SHIN KAMEN RIDER ~The Re:Build~ 作:フォレス・ノースウッド
今回コウモリオーグおじさんのアジトに乗り込むのですが、映画だと『え?あんな目立つホールが隠れ家(アジト)?』とツッコミたくなりましたよね。
なのでこっちではアジトの設定は大幅に変えました(コラ
クウガみたいに移動パートを逐一入れてますが、まあぶっちゃけクウガの影響諸受けです(苦笑
今回は新・仮面ライダーspiritsの1巻でのおやっさんと滝さんのあるやり取りを盛り込んでます。
ちなみに、実はルリ子を乗せてのバイクシーンな場面って、そこまで多くないんですよねシンカメ。
ちゃんとあるにはあるんだけど大抵切羽詰まった状況だったり、次のオーグメントがいる目的地までバイクで行ったのは分かるけど省略されてたり。
せっかくロードムービーものなんだから、バイクに乗りながらの会話も入れちゃえ。
やっぱライダーなんだから非戦闘パートでもたっぷりバイクに乗せたいですもん( ̄ー ̄)ニヤリ
「アジトって、どこにあるんですか立花(おやっ)さん?」
「それなら」
城南大学近所の喫茶店《Café Amigo》の店長兼、日本政府公認の対SHOCKER組織《A.S.U》の司令官(キャップ)でもある立花籐治からコウモリオーグの討伐依頼を了承した本郷たちは、既に特定済みと言うかのオーグメントが隠れ住むアジトの場所を問うと、立花はビジネスケースからもう一枚、少し黄土色がかった用紙を取り出し。
「これは紙もインクも特殊仕様だ、コピー不可でカメラにも写らない」
機密保持対策もばっちり施されていると付け加えた上で、テーブルに置いた用紙を二人に見せる。
「樹海ね」
紙面には富士山の北西側にある青木ヶ原樹海の衛星写真が印刷されており、アジトの場所と思われる箇所には、円(マーク)が付けられていた。
「コウモリ小父(おじ)さんらしい隠れ家だこと」
「おじさん?」
「私なりのジョークよ、ちょっと《A.S.U》が使える装備を一通り記録しておきたいから、専用端末を貸してもらえるかしら?」
「よかろう」
そう本郷に返して地図を見つめるルリ子は、立花が机上に置いたノートパソコンに手で触れると。
「その目……」
彼女のやや青みがかっている瞳が、青白く光り出した。
「本郷くんはルリ子嬢の出生の件はご存知かね?」
「本人から聞いてます」
「彼女はいわば、〝生体電算機〟とも言える能力を付与されていてね」
創作でよくある目で見たものを全て記憶して絶対に忘れないは無論、触れるだけで対象のコンピュータ機器から情報(データ)を脳へ直接インプットすることもできるらしく、その能力を行使中はこうして虹彩が光るとのこと。
〝それで真っ先に目つぶししようとしてたわけか〟
本郷はSATに偽装した下級構成員を連れたクモオーグが、ルリ子を捕らえた際に両目を潰そうとしたのは、彼の人間への加虐嗜好に加え、彼女の〝切札〟を封じる戦略的な意図も含まれていたのだと見い出した。
「それともう一つ、彼女に備わっている機能がある、博士はそれを《パリハライズ》と呼んでいた」
「《パリハライズ》?」
オウム返しでその単語を口にする本郷。
「端的に言えば、精神に仕掛けるハッキングだそうだ」
「なるほど、大体分かった」
その端折った立花の説明で、本郷は充分理解し。
「おしゃべりなバカ父……」
ルリ子当人の口から、本郷も今日の時点で何度も聞かされた緑川博士への嫌味罵詈雑言が再び零れ落ちると、彼女はこのセーフハウスに向かう前と同様にサイクロンへアジト周辺の地図情報(マップデータ)を転送させ。
「帽子(マスク)を貸して」
「ああ」
ニット帽に擬態中の仮面(ヘルメット)にも、同様にデータを送る。
「本郷くんはサイクロン号と一緒に、先に外で待っててくれるかしら」
「分かった、行こうサイクロン」
「(うん)」
コウモリオーグのアジト乗り込みの為に《A.S.G》から装備諸々の調達依頼と言った用意周到(まえじゅんび)だと本郷は把握していたので、サイクロンを連れてセーフハウスのリビングから退室した。
セキュリティ以外は無味乾燥なセーフハウスの外を出ると、山の斜面に建てられた住宅街の中だけあり、晴天の下、風通しのいい空気とそこに漂う《プラーナ》を全身に浴びて、両腕と背筋をめいっぱい伸ばし。
「霞にも、ちゃんと味がするんだな~~美味しい」
〝霞を食って生きる仙人〟も同然な体質(オーグメント)の身体で腕を伸ばして本郷は深呼吸すると、ルリ子の準備ができるまでの間、サイクロンと家の裏手で待つことにした。
裏手側の近辺には、微かな小波も滅多に立たない池がぽつりと立ち、その向こうには森の木々が広がっている。
これからまた戦闘が待っているからこそ、暫く自然を眺めて心落ち着かせていたいところだが、こちらもこちらで、できる前準備はしておかなければ――と。
「サイクロンの光学迷彩の範囲は広げられるか?」
「(これくらいの距離なら、猛ごと隠せるよ)」
サイクロンが脳波で本郷の脳に直接そう伝えると、一瞬周辺の空間が歪んだ。
今彼は愛機ともども、光学迷彩のベールの内側にいて、一般人からは一切視認されないので、本郷はニット帽を手に取り、堂々と本来の姿たる飛蝗顔(ライダー)の仮面に戻すと、首から下は私服姿のまま被り直す。
本郷の視界は一瞬の漆黒を経て、現在のハリウッド大作映画や最新のテレビゲーム機すら凌いでそうなくらい精巧なCGで作成された青木ヶ原樹海一帯を俯瞰から捉えた立体地図が映し出された。
「すごっ」
昔初めてVRゴーグルを装着した時に受けた衝撃の記憶が思い出されながらも、本郷はタッチパネル操作の要領で指を動かし、ルリ子の能力でマスクに転送されたコウモリオーグのアジト周辺の情報を確認する。
一通り立体地図を見終えた直後、脳波通信機能付腕時計からアラームが鳴り。
〝準備ができたわ、玄関に来て〟
本郷の脳にもルリ子からの脳波(メッセージ)が届き、彼はマスクを被ったままシステムヘルメットへ変形させ、サイクロンに跨り、光学迷彩を解除と同時にその場から徐行で発進。
セーフハウスの玄関前でエンジンを掛けたまま停車させると、ルリ子がドアから出てきた。
サイクロンに格納してあるルリ子のヘルメットを本郷は取り出してルリ子に手渡し、被った彼女が後部席に座ったのを確認し、樹海のある山梨県鳴沢村へと走り出した。
「一度《森の駅・風穴》に向かって頂戴、《A.S.U》の実働部隊とそこで一度合流するから」
「了解」
国道四一一号線に入り、青梅街道から西へ、再び小河内ダム含めた奥多摩湖沿いを通り、県境間近で三頭橋を渡って一三九号線に移って山梨に入り、鳴沢村にある樹海の玄関口である駐車場にまで進むルートだ。
数時間前にクモオーグと下級構成員たちと交戦したばかりの地をまた通り抜けることになるが、今はSHOCKERが起こした事件事故の後処理を担う《A.S.U》の《清掃班》がいるらしく、本郷たちが通ることは連絡済みと立花からの脳波伝達で聞かされている。
「君も〝コウモリおじさん〟とこのアジトに乗り込むつもりか?」
「当然よ」
左手に湖面が陽光煌く奥多摩湖が見えるエリアにて、本郷が背中越しにルリ子へ訊ねてみると、彼女は即答。
「まさか……〝父からの約束だから君を戦わせられない〟とか言うつもり?」
「まさか、それで大人しく下がる君じゃないと、今日会ったばかりの僕でも分かるし、先生の遺言を出しにして、勝手に〝約束〟扱いもしない」
確かに本郷は死の間際の緑川博士から〝ルリ子を頼む〟と言われ、彼自身も託されたと思ってはいるし、恩師の遺言を果たそうとする意気だってある。
けれども、それを言い訳にルリ子本人の意志を無視する気など無かったし、自分の行動基準の大半を、他人の言葉と意思で埋め尽くすなんてもっての外だとも思う。
それはある意味で〝他人のせい〟にし、その人の気持ちを逆に踏みにじる不徳行為だ。
「僕も君も、それぞれ〝自分だけの理由〟で共通の相手と一緒に戦う関係、そうだろ?」
「それが分かってるならわざわざ聞かないちょうだい……ただ――」
ほんの少し、彼女の口は発声する代わりに沈黙を語っていたが。
「――貴方は父のエゴに巻き込まれた身なのに、自分から辛さを背負ってまで誰かを守りたくて、SHOCKERと、オーグメントにされた同じ人間と戦おうとしてる……その覚悟の強さは認めてるつもりよ」
初対面の時からルリ子は〝簡単に信用しない人となり〟だと、わざわざ本人に聞かずとも察せていた本郷は、自分をアテにしているらしい彼女の発言に少し面食らった。
「だから私も〝戦う覚悟〟を、ちゃんと貴方に示さなきゃならない」
ただ、自分と彼女は仮にも共にSHOCKERが引き起こす〝不条理(ふこう)〟と戦う同士(バディ)の間柄、全く信用されてないよりは少しでも一目置かれている方がありがたいし、彼女の言う覚悟(おもい)もちゃんと受け取ろうと決めた。
「でないと筋が通らない――か」
「ねえ、こっちが言おうとしてることを先に取らないでくれる……」
またもルリ子の発言を先取り、見事に当てた本郷に対し、少し拗ね気味に苦言を呈してくるルリ子。
「悪かった」
「まったくよ……頭脳明晰も考えものね」
人並み外れた本郷の頭のキレにぼやくルリ子の声と溜息を聞いた当の本人、ヘルメットのバイザーもマジックミラーで顔が隠れているのも良いことに、こっそり口元を綻ばせて、三頭橋を抜けて山梨県に入っていった。
ルリ子の指定通り、本郷が駆るサイクロンは《森の駅・風穴》の駐車場に着く。
いつもなら観光客を出迎えている筈の店舗は閉められ、駐車場も《A.S.U》の班員たちの車両しか止められておらず、周辺地域は民間人どころか蟻の這い出る隙間すら許さぬ徹底ぶりで人払い、封鎖されており、緊張感が空気中に漂っていた。
その中で特に目立つ銀色の大型トラック、あの特殊車両が《A.S.U》の移動司令室だと本郷もルリ子も一目で把握した。
「お待ちしておりました、班長(キャップ)は中におられます」
トラック周囲を警護している武装隊員の一人が、丁寧な態度で二人をコンテナ内部へと案内する。
「おじゃましま~す」
「やあ諸君、待ちかねたよ」
予想通りコンテナの中はオペレートを行える司令室で、隊員の言っていた通り、立花と滝がいた。
二人が先に着いていることは想像ついている。こっちに向かう途中、同じ方角へ飛ぶヘリを一機見つけ、強化された本郷の視力は乗っている立花の姿をはっきり捉えていた。
「アジトに突入前に、おさらいをしておこう」
移動司令室中央に備えられたテーブルが発光し、青木ヶ原樹海一帯の立体地図が投影される。
「非公表の情報として、ここ数年、樹海近辺で目撃されたのを最後に行方不明になった民間人の数が急増していた」
滝は淡々とした物腰と口調のまま説明し始める。
「行方不明者を最後に目撃した証人のいずれも、その時妙な耳鳴りがしたと証言し、我々はここ一か月毎日、ドローンで樹海内の音波を計測、これは調査期間中に超音波が観測された記録を全て表示させたものだ」
立体地図に、超音波発生地点を記したマーカーが現れる。
一目で明白に、樹海内で一箇所、集中的に超音波が記録された巨大なマーカーが見られた。
「これを先日緑川博士にお見せしたところ、コウモリオーグの仕業だと判明した」
「ルリ子くん、そのコウモリおじさんは、普段何をしてるんだ?」
「優生思想をバックにしたウイルスの研究と、新種の開発、それが小父さんの進める幸福活動よ」
「その為の実験体集めか……」
本郷はコウモリオーグが樹海を拠点に何をしているのかルリ子の返答で検討がつき、眉間に皺を寄せた。
「なんて、典型的マッドだかね~~」
木を隠すなら森の中、かのオーグメントは自殺の名所でもあるかの地で自身が作るウイルスの効能を試す為に被験体を採集し、アジトで実験を繰り返しているのだろう。
今日の内に、奴の外道な研究と、奴の実験に巻き込まれる人々犠牲を絶対に止めてやる――と、本郷の気概がより昂っていった。
「それと、ルリ子嬢がご注文した装備一式は、こちらに入っているぞ」
立花は司令室の片隅に置かれていた黒い登山用リュックをルリ子に渡し、彼女は中に入っている銃器含めた装備一覧を確認、自身が注文した分が全て調達されていたらしく、顔を頷かせて《A.S.U》の仕事っ振りを暗に讃えた。
ルリ子は装備の一つであるガンベルトを腰に巻き、現在の陸自の制式拳銃でもあるH&K VP9の動作確認を経て、ホルスターに仕舞い。
「〝鉄は熱いうちに打て〟とも言うし、行きましょう」
「ああ」
「本郷くん、ルリ子嬢、健闘を祈っているよ」
「どうもおやっさん」
立花からのエールを背に、二人は司令室を出た。
ルリ子と並び立ってともに歩く本郷は、自身のルーティンである左手を右手首に握らせた状態でスナップを利かせた後、ライダージャケットの前裾を開いて、腰のベルトをさらけ出し。
『TYPHOON DRIVER―――Stand By』
《タイフーンドライバ―》が本来の姿へと実体化。
「変身」
此度は静かに発する本郷の意志(こえ)を受け、ベルトの風車ダイナモが真紅に輝き回転し始め内部のリアクターが起動し、大気とプラーナを吸収、彼らの周囲に風が飛び交う中。
『REINFORCEMENT RIDER SUIT――』
ベルトから流体経路(ブラッドストリーム)と水粒子(ナノマシン)が本郷の全身を覆い、頭部のニット帽は一度システムヘルメットを経て変形。
彼の肉体も変質している証たる、顔に聖痕と第三の眼が出現。
『―――AWAKENING』
ライダースーツとマスクは、同時に着装を完了させ、複眼と《Oシグナル》が煌き、《仮面ライダー》へと変身を遂げる。
首の真っ赤なマフラーを翻らせる仮面ライダーは、サイクロン号へ向けて手を翳すと。
『CYCLONE――BOOST FORM』
額の《Oシグナル》が点灯するライダーから発せられた脳波を受け、サイクロンも《ブーストフォーム》へと変形(へんしん)し、エンジンを始動させて猛々しく轟音を鳴らす。
ライダーとユリ子はシートに跨って乗り。
「しっかり掴まって、今から派手に〝飛ぶ〟からな」
彼からの言葉の意味を理解しているルリ子は黙して頷き、胸部装甲(コンバーターラング)に彼女の腕がしっかり巻き付かれているのを確認したライダーはスロットルレバーを振るう。
サイクロンの大型六連マフラー――《ジェットノズル》からマゼンタカラーの火が噴き発進、約二.九秒で時速四百キロメートルを超し、コウモリオーグのアジトが潜む青木ヶ原樹海への方角へ向けて、アスファルトを駆け抜けていった。
「あれが……班長(キャップ)の言う《仮面ライダー》……」
「そうだとも」
見送っていた立花は、護衛隊員からの質問に応じ。
「彼、緑川博士の教え子だったのですよね? 恩師から一方的に人体改造されて、憤っていないのですか?」
「本人には怒りも恨みも無いだろう、むしろ博士が生き延びていたら、私が一発彼を殴っていたかもしれん」
部下に、本郷の肉体をオーグメンテーションした緑川博士の行為に、内心憤りを覚えているのを打ち明けた。
立花の渋味の利いた美声から、自制しても尚漏れ出てくる怒りの震えが混じっており、上司が口にした感情に偽りは無いのだと、隊員は思わず息を呑む。
「いやすまない」
部下を意図せず威圧しているのに気がついた立花は謝り。
「本郷猛くんは、今は亡き我が同僚の息子でもあってね、つい感情的になってしまった」
「いえ、お気持ちは分かります」
我ながら気持ちがささくれ立っていたことに立花は、苦笑いで自嘲する。
「もしかしたら……彼も排除対象になっていた可能性も、あり得ない話ではありませんし」
隊員は立花の心情に理解を示し、運命の悪戯次第では、本郷も《A.S.U》にとって排除――殺さなければならなかったかもしれないと言及した。
「むしろ身体は怪物、しかし心は人間のまま……そんな境遇(みのうえ)で、自らSHOCKERと戦うことを選ぶなんて、まともでいられるのですか?」
「言うまでもないことだ、控えめに言っても―――〝地獄〟さ」
立花の代わりに彼らの会話に割って入る形で滝が、隊員からの問いに断言して答え。
「それでも……本郷くんは運命に立ち向かうだろう、人間と怪人の狭間に立ち、人を守る為に元は同じ人間であるオーグメントを殺す、そして場合によっては……自身が背負う力を悪用する者ならば誰とでも戦う、矛盾に満ちた修羅の道を進む宿命を、彼自身も痛いほどよく分かっている、承知の上で選んだ」
先にルリ子のセーフハウスにて、変身した姿で現れた本郷と、立花からのオーグメント討伐依頼を自ら買って出て乗った彼の心意気を思い返して。
「〝仮面ライダー〟と言う名は、本郷くんが己に課した覚悟そのものだ」
《仮面ライダー》。
本郷自身が名付け親たるその異名(コードネーム)に宿る意味と重さを、立花は本郷当人に代わって述べるのであった。
国道一三九号線上のアスファルトを時速五〇〇メートルに迫るスピードで猛進するサイクロン――ブーストフォームの吊り上がった二対のライトが特徴的なフロントカウルの両端から、翼(ウイング)が一対伸びた。
「駆けろサイクロンッ!」
ライダーの掛け声を受け、サイクロンは前輪を上げウィリー状態で助走をつけ、ジェットノズルの出力を急上昇させて跳び上がった。
先程のルリ子への前言通り、サイクロンは高度一〇〇メートルを越える上空を飛び進んでいる。
「っ……綺麗」
自身を振り落とさぬ様、ルリ子はライダーのスーツ越しでも伝わる肉体の温もりを感じながらも必死にしがみつき、眼下に広がる光景を目にした。
樹海の名の通り、青木ヶ原の深く風に靡かれている森は、空から見下ろすと波でうねる海原によく似ており、見惚れてしまう程にルリ子の感性(こころ)を圧倒させる絶景が広がっている。
さらに不思議なことに彼女の視界は、虚空と突き進むサイクロンと、真下で流れる樹海を、スローモーションで捉えていた。
この未知なる感覚の正体が分からぬまま、一種の感嘆の気持ちが心中で渦巻いている中、段々サイクロンの高度が下がり始めていることに気がつく。
「歯を食いしばって!」
ライダーからの警告で、サイクロンが宙にて虹の如き弧を描いて樹海内へと降下中なのだと知り、言われた通り舌を噛むまいと口を固く結んでライダーの背中に一層密着させる。
空からは緑の海で分厚く覆われ、地上に飛び込む隙間が無い様に見えるが、ライダーの超感覚は、降下しながらも周囲の風を味方につけ、木の葉の密集度合いが低い箇所を目掛け飛び込み、草木への干渉を最小限に抑えて大地に降り立つ。
だが次に待っているのは、迷い込んだ人間を絶対に逃さんとばかりに広がる悪路。
凹凸の激しく岩だらけの大地、垂直に伸びる木の方が少ないほど曲がりくねって育った原生林、剝き出しで張り巡らされた木の根、そこら中にこびりつく苔らが組み合わさってできた難路は、高速鉄道以上のスピードを出すバイクで駆け抜けるなど、不可能としか思えない。
その不可能を、ライダーとサイクロンはなんと覆し、実現させていた。
コウモリオーグのアジトがある方向を外さぬまま、八艘跳びの要領で木々の合間を稲妻状の軌道を描いて進み行く。
ルリ子は自身の能力で、ライダーの仮面(マスク)が捉える彼の主観を脳にインストールさせていたが、余りの速さに彼女の動体視力ではどこにも焦点を合わせられず。
〝まるで落雷ね……〟
それでも樹海の悪路を走るライダーの芸当から、雷雲から地上に落ちる雷の様を連想させられた。
落雷にとって、大気中で屈曲を繰り返すあの軌道こそ、地上までの最短ルートなのであり、ライダーが操るサイクロンは稲妻と同様に、その名に恥じぬ勢いで目的地まで跳躍を繰り返し、疾走し続けている。
飛蝗の特性(のうりょく)を持つライダーの愛機に相応しいこのバッタオーグ専用カスタムオートバイクには、《リパルサーリフト》と言う反揚力浮遊装置を備えている。
この機構で高速回転中でもタイヤを微かに浮かせつつ車体全体のバランスを保ち、地面の形状に合わせて浮力の調整する為どんな悪路でも走り抜け、ウイングとジェットノズルとの組み合わせで短時間ながら、先のような飛行も可能としていた。
けれどもこれだけ性能を追求し、特殊な機構も備えるサイクロンはまさに〝暴れ馬〟に相応しいピーキーな代物、当然常人のバイク乗りでは真っ直ぐ進むことすらままならず、さりとてオーグメント並みの身体能力だけでも取り扱いは困難。
オーグメントであり、オーグメンテーションを施される以前から鍛え上げられた仮面ライダー――本郷猛の卓越した操縦センスと技術が合わさることで、ようやくこのモンスターマシンは乗り手と〝人馬一体〟となり、樹海の中ですらも高速で走り抜ける御業をも実現させるハイスペックをお見せできるのだ。
「指定ポイントまでもうすぐだ!」
再びルリ子に警告を発したライダーは最後の跳躍を敢行し、比較的粗さが緩い地面を横滑りの体勢でスライディングし急制動を掛け、サイクロンを停車させた。
「なんと見事な金〇サイドブレーキ……」
半ば無意識にルリ子の脳内は、昔見たSFアニメ映画の有名な一場面が再生され、口から零れ落ち、父の形見となってしまったライダーのマフラーを見つめていた。
「ん? ルリ子くん、あの映画見たことあるのか?」
「あっ……い、一応」
気まずさと気恥ずかしさで少し頬を赤らめながらも、ルリ子は肯定して答える。
サイクロンのエンジン音が大人しくなったことで、樹海独特の、薄暗く陰湿気味で重々しい空気感が、ヘルメット越しのルリ子の聴力でもまざまざと感じ取れる。ここまではまだまだ前哨戦に過ぎない、ここからがコウモリオーグとの決戦を含めた本番なのだ。
外界の樹海の空気に勝るとも劣らぬ陰気さで、濁り淀み切っている地下の研究室。
「緑川の小娘と、バッタオーグとやら……緑川(やつ)の落とし子どもが」
室内の中央の実験机に高級椅子で腰かけて〝研究中〟のオーグメントは、机上に置いてあるモニターが映す監視カメラ映像内にいるライダーとルリ子の姿を見て、吐き捨てた。
「〝愚人は夏の虫〟とは、このことだな」
―――
テッテテ~~デデデン~♪
わざわざ『ホルスターに銃を入れるルリ子』の描写を入れたのは、シンカメ本家の特報ではあったけど本編ではカットされたカットからです。
あと夜にパトカーとすれ違う場面もあったけど(本編では没になった)、あれはどういう状況だったんだろう?
『ところがぎっちょん』なんて昭和ギャグをルリ子に教えているくらいだから緑川博士、バイク映画でもあるAKIRA見てたでしょと思ってネタ仕込みました。
実写だと再現が難しいからか、ライダーでAKIRAネタってゼロワンやギーツと最近なんですよね(東映ヒーロー全体だとドンブラも入る)