SHIN KAMEN RIDER ~The Re:Build~ 作:フォレス・ノースウッド
呆気ない幕切れ:サソリオーグ
呆気ない幕切れ:サソリオーグ
秘密結社――《SHOCKER》のオーバーテクノロジーによって人間から怪人――《バッタオーグ》に改造(オーグメンテーション)され、人間一人が持つには強大過ぎる肉体(ちから)を背負う運命に放り込まれながらも、恩師の娘――緑川ルリ子とともに同朋同然のオーグメントたちから人間の命と自由を守るべく戦う決意をした青年。
本郷猛―――またの名を《仮面ライダー》。
彼がそんな十字架を背負ってから、一晩経ての翌朝、彼は《A.S.U》――《Anti. Shocker.Union》所有のセーフハウスにて、窓から差し込む朝陽を浴びながら、朝食の用意をしている。
《A.S.U》の構成員が人知れずSHOCKERとの闘いの日々の合間に、一時の寝泊まりに使う施設だけあり、キッチン設備もそれなりに充実しており、冷蔵庫の中も常に新鮮な食材を扱えるよう日頃から手入れも行き届いていた。
本郷は庫内に貯蔵されていた材料で、まだ起きてこないルリ子が食べる分のサンドイッチを数種類分作り終えてテーブルに置くと、先にコーヒーメーカーで淹れておいたコーヒーをポッドからカップに注ぎ、事務室の机に腰掛ける。
この窓を開けて朝の陽光と風を浴びながら粛々と淹れたてのコーヒーを口にして一服しながら心身を癒やす一連の流れは、彼がオーグメントになる以前からの習慣(モーニングルーティン)となっていた。
昨晩は自分らを監視していた同類(オーグメント)の視線の件も込みで、万が一襲撃されても即座に対処できるよう、一般的な睡眠は一切取らずに見張り続けていた。そもそも戦闘でオーグメントにとって文字通りの生命線たるエネルギー《プラーナ》を大量に消費しない限り、肉体はほぼ疲労と睡眠不足とは無縁な体質である。
とは言え本郷の精神は今でも人間であることに変わりなく、長時間闇夜の中で寝ないまま警戒し続けるのは難しく、幼少期から続けてきた武道の鍛錬で覚えた瞑想法を応用する加えて、机の上に置かれたペンと紙(ルーズリーフ)は、退屈対策と自分が置かれた状況の整理の為にここまで把握している諸々(緑川親子と他の構成員たちの相関図であったり、立花たちが提供した資料に載っていたオーグメントが引き起こした事件のリスト等)、そしてクモオーグ――マサの《プラーナ》に刻まれていた彼の記憶の断片を書き記していたり等してこの一晩をやり過ごしていた
「ふっ~~」
コーヒーの香りと朝焼けの空気(におい)を味わい、ようやくひと時ながら緊迫感から解放されて気持ちが安らいだ本郷の聴覚は、仮眠室でぐっすり眠っていたルリ子の息遣いの変化を聞き取る。擁護すれば、常人離れしたオーグメントの五感では特に感覚を研ぎすまずとも、並の壁では隔てにならない。彼の耳は、ここ数時間のルリ子の呼吸からレム睡眠とノンレム睡眠のサイクルを正確に捉える。
本郷の方からルリ子を起こす気はない。何せここ数日は実質《人工子宮》から生まれる前から所属していた組織(SHOCKER)を離反する計画を密かに進める綱渡りに明け暮れ、心休まる時間など皆無だったと本郷は容易く想像できた。
自分で〝私は常に用意周到なの〟と自信たっぷりに発言できるだけの技術能力を持ち合わせている彼女なら、決行日当日だった昨日の時点で計画が失敗し、緑川博士同様に、親子共々不穏分子として処刑され、文字通り水泡に帰してしまう可能性(けつまつ)は考慮していただろう。
幸いにも実際は最初の難関を生き抜けた……ことでやっと得られた平穏(すいみん)である、そんな貴重なひと時を本郷はどうしても奪いたくなかったので、ルリ子自身の肉体がもう十分休息が取れたから起きようと彼女の意識に働きかけるか、その前に立花(おやっさん)率いる《A.S.U》から次のオーグメント討伐依頼の連絡が来ない限りは、本郷はまだ少し朝の空気を味わいながら待つ気でいた。
それに本郷の明晰な頭脳は、立花が見せてくれたSHOCKERの極秘資料の内容を流し見した程度でその内容のほとんどを記録してあるので、脳内の本棚から取り出して再読して、ルリ子が起きるまでの暇つぶしに使えるくらい、それこそ〝朝飯前〟だった。
‶あの熊もSHOCKERの被害者だったとはな……〟
今から約十五年前、本郷が小学生低学年の頃に、異常に凶暴化した熊が人里に現れパニックになった事件が起きた。
資料にはその時期にSHOCKERが開発した人体強化用《ナノロボット》が漏洩し、一部の動物がそれらに感染してしまった事例も、例の熊がその感染者だったことも記載されていた。
本郷は実際にその事件に巻き込まれたわけではないが――。
〝おい本郷、これ見たか? すげえよな、熊をワンパンなんて〟
元より常人の生身では絶対に敵わぬ巨体と身体能力に、SHOCKERの技術と言うドーピングを受け凶暴化していたかの熊を、素手で撃退した成人男性の写真が当時のSNSを中心に出回って話題になっていたこともあり、本郷の記憶にも強く印象に残っていたのだ。
その男性はフルフェイスのバイクヘルメットを被って顔を隠しており、ライダーの正体は謎のまま時は過ぎ去っていったが、今の本郷ならば分かる――あのライダーもオーグメントであり、今は上級幹部に出世しているであろうと。
これは彼の直感や推測だけではない、他ならぬ証拠がクモオーグの記憶(プラーナ)にあったのだ。
「お、やっとお目覚めか……」
本郷はルリ子が起きたことを聞き取り、予め机上に用意しておいたコーヒーメーカーで彼女の分のコーヒーを淹れる。カップに淹れたてで煙をもくもくと上げるコーヒーを注いだ直後。
「おはよう……本郷くん」
良いタイミングで《A.S.U》から支給されてもらったジャージ姿のルリ子が、まだ残る眠気で重い目尻を擦りながら仮眠室から出てきた。
〝さすがに無防備過ぎないか?〟
真顔(ポーカーフェイス)で表情には出さずにいながらも、内心本郷は今の彼女の様相に冷や汗が流れそうな気分になる。
昨日会ったばかりの時点の、いかにも〝私、人は一切信用してないので〟と言わんばかりの澄まし顔と態度とは大分ギャップがあった(そうならざるを得ない組織の傘下で生きていたのだから無理ない話だが)。
多分当の本人は無自覚であろうし、下手に言及して相手の精神を揺さぶるなんて悪趣味をする気は本郷もなく、また彼女なりに自分を信頼していると言えるので悪い気もしなかった。
「おはよう、ブラックでよかったかな?」
心中の喜びを胸の奥に引っ込め、本郷はテーブルと向かい合うソファーに腰掛けたルリ子の前にコーヒーと差し出すと。
「ええ、朝食までありがと……いただきます」
ルリ子は寝ぼけ気味のまま、サンドイッチを漫画のコマ内ならパクパクと擬音が付きそうな感じで頬張り、口を微かにギリシャ文字のωっぽい形にして綻ばせた。
〝お口に合ったようで何より〟
自身を〝父のエゴの為の道具〟と揶揄し、食事など栄養補給の為の生理現象と、その口からは表向き冷徹な言葉を発しながらも、食事の醍醐味を堪能できるくらいの人間性(にんげんくささ)を良い意味で垣間見た本郷も、それを肴に朝のコーヒーを味わい尽くす。
「ごちそうさま」
再び合いの手をして朝食を終えたルリ子は、残っていた眠気も払われた様で表情を引き締め直し。
「《A.S.U》から新しい連絡は?」
今から聞いていると〝意識的に淡泊〟であろうと努めてる淡々とした口調で現況を尋ねてくる。
「まだ何もさ」
少し強引な話題の切り替えだと、本郷は自嘲しつつも。
「そう言えば僕が小学生の時、凶暴化した熊が人里で暴れまわって大騒ぎになった事件があったんだけど、あれもSHOCKERの仕業だったなんてな」
人体強化ナノロボットに感染した熊の件を切り出す。
「あの資料から読んでたのね」
ルリ子によると、例の熊は同じSHOCKERの技術で改造された同族同然の構成員のフェロモンに惹かれて、人を襲っていたとのこと。
「技術漏洩とは、あの組織も意外と詰めが甘いんだな」
「その点は異論無しだわ、私含めた構成員もあの熊に襲われかけたから」
よし、本郷はここで少し踏み込む。
「その襲われた一人ってもしかして、《サソリオーグ》」
「っ……そうよ、彼女のことは本郷くんもクモオーグの記憶(プラーナ)からご存知よね?」
「ああ、本名は《シオリ》さん」
クモオーグを倒した際に浴びたプラーナの残滓に刻まれていた彼の記憶から、断片的ながらサソリオーグの情報(ひととなり)を本郷は知っている。
本名は《シオリ》、かつてクモオーグと同じく組織の不穏分子を排除する掃除人を生業としていた構成員。
性格は……本郷の視点から控えめに言っても〝エキセントリック〟と言う表現が似合う性質だった。常に英語混じりの軽口を叩き、私服は時に下着も透けているものと露出の多い服ばかりを好んで着込んだりする等奔放過ぎる人柄。
「マサさんとの模擬戦で、ガチの殺し合いする奴がありますかって場面もあったな……」
「私は直接見たことは無いんだけど、どんな有様だったの?」
「聞かない方が良い」
目を泳がせながら苦笑いで誤魔化す本郷が見たマサ――クモオーグの記憶の中には、彼女とは真逆で真面目寄りの気質だった同僚同然の彼とのいわゆる犬猿の仲具合が幾度もあり、一応名目上はトレーニングの模擬戦に於いてもしょっちゅうガチの殺し合いに至る上、生粋のマゾヒストでもあったらしく、殺意をむき出しにしたマサの攻撃を敢えて嬉々として受けて、敢えて言うならエクスタシーの単語に相応しい表情をあられもなく露わにし、結果的に彼の神経を煽りまくる記憶(ばめん)すら度々見受けられた。
「残念、私が直に見たあの二人の漫才なんて、楽器ケースの件ぐらいだったから興味あったのに」
「っ!!」
吹いた。正確には吹かされて、ルリ子に一杯食わされた。
「あら?あのエピソードは本郷くんの笑いのツボにも効果覿面だったみたいね」
「これがマサさん当人だったら〝後で殺す〟と脅されてたぞルリ子くん」
もしコーヒーを口にしている最中なら間違いなく茶色のスプリンクラーを放射する羽目になるくらいの抱腹絶倒な一幕も、本郷は見てしまっている。
一時期SHOCKERは日本支部とアメリカ支部との間で内部抗争を起こしており、その折にジェット機で遠出する際、被る仮面もその内側の顔も目立つマサは出入国審査を潜り抜ける際の苦肉の策で、楽器ケースに収納された状態で搭乗する羽目になり(そう言えば日本の某車メーカー社長も似たような手段で国外逃亡してたな……と本郷は思い出した)。
〝も~~超傑作!!あの箱(なか)でクモくんがスースー息して引きこもってるとこ想像するだけでご飯三倍余裕よゆ~!!〟
〝戯言はそこまでです……それ以上笑うならその首へし折ってやりますよ〟
案の定《サソリオーグ》から、涙が号泣レベルで流れるくらい盛大に爆笑させられていた。彼女の語尾にネットスラングにおけるW(くさ)がボーボー生えていたのも明らかだ。
彼女とクモオーグも迷コンビっ振りの件はこの辺にして。
「ところで、今の《サソリオーグ》としての彼女の能力……猛毒があるとしてどれくらい危険なんだ?」
本郷が《サソリオーグ》のことで最も知りたい情報は、これから戦うことになる現在の彼女のオーグメントとしての性質(スペック)。
「私の知る限り、彼女が使う化学兵器はこの世に存在する毒の中で最も強力よ、プラーナシステムでも対応は困難……」
能力の一端を聞かされた本郷は、戦慄して息を呑んだ。
サソリと聞いた時点で毒を用いた攻撃手段は持っていると踏んでいたが、その脅威は本郷の想定を超えていた。
「無策で挑んで毒を貰えば、オーグメントと言えど致命傷か……掃除人が使う処刑道具としては申し分ないな」
「そういうこと」
しかし同時に納得もできた。元より組織を離反した裏切り者を排除する役目を担っている彼女に、相応しい能力だと認めるしかない。
もし昨日の逃亡時、組織上層部からの命令が〝生け捕り〟ではなく〝殺害〟だった場合、請け負うのはクモオーグではなくサソリオーグだったかもしれない。そうだった場合、最悪本郷も緑川親子も共々、彼女の毒によって粛清されていた結末は大いにあり得た。
「何か対策は?」
「バッタオーグ――いえ《仮面ライダー》ね、専用の防護服(スーツ)はサソリオーグの毒針を通さない様頑丈に作ってもらったし、一応私にも本郷くんの身体にも血清を打ち込んであるわ、ただ彼女は毒のアプデに日頃からご執心だから」
ルリ子たちは事前の対応策も講じてこそいたが、せっかくの血清もいざ戦闘になった際、下手すれば日毎に変異(アップデート)されていく猛毒を前に全くの無力で終わる可能性もあり得ると言うことを、本郷は思い知らされた直後――。
〝~~~♪〟
立花から支給された腕時計(つうしんき)からアラームが鳴り、受信した脳波(メッセージ)が彼らの脳に送られる。
「「えっ……」」
連絡を受けた二人は、見事にリアクションがシンクロして呆然と開かれた口と眼が閉ざせずにいる。
それぐらい二人を驚愕させた《A.S.U》からのメールの内容とは――。
〝サソリオーグは昨晩にて排除完了した、次の依頼は別途連絡する〟
――これから戦う筈だった相手が、既に倒されていたと言う事実と、呆気ない幕切れだった。
つづく。
前回から大分間が空いてしまいました( ̄▽ ̄;)
数ある原因の内の最大の一因が、サソリさんこと『サソリオーグ』、演じた長澤さんのスケジュール諸々でシン本郷さんと一切戦わずフェードアウトした一方、スピンオフの『真の安らぎ』では本編の扱いが余計勿体なくなるほどめっちゃキャラ掘り下げられているので、どうしようか~~と悩みに悩んだんですよね。
だって全然絡み無かったから、シン本郷さんからの黙とうすらさせてもらってないんですよ……。
とは言え映画本編の感じになるのはまだもう少し先になりそうなのでこうなりました。
Ifルートで直接こっちの本郷(1号)と直接戦う短編をいずれは書いて出したい(ドンダケサキノコトダ)