きょうだいはおしまい!   作:虎之丞

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遅ればせながら9話目です。前回からもう10日も経ったってマジ?

今回修正やチェックをあまりしてないので誤字脱字やら台詞の抜けやらでおかしいとこが多くなってる可能性ありますすみません。


第9話 もふらと初めての配達

 土曜日。朝早くから玄関で靴を履いて出かけていく人物とそれを見送る人物の図、という平日と似たようないつもの光景。ただし、本日はそのいつもとは逆に、もふらがみはりを見送るという形になっているが。

 

 

「それじゃあ行ってくるけど、休みだからってあまり羽目を外しすぎないようにね」

 

「お母さんか何か?」

 

 

 立場が逆でも対応はいつも通りなみはり。どうやら休日講義に出る為に、今から大学へと向かうらしい。

 

 

「お昼は作り置きしてあるから温め直して食べといて。行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 手を振ってみはりを見送るもふら。その後「さて、今日は何をしようかな」などと呟いていたら、布で包まれた物がキッチン前に置かれているのが目に入る。

 

 

「あれ? これってたしか」

 

 

 その布の柄に見覚えがあったので、ほどいて中身を確認してみると、そこから小さな弁当箱が現れた。

 

 

「みは姉まさか…自分のお弁当、忘れて行っちゃった?」

 

 

 珍しい事もあったものだ。大学でよっぽど重要な案件でも頼まれていたのだろうか。

 

 いずれにせよ、このままでは姉が昼食抜きで過ごすことになってしまう。それはいけない。

 今からなら取りに戻らせても良いのかもしれないが、どうせ今日はまだやる事も決まっていない。わざわざ手間をかけさせる事もないだろう。「弁当配達に行くぐらいなら問題ないか」と呟きながら、せっせと出かける準備を進めていくもふら。

 

 この時の彼は大事な事を忘れていた。そう、とても大事な事を──

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……何処だろここ?」

 

 

 出発して十数分。早速もふらは迷子になった。

 

 彼は方向音痴である為に、初めて行く場所に1人で辿り着けた事は今まで一度もない。誰かに案内してもらったり、一度道順を覚えてしまえば問題ないのだが、この場合だとそれも叶わない。

 

 こうなってしまうと、一度知ってる場所まで出ないと解決しないのが悩みである。

 

 

「お昼時までは…まだ時間があるな。真っ直ぐ行って片っ端からマッピングしてみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ってから既にどれだけの時間が経っただろうか。時刻は既に11時を過ぎている。もふらは未だに現在位置が分からないでいた。

 

 

「どうしてこうなった…」

 

 

 数時間ずっと歩き続けて何も変わらなかったせいか、思わずそうぼやいてしまう。

 

 元から運が良い方ではないのは自覚していたのだが、別に悪いという程でないのも分かっている。なのにこの体たらくは一体何なのか。理由を考えようとも思ったがすぐに止めた。時間が勿体ないからだ。

 

 

「せめてマップの使い方が分かればなぁ…」

 

 

 はぁ、ともふらはため息を吐く。今時の中学生がマップの使用法すら分からないのはどうかと思うが、覚えれないのだから仕方がない。

 それに、誰かと一緒に行動して道順を一度覚えてしまえば、ほぼ一生マップを開くことなどないのだし、今までマップなんか要らねぇ! な精神で来た自分が今さら変われるのかは甚だ疑問ではある。

 

 いずれにせよ、このままでは何も進まない。今やれる事は二つ、一か八かで携帯のマップアプリを使うか、誰かに場所を聞くかの二択である。

 

 しかし、珍しいことに周囲の人通りは少ない。まさか近所の家のチャイムを鳴らしてまで質問する訳にもいかないだろうし、そもそも家にいる人が夜勤明けで休んでいる可能性だってある。自分の目的の為だけにそこまで迷惑をかけるのはさすがにダメだろう。

 そもそも誰もいない可能性だってあり得る。なので「これはなしなし」と言って顔を横に振って考えを改めるもふら。

 

 仕方ない。もう少しだけ歩いて誰も見つからなかったらマップを使うか、などと考えながら再び歩きだそうとすると──

 

 

「何かお困りなのです?」

 

「ぬわぁぁあ!?」

 

 

 突如後ろから声をかけられ、驚きのあまり大声で叫んでしまうもふら。後ろを振り返った先にいたのはニット帽を被った同年代ぐらいの青い髪の少女。大声をあげたせいか逆に驚かせてしまったようで、慌てた表情でもふらの方を見ていた。

 

 

「はやや…驚かせてしまい申し訳ないのです。困っているように見えたのでつい…」

 

「わわっ、気にしないで! 間が悪かっただけだから」

 

 

 申し訳なさそうにする少女を宥めるもふら。その後コホンと一つ咳払いをしてから自身の状況を説明していった。情けない限りではあるが、背に腹は代えられないので、ルートを教えてもらうかマップの使い方を教えてもらうか、どちらかをこの少女にやってもらうしかない。

 

 一通り説明を終えると、少女は「ふーむぅ…」と呟いた後に少々言いにくそうな表情をしながらもふらへと質問をする。

 

 

「…つまり迷子なのです?」

 

「ぬぅぅ……お恥ずかしい事に」

 

 

 見知らぬ少女にこうもハッキリ言われると心にグサリとくるものがある。知り合いに言われるよりかは幾分マシではあるが。

 恥ずかしそうな表情をしながらも、もふらは頭を下げて更にお願いをする。

 

 

「そう言う訳なのでマップの使い方か、この大学の大まかな方向だけ教えてください! お願いします~!」

 

 

 もはや泣きついてきそうな勢いで、大学の名前と住所を見せながら頼みこむもふら。その様相を見た少女はあわあわしながら返答していく。

 

 

「はややや…頭を上げて欲しいのです。その…こちらもちょうどその大学には用事があるので、ぼくと一緒に行くというのはどうですか?」

 

「あ、ありがとう…! アナタが神か」

 

 

 ぱぁっと表情が明るくなるもふら。実はこの時少女に、感情が渋滞してるのです…。と思われていたとかなんとか。

 

 これ以上時間をかけるのもあまりよくないので、とりあえず目的地へと向かって歩きだす二人。道中他愛ない話やら好きな物、苦手な物などの自身に関する話を少ししていたのだが、十数分程経ってから重要な事にもふらは気づいた。

 

 

「…これだけ話してて今さらなんだけどさ。ボクらお互いの名前言ってなくない? と言うか名前も知らずに何故好物の話とかしてたのか…」

 

「むむぅ…?」

 

「会話の順序が、順序がおかしい…!」

 

 

 思わず頭を抱えるもふら。名前も知らない異性にいきなり趣味やら好物や苦手な物を話すというのは、普通に常識なさすぎてヤバい気がしていた。友人と距離を置いていた弊害がここに来て起こってしまい、軽く自己嫌悪するもふら。

 

 そもそもの問題、彼は口数こそ(主に嘘つく時に)多くなりがちだが、別段コミュ力が高いわけでも何でもない。むしろ小学二年まで友達が1人もいなかったのだから、どう考えても低いほうに位置するだろう。

 

 それ故のこの結果なのだが、それにしては相手の少女も、その辺りの事には一切突っ込まずに、まず疑問符を浮かべているのは何故なのか。それだけ相手に興味がなかっただけなのか、それとも彼女も初対面同士での会話がよく分からないでいたのか。

 理由は分からないが、このままではいずれ日常会話にも支障をきたす可能性があるので、まずは名前を言うべきだと思い少女の方へ話を戻す。

 

 

「…よし、とりあえず気を取り直して自己紹介しよう、うん。まずはボクから言うね。名前は緒山もふら。もふらでも緒山でも迷子少年Oでも何とでも好きなように呼んで」

 

「最後の名前にはどういった意図が込められているのです?」

 

「そんな真面目な顔で返されるとは思ってなかった…」

 

「?」

 

 

 少しでも緊張をほぐして話せないかと思い、お茶目な印象を与えれそうな言葉で締めたのだが、そもそも相手にはまるで理解されていないようだ。もふらはなんだか少しもの悲しい気持ちになってきたが、少女に話しを振ることで切り替える事にした。

 

 

「と、とにかく今度はキミの番。フッフフ…このスベり芸を披露した後のような空気の中で、一体どんな面白い自己紹介をしてくれるか楽しみにしてるよ」

 

「むぅ…」

 

 

 不敵な笑みを浮かべながら少女の弁を見守るもふら。ぶっちゃけ失敗を誤魔化す為だけに行った、何も考えていないただのやけくそスマイルである。

 少し考える素振りを見せた後、少女は静かに口を開く。

 

 

「えっと……」

 

「………」

 

「………」

 

「…何も思いつかなかった感じ?」

 

 

 もふらの言葉に頷く少女。ユーモアセンスが欠けているのか、それとも責任感の強さ故にジョークを考えすぎるきらいがあるのか。

 おそらく後者だろう、ともふらは考えた。そもそもセンスが欠けているだけなら面白くなかろうと真面目な回答だろうとまず口には出すはずだ。

 

 

(となると、彼女は人見知りするタイプってことになるのかな)

 

 

 確証はないのだが、何となくそう思ったもふら。そもそもこんな日に1人で大学に用事があるというのもおかしい。一切躊躇うことなく道を進んでいるところを考えてみると、目的の場所に来たのも一度や二度というレベルではない筈だ。大学に所属している家族の誰かへ会いに何度も通っているというのが、理由としては自然だろうか。

 

 

「まさかこの見た目で大学生という訳でもないだろうしなぁ…」

 

「…何の話です?」

 

「えっ!? いや~、その…」

 

 

 うっかり口に出してしまっていた事にハッとなるもふら。うーんと少し唸った後、すぐに言い訳を閃いて口にだしていく。

 

 

「そ、そう! 同い年ぐらいなのに大学までの道のり覚えているなんて凄いな~って改めて思っただけで」

 

「凄い…のです?」

 

「うん、凄いよ。少なくともボクはそう思う。ボク自身が迷子の達人なせいなのもあるんだけどね、はは…」

 

 

 遠い目をしながら乾いた笑いを浮かべるもふら。自身のポンコツさ加減には、もう正直笑うしかないレベルなのだが、今さらネガティブになったりはしない。と言うか知り合ったばかりの子にそんな姿を見せてもドン引きされるか気を使わせるだけだから絶対にしない。

 

 とりあえずさっきの言葉は誤魔化せたと思い、話しを戻そうとする。

 

 

「ところでなんだけど、キミの──」

 

「到着したのです」

 

「え?」

 

 

 少女に言われてバッと指された方へと振り向くもふら。話す事ばかりに集中していたせいで、いつの間にか目的地である姉の通う大学に着いてしまっていたらしい。まだ案内され始めてから2~30分しか経っていない辺り、迷っていた時もゴールには近づいていたのかもしれない。

 

 

「結構近かったのね…」

 

「距離がある場合、バスか電車を使うことになるので」

 

「あ~、それもそっか」

 

 

 とにもかくにも目的の場所には着いた。時間ももうすぐ正午になる頃だし、弁当を届けるには丁度良い時間帯だ。

 

 ここから先はさすがに迷う事もないだろう。仮に迷ったとしても中には人がいるのだから聞けば良い。しかし、案内をしてくれたこの少女に何かお礼はしておきたい、ともふらは考える。

 

 

「う~ん…」

 

「どうしたのです?」

 

「えっと…ここまで連れてきて貰ったんだし、何かお礼がしたいな、と思ってさ。何かやって欲しい事とかないかな?」

 

 

 素直にそう伝えるもふら。もしかすると普通に答えてくれる可能性があるかもしれないのだから、少しでも希望は聞くべきだろう。

 しかし、それを聞いた少女はすぐに首を横に振った。

 

 

「いえ、気を使うことないのです。お役に立てて嬉しいものですから」

 

「………!」

 

 

 少女のその言葉がもふらの心に深く刺さった。感動というよりは共感の部分が大きい。

 

 

(ああ、なるほど。彼女はたぶん…)

 

 

 もふらはその想いを理解出来てしまった。役に立ちたいというその気持ちを、役に立てたというその喜びを。

 先日の料理の練習だって、結局のところは姉の負担を減らして少しでも役に立ちたいという想いから来ているのだから。

 

 少女は例えそれが知り合い程度の人物であろうと、相手の役に立とうと奮闘する。自分とはスペックもスケールも違うが、そういった部分にはどことなくシンパシーというものをもふらは感じていた。

 

 

「なんか、ちょっとカッコいいな…」

 

 

 彼女のその在り方を垣間見たもふらは思わずそう呟いてしまう。幸か不幸か、相手にその言葉は届いていなかったようで、少女は頭に疑問符を浮かべながら佇んでいるだけであったが。

 

 

(ハッ…! いや、今は尊敬してる場合じゃない。とりあえず相手へのお礼を考えないと)

 

 

 首を横に振って思考を振り払うもふら。その後「ぬぅぅん…」と唸り声を上げながら、ああでもないこうでもないと、内容を考えては捨てて、考えては捨ててと繰り返し続け数分後、一つの意見を口にする。

 

 

「えっと、その…今度一緒に遊ばない?」

 

 

 考え続けた結果のこの意見である。もふらは完全に混乱していた。

 相手の事をよく知らない故の混乱もあるだろうが、どんだけ自分に自身があれば遊ぶ事がお礼になるんだ、と心の中でツッコミを入れるまで時間は殆どかからなかったもよう。

 

 

(ってちっがぁ~~う!! ナルシストかボクは~~!!)

 

 

 すぐに我に返り、数秒前の自分の発言に頭を抱えるもふら。いくら相手の事が分からなかった故の考え抜いて混乱して出した言葉とはいえ、どう考えてもこの発言はいただけない。

 しかし、その発言の意図を汲んでくれたのかくれてないのか、幸いにも少女はドン引きすることなく、ポカンとした表情をしながら疑問を口に出していく。

 

 

「遊びに…ですか?」

 

「あいや、その…! これは色々と間違えて──と言うか考えてたらパニックになっちゃって! 世話になったのに何もしない訳にもいかないし、あれこれ考えてたら最終的にこんなこと口走っちゃってて……こんなんどう考えてもお礼でも何でもないのに何言っちゃってんだボクは~!」

 

 

 心の底から叫びたくなってきたもふら。長々と弁解しながら発するその表情と声が、彼の言い訳やら何やらまでを全て吐露している事に気づくまで、数分の時間を擁することになった。

 

 

 

 

「とりあえず落ち着いてほしいのです」

 

「…はい」

 

 

 少女に制止され、もふらは口を動かすのをピタリと止める。

 

 

「お誘いに感謝するのです。ですが、その…緒山もふらさんはナンパ男子なのですか? 知り合ったばかりの異性をいきなり二人きりで遊びに誘う人の事をナンパ男子だと聞いた覚えがあるのですが」

 

「だから、それは違うんだってぇ…」

 

 

 表情一つ変えずに言ってくる少女。彼女には相手を咎めるような気持ちなどまるで込めずに純粋な疑問をぶつけているのだろうが、もふらにとっては言葉の刃をグサグサ刺してこられてるような感覚に陥り少し涙目になってきた。そして段々と弁解にもキレがなくなってきた。

 

 

「違うのです? ふむぅ…実はケダモノ男子だったり…?」

 

「余計に酷くなってるぅ!」

 

「冗談なのです」

 

「冗談が分かりにくいのです…」

 

 

 口元に手を当てながら微笑を浮かべる少女。それを見たもふらはどっと疲れた表情をしながらうなだれた。冗談を言うタイプに見えなかった故のその不意打ちに、正直心臓が悪い意味でドキドキしてしまう。

 

 そんなもふらの様子を見た少女は後ろめたさにシュンとした表情になってしまう。

 

 

「申し訳ないのです…その、こういったジョークはまだ言い慣れてないので…」

 

「はは、気にしないで。ケダモノナンパゴミ男子の称号なんて、まったく問題にならないからさ…」

 

「問題しかないと思うのです」

 

 

 本日二度目の遠い目と乾いた笑い声を出すもふら。失敗だらけの今日に落ち込み気味になっていたら、いつの間にか玄関口までやってきていた。

 

 

「おっとと…話し込んでたらいつの間にかこんなところに。まず、みは姉がどこにいるか聞いとかないと」

 

 

 一緒に中へ入ると「ごめんね、ちょっと待ってて」とだけ少女に告げ、近くを歩いていた教職員に聞き込みをしていくもふら。

 

 

 

 

「…不思議な人なのです」

 

 

 1人残された少女は聞き込みをしている少年(もふら)の姿を見ながらそう呟いた。会話だけでは変わった様子など微塵も感じなかったが、行動も発言もいまいちイメージしにくい感じがしていた。

 

 普通のようで普通じゃなく、人見知りのようで人見知りでなく、冷静なようで落ち着きがなく、自分勝手なようで他人思い。そんなあべこべな印象を与えながらも、それが正しいように感じる変わった雰囲気を纏っている。

 

 人見知りしがちな自分が初対面の相手に冗談まで言える事などそうそうない。いつの間にか距離が縮んでいるような、仲良くなっているかのような、そんな感覚をごく自然に生み出しているのだろうか? 

「…よく分からないのです」と言って少女は結論を出すのを止めた。まだまだデータが少なすぎる。

 

 

 そんなことを考えている間に、もふらが少女の元へと戻ってきた。

 

 

「お待たせ。こっちの目的地は四階にあるみたい。そっちは?」

 

「同じなのです」

 

 

 二人は軽い雑談をしながらエレベーターのある方向へゆっくりと歩いていった。

 

 

 

 

 そんなこんなで目的地前へと到着。室内からみはりと同じ白衣を着た人達がちょいちょい出入りしている辺り、場所は合っていそうだ。

 全員同じ衣装を着ているところが、怪しい実験を行っている研究室にしか見えなくてだいぶヤバいがまあ、目的の相手が兄をTSさせた張本人なのだから、たとえその周囲がヤバい人達の集まりでも大して驚く事ではないだろう。

 

 そんな事より、と少女の方へ向き直るもふら。相手の目的地は別のところらしいので、ここでお別れということになる。

 

 

「ここまで本当にありがとう。キミがいなかったらきっと辿り着けなかったよ。本当はお礼までしたかったんだけど…」

 

「気を使うことないのです。ぼくも沢山話せて楽しかったですよ」

 

 

 お世話になりっぱなしで申し訳ないと言った顔をするもふらに、少女は小さな微笑みで返していく。その表情を見て少しほっとする。

 

 

「楽しめたなら良かったよ……えっとそれで、最後に一つだけ聞かせて欲しいことがあるんだけど」

 

「何です? 改まって」

 

「そろそろキミの名前を教えてくれませんか?」

 

 

 少し呆気にとられた表情をする少女。まさか忘れていたのか、そういえば言ってなかったのです、とでも言ってそうな顔になる。それから少し考える素振りをした後に口を開く。

 

 

「……ヒミツです♪」

 

 

 満面の笑顔でありながら、ちょっと悪戯っぽくも見える表情をしながら、口元に指を当ててそう言う少女。軽く手を振った後、そのまま廊下の奥の方へと姿を消していく。

 

 

「えっ、ちょっ…! ぬぅぅ……まさか教えてくれないとは。してやられた」

 

 

 残念がった表情をしつつも、あまり悔しそうには聞こえない声色で悔しがるもふら。少女の姿が見えなくなるのを見届けてから目の前のドアをノックして開けていく。

 

 

「はぁい、いらっしゃい──おやぁ? みかけない顔だねぇ」

 

 

 中に入って早々、室内から声をかけて来たのは金色ボサボサヘアーの女性。そこらを歩いていた大学生よりも年上のように見えるし、講師か何かをやってる人だろうか、ともふらは思った。

 

 

「えっと…緒山もふらと言います。姉のみはりがいつもお世話になっております。本日は忘れ物を届けに参りました」

 

 

 いつもの口調とは裏腹に、丁寧な言葉で女性へ挨拶を交わしていくもふら。さすがに初対面の年上にいつもの口調で話す程愚かではない。

 

 その挨拶を聞いた女性は少し驚いた表情をした後、すぐに興味を持った顔つきになりもふらの方へと(おもむろ)に近づいていく。

 

 

「ふむふむ、なるほど…君がみはりちゃんの弟君か。噂はかねがね聞いているよ」

 

「噂…? 姉とは仲が良いので?」

 

「ははは、勿論だとも。みはりちゃんとはお互いにスキンシップをする程の仲だからね」

 

 

 悪戯っぽく笑いながら自慢気に語る女性。その発言一つ一つに重みがないと言うか何と言うか、なんだか嘘っぽく聞こえたもふらは、相手の女性の事を胡散臭い大人だと判断し、この場を立ち去る為にとりあえず一礼をする。

 

 

「すいません、他に人もいないようですしそれでは──」

 

「こらこら待ちたまえ。人の話は最後まで聞いておくものだよ?」

 

 

 背を向けてそそくさと離れようとしたが、女性にガッシリと腕を掴まえられる。

 何だか話が長くなりそうなので、早いとこ目的を達成したいなぁ、と思うもふらだった。

 

 

 

 

「ほら、座って座って」

 

 

 女性に促され、とりあえず近くの椅子に座るもふら。パソコン室のようにテーブルとパソコンと椅子が1セットになっているが、この席も誰かが使用している席なのだろうか。そもそも勝手に使用して大丈夫なのかとも思ったが、「大丈夫大丈夫」と女性に促されたのでありがたく使わせてもらうことにした。

 

 

「まずは軽く自己紹介でもしておこうか。私は吾妻ちとせ。この大学の准教授にして君のお姉さんの指導教員をしている者だよ」

 

「教授って、たしか大学(この中)じゃかなりのお偉いさんになるのでは?」

 

「准ねー。まあつまり、教員の中だと私はNo.2に位置する位という訳さ」

 

 

 わざとらしく子供っぽい言い方をする女性こと吾妻ちとせ。なんか変わった人だなぁと思いつつ、もふらは話を進めていく。

 

 

「それで、その教授がボクに一体なんの用なので?」

 

「なあに、一度直接会って話をしてみたいと思っただけさ。何せお兄さんを女の子にする治験。結果的に見ればこれを僅か1日で許容した上に、便利な設定まで積極的に考えてくれているのだからね」

 

「………」

 

 

 それを聞いた途端もふらの顔が強張った。姉の指導教員と聞いた段階で予想はついていたが、やはり一枚噛んでいたのか、と思うのだった。

 

 

「みはりちゃんの話では渋々協力してくれていると聞いてたけど、その割には嬉々として場を整えていく一面もある」

 

「……何が言いたいので?」

 

「もふら君、君には解離性同一症の疑いがある」

 

 

 真剣な面持ちでそう口にしたちとせの言葉に、もふらはただただ沈黙を続けているのだった。

 




閲覧ありがとうございます。描写増やしすぎて長くなったので前後編に分ける事にしました。後編は頑張って早くだします。

なゆたんは初対面の男子のことを君付けで呼ぶのか、さん付けで呼ぶのか分からないのですが、今作ではさん付けにしておくことにしました。もふらの事はそのうち呼び捨てになるのでほぼ意味ない独自解釈ですが。


余談ですがもふらと各キャラとの関係性決めるのに一番時間がかかった相手はなゆたん、逆に一番初めに関係が決まっていたのはみよちゃんだったりします。しかし、みよちゃんは一番最初に決めておきながら、その関係性に至るまではまだまだ時間がかかるという事実。原作34話通るのが条件だからしょうがないのだけれども。
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