今回のストーリー、メモにはみはりの大学に行こうとしたけど道に迷う→なゆたんに道案内される→ちとせに多重人格の疑いありと言われる+αとしか書かれてなくて、過程省略しすぎてどうしよこれって思いながら書いてました。
創作を始める人はストーリーのプロットをきちんと作ってから書きましょう。でないとこんな行き当たりばったりの作品になります。
「もふら君、君には解離性同一症の疑いがある」
「………」
ちとせの言葉に、もふらはただただ沈黙を続けていた。理由は決まっている。
「…何ですそれ?」
単純に単語の意味を理解していないからだ。出鼻を挫かれた気もするが、とりあえず気を取り直してもふらへ説明をしていく。
「まあ、言い換えると多重人格障害を起こしているんじゃないかと思っているのさ」
「多重人格……何でまた?」
「まずさっきも言ったけど、君のお兄さんの治験…これを僅か1日で許容するその精神性だ。みはりちゃんのことを信頼しているという点を考慮しても立ち直りが早すぎると思ってね」
「ふむふむ」
興味津々な表情でちとせの話を頷きながら静聴していくもふら。
「急激な変化というのは本来少しずつ受け入れるものだよ。お兄さんだってそうじゃなかったかな?」
「ぬぅ…たしかに」
女の子と化した兄の行動を思い浮かべながら頷くもふら。たしかにまひろも変化の受け入れは少しずつだった。ほぼ完全に受け入れるまで1ヶ月はかかっていただろうか。
「大人ならその変化に対応出来る人もいるだろうけど、君はまだ中学生の子供だ。普通は難しいものだと思うよ」
「普通だとあり得ない……つまりボクは選ばれし才能の持ち主ということなので?」
「うーん、ポジティブだねぇ」
どちらかと言えば異常者の部類に入るのだが、そこに口を挟むのも無粋だろうと考え、ちとせは話を戻していく。
「さて、本当に多重人格かどうか質問をしよう。もふら君、まず君に思春期は来てるのかな?」
「……? 質問の意味が…」
いきなり何を言ってるんだろうかこの教授は、とでも言いたげに変人を見るかのような瞳でちとせを見やるもふら。そんな視線を気にせずちとせは話を続けていく。
「まあまあ、カウンセリングの様なものさ。あまり気にせず素直に答えてくれると嬉しいかな」
「えぇ……まあ良いですけど。思春期ならたぶん来てないんじゃないですかね。自分ではよく分からないですけど」
「ふむふむ、自己分析は少しは出来る方と…しかし自身への興味関心は薄めかな?」
返答を聞くと、すぐさま小声で呟きながらメモを取っていくちとせ。いきなりメモを取られてもふらは少しビックリしていたが、そんなことは気にせずちとせは質問を続けていく。
「それじゃあ次の質問ね。次は──」
「ちょっとストップで……ちなみにですけどこの質疑応答、あと何回やる予定です?」
「なあに、早ければあと9回程さ。10分もあれば済むはずだよ」
「地味に多いなぁ…」
ため息を吐きながら、ちとせの質問一つ一つにしっかりと受け答えしていくもふらであった。
そして十数分後。
「うん、これにて終了だ。お疲れさま」
「やっと終わったぁ…」
「うへぇ…」と疲れた表情をしながら声を漏らすもふら。謎の質問ラッシュに精神的疲労がかなり蓄積されてしまったようだ。
「それで、こんな質問で何か分かる事でもあったんですか?」
「いや? 何も分かってないけど?」
「…は?」
ちとせのあっけらかんとした様にもふらはしばらく思考が停止してしまっていた。本気で言っているなら今までの時間を返してほしい、と心の底から叫びたくなってしまっていた。
「さっきまでの時間は一体なんだったので?」
「君の人となりを知りたくてやってみただけさ。いやぁ、良いデータが取れたなぁ!」
「…みは姉捜しに行ってきますね。ついでにアナタとは距離を置くように伝えときます」
「いや冗談だって。ちゃんと結果は教えるから座って座って」
必死な形相で止めにかかるちとせの姿にもふらはため息を1つ吐いてから座りなおす。正直、何処までが冗談なのかを言ってないぶん、たちが悪いと思っていた。
「まずは結果を伝えよう。君に多重人格障害の疑いは…ありだ」
「…そうですか。知らず知らずの内に新しい人格が出来てたんだなぁ」
「まあ待ちなさい。あくまで疑いがあるってだけだよ。勿論、君に自覚症状がないのならただの杞憂で終わる可能性だってある。それに…」
「それに?」
ちとせは少々思案してから再び口を開く。
「君のその矛盾した性格や行動も全てがまとめて1つの人格である可能性が出てきたのさ」
「う~ん…?」
多重人格だと言ったというのに、今度は人格は1つだけだと告げてこられ、もふらは少々混乱してきた。
「…つまり結局どっちなので?」
「言ったはずだよ、何も分かってないって。結局のところ、自分の事が分かるのは自分だけだ。多重人格なのか一面的な人格なのか、その判断は君自身に委ねる事にした」
ちとせはそう言うと、持っていたメモを片付けて引き出しの中に入っていた栄養ドリンクを一本丸々飲み干していく。なんだか一仕事終えたような飲みっぷりに見える。
「なんか中途半端に提供してから適当に投げてませんか?」
「ふふふ、大人は皆そんなズルい生き物だからね」
「教授がそうなだけな気がするんですけど」
何故か得意気な顔をして言ってくるちとせに、もふらは再びため息を吐いて反応を返すのだった。
「しかし、かれこれ20分は経っているのに誰も戻ってきませんね」
「お昼休憩中だからねぇ。早ければそろそろ誰か帰ってくる頃合いだと思うけど」
「……あ」
辺りをきょろきょろと見渡していたもふらだったが、ちとせの一言により思い出してしまった。話し込んでいるうちに、すっかり忘れてしまっていた目的を。
「ああーーっ!!」
「ど、どうしたの突然叫んで」
「弁当~~っ!!」
持ってきていたバッグから急いで中身を取り出すもふら。中からはみはりがよく持参している布包みが出てきた。これどうすれば良い? とでも言ってそうな表情をしながら無言でちとせに訴える。
「あ~…忘れ物ってお弁当の事だったのか。気づいてあげられなくてごめんね」
申し訳なさそうに両手を合わせて謝るちとせ。
さすがにこれだけ時間が経ってしまえば、みはりも食堂に行って大学の仲間と一緒に昼食を食べている事だろう。つまりは任務失敗だ。
悲しみに打ちひしがれるもふら。1人では配達1つすらこなせない自分の無力さに、そして名前も知らない謎の少女に助けられたのを台無しにしてしまったことに対して、悔しい思いが溢れて仕方がなかった。
そんなもふらを見て気の毒に思ったのか、ちとせは彼の肩にポンと手を置いて慰める。
「きょ、教授ぅ~~…!」
泣きそうな顔になりながらちとせに感謝の叫びを聞かせていくもふら。それを見てよしよしと頭を撫で続けて、もふらの気持ちを落ち着かせていくちとせ。客観的に見ると何だこれ状態なワンシーンとなっていた。
そしてそんな訳の分からない状況の中、遂に誰かが戻ってきたのか、ドアがゆっくりと開かれていく。
「戻りました先輩──って、一体なにこの状況…?」
何かの資料を腕に抱えながら入って来たのは白衣を着た少女──と言うかみはりであった。みはりは室内に入った途端、何故か自分の指導教員が何故かここに来ている弟の頭を何故か慰めるように撫でているのが目に入る。端から見れば意味が分からなすぎた。
そんな姉の姿を遠い目で見ながらすっ、と質問に答えるかのように無言で弁当箱を掲げるもふら。それだけで姉は全てを察した。
「なるほどね…だいたい話は分かりました。まったく、もふらはいつも無茶して…」
「いや、よくそれだけで状況掴めたね?」
まだ一言も発してないのに発揮したみはりのその謎の理解力に、ちとせは珍しくツッコミを入れる。とりあえず、何か齟齬があってもいけないので、改めて状況を説明していった。
「──という訳さ。もふら君と出会ったのはまったくの偶然でねぇ」
「そんな事が……それにしてももふら、よくここまで辿り着けたわね。いつもなら迷子にでもなってそうだけど」
ちとせの説明を受け、現在の状況を明確に把握していくみはり。そこで新たな疑問をぶつけられたもふらは、当時の状況を思い出しつつ返答していく。
「えぇと、実は親切な人に助けてもらってね。そのおかげで何とかここまで辿り着けたんだ」
「そうだったの。後でその人に改めてお礼を言っておきたいところだけど…」
「残念ながら連絡先どころか名前すら聞けてません。同年代ぐらいの青い髪をした女の子だとしか分かってないんだ」
「同年代…? 誰かの親戚の子なのかな?」
「…ふむ」
特徴を伝えたもふらの言葉を聞いて、ちとせは思いあたる人物でもいたのか少し考える素振りを見せる。その様子に疑問符を浮かべて見やる姉弟の視線に気付くと、「ああ、気にしないで」とだけ告げ話を変えていく。
「それよりもみはりちゃん、昼食はまだだろう? せっかくなんだし、弟君が持ってきてくれたお弁当でも食べてきたらどうかな?」
「えっ? 昼休憩の時間だいぶ過ぎてるのにまだ食べてなかったの?」
「あ~、その…やる事が多くてバタバタしちゃってて」
「そっかぁ、大学生は色々と大変だもんね」
「いやそれもあるんだけど、そうじゃないというか…」
いまいち煮え切らない態度をとるみはりに、もふらは首を傾げていた。みはりの様子を見て、このままでは昼休憩も終わってしまう事を危惧し、ちとせが助け舟を出す。
「…みはりちゃん。どのみち彼には遅かれ早かれ話さなければならないことだ。今から教えても問題ないんじゃないかな」
「先輩……そうですね。もふらにも協力して貰ってるからにはちゃんと言わないとですよね」
「みは姉…?」
「もふら。詳しい説明は後でするから、まずはこれだけ聞いて」
真剣な表情でもふらを見るみはり。何だか兄を女の子にすると宣言した時のような謎の緊張感を感じ、一体何が来るのだろうかと、もふらは内心ドキドキする。
そしてみはりはゆっくりと、そして高らかに宣言する。
「近日、お兄ちゃんを学校に通わせる事にします!」
「…………はい?」
なんだかデジャヴな流れを感じた。先ほどの緊張感はあながち間違ってはいなかったのかもしれない。
「…いやまあ、唐突なのは今に始まった事じゃないし別にいっか。それで、今度は学校に通わせるって手続きとかどうするの?」
「切り替えが早い…!」
「日頃の行いのせいかもしれないねぇ」
重大発表のつもりで宣言したつもりだったのだが、軽く流していくもふらの姿に、みはりは成長の嬉しさと寂しさと少々の悲しさが入り混じった微妙な表情をしてしまう。
そんなみはりの姿に苦笑しつつ、ちとせはもふらに資料を見せていく。中身は機密事項なので外観だけではあるが。
「この通り、手続きの類いは万全さ。みはりちゃんも講義やレポートがある中、懸命に頑張ってくれたからね。あと5日もあれば転入挨拶まで漕ぎ着けれるんじゃないかな」
「いや、はっや…! 5日て、さすがに急すぎて
「そこはまあ、いろいろとやりようがあって…ね♪」
「やだ怖い…」
悪戯っぽい笑みをしながらとんでもないことをするちとせに背筋が凍るもふら。治験の為に普通ここまでやるのだろうかと思ったが、これを聞くのは何だかヤバい気がしたので止める事にした。
「ま、そんなことより早くお昼食べに行ってきなさい。それともふら君、時間があるなら後でお兄さんの細かい設定作りに協力してもらえると助かるよ。少しでも考える時間は短縮しておきたいからね」
「承りました」
「それじゃ先輩、先に失礼しますね」
ちとせに手を振って見送られながら、みはりともふらはコンピュータ室のような部屋を後にする。
「そういえばなんだけどもふら、自分の分のお弁当持ってきてるの?」
「フッフ、抜かりなし。きちんと目玉焼きとオムレツと作り置きされてた玉子と野菜たっぷり炒飯を入れた弁当が入ってるよ!」
「偏りがひどいなぁ…」
他愛もない話に花を咲かせながら、昼食を取る場所へと移動する姉弟。謎にドヤ顔を披露するもふらに呆れつつ、みはりは弟の健康の為に弁当の中身を一部交換しようと考えるのだった。
まあ、たまにはそんな日があるのも悪くないだろう。弟が作れる数少ない料理を大学で味わえることなど、そうそうないのだから。
ところ変わって資料室。調べものをする際などに使われるこの一室にて、その場の雰囲気に似つかわしくない中学生ぐらいの少女が1人佇んでいた。
少女の名は天川なゆた。吾妻ちとせの異母姉妹にして自称助手だ。休日にたまにこうして遊びにやって来る事があるようで、今日もいつも通りにこの場所へとやって来たらしい。
「……! おねーさん、お邪魔してるのです」
「やあ、なゆちゃん♪」
資料室に入ってきたちとせの姿を確認すると、パアーッと表情が明るくなるなゆた。元々ここに来てる目的はだいたい彼女であることが多いので当然の反応ではあるのだろうが。
そんななゆただが、いつもよりちとせの声色がやや明るい感じに聞こえ、ふと疑問に思う。
「…なんだかご機嫌なのです?」
「実はうちの教え子の研究にちょっとした良い変化があったんだ。それと、それを手伝ってくれている小さな協力者君にも会えてね」
小さな協力者という単語に引っ掛かりを覚えたなゆたは、本日たまたま出会った1人の少年の事が頭に浮かんできた。
「…緒山もふらさんのことです?」
「やっぱり親切な案内人って言うのはなゆちゃんのことだったか。ふむふむ…そんななゆちゃんに質問があるんだけど良いかな?」
「質問…ですか?」
珍しい事もあるのです、となゆたは思った。普段から質問する事はあってもされることは滅多にないのだから。
タイミング的にもふらの事だと分かるが、なゆた自身も今日知り合ったばかりの相手の事など所感でしか話せない。一体どんな質問とんでくるのだろうかとぐるぐる頭の中で思案していると、そんななゆたの考えを汲み取ったのか、ちとせはなゆたを見て微笑みながら口を開く。
「はは…なに、簡単なことだよ。彼の印象はどうだったかってだけの質問さ」
「印象、ですか? ふむぅ……何と言うか不思議な人──というよりちぐはぐな人? というのでしょうか。そんな印象を感じたのです」
「だいたい私と同じ感想だねぇ。となると、やっぱりあれが素の状態ってことで合ってるのかな」
「どういうことなのです?」
「実のところ私自身、彼のことを初めは多重人格者だと思っていてね、試しにいくつか質問をしてみたんだ。でも驚くことに症状に当てはまる回答が少ししか返ってこなくてね。いや~、あの時おねーさん困っちゃったなぁ、ホント」
もふらとの質疑応答を思い返し、わざとらしく困った声をしながらなゆたへ丁寧に説明をしていく。
「結果的に多重人格障害の可能性はほんの数パーセント程のものになったけど、おかげで余計に彼の事が分からなくなってしまったよ。仮説なら一つ思い浮かばなくもないんだけども、正直普通はあり得ないしなぁ…」
考えに嵌まってしまったのか、ちとせはしばらくうーんと唸るが、やがて意を決したかのような顔をすると、一つ頷いて思考を振り払う。
「よし、これ以上は考えても仕方がないから止めるとしよう。しかしまあ、こんなことなら心療の資格でも取っておけば良かったかなぁ…でも最近そこまでする余裕がないんだよねぇ」
珍しく悩んだ顔をするちとせを見て、これは自分が役に立つ時なのでは? とでも思ったのか、なゆたはキラキラした目をしながら宣言する。
「大丈夫なのですよおねーさん。それならぼくが取ってくるのです!」
「あはは…なゆちゃんなら本気で取ってきそうだ。でも取らなくても良いからね?」
下手したらやり過ぎてしまうので、下手に動かないよう止めておこうと考えるちとせであった。
(しかし…もし本当に私の仮説が正しい場合、もふら君はある意味当時のまひろ君よりもずっと危険な状態だ。自我を守る為に行動する
しかし長々と仮の想像をしていたが、やがて止めることにした。
今はとりあえず、彼に自我が形成されている事を祈るとしよう。そう考え、吾妻ちとせはこの仮説を記憶の隅にしまいこむことにした。
閲覧ありがとうございます。ちとせ先生って謎が多すぎて心理カウンセラーの資格持っててもおかしくない気がするけど、この作品では持ってない事にしときます。普通に医療資格持ってるしまひろを学校に通わせる手続きするし、下手したらこの人マジで何でも持ってるんじゃないかって気がするけど、一応ね。ちなみにちとせ先生の仮説を一言で表すなら他人至上主義者ってところです。幹のない木のようなものです。
さて、次回でようやくお兄ちゃんが学校に通う事に。これで中学生組と本格的に話に絡ませられるようになりますね。なるべく早く話をあげられるように頑張ります。