SHIN KAMEN RIDER ~The Re:Build~ 作:フォレス・ノースウッド
ダムの頂上での戦闘シーンでは、ドキュメンタリーであったけど本編ではカットされた長回しのカットも参考にしました。
池松さんの鬼気迫るアクションと、酸欠になって倒れるほどに消耗したクモさん演じるスーツアクターさんの名演が印象的だった為にカットされたのがもったいなかったので、せめてもと。
しかし現在の小河内ダムって事務所も駐在所の観光施設もあるのに、シン本編での人気の無さはどうなってたんでしょうね。
バッタのマスクを被ってジャケット着た男なんて立ってたら目立つどころじゃない(オイ
「Amazing――」
《バッタオーグ》に変身した本郷とサイクロン号の、獅子奮迅の勢いでSHOCKER下級構成員の追撃部隊を退けた奮戦振りを〝観測〟している者がいた。
「――オーグメントとなったばかりの身で、あれ程の性能を発揮するとは、さすが緑川博士が選定しただけはありますね、本郷猛君」
物陰から眺めているその者は、流暢を通り越して正確が過ぎるイントネーションなネイティブ英語で『素晴らしい』と最初に発し、本郷猛――《バッタオーグ》の驚異的な戦闘能力の高さを評価するのであった。
本郷が駆るサイクロンは、普段絶対に人が足を踏み入れることのない深き森の道無き道を走り抜け、六連マフラーから野太い排気音を響かせてジャンプ。
跳躍した先には、湖に沿って舗装されたアスファルトがあり、そこに降り立った。
周囲の景観から、本郷は眼前の湖が奥多摩湖で、東京小河内ダムのすぐ傍のエリアだと確認し、サイクロンを停車させる。
愛機の高周波(ソナー)機能で、《クモオーグ》とルリ子が乗るアコード含めた《SHOCKER》構成員たちの車両は、必ずこの区域を通ると見抜き、追撃部隊を振り切って先回りしてきたのだ。
サイクロンのエンジン音が鎮まると、不気味な静寂がダム近辺に広がっている。今日は平日だったとは言え、近くにはダムの管理事務所、駐在所、東京都水道局が運営している観光博物館と施設が点在していると言うのに、強化された本郷――《バッタオーグ》の超感覚を以てして道路上を歩いていても、民間人の気配を全く感じ取れない。
遮る雲もなく陽光を放つ青空に、穏やかな湖の水流と、道路に散らばった無数の木の葉を滑らせ宙に舞わせる風は、却ってこの場の異質さを際立たせた。
SHOCKERほどの組織ならば、人知れず人払いをするなど、造作もないと言うことか。
「ある意味、ありがたくもあるな」
一方でこれよりルリ子を救出する為に怪人(オーグメント)たちと交戦する気でいる本郷からすれば、民間人が巻き込まれるリスクを懸念する必要がない分こちらにとって好都合と、安堵の息を零しながらも。
「(もうすぐ来るよ)」
「ああ」
本郷の聴覚は、丁度こちらに向かう形で走っている車両のエンジン音を漏らさず聞き取り、左手を右手首に握った状態でスナップさせる。これは本郷が集中力を高める時に使う彼流のルーティンだ。
続いて本郷の視覚は、ナンバープレートに『多摩5、に、54-10』と銘打たれたアコードのフロントフェイスを捉え、車内にて運転する下級構成員と、後部席で眠るルリ子と、脚を組んで腰かけるクモオーグの姿をばっちり捉えた。後続する形で、アコードの背後には四トンクラスの中型トラックも追走している。
車両を真っ向から見据えたまま、本郷は風の勢いが強まり始めたアスファルトの上を、悠然と歩き出す。
「やっと気づいたか」
ルリ子が目を覚まさないか様子を窺っていたクモオーグは、ようやく本郷の視線に感付き、車内のガラス越しにこちらへ緑色に光る複眼を向けてきた。
互いの相対距離が五〇メートルを切ったところで車両は止まり、本郷も脚を止める。
後部席のドアから、クモオーグが降車した。
「さすが緑川の最高傑作、私の部隊を一蹴するだけでなく先回りもするとは、貴方の能力を見誤っていました、この場をお借りしてお詫び申し上げます」
明確に戦意を発する本郷へ頭を下げるクモオーグ、先程彼を〝オーグ仲間〟と称した辺り、組織の離反者でも同じオーグメントならば一定の敬意は示してくれるらしい。
「その上で私から提案があるのですが、緑川ルリ子を連れ戻す手伝いをしてもらえますか? そうすれば貴方の脱走の罪を帳消しにして、偉大なるSHOCKERの同士として迎え入れましょう」
「謹んで辞退させていただきます」
本郷は相手の提案に対し、丁寧ながらも端的に拒否の意を突きつけ。
「さっそく交渉決裂ですか……残念でなりません」
本郷が〝同士〟となってくれない事実に、クモオーグは心底から口惜しがる様子で溜息を吐いた。
「ルリ子くんも、返してもらう」
「裏切者とは言え彼女は組織の所有物です、貴方のものではありません……バッタオーグ」
「僕をそう呼びたければ好きにしろ」
本郷は左手をベルトの上に添え、右腕を斜め上に突き出し構えを取ると。
「だが僕は敢えて、こう名乗ろう――」
〝昔からバイク乗り、ライダーの必需品よ、それに―――ヒーローと言えば、赤なんでしょ?〟
ユリ子にこのマフラーを巻いてもらった瞬間と、廃屋での彼女の言葉を思い返す本郷は、流れる風で真紅の布が翻る中。
「ライダー―――〝仮面ライダー〟と」
SHOCKERから与えられた力で、SHOCKERと戦う運命と、臆することなく立ち向かう確たる意志とともに、本郷は今の己が姿の新たな名――《仮面ライダー》を、高らかに名乗り上げる。
その時、ライダーの意志に呼応したのか、マスク後頭部にあるSHOCKERの鷲が消え、《ブーストフォーム》のサイクロンのカウルにも刻まれたものと同じ飛蝗の紋章(エンブレム)へと成り代わった。
「かめん、らいだー……ですと?」
クモオーグは本郷――《仮面ライダー》の宣言に対し、露骨に慇懃無礼な態度であざ笑う。
「そのような改名をしたところで、貴方がオーグメントであり、SHOCKERより生まれ出でた存在である事実は覆りませんよ」
マスクで素顔が隠されていても破顔していると分かるほど、あからさまに笑い声を上げてライダーの表明を皮肉で返すクモオーグ。
「〝オーグ仲間〟を殺さねばならないのは遺憾ですが、古来より飛蝗は災いの象徴でもありますし」
それは言えてるな――と、バッタを揶揄するクモオーグの発言に内心同意するライダー。
旧約聖書二番目の書《出エジプト記》によれば、古代エジプトに唯一神が行った《十の災い》の内に、群生相に変異したバッタを解き放つ災害があった。
体色が漆黒に変色した大量のバッタの群れの襲来で、暗闇に覆われると表されるくらい地面が見えなくなり、エジプトの土地全ての草木が食いつくされてしまったと言う。
現実でも群生相のバッタたちが引き起こす《蝗害》で、作物を食い荒らして飢饉を招く事態は、現代までに世界各地で何度も起きてきた。
「貴方が不穏分子に相変異するのであれば仕方ありません、ここで始末しておきます」
クモオーグの仮面の奥から笑みが消え、彼は仮面ライダーに殺意の刃をむき出しにして向ける。
「邪魔者に〝死〟を――それが私の仕事ですので」
クモオーグのマスクの額部分に描かれた蜘蛛の眼(ランプ)二つが点灯し、それが開戦の合図となった。
アコードに随伴していた中型トラックのコンテナ上部が開くと、黒衣のスーツを着た戦闘員たち合計十人が飛び出し、ライダーの周囲に円を描いて取り囲む。彼らの手には長柄の電磁槍が携えられ、矛先をこちらに向け構えていた。
〝今さら戦闘員とは、いやらしい手だ〟
簡易的な強化(オーグメンテーション)しか施されていない下級構成員では、いくら束になっても上級オーグメントでもあるライダー相手には戦闘にすらならないのは、クモオーグとて把握している筈。
なのにこの期に及んで戦闘員を送り込むのは、彼らと違って洗脳措置を受けていないライダーの良心を揺さぶらせる、陰湿な嫌がらせとしか言いようのない。
戦闘員たちは四方八方からその手に持つ電磁槍をほぼ同時に、されど微妙に時間差をつけてライダーに刺突を仕掛けてくる。
正確な連携攻撃ではあったが、ライダーの反応速度からすればやはり遅すぎた。
電流を帯びた穂先の連撃を最小限の体捌きで掻い潜り、内一人を肘打ちで突き飛ばし、次の一人をアッパーで宙に打ち上げる。
続いてその場をしゃがみ込み残る戦闘員の攻撃を回避すると、そのまま足払いで連中の態勢を崩すと跳び上がり、同時に連続で前蹴りを打ち込み三人を蹴り飛ばした。
一人が持っていた電磁槍が宙を舞い、ライダーは好機とそれを奪い取って降り立つと、棒術を駆使して振り回し、遠心力と電流を相乗させた打撃を戦闘員たちの顔面に叩きつけ、次々と昏倒させる。
残る戦闘員は、黒いスーツの内の服が赤い指揮官クラスと思わしき一人だけ、相手は懐から電磁棒を取り出しライダーへ突撃。
小回りの利く得物に長柄では不利と電磁槍を捨て去り、ライダーは戦闘員の突きを躱し、電流迸る電磁棒を掴んで強奪、胴体に膝蹴り、背部に手刀を食らわせ、失神させた。
「手心を加えるとは……先程披露してくれた見事な流血(スプラッター)を期待していたのですがね」
戦闘員が無力化される様を静観していたクモオーグは落胆を表す。
つい数刻前のSATに偽装した戦闘員を相手にした時は、その有り余るパワーと、生存本能と闘争心を煽り、増幅させる仮面(マスク)の機能に振り舞わされ、部隊全員を殴り殺し、鮮血を盛大にぶちまけていたライダーだったが、短時間の実戦経験を経て、今回は戦闘員を殺さず行動不能にできるまでに己の戦闘能力を制御するまでに至っていた。
手加減を嗤うクモオーグへ、ライダーは奪った電磁棒を投げつけ、相手は手で軽く打ち払う。
「あんたとの本戦を控えているんだ、加減ぐらいはさせてもらいたいものだな」
ライダーとクモオーグ、一対一で睨み合う両者。
「なるほど、私との戦闘行為をご所望なら、邪魔な戦闘員(てごま)は消えてもらいましょう」
「何?」
構えて臨戦態勢を見せるライダーに対し、クモオーグは片手を後ろに据えたまま、もう片手で指を鳴らして額のランプを灯すと、意識を喪失しているが生存はしていた戦闘員全てが泡に覆い尽くされ、緑川博士の亡骸同様、消失してしまった。
「彼らもあんたの言う同士ではなかったのか?」
心中に湧く怒りを秘め、淡々とした声音で部下である筈の戦闘員を自ら切り捨てたクモオーグにライダーは是非を問い。
「所詮戦闘員は我々オーグメントの意のままにしか動けぬ捨て駒でしかありません、代わりとなる人間なら、いくらでも調達できますからね」
クモオーグの返答が意味するものは、組織内では下級の位の戦闘員は、適当に拉致した一般人(にんげん)たちに簡易的強化と洗脳で拵えた〝消耗品〟でしかない―――のだとライダーは悟らされる。
「そこまで〝人間〟が憎いのか? クモオーグ……」
「ご明察、大嫌いですよ……反吐が出るくらい」
ライダーはクモオーグの口から出た〝人間〟の一言に宿る底知れぬ憎悪を感じ取り追及すると、相手は即答し。
「その嫌いな人間を捨てた我らオーグメントの為に、人間をこの手で殺す……それが私の幸福!」
――なのだと断言すると、口から高所へめがけ糸を放射して掴み、ワイヤー移動、ライダーも持前の跳躍力で追いかけ、両者の戦いの場は多目的ダムの天端にそびえる通路へと移された。
しばし複眼越しに互いを睨み合う《仮面ライダー》と《クモオーグ》………僅かな静寂から一転、両者は対峙したまま疾走。
先手はライダー、距離を詰め膝蹴りと拳打を繰り出すが、クモオーグは軽やかなステップで避け、蜘蛛よろしく四つん這いの体勢で後退、ライダーはじわじわと歩み寄り、振り上げた拳をハンマーの如く振り下ろすが、相手は連続後方倒立回転跳びでやり過ごす。
「さすがですね、その近接戦闘能力」
相対距離が開いた両者は再び、静謐な束の間の対峙で歩を止めぬまま佇み……クモオーグは挑発と牽制を兼ねてアクロバティックな倒立と回転技を見せ、ライダーもフェイントを交えながら相手の隙を窺い、攻撃を仕掛ける。
「ですが、当たらなければ、どうということはございません」
クモオーグの口の減らない挑発に、ライダーは熱くなるな、マスクの機能頼みでやり合える相手ではないと、己を戒め、律していた。
相手は長年、組織の不穏分子を排除してきた処刑人である。
その中には、奴自身曰く〝オーグ仲間〟とも殺し合った経験も少なからずあっただろう。
《オーグメント》の肉体を持つ身としてはまだ初日の初陣でまだアマチュア同然のライダーと逆に、相手は対オーグメント戦にも長けているプロにも等しい。
奴の熟達した曲芸の隙を突くのに最も効果的な機会は、やはり糸を発する瞬間、ライダーは戦闘を継続しつつも、クモオーグが巣(ネット)を射出した時の記憶を反芻する。
そうだ……ほんの一瞬だが、糸が発射される直前、奴の仮面(マスク)の口腔部にあるガスの吸収缶(キャニスター)にも、釣竿のリールにも見える部分が回転していた。
ライダーは敢えて挑発に乗った振りをして、わざと殺気立って大振りな攻撃に切り替える。
「おっと、そんなゴリ押しでは当たるものも余計当たりませんよ」
クモオーグは慇懃無礼な嘲笑で焚き付け、のらりくらりとライダーの連撃を躱し続け。
「それとも、人間ではないオーグメントの肉体を振るうのが楽しくなってきましたか?」
「………っ」
ライダーは応えない。
「沈黙は肯定と受け取りましょう、貴方も―――人間を殺す幸福(よろこび)の味を、知りましたね」
丁度の背後に塔屋がある位置に立ったクモオーグは、ライダーの足払いを避けると同時に壁面を走って彼の頭上を飛び、背後を取って〝糸〟を吐こうとするが。
〝そこだ〟
奴の攻めを看破していたライダーは右腕を翳す。彼のスーツ内の前腕に生えている毛爪は立ち上がり、スーツのナノマシンも爪に沿ってコーティングされていた。先程ヘリを撃墜した際も、この能力を用いたものだ。
《スパインカッター》
クモオーグへ突貫しながら、腕の爪から発する高周波でこちらを拘束しようとした糸を破砕し、裏拳の軌道で相手の顔面(マスク)を打ち上げる。
「がっ!」
緑の複眼の視界から自分の姿が逸れた刹那を見逃さず、ライダーは左手でクモオーグの左腕を捕縛。
《ハイバイブネイル》
グローブの指先からも、高周波振動する爪を露出させ、強く握り込むとともに爪の刃はクモオーグの表皮をスーツごと抉り、右手より連続でマスクに正拳(ストレートパンチ)に肘当て。
「悪いが僕は、それを幸せとは思わんッ!」
さらに上段のバックキックから、左足を軸に一回転してから踵より蹴りつけるハイキックがマスク口腔部に直撃。
クモオーグはライダーの猛攻に、どうにか二足で立つ体勢を維持しながらも、呻き声を上げてよろめいて後退した。
「良いですね、この打撃力、まさか我が仮面に傷つける程とは……」
ライダーの連撃に耐えきれず、クモオーグのマスクの口腔部に亀裂が入り、ぽろぽろとパーツは零れ落ちていく。口より糸を正確に発する機能が不能となったことで、隠されていた奴の口周りが露出された。
自身の攻撃で晒されたクモオーグの容貌の一部を目の当たりにして、ライダーは内心戸惑う。
自分と同じ痣が走る口周りは、酷く焼け爛れていた……しかも火で炙られたものではなく、おそらく硫酸と言った化学薬品の仕業。
〝まさか、自分から焼いたのか?〟
「既に人間ではない貴方と分かり合えないのは――」
相手の発言の数々から推察して、クモオーグの顔は奴自身が焼いた可能性に行きつき、ライダーの背筋に寒気が走った最中。
「――残念です!」
クモオーグの両腕がスーツを破り捨て伸長され、ライダーの両手を鷲掴み、緑川博士の殺害に用いた胸部の隠し腕も同様にリーチが伸びて彼の両脚を捕縛、さらには背中からも隠し腕を見せつけ、双方の指先から糸を射出してライダーの首を分厚く巻き付けた。
蜘蛛ならでは八本脚の内、二足を除いたクモオーグの六本脚で動きを封じられるライダーは、奴の腕の表皮が蜘蛛そのものである黒い体毛と皮膚になっていると気づき。
「見て下さい!この人で無き我が肉体と圧倒的な殺傷能力をッ!人外である喜びを!」
ライダーの四肢と首を絞めつける力を強めて、クモオーグは緑川博士を殺害した時と同等以上に快楽に満ちた声音で自らの能力を見せびらかし。
「裏切者の貴方とて同じオーグメントッ!なのに――この幸福(しあわせ)をなぜ理解できないのですかッ!?」
同類(オーグメント)でありながら、自身と、SHOCKERに抗おうとする《仮面ライダー》の意志を理解できずに嘆き、己が〝幸福論〟を彼に押し付けていた。
「それが、アンタが心から感じる幸せなら、好きにするがいい――」
対するライダーは、クモオーグの論じる幸福そのものには一定の理解を示しながらも、彼の意志に応じベルトの風車(ダイナモ)が赤く輝き回転、スーツ全体に流れる《ブラッドストリーム》と背部の羽根模様が発光し、出力を増大させ。
「だがな――僕はアンタの快楽の生贄に――なる気もないッ!」
両腕の《スパインカッター》と、踵から放出し、ブーツのナノマシンでコーティングされた《ヒールクロー》からの高周波を帯びた刃でクモオーグの腕たちの内四本を引き千切り。
《ボイスクラッシャー》
牙(クラッシャー)からも高周波付きの音波の刃を放射して首の捕縛を解き、間髪入れずに糸を掴み取ってクモオーグの全身ごと手繰り寄せ。
《ライダーパンチ》
クモオーグの鳩尾に撃ちつけたパンチで奴の意識を一瞬ながらも飛ばし、その隙に高々と持ち上げ。
《ライダースイングハリケーン》
周囲の風を操作して、クモオーグを空高く投げ上げた。
〝しまりましたッ!〟
投擲と同時にライダーが大気中のプラーナを操り発生させられた局地的竜巻を前に、クモオーグは自身にとって圧倒的に不利な状況に追い込まれ、逃れる術がないことを突きつけられる。
「はぁ……」
呼吸を整えるライダーは、その場で日本刀を鞘から抜いて斬る――抜刀術の構え、居合腰に身構える。
彼の集中力が高められると足下に、《プラーナ》で形作られた飛蝗の翼が一対現出し、三対の六枚へ広がると、螺旋状に両足に集束。
《ライダージャンプ》
「トオォォォォーーーーッ!」
屈んで曲げたと足をバネに、両腕を頭上に振り上げて垂直に大跳躍。
背面からもプラーナの翼を羽ばたかせ、嵐で宙を舞い踊らされているクモオーグよりも上空の虚空まで到達して滞空すると。
《ライダーキック》
右足を突き出し、翼から放出する推進力に乗ってクモオーグめがけ射線上に急降下、文字通り〝必殺〟の域にまで達する渾身のキックが、奴の胴体に命中。
諸に直撃を貰い受けたクモオーグは、ダム下の地上にまで真っ逆さまに墜落し、何度かバウントでのたうち回り、力なくひれ伏された。
ライダーは翼の滑空で、クモオーグが倒れ込む地に降り立つ。
まだ反撃が来る可能性を踏まえて、無形の位の体勢で警戒を続けたまま相手を見つめていると、クモオーグのマスク全体がひび割れ、砕け散り、焼け爛れながらも元の端整な作りが残る彼の顔が、完全に露わとなった。
「イチロー……くん」
虚ろな瞳を見せ、《ライダーキック》のダメージで吐血した口からそう一言、微かな声で呟くと、クモオーグだった彼の肉体も泡に包まれ、閃光の如く飛び散っていった。
四散する泡の一部を身に浴びた《仮面ライダー》――本郷の脳裏に、突如記憶(ビジョン)が断片的に投影され、彼はマスク越しに頭部に触れる。
〝プラーナに宿った……この人の記憶か〟
本郷(ライダー)は今の現象の正体を感付くと、その記憶(えいぞう)に出てきた少年に見覚えがあった。
そう……城南大学の緑川博士の研究室のデスクに置いてあった家族写真。
ライダーの首に纏っているのと同じ赤いマフラーを巻き、バイクに跨る若き博士と奥さんと一緒に、笑顔で写っていたあの男の子に間違いなかった。
最後に呟いた〝イチロー〟と言う名も、その少年のものであろう。
「何が〝人間が嫌い〟だ……」
彼の記憶には、純白のマフラーを巻くイチロー少年との交流の日々も、確かに存在しており。
「貴方にもいたんじゃないか……愛情を抱けるくらいの、大事な人が……」
それを切り捨ててまで〝人間を殺す幸福〟に至ってしまった彼の境遇に対し、やりきれぬ思いで胸が締め付けられる《仮面ライダー》は、ベルトの右上部のスイッチを押し、プラーナを排出して肉体を《バッタオーグ》から人間の姿へと戻り、ヘルメットを外して。
「っ……」
本郷は背筋を正して目を閉じ、怪人となってしまった〝彼〟へ、せめてもの黙祷を捧げるのであった。
「あれ?」
瞼を開き直して、最初に瞳に映ったのは、仮面(マスク)の後頭部に起きた変化。
紋章がSHOCKERの鷲から、サイクロンに刻まれたのと同じエンブレムとなり、《SHOCKER》と《BATTA-AUG》の文字も消えており。
《MASKED RIDER》
と銘打たれていた。ちなみに《BAA-01》の型式番号は残っていた。
「〝君〟も、僕を《仮面ライダー》と呼んでくれるのか」
怪人(オーグメント)とは言え、元は人間である相手を殺めた胸の奥の疼きがまだ残りながらも、本郷はマスクの粋な計らいに対し。
「ありがとう、今後ともよろしく」
これで二度目となる、額とマスクを密着させ、お礼を口にした。
「(たけし~~)」
直後にて、サイクロンの脳波(こえ)が近づくエンジン音とセットで響いてきて、自立行動できる愛機が駆け寄ってくる。
「サイクロン、おつかれさま」
本郷はサイクロンのシートを撫でて、相棒の健闘を労う。
愛機もライトの点滅で喜びを表現した。
「さてと……」
本郷はマスクを被り直し、万が一SHOCKERの次なる追手が来る可能性も踏まえ、《ライダースーツ》のままサイクロンに乗り、まだ眠っている筈であろうルリ子の下に急ぐ。
アコードが放置された地点に辿り着いて後部席を開くと、案の定と言うべきか、まだルリ子は夢の世界の中にいたままだった。
〝まあ、もうひと眠りくらいさせておこう〟
本郷はそっとルリ子の身体を抱き上げ、その場から歩き出す。
そしてこの日、人知れず一人の〝ヒーロー〟が、誕生したのであった。
――――
本郷猛―――仮面ライダーはルリ子を救い出せたが、彼女の父であり彼の恩師である緑川博士はSHOCKERの魔の手にかかり命を落とした。
そして、SHOCKERの恐るべき怪人(オーグメント)たちもまた、待ち受けている。
戦いはまだ、始まったばかりなのだ。
行け!仮面ライダー! 人類の命と自由を守るために!
つづく。
プラーナを通じて記憶を読み取る描写は、スピンオフ漫画の『真の安らぎはこの世になく』でも描かれております。
――なんてスピンオフとのリンクはさておき、本家シン同様『レッツゴー‼ライダーキック』の一番の歌詞そのものを物語に落とし込んだクモオーグ編でした!