は し る キ ョ ジ オ ー ン   作:昴 托須

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にげるキョジオーン

 

キョジオーンと成った彼は思った。

強い執念は時に全てを凌駕する力になるのだ、と。

 

 

ハネッコ、チルット、フワンテの3匹を無事に群れまで帰した彼はそれから数日後、相変わらず元気に森を通る道を走っていた。

その肩には送り届けた3匹、ふわふわトリオと呼ぶ事にした彼ら彼女らが乗っている。

 

「ゴルゴル〜」

 

「ネコーン!」

 

「チルーン!」

 

「フワーン!」

 

送り届けて以来懐くようになったふわふわトリオは、風がない時によく彼の元に遊びに来ては肩に乗ったり、一緒にお昼寝したりして交流を深めていた。

何が楽しいのだろうか?と彼は思ったが、ふわふわトリオからしたらそもそもキョジオーンの様な大きいポケモンが走っているだけで面白いし、走る彼の肩に乗って見る景色は自分達がフワフワと飛ぶのとはまた違った見え方がしてとても愉快に感じるのだ。

ニコニコと纏わりついてくるふわふわトリオだったが、彼は決して悪い気はしなかった。

 

首にフワンテ、右肩にチルット、左肩にハネッコを乗せたキョジオーンは当然のことながら大層目立っており、もちろんとてつもない好奇の視線をポケモン、人間問わず集めていた。

しかし、しばらく走り回って多くの目撃者がいた影響か、人間達の間では走るキョジオーンとして都市伝説的に噂話が広がっており人によっては道行く彼に手を振る人間さえいるくらいにはパルデアという土地に日常として馴染みかけていた。

 

今日も良い日になりそうだ。

手を振ってきた少女に軽く手を振りかえしながら、今日一日に思いを馳せた。

 

 

そんな予感が脆くも崩れ去ったのは、とある街の近くに差し掛かった瞬間のことであった。

 

 

 

 

「アヴァンギャルド!!!!!」

 

 

 

「ゴ!?!?!?」

 

「ネネココココン!?」

 

「チラッ!!?」

 

「フワーッ!?」

 

突然の大声量。

後ろを振り返ると、そこには1人の男性が興奮した様子でこちらへ向かってきていた。

 

緑色の髪。紫色のシャツ。腰にある薔薇を模したロープ。

一見、ヒョロリとした細身に貧弱な印象を抱くも、ジロリとこちらを睨むその瞳には数千年生きた巨木の様な力強さを感じた。

彼は知る由もないが、この男は草タイプ専門のジムリーダー兼芸術家のコルサという。

 

 

「良い、良いぞ!!!!!!!!静の象徴とも言っても過言ではないキョジオーンというポケモンの凝り固まったイメージを打ち壊す大胆な激走!!!!!!キョジオーンとハネッコ達が織りなす重と軽、硬と柔のコントラスト!!!!!!!実にインスピレーションの湧く題材だ!!!!!何かワタシの心を動かす様な題材はないかと街の外に足を運んだ直後にこの様な素晴らしいモチーフに出会えるとは、実に、実にアヴァンギャルド!!!!!!!」

 

「ゴゴン…」

 

ヒエエ…

突然の言葉の激流に情けない声をあげる彼。

あまりの迫力に完全に体が硬直していた。

ふわふわトリオも同様に固まっており、まさしく美術品のような有様だった。

 

「関節部はどのようになっている!?走る風圧で塩はどの様に散る!?動かない時の姿勢は!?いかん、疑問が多すぎる!キサマ!もっとよく観察させろ!」

 

 

そのままズンズンとこちらに向かってくる男、コルサ。

あまりの恐怖に彼の脳内で今世の転生から現在に至るまでの記憶が走馬灯の様に流れてきた。

今世でこの様な恐怖を味わったのは2回目だ。

思えば、1回目の恐怖もトレーナーだった。

彼女も目の前の男の様に1つの目的に対して邁進する狂気とも言える情熱を瞳に写していたことを覚えている。

そしてその時の対応は…。

 

 

 

「ゴッ!!」

 

「な!?待てキサマ!なぜ逃げるのだ!!」

 

 

真後ろに素早くターンし、そのまま全速力で逃げる。

それが恐怖に固まる数瞬で導き出した答えだった。

 

 

「ええい!この様な機会を逃してなるものか!!」

 

 

細身の体からは想像出来ないスピードで追いかけてくるコルサに対し、彼は更に恐怖した。

捕まったら恐ろしい事になるに違いない。

 

こうして、キョジオーンと芸術家の奇妙な鬼ごっこが始まったのである。

 

 

10分後

 

「なるほど!その様な姿勢で走るのか!素晴らしい躍動感だ!」

 

20分後

 

「まだだ!ワタシはまだ諦めん!キサマの全てを芸術へと昇華するまでは!」

 

30分後

 

「くっ…はあ、はあ、まだ、まだだ…!」

 

 

凄まじい執念である。

元々走りに向かないキョジオーンの体とは言え、連日走っている事で徐々に走りに最適化され日々速度を伸ばしている彼のスピードについて来た上に、30分もの間叫びながら追いかけるそのスタミナは、競技者であった彼の目から見ても見事なものだった。

 

流石に30分も走っていれば恐怖は薄れ、冷静な考えを取り戻す。

突然の出来事に気が動転していたが、よく考えれば別に捕まったとしても男の言動からすると観察されるだけだ。

悪意が無いのは今までの言動からも明らかであるし、何よりもその執念の籠った走りはとても素晴らしいものだった。

 

「ゴン…」

 

「なに…?止まった…だと…?」

 

 

走るのをやめ、今にも倒れそうなコルサの元へと歩み寄る。

 

「ふふ、ワタシの情熱が…伝わった様だな…」

 

そのままグッタリと倒れ込んだコルサを抱え、誰の邪魔にもならない原っぱに移動するのであった。

 

 

 

 

それから十数分後。

 

 

 

「素晴らしい!その様な動きも出来るのか!実にアヴァンギャルドだ!」

 

「ふむ、もう少し足を上げてみろ。そうだ、その角度だ。」

 

「ハネッコ達よ!キョジオーンの周りを回る様に飛んでみろ!」

 

 

そうして原っぱで行われたのはキョジオーンとふわふわトリオをモデルに使った美術の時間である。

カメラもスケッチブックも持たないコルサだったが、指をフレームに次々とキョジオーン達の姿を目に焼き付けていく。

キョジオーン達から受けるその刺激がコルサの脳に莫大なインスピレーションをもたらしていた。

 

 

「ふふ、やはりキサマをモチーフにして正解だった!次は正面から走って来てくれ!その迫力を体感したい!ぶつかるギリギリまでだ!」

 

 

時折飛んでくる過激な注文にもなんとか対処しながら、命じられるままにポーズを続ける。

美術でモデルをするというのは退屈なイメージがあったが、少なくともこのコルサという男には当てはまらないらしい。

怯えていたふわふわトリオでさえ今は楽しそうにコルサの指示に従っている。

普段自分が情熱を燃やしている走りとは別の、燃え上がる様な熱は芸術とは無縁だった筈の彼やふわふわトリオの心さえも揺らしたのだ。

 

なるほど、芸術か…きっと素晴らしいものなのだな…。

 

 

 

逆立ちしながら、彼はそう思った。

 

 

 

「今日は素晴らしい1日だった。礼を言うぞ、キョジオーン、ハネッコ、フワンテ、チルット」

 

初対面とは大違いの穏やかな笑みを浮かべ、礼を言うコルサ。

 

「ゴゴーン!」

 

「ネッコー!」

 

「チラチラー!」

 

「フワワワー!」

 

 

彼もふわふわトリオも笑顔でそれに応える。

実に充実した1日だった。今日がいい日になるという予感は決して間違いではなかったのだと心から思う。

 

「しかし、ここはどこだ?夢中になって走っていたせいで道が分からなくなってしまったな…。」

 

「ゴン!」

 

任せて欲しい、という意味を込め胸を叩く。

彼はあちらこちらを走り回っている都合上、地理にはかなり詳しくなって来た。少なくとも、この原っぱからボウルタウンまでの道は完璧に記憶している。

そもそも自分が逃げてしまったせいでこんな所まで連れてきてしまったのだ。送り届けるくらいは訳なかった。

そうして、彼はコルサを腕で抱え事前にふわふわトリオに寄る様に言った方とは反対側の肩に乗せる。

 

「む、なんだ。送ってくれるのか。…そう言えばキサマ自身の観察を優先するあまりキサマの視点を体験するのを忘れていたな。素晴らしい…!更に未知の体験が出来るとはな!」

 

「ゴン!」

 

コルサを乗せ、彼は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボウルタウンまで行く道で少年は相棒のモトトカゲと走っていた。

 

「相棒!ボウルタウンまでもうすぐだ!」

 

「ギャオン!」

 

 

少年はジム巡りのため、ボウルタウンを目指していた。

強くなれば何もかも上手く行くだろう、という青臭い幻想を胸に抱き、意気揚々と道を行く。

 

「なあ、相棒。この前は油断したけどさ、あのキョジオーンのやつ、今度見たらスピード勝負仕掛けてやろうぜ!この前は急だったから止まっちまったけど、心の準備さえ出来ればあんなやつすぐに負かさられるさ!」

 

「ギャオン!」

 

キョジオーンとしてはただ通り過ぎただけだったのだが、少年はとっては負かされ、舐められた様に感じたらしい。実に青春である。

そう相棒と誓い合う少年の耳に、地響きが届く。

 

ドン…ドン…

 

 

「…!へへっ、来たか!今度はビビらねぇぜ、相棒!」

 

「ギャオン!」

 

 

ドシン…ドシン…

 

「ア………ルド…」

 

「ん?」

 

「ギャオン?」

 

何故だろうか、地響きと共に人の叫び声の様なものが聞こえる気がした。

 

ドシン…!ドシン…!

 

「じ…アヴァ……ドだ……!!」

 

「な、なんだ…!?」

 

「ギャオン!?」

 

そうしてゆっくりと振り向いた少年達の目に飛び込んだものは。

 

 

疾走するキョジオーン。

 

そこまでは以前体験した事だ、もはや驚くべきところは無い。

 

しかしその肩。

 

走っていて不安定な筈の足場を、根を張る様に平然と立ち続けている。

 

堂々と仁王立ちをしたその姿。

 

その頭には3匹のポケモンが塔の様に重なって乗っていた。

 

 

 

「ふはははは!!アヴァンギャルドォォォ!!!!!」

 

 

 

 

「うわあああああ!!?」

 

「ギャオオオン!?」

 

 

 

走 る キ ョ ジ オ ー ン 

 

w i t h コ ル サ で あ る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は動かなかった。

以前より長い時間をかけてやっと、我に帰れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キ ョ ジ オ ー ン コ ル サ タ ワ ー

流石にコルサさんの身体能力盛りすぎたかな…と思いましたが風車に立ってるしな…を免罪符にアクセルガン踏みしました。
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