は し る キ ョ ジ オ ー ン   作:昴 托須

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前編後編に分けるつもりでしたが、色々あって中編になっちゃいました。


おどるキョジオーン(中編)

 

 

さて、ひょんなことから踊りを教わることになったキョジオーンである彼は今。

 

「ゴゴーン…」

 

 

「オーレッ!?」

 

 

頭から地面に突き刺さっていた。

 

 

まずは初歩からと簡単なステップを教え、いざ実践!と言ったところの一歩間の足運びでこれである。

勢いよく踏み込んだその勢いで見事に一回転。

そのままコルサがみたら感激するであろう事間違いなしの素敵なオブジェと化したのである。

 

オーレさんはドン引きした。

最早踊れる事が当たり前になっている彼にとって、一歩目からセルフちきゅうなげをするようなエキセントリックな存在は初めてだったのである。

 

「ゴゴーン!」

 

何とか地面から頭を抜き、体勢を立て直した彼はそのままバッチコイとばかりにオーレさんに向かい合う。

知らないことを学ぶのが楽しいのか、その惨状とは裏腹にキョジオーンたる彼はやる気満々である。

 

「オーレ…」

 

オーレさんは先行きが不安で仕方なかった。

 

 

 

 

 

まずは一歩踏み出してポーズ!

 

彼は頭から突き刺さった。

 

 

1、2、3!リズムを取りながらステップ!

 

彼は頭から突き刺さった。

 

 

くるっとその場で一回転!

 

彼は頭から突き刺さった。

 

 

「オーレ…!」

 

なんでだよ…!

 

もはや頭を抱えるしかない。

何を教えても、何をさせても最終的には愉快なオブジェが完成してしまうこの無限に思える繰り返しに、ともすればスランプに悩んでいた時以上の絶望と困惑がオーレさんを襲う。

ある意味スランプを吹き飛ばすこの惨状に、ただただ狼狽えるしかなかった。

 

「ゴゴーン!」

 

そんなオーレさんの気持ちなぞつゆ知らず、キョジオーンである彼は何度も何度も諦めずにチャレンジしている。

その努力がちょっぴりでも実を結んだのか、先程よりは地面に突き刺さるまでの秒数が伸びてはいるが、そもそもフィニッシュに地面に突き刺さる時点でダンスと言えるかは微妙な所である。

 

次こそは、次こそは…!

 

そうやって、下手な癖に、楽しそうに何度も試しては失敗する彼。

 

「……オーレ」

 

なぜだろうか、その様子を見ると。

やめろ、とも

やめる、とも言えなかった。

 

 

 

 

あれから一カ月。

彼は必ず毎日同じ時間にオーレさんの元へ駆けつけてダンスを教わり、レッスンが終わればすぐ様どこかへ走り去る、そんな生活を続けていた。

流石に1カ月も経てばあれだけ困惑していたオーレさんも彼の常識ハズレの性格や行動に慣れ始めていた。

走るのがとにかく大好きな変わり者。

彼を一言でそう評するのが1番的確だろう。

 

しかし、そうなるとなぜ彼は自分に協力するのだろうかとオーレさんは思う。

ここ1ヶ月でどれだけ走るのが好きかは嫌になる程知っている。

それなら自分にかまわずに走る事だけに集中すれば良いはずだ。

しかし、彼はこの1ヶ月毎日オーレさんの元に現れてはダンスレッスンを受け、真面目に練習に励んでいる。

もちろん、こうやって協力してくれる事は感謝しているし、実際、1人で悩んでいた時に比べればかなり心は軽い。

正直、下手くそだし教えるのは大変だが、最近は楽しいとすら感じる。

 

しかし、キョジオーン自身にメリットがあるかというと、どう考えても無い。

ダンス自体は嫌いではないようだが、走る事と比べればどうかと尋ねれば即答で走ることと答えるだろう。

 

 

「ゴン?」

 

「オーレ…」

 

うんうんと唸っても答えは出ない。

どうして、彼は自分にこれ程までに良くしてくれるのか。

 

「ゴゴゴーン?」

 

「オーレ…!?」

 

思考の波の中いきなり投げかけられた呑気な声に驚き、座っていた岩から転げ落ちる。

キョジオーンが出す大きな足音に気付かない程度には深く考え込んでいたらしい。

とても驚いたからタイミングとしてはバッチリである。

オーレさんは思い切ってこの疑問を本人にぶつけた。

 

「オーレオーレ?」

 

「オーレオーレ、オーレ?」

 

「オーレ?」

 

どうしてこんなにも私に良くしてくれるのか?

 

どうして走るのが何よりも好きなのにそれ以外ことをするのか?

 

どうしてそんなに走ることを好きでいられるのか?

 

一度疑問を口にすると、まるで疑問が濁流のように押し寄せ堰を切ったかのように溢れ出す。それは、ある種の懺悔のようにも聞こえる。

 

 

自分が納得するダンスが出来ない苦しみ。

大好きなものが上手くいかなかった時の苦しみ。

そして。

 

 

「オ…オーレ…?」

 

どうしたら、好きなものを好きなままでいられるのか?

 

 

 

涙を堪えながら、そう溢した。

これが、彼の1番の苦しみであり、1番聞きたいことだった。

 

天才と持て囃されようが、仲間達からどれだけの賞賛を受けようが、たった1匹、自分だけが納得出来ていない。

苦しかった。1人でずっと戦ってきた。

こんな贅沢な事、誰にも理解されないと思ったから。

そんな彼に手を差し伸べた、走ってばかりの変なやつ。

そんな変なやつだからこそ、聞いてみたかった。

好きなものへの向き合い方。

最早疑問など微塵も関係のない、ただの弱音。

 

「ゴゴーン」

 

最早答えを待たずに口を衝く疑問に対して、

キョジオーンと成りし彼は答えた。

 

 

その質問は意味のないことだ、と。

 

 

「オーレ!?」

 

あまりにも無慈悲な言い草に驚くオーレさん。

文句を言おうと出そうとした声は続く言葉に遮られる。

 

 

「ゴゴン」

 

 

何故なら、今でも君は踊りが大好きで大好きで堪らないから。

この先一生、嫌いになることはないから。

 

「…」

 

彼は言い切った。それが当然のように、確信を持って。

その一言に、オーレさんは言葉を失う。

 

 

 

どれだけ納得いかなくても、どれだけ苦しくても、どれだけ悩んでいても。

花畑の一画から草木が生えなくなるほどに、足跡が雨で流れきれないほどに。

たくさん、たくさん踊ってきた事を初めて会った時から知っている。

どれだけ踊る事が好きなのか、痛いほどに伝わってきた。

苦しくてもやりたくなる、やってしまう。

それはつまり、どうあっても好きだということなのだ。

 

 

初めて会った時、君は自分と同じだと確信した。

だからこそ勿体無いと思った。

 

君は、この先踊りが嫌いになる事が怖いのだろうが。

逆だ。逆なのだ。

 

これから、もっともっと好きになれるのだ。

もっともっと上手くなれるのだ。

 

 

「オーレ…」

 

今が限界ではない。今が終わりではない。

自信満々な彼の発言に、オーレさんは心が震える。

それは、暗闇の中に一筋の光をみつけたような興奮。

 

 

 

自分は走る事が好きだ。

グルグルと入れ替わる景色が好きだ。

全身で感じる風が好きだ。

走り方一つで速さが変わる奥深さが好きだ。

 

そして何より。

 

前に進めるから。

 

未来に希望があると、この先に出会いが、楽しい事が、希望がある、そう感じるから。

 

 

 

だから。

 

君の力になりたいとも思った。

『この先』が見たいと思った。

君の大好きな景色を見てみたいから。

語りたいことは全て語った。だから後は聞くだけだ。

 

 

君は、どうして踊りたい?

 

「…」

 

「…」

 

彼が、最後に一つ質問を投げかけると、辺りに静かな時間が流れる。

そんな静寂を破るのは、他ならぬオーレさんだった。

 

 

 

「オーレ…」

 

私は。

 

「オーレ…!」

 

踊りが好きだ!

 

「オーレ!」

 

踊りが大好きだ!

 

当たり前過ぎて、忘れていた気持ち。

 

叫び出したくなるような高揚。

 

「オーレ!オーレ!」

 

リズムを刻んだ時のワクワクが堪らない!

難しいステップをこなした時のみんなのアッと驚く顔が楽しい!

自分の心を表現する振り付けを考える時間が心地よい!

 

なにより!

 

全てを踊りきった後の身体中の熱が私の心を弾ませる!

 

 

 

「オーレ!オーレ!オーレ!」

 

やるぞ!やるぞ!やるぞ!

私は踊る!お前も踊らせる!

 

「オオオオオォォォォレイッ!!!」

 

この情熱を!みんなに見せてやるんだ!

 

 

情熱のストイックダンサーが復活した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

そして数ヶ月後、キョジオーンである彼とオーレさんはオドリドリ達のコミュニティのお披露目会、そのステージに立つこととなる。

 

 

 

 




割とシリアス回。好きなものを貫くのは大変なことです。
普段はホワホワしてるので分かりづらいですが、キョジオーンくんは割と熱血だったりします。
次回、いよいよ希望と情熱のダンス回!お楽しみに!
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