この破綻者に憐れみを 作:熾烈
一週間後。
七曜の試練とやらを突破したヒナタは、大きな者。ルミナス教の神本人、ルミナス・ヴァレンタインと再戦し、負けた。その時の顔はとても清々しいものだった。
それでも彼女は変わらず、ルミナスの人々を保護する姿勢には賛同するが、道を間違えたら滅ぼしに行くと言う。根本は変化しにくいものだ。
◇◇◇
side ヒナタ
私の学校には有名な生徒が一人いる。珍しいという意味でだ。自己紹介を聞いた時は、本当にいるんだと実感したものだ。
彼の家は教会で父は神父だ。神父ということは母は別れたか、亡くなってしまったのだろうか? 神父という役職を日本でお目にかかるのは、皆にとって珍しいのだ。
彼を一言で表すと、「不気味」だった。一度もあの表情筋が動くのを見たことがない。笑っているのを見たが、よく見ると、やはり表情は動いておらず造った嗤いでその場の雰囲気に合わせているだけだった。
ある日、彼は私に話かけてきた。
「どうかしたのか?」
いつもの鉄面皮には憂いの表情がある。弱っていた私は、心配した彼の顔に人間らしい所を見つけ安心した気がした。
私は全てを話した。父親の会社が倒産し家庭内が荒れていることを。聞き上手な彼は私の苦しみを解きほぐすような声で慰めてくれた。
そうして月日が経った。半ば依存に近く、依存と表現したくないが、この表現が一番合っていると思う。それに、多分惚れていた。彼にどっぷり浸かって夢中になるあまり、家庭の事など頭から抜けていた。気が付いた時は、もう壊れていた。ギャンブルにはまった父、ぼろぼろの母。そして楽しくしていた私。
「例外はあるが、親は子の幸せを願うものだ。たとえお前が気楽にしようと、恨まれることはない」
そう言われてもこの罪悪感が消えるわけではない。
その日から私は彼の元に行かなくなった。
苦しい生活、でも輝かしい時期。
さようなら、智誓。
母は父に暴力をふるわれている。バイトでも平社員でもいいから働いて欲しかった。母の稼ぎが無駄になる。毎日食事ができるのも母のおかげだというのに。
このままでは母は潰れてしまう。どうにかしないと。バイトをしようか? 中学生だから無理。売春? 絶対に嫌。
原因をなくす? …………………出来る。
そうだ、母を苦しめている原因を消せばいいんだ。
父親を殺した。
正直何も考えられなくなって、行かないようにしていた教会へ足を運んだ。そこで私はただ父が消えたことを伝えた。
何も言わずに迎え入れてくれた彼は、やさしく抱き締めてくれた。
お母さん、あなたを苦しめるものはもう無いよ。
否、まだ残っている。本人は気付いていない。それは自分自身だと。
母が宗教に入った。母と私で楽になろうと思ったのに、母が壊れた。どうすれば良いのだろう?
◇◇◇
異世界にきて人を殺した時、私がなにより壊れていたことに気が付いた。
赤く染まった拳を見て、殺しに抵抗が沸かなかった自分が怖かった。
「坂口日向。初めての殺し……いや、二度目の殺しはどうだった?」
そこに現れたのは言永智誓だった。
「…………どうして、」
どういうことだ。何故彼がここに? 殺しが見られた…………
混乱が私を支配する。
彼を見た。そこには見馴れた無表情の顔はなかった。歪んだ口、愉しそうな目。こんなに感情が顕れた彼を見たことがない。
━━━━━━━━でも、この世界で彼に会えて良かった。