この破綻者に憐れみを 作:熾烈
十年ほど月日が経った。この身は過去に取り残されたように若い。
父を師に学んだ八極拳は人体破壊術となって久しい。
最近東側が騒がしい。この大陸の中央に広がる大きな森林、ジュラ。そこに魔物の国が出来たらしい。西側諸国にとっては脅威でしかない。なんでも、その国の主はリムルというスライムで我らが師、シズ先生を食ったと。
十年かけて魔物を絶対殺すマシーンと化したヒナタは今日も今日とて狩りに行っている。らしいが、おそらく復讐を果たしに行っているにだろう。イングラシア王国の学校で教師の真似事をしているという情報を手にいれたヒナタは、騎士団を引き連れて出ていった。
「ヒナタはあれで抜けているところがある。フッ、見届けてやるか」
独りごちた。そして魔力などで一切身体を強化せず、自前で時速60kmをキープしながら草原を走った。
ヒナタ達が向かった場所、イングラシア王国の城壁の外。王国のスカイラインが一望出来るほど離れた辺り。そこでは既にヒナタがリムルを殺していた。
珍しく感傷に浸っている彼女がふっと此方を向いた。
「チセイ、どうしてここに?」
「敵討ちはどうだったかね?」
「まさか、それを聞くためだけにここに来たの? 呆れたわ。━━━━━━べつに、何も」
と言って私に背を向けて歩き出した。その背中はほっそりしていて綺麗な括れのある少女のものだった。…………………精神年齢は20歳を越えているが、肉体は17辺りで止まっているので少女と呼んでも問題ないはずだ。
彼女が小さく見えるまで見送ると、誰もいない草原に声をかけた。
「怖いお姉さんはいないぞ、出来てたらどうだ?」
何も反応がない。仕方ないので黒鍵を取り出し刃を生成、草むらに撃ち込んだ。
刃が地面に突き刺さると思いきや、激突。砲弾が着弾したような有り様だ。投剣の構造上、普通突き刺さるはずだが、アレがアレで、何故か当たると吹き飛ぶ。
ズドンッ!
「ヒィィー! なんだそれ、怖すぎ! 怖いお姉さんはいないけど、怖いお兄さんがまだいるじゃないか!」
飛び出てきたスライム。
「ハハハ、最初から聞いていたのであれば返事をすれば良かったのではないか?」
「あ、はい。ごもっともです」
凄めばしおらしくなるスライム。
「えっと、おたくは?」
「おそらく、お前は知っている」
そう言うと人の形に戻ったスライム、リムルは頭を抱える。
「うーん、えーと、うーん…………………そうだ! 『言峰綺礼』!!」
「……………………非常に、何故か魂に響く名前だが、残念ながら違う。私は言永智誓。ただの神父だ」
「神父?」
この世界に神父という言葉が指す意味はない。
「正確には、神聖法皇国ルベリオスに属する勝手に私が創った組織、埋葬機関の局長をしている。神父というのは、この世界に来る前に神父見習いだったからだ」
「埋葬機関?」
「残念ながら、なにもしていないがな。
そろそろ行ってはどうかね? 中々酷いことになってるようだぞ。ああ、私は君を殺したい訳じゃない、安心して行くといい」
彼を見送ると私は元来た道を戻った。
次に向かうのはシルトロッゾだ。
いつか。
失われた竜の都に足を運んだ。
「こんなものは料理と言わないのだー!」
と泣き声と共に、ものすごい速さで飛び出していくピンク色の影が見えた。
「ミリム様には困ったものだ」
食卓に並ぶのは生の野菜、しかも調理もされていない。
「なにか悩み事かね?」
神父という職業柄、悩みを聞くのは性分だ。
「これはこれは旅の者、見苦しいものを見せてしまった。ワシは神官長のミッドレイと申します」
「私はチセイだ」
自己紹介をお互いにした。
「実はですな、ミリム様がご馳走に手を着けないのだ」
そういう大柄の男の隣には、やれやれという顔をした神官がいた。
「よければ私が一つ、作ってもいいか?」
「おお、そうか。助かる、ぜひお願いしたい!」
数十分後。
「これは何だね?」
沸々と怒りが込み上がって来ているのがわかる。
「麻婆豆腐だ」
そう、目の前には、ラー油と唐辛子を100年間ぐらい煮込んだ合体事故のあげく、『オレ外道マーボー今後トモヨロシク』みたいな料理があった。
だが、
「そうじゃない! 何故料理をした? 食材に対する冒涜だ!」
などと激昂しており、他の神官達はマーボーを前にして顔を青ざめさせていた。
「食うか━━━?」
「食うか━━━!」
「食うのだー!」
「「!??!?」」
突然の乱入者。ミリム本人であった。
麻婆豆腐は匂いは美味しそうであったため、匂いに釣られたミリムがやって来たわけだ。
「お止め下さいミリム様!」
「ミリム様、食べては駄目です!」
ミッドレイは料理されたものを食べさせる訳にはいかない。
神官達は劇物を食べさせたくない。
普段、食に関して意見が合わない彼らでも、今回ばかりは同じ思いであった。
「うるさいのだ。私はこれを食べてみたい! 久々の料理なのだ!」
そう言って周りの声を無視し、麻婆豆腐を口に運んだ。
「hlzkgzhlxーjxplyっhtsktzkgspkbんvぉーふkhl?!???!?」
ぐしゃ。
気絶し顔が器に落ちた。
「━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・・・・」