧倒的上位者が存在し、国を動かしている者も上位者なる者たちだ。彼らは人間ではない。故に人間のような欲はなく、人間には平等が与えられる。その支配は完璧に近いものだ。

 ちなみに、この事実をヒナタはまだ知らない。

 

 「幸福を求めることは普通の生き物であれば当たり前だ。だが平等? 本当に存在すると思うか? 平等は口先だけのもので存在しない」

 「………………私は、この国の、ルミナス教の公平を信じてる」

 「はぁ、君は頑固だ。

 この国の在り方は確かに正解の一つだと言えよう。その点、私は評価している。

 ━━━━━━だが、つまらなくないか? 欲望があってこそ生物は生物たりえる。三大欲求はさておき、欲がない者なぞ、機械のようではないか。それに、私の神父という役目が果たせない」

 「……………………………ようやくあなたの人となりは分かってきたわ。チセイ、あなた、人の悩みが好きなんでしょ? 人が思い悩む姿が」

 「━━━━━━━━━━━当たらぬとも遠からず、だな。

 ………………………良い機会だ。何故この国が公平を保ったままでいられるか調べてみるといい」

 

 

 ここで会話は終った。

 そして今日、彼女は何も告げず私に斬りかかってきた。おそらくこの国の真実に気が付いたのだろう。何も知らなかった自分の不甲斐なさに怒りを感じていて、それを私にぶつけた訳だ。

 

 「ヒナタ様、ご無事ですか!?」

 

 バンッと扉を開け入ってきたのはニコラウス・シュペルタス。ヒナタに仔犬のようになつき、崇拝する。ルミナス教の信者であるか疑わしい人物だ。

 彼はベットの縁に腰掛けている私を目にした瞬間、表情が歪んだ。

 

 「これはこれはチセイさん。一体どういう事ですかな?」

 

 基本的には彼は、ヒナタの関係者に対して優しく接するが、私に対してはそれがなく、むしろ敵意さえ感じる始末だ。

 

 「なに、間抜けな顔をして寝ているバカな女に子守唄を唄っていたのだよ」

 「私は気絶したヒナタ様を運んでいたと聞いたのですが?」

 「そう怒るな。私とて望んだことではない。向こうから来たので相手をしただけだ。

 私はもう行くよ」

 

 そう言って扉へ向かう。

 

 「そうだ、起きたら私の元に来いと伝えてくれ」

 扉に手をかけたときに彼に伝え、部屋を去った。

 

◇◇◇

 

 ヒナタは私の部屋の扉を乱暴に開けると、カツカツと前に立った。

 

 「……………………」

 「てっきり私はそのまま突撃すると思っていた」

 

 だから無言で剣先を向けるのを止めてくれないだろうか。

 

 「君がこれからする事は予想がつく。あえて言おう。私は止めるつもりはない。

 どうだ、お前の信じたものが嘘だったのは」

 「最悪っ! というか知っていたでしょ。何故何も言わなかったの!?」

 「思い出せ、私は言った筈だ。この国のカタチはある種の正解だ、と。

 だが、まあ。行くか」

 

◇◇◇

 

 それから二人は奥の院へ向かった。

 法皇ルイ・ヴァレンタイン、魔王ロイ・ヴァレンタインの二人はいた。

 圧倒的強者を二人相手にしたヒナタはほぼ相討ちとなった。二人を粛清し、致命傷をおった彼女。

 生き残った私に手を伸ばしてくる。

 

 「…………ぁ…………っ……………………」

 

 膝をついて、血の気の無い頬に触れ撫でる。

 静かに彼女の目を見つめた。

 呼吸の音が小さくなり、心臓の鼓動が遅くなってゆく。瞳孔が広がり、死が近付いているのがわかる。

 

 「━━━━何だ?」

 

 彼女の口元に耳を寄せた。

 

 「…………………たす…………け、て………………」

 

 助けて。確かにそう言った。

 ヒナタは基本的に自分しか信じていない。それが、他人に助けを乞うのだ。

 なりふり構わず、生に執着しているのか。それとも私を信頼しているのか。とりあえず彼女の信念を曲げたことに私は悦んだ。

 

 彼女の頭を私の膝に乗せて楽な姿勢にした。 そして軽く治癒の魔法をかける。だが、目に見えて傷が癒えることはない。

 

 「ヒナタ、お前の正義は正しかったか?」

 「…………………ええ。私…は、間違って……いない。この、世から…邪悪を、一つ、消せた。

 でも………結局、弱い……ま、ま…………………

 ━━━━━━━ねぇ、…褒めて………私、がん、ばった……………」

 「確かに頑張った」

 「ん……………」

 

 労いの言葉に満足そうにした。

 

 「━━━━━━━だがな、お前のしたことは無意味だ」

 「……ぇ………………」

 

 その言葉に泣きそうな顔にった。

 

 「なん、でっ…………!?」

 

 答えはやって来た。

 

 

 

 

 

 カツカツと静寂な空間に響く足音。

 

 「妾の寝所まで騒がしいぞ。一体何をしておるのだ?」

 

 

 魔王すら霞む存在感。美しい銀髪の女性が現れた。

 

 「二人とも、妾を置いて死ぬ事など許さぬ」

 

 死体に手をかざすと、ルイとロイは復活した。

 

 「━━━━━━━━」 

 

 絶望がヒナタを支配した。耐えきれず、彼女の命は尽きた。正確にはまだ死んではいない。あと命の雫が一滴分は残っている。

 

 「お前もよ、人間。傲った考えを抱いたまま死ぬでない。 正義とは何ぞや?  悪を挫くだ けが正義ではなかろう。それに、の行いが悪かどうか、それを矮小な身で勝手に判断するとは何様だ? 全ての自由意思を満足させる正義などない。それを行えると考える力が、傲慢であろうよ。 違うか?」

 

 そう目の前の大きな存在は言った。そして、ヒナタを死の底から掬い上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は私の方へ向いた。

 

 「お前━━━━━━━━━━助けた者が女なら殺すな。目の前で死なれるのは、中々に堪えるぞ

 

 

 

 

 

 

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