SHIN KAMEN RIDER ~The Re:Build~ 作:フォレス・ノースウッド
幕前 - Prologue
その日の空は、雲がほとんど流れぬ快晴の蒼穹だった。陽光を浴びる深い緑が生い茂る山々にて、蛇行状に走る道路(アスファルト)。
閑静な自然の空気を突き破る形で、その山道を激走する車両たちがいた。
先頭を走るのは、赤いラインが塗られた白を基調とするCB250Rをカスタムしたと思われるロードスポーツタイプのネイキッドバイク。
操縦している男は漆黒のトレンチコートを羽織り、襟元には真紅のマフラーが巻かれていた。
後部席には茶色のコートを着用し、赤いヘルメットを被った女性も同乗しており、男の胴体に腕を回し、繋げた両手を強く握りしめていた。
そんな二人を追いかける、『三栄土木(株)』と銘打たれた二台の大型ダンプカー。
どちらも入り組んだ山道の中で一二〇キロメートルは悠に超える猛スピードで爆走しており、それだけでも明らかに異様な光景だった。
さらに並走してバイクを追走するダンプカーの間には、蜘蛛の糸が張り巡らされており、その糸で前方の逃げる男女を捕まえんと迫る。
「〝風〟を受けて! 後は〝マスク〟を――」
男=ライダーはアクセルスロットルを回し、さらに速度を上げてダンプカーから振り切ろうとするが、その先に何台も積み上がり糸で絡め取られた同型のダンプカーたちが待ち伏せており、次の瞬間―――爆発を起こした。
宙を舞うダンプカーたちはそのまま道路に叩きつけられガラスと車体の部品を撒き散らし、内何台かは崖下へと転がって激しくのたうち回り。
今の爆発でバイクと、女性も道路の外へと放り出され、真下の森の中へと落ちていった。
女性は枯れ葉が敷き詰められた地面に叩きつけられる。明らかに即死確実な高さから落ちていながら、まだ息があり、目立った外傷も見受けられない。
それでも落下の衝撃で全身が痛み呻く彼女はその場からすぐに立ち上がろうとしたが、いつの間にかアサルトライフルや自動小銃を携えた警察のSAT――特殊部隊らしき隊員たちに取り囲まれていた。
正確には、警察に偽装した武装集団と言うべきか。隊員たちは迷彩服の二の腕に付けていたSATの腕章を外し、蜘蛛のエンブレムが露わになり、フェイスガードを上げると、そこには白に集中線が沿う異様な〝仮面〟があった。
謎の隊員たちは女性のヘルメットを強引に脱がし、ショートヘアで類希な美貌の主な彼女の顔を晒し出し、両手を拘束すると。
「裏切者に死を――」
この部隊を率いている……〝怪人〟とでも言い表せる風体をした男が、女性を見下ろしていた。
赤と黒のライダーズジャケットを着こむその男の頭部は、蜘蛛の全身像を象るガスマスクと一体になったヘルメットを被り、側頭部からは蜘蛛の脚の如きパーツがドレッドヘア状に四対垂れ下がっている。
「それが私の仕事です」
蜘蛛を模した〝怪人〟は、マスクの目を光らせ、自身を睨みつける女性に近づき。
「ですが、生け捕りで連れ戻せとの組織から命令を受けているので、今は二度と脱走させない為のお仕置きに留めておきます、では――」
怪人の指が狙う先は、女性の双眸、どうやら目つぶしをしようとしているらしい。
グローブ越しの親指が女性の瞳に狙いを定めた直後、怪人は突如その場から飛び退く。
次の瞬間、太陽を背に空から影が急降下し、怪人がいた地面に拳を叩き込まれた。
「バッタオーグッ!? 完成していたのですか!」
蜘蛛の怪人は、今自分に攻撃を仕掛けてきた者をそう呼称する。
その者は、女性をバイクに乗せ逃走していた男=ライダーだった。
先の爆発でトレンチコートは吹き飛ばされ、今まで隠されていた異様なる姿が現れていた。
全身には肩と肘と膝にプロテクターが付き、赤紫のラインが流れる
ライダーススーツ、胸部にはマジョーラに光沢煌めく至極色のアーマー、四肢には同色のグローブとブーツ、ヘルメットを被っていた頭部には、飛蝗を模したと思われる漆黒のマスクを被り、額から触覚(アンテナ)が伸び、二つの紅い複眼(ひとみ)が、妖しく光を灯され。
そして腰部には、中央に真紅の風車を携えた大型で楕円形のバックルが特徴的な、白銀のベルトが巻かれていた。
ライダーは女性を抱き上げてその場から飛び上がる、なんと五〇メートルを容易く超える跳躍力で宙を森の上を駆け抜け、着地した傍にそびえる樹木に女性を下ろして拘束具を手の力だけで強引に壊して外すと、程なく。
「さ、サイクロン……」
ライダーが乗っていたバイクが、ひとりでにこちらへと走って停車した。
「っ……今の僕なら、あの蜘蛛男たちと戦えるのか?」
「ええ」
「なら僕がなんとか奴らを引き付ける、サイクロン……だったな、この人をなるべく遠くへ」
《バッタオーグ》と呼ばれた仮面を被るライダーは《サイクロン》と呼んだ自立機能を有するバイクにそう話しかけると、ランプが点灯した。『了解した』と言いたいらしい。
ライダーは頷いて応じ、女性に背を向けて立ち上がると。
「トォォーーー!!」
自分たちに向かってくる仮面の武装集団を見据え、再び跳び上がった。
対する隊員らは銃器を構え、青空を舞うライダーへ躊躇いなく発砲。
乱射される銃弾の雨を掻い潜って宙返りするライダーは、落下の勢いを相乗して両腕から同時にパンチを繰り出し、隊員二人の仮面に直撃、血しぶきが上がった。
〝な、なんて力だ……こうも簡単に人を……〟
ライダー自身、隊員の顔をいとも簡単に叩き潰してしまった事実に、返り血を受けた複眼(かめん)の奥で、彼は驚愕と戦慄と動揺に苛まれ、マスクごと顔は震えを表しており。
〝戦え……戦え……戦え……死にたくなければ―――戦えッ!〟
その上、あの蜘蛛男から《バッタオーグ》と称されたこの異形の姿になってから、彼は肉体の全身に暴風が吹き荒れる感覚に襲われ、脳内は常に〝戦闘〟と〝敵の排除〟を強要する〝声〟が絶えず響き、アドレナリンが高まり、相手を完膚なきまで破壊尽してやりたい衝動が沸き上がっていた。
ライダーはこの本能の濁流に吞み込まれそうになる中、必死に己が理性と良心にしがみついて抗う。
この絶えず己が意識を侵食しようとする〝闘争本能〟に対し、いっそ一切の抵抗を止めた方が楽なのかもしれない。だが、もし流されるがままそうしてしまったら、その先にある一線(ボーダーライン)だけは、何がなんでも、たとえどれ程辛い思いをして苦しむことになろうとも、絶対に超えてはならないとライダーは直感的に悟り、内なる〝殺戮兵器〟からの猛々しくも甘美な誘惑に耐え、払い続けている一方で。
〝けど、僕が戦わなければ……彼女(あのひと)は〟
相対するこの武装した部隊からは仮面越しでも明確な殺意を発しており、残る隊員らは確実に自分を殺す気で銃器を発砲し続ける。
どうやら彼らにはライダーが抱える〝葛藤〟が一切消失しているらしい。
ライダーは察した。おそらく彼らは強固な洗脳を施されており、自身の生命活動が停止するまで攻撃は止めない、永遠に止まらないのだと。
〝これであなたは自由、ここを出たければ、私と一緒に来て〟
自分も、この首に赤い〝マフラー〟を巻きながらそう呟いたあの女性に助けてもらわなければ、彼らと同類になっていたのだと。
〝やるしか――ないんだッ!〟
意を決したライダーは、弾丸を発し続ける部隊へと肉薄する。
〝見える――動きが見えるッ!?〟
ライダーの視界からは、ライフルや自動小銃の乱射はスローモーション処理されたが如く遅く、回りながら突き進む弾丸の形状はおろか、突き破られる空気さえ手に取る様に捉えられた。
しかもこの防護服(ライダースーツ)の内に隠されている〝変異(へんしん)〟した肉体は、この超人的な動体視力に見合うだけの人間技ではない驚異的な身体能力(みのこなし)を有している。
加えてこのスーツ、今の彼の体格にぴったりと合わせたサイズでありながら、ほぼ一糸纏わぬ状態と錯覚させられるくらい可動域が高く、これを着てから、ほとんど空気抵抗を感じさせない。どうやらスーツ全体が、アイススケートの競技服や新幹線のパンタグラフで使われるものよりも遥かに優れた空気抵抗軽減機能も備えているようだ。
ライダー自身の身体性と、纏うスーツの性質が合わさり、彼からはからは見れば弾幕は子どもが投げるボールも同然に容易く回避できていた。
その卓越した脚力と跳躍力で部隊の隊列を乱し、敢えて渦中に飛び込む。四方八方を取り囲まれる位置に立ったが、こうしたことで隊員たちは誤射(フレンドリファイア)の懸念から一転、発砲に躊躇を見せた。
〝今しかないッ!〟
殺害を実行する罪悪感を心中の奥底に封じて、ライダーは攻勢に出た。
彼の四肢から繰り出す攻撃を前に、彼らは対応できるだけの能力を持っていないのだろう。
防御も回避もままならぬまま、彼が打ち込む正拳突き、手刀(チョップ)、前蹴り、飛び膝蹴り、回し蹴り、投げ技で地面に倒されてからのパンチ―――等々の苛烈な攻撃の数々で、その場にいた隊員全員はそれぞれたった一撃受けただけで、盛大に血を迸らせて圧死させられていった。
〝あの蜘蛛男はどこだ?〟
ライダーは構えを取ったまま、部隊のリーダーであり彼を《バッタオーグ》と呼んでいた怪人からの攻撃に備えるも、周囲は静寂さを取り戻していた。仮面の隊員たちの死体が散らばり、草木は鮮血を浴びて、大地には血だまりが幾つもできていることを除いて。
ライダーは血が染みついた手(グローブ)を目にして震えを見せるも、彼の脳裏に地図(ビジョン)が浮かび上がる。
正直ライダー――名を《本郷猛》と呼ぶ青年は、今自分が置かれた状況をまだ把握し切れずにいるのだが、あの意思を持ったカスタムバイク《サイクロン》から送られてきた情報を下に、女性がいる集合場所へと走り出す――前に、亡骸たちを前にほんの数秒、黙とうを捧げると、その場を後にした。
程なく、隊員――戦闘員たちの亡骸は泡に包まれ、身に着けていた防護服もヘルメットも仮面共々、肉体が消え去っていった。
いざ書いてみると、元の庵野さんの脚本って行間の隙間が多いから意識しなくともかなり小説に落とし込む過程で改変不可避だな~~と思いながら書いてました。