この破綻者に憐れみを 作:熾烈
Side リムル
あとはクレイマンが覚醒するのを待つだけ、と思っていたら、チセイが歩み寄ってきた。
最初は、魔王ヴァレンタインの付き人としてやって来たことに大変驚いた。
つまり、ルミナス教は魔王を黙認しているもしくは、繋がっている可能性があるのだ。
クレイマンの傍に来たチセイは奴に問うた。「力が欲しいか?」と。
さすがに身構えた。突然の味方宣言。
彼の言葉にクレイマンはすがった。
智誓は虚空から何かを取り出した。現れたのは黄金の杯、それをクレイマンの中に入れた。クレイマンの体にすぅーと入っていったのだ。
変化は直ぐ顕れた。魔素量が爆発的に上がり、力が強くなったのがわかる。
身構えたが
いったい何故と思ったが、その訳が分かった。
クレイマンのパワーアップは一瞬だけで、その体は歪に醜く膨らんでいった。それと同時に、見ただけで悍ましい、吐き気すら催す濁った魔素が溢れた。たぶんラファエルさんはこれを見越していたのだろう。
ほとんどの人はそちらに気を取られていたけどオレは見逃さなかった。チセイの歪ん口元を。だが一瞬で鉄面皮に戻しこちらを見た。
「魔王リムル、後はお願いする」
「…………………」
『…………………』
ラファエルさんもこれにはびっくり。つまり、掃除は頼みますってことだろ!? オレをゴミ箱扱いするな! 当初の予定ではあったから仕方がないけどさ、本当にコレ、喰らうの?
その肉塊からは、痛いや、助けてと聞こえてくることから元が生き物だったと伺える。
「お、おう。━━━━喰らい尽くせ、
掌を翳すと、黒い何かがクレイマンだったものを飲み込んでいった、
オエッ。別に味がする訳じゃないけど、気分的にな。
『さっきチセイがクレイマンに入れた器に関してなんだけど、』
俺はラファエルさんに聞いてみた。ベルゼビュートで飲み込んだ時にそれも捕食しているはず。
『解━━━残念ながら、検出されませんでした。しかし、クレイマンの状態から推測するに、魂を集め、魔素に変換するものであると考えられます』
へー。・・・・・・・それって結構ヤバくない? つまり、覚醒魔王を人工的に創れるってことだろ?
考えに更けているうちに話が進み、ヴェルドラが魔王ヴァレンタインの正体を明かしてしまった。
Side out
「チッ………忌々しい邪竜め。どこまでも妾の邪魔をする………それに貴様、妾の名まで忘れたか?
もうよい、妾のことはヴァレンタインと呼ぶが良い!」
ルミナスが侍女服を消し、魔王としての服に変えた。これだけの者に見られてしまったのだ。隠す気はなくなった。
「チセイ」
「はい」
「妾は見ていたたぞ。あの時クレイマンに何をしたのじゃ?」
「……彼の持っている魂を、彼が覚醒出来るようにしたのです」
「………………もう一度聞く、何をした?」
誤魔化すなと怒気が滲む。
「彼の精神を覗きました」
「ほう、それで、何が見えたのじゃ?」
「フットマン、ティア、ラプラス、カザリーム、恐らく名前でしょう。それと、予想通りの者が見えました」
聖杯をクレイマンに埋める際、気付かれないように魔法を施したのだ。
「ロイよ、先に戻っておれ。
クレイマンのヤツが、貴様を見て一瞬だが視線を止めたぞ? この前、我が領土に侵入したというゴミ虫と関係があるやも知れぬ。戻って警備を厳重にするように伝えるのじゃ」
「承知」
ルミナスがロイに伝えた。
「今宵はワルプルギス。何かを仕掛けるにはもってこいだ。ロイ、くれぐれも注意するように」
去り際に私はそう付け加えた。
「ああ、そうするとしよう」
そしてロイは帰っていった。
「━━━ああ、カザリームという名に聞き覚えがあったが、俺が殺した魔王だな」
魔王レオンによって新たに情報が入った。
あとは魔王達の話し合いだ。
ロイが死んだ、この人でなし!
正解。彼は吸血鬼だ。
ワルプルギスが終わり翌日。戻ったところ、そんな報告があった。
魔王ロイと法皇ルイ。この双子は元々一つの存在で、「鮮血の覇王」と呼ばれていたが、ルミナスの手によって二つに分かたれた。そして性格が荒いのが弟のロイ、落ち着いているのが兄のルイとなった。
弟の死によって二分された力が一つになり、ルイに本来の力が戻ることとなる。
一緒に戻ってきたルミナスは奥の院に入るやいなや、ワルプルギス改め
「あの忌々しい邪竜が、どこまでも妾の邪魔をしてくれたわ。
ロイもロイじゃ!」
ガンと杯をテーブルに叩きつける。
「妾の目の届く所であれば生き返らせてやったものを」
「申し訳ありません。私が侵入者を逃したばかりに…」
「…良い」
「いつまでも嘆いていてはいけません。これからの我々の方針を立てなければ」
「そじゃな、邪竜が復活しリムルという新たな魔王が誕生した。その対策を考えねばならぬ。
奴らとの関係は今後のルベリオスの在り様を決めるだろう。忌憚のない意見を述べよ」
「はい」
「はい」
「心得ました」
ヒナタ、自分、ルイがそれぞれ返事をした。
ルイ、ヒナタとそれぞれ意見を言い、最後に私が。
「魔物の定義を設定すればどうでしょう。人間は、人間でない生物または生命体をまとめて魔物と認識しています」
「成る程、悪くない。奴らの存在を巧く回避できるように定義すればよいな。うむ、これも考えておこう」
私の提案に、それは良いかもしれぬ。と何度か頷いていた。
◇◇◇
会議が終わり、解散しようとしたら呼び止められた。
「チセイよ、この酒はなんじゃ? とても美味だ」
何かと思えばそんな話だったか。
「ああ、それはブランデーです。食事会でリムルが振る舞っていました。惜しかったですね」
「ほう、あの魔王が。確かに惜しいが、あのクソトカゲと同じ空間に居りたくなかったのでな」
出番が少ない、です。