この破綻者に憐れみを   作:熾烈

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ACT.■

 

 

 住居としている教会の形をした建物。

 扉を開いた。

 朝焼けが礼拝堂を照らす。

 自分の陰が長く延びている。

 

 朝の澄んだ空気を吸い深呼吸。しばらく虚空を見つめていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 自分はどうしようもなく破綻している。それは薄々知っていたが、それを肯定してはならない。したくはない。どうにかして自分は普通になれないかとこの数年、色々試したが万策尽きた。

 

 

 

 最後の試みとして、結婚をした。

 

 そう、坂口日向と。

 

 

 

 いつだったか、彼女を盲信しているニコラウス枢機卿とヒナタが肌を重ねあっているのを見た。その時のニコラウスの顔はまさに幸せそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 ああ、その顔を歪めたい

 

 

 

 

 

 

 

 私はなんとも言えない妙な気分になった。ドロドロした思い。何なのかわからない。ただ不機嫌になった。

 定期的に彼女等はこうしているらしい。それを知る度に気分が悪くなった。

 

 おそらくこれは、私は、ヒナタに恋をしていて他人に取られてしまったのが気にくわないのだと。己の中で結論付けた。

 

 

 これは検討違いなのだと本人は分からない。

 

 

 

 そして、私は彼女に結婚を申し込んだ。勿論了承してくれた。一度は依存した相手、しかもほんの少しの淡い恋心を抱いていた相手の求婚なのだ。この世界で初めての笑顔と涙を見た。

 

 

 

 式をあげた時、視界の端にニコラウスの姿を捉えた。顔は酷く、怒りと嫉妬、その他もろもろ混ざって歪んでいた。その姿に私は悦んだ。

 

 いつの間にか目的が変わっていたのをこの時自覚し、自らを諌める。やっとスタートラインに来たのだ。

 

 それから。私は彼女を愛そうとした。彼女も愛そうとし、愛した。

 

 隣で寝る彼女の首に、何度手を伸ばしたか。苦しむ彼女の顔を幻視した。

 

 結婚は、私自身の悪性を再認識させ証明させた。

 

 

 そして、現在。

 

 

 「━━━━━、お前を愛せなかった。

 正確には、お前を愛せているか分からない」

 

 告白は誰にも聞かれずに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   要件を満たしました。『欠陥者』が『破綻者』へ()()します。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 空を見上げれば、太陽の位置はほぼ真上にある。すでに5時間以上経過している。ただ何もせずに突っ立っていたらしい。

 

 「チセイ様、ルミナス様がお呼びです」

 

 音もなく現れたのはルミナスの執事であるギュンター。わかったと返事をした。

 

 

 

 


 

 余談だが、ヒナタとの結婚はルミナスも羨んで惜しんでいたらしい。そんな愚痴を聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 とある食事所にて。

 

 「お待たせアル」

 「!?!??」

 

 何に驚いたかというと、出された料理にだ。

 赤を通り越してどす黒い赤で、匂いからして目に入ったら失明しそうな程辛そうだ。そう、紛うことなき『麻婆豆腐』である。

 

 確認の為聞いてみる。

 

 「店主、この料理はいったい」

 「お前さん、初めて食べるアルか? これは麻婆豆腐ネ」

 「そうか」

 

 蓮華を手に取りソレを掬う。そして口に入れた。

 

 

 「!!!」

 

 脳に衝撃が走った。かつてない辛さ、それは最早痛みと言って良いほどのもの。

 

 二口目。

 舌が熱い。匂いが鼻孔を貫く。

 

 咀嚼すると更なる辛味が広がった。

 飲み込むと喉が焼かれそうだ。

 

 そんな殺人的な食べ物なのにもかかわらず、蓮華を口に運ぶのは止まらない。

 

 汗が額に浮かぶ。

 暑くなったので服のボタンを外した。

 

 

 尋常でない辛さとの格闘の先に旨さがあった。

 

 

 「おー、完食ネ。食べきれる人がいなかったから嬉しいアル」

 「店主、ごちそうさま。また来る」

 

 

 

 紅洲宴歳館・泰山。また来よう。

 




2024/05/01 加筆
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