「あっ…んっ…もふら……っ。それ…ダメ…っ!」
「………」
「そんな…っ…ダメ……っ! 落ち…落ちちゃう~~ッ!」
「まひー、周回遅れ確定でございます」
「落ちちゃった…」
現在時刻は15時を過ぎた頃。ゆうた・みなとと一緒にリビングでゲームでもやろうかと思っていたところに乱入してきた
ジャンプ台に障害物を均等に置いていくもふらの極悪戦術に片っ端から嵌まっていくまひろ。その(危ない)叫び声を聞いて集中力が乱れ、壁や障害物にぶつかっていく友人2人を余所に、もふらは容赦なく一位をかっさらって行った。そしてまひろはこの試合、トラップにかかりすぎてビリになってしまったもよう。
「ねえ、事前に決めておいた罰ゲーム、やっぱりなしにしても良いんじゃない?」
「ぐぬぬぬ…!」
普段通りの顔をしながら提案をしてくるもふらの姿にまひろは大層悔しそうな表情をする。2試合連続で弟に一位を取られているこの状況に、まひろのゲーマーとして──そして兄としての意地と威厳とプライドが刺激された。もはやこうなると、弟より上に立たないと気が済まないのが世の常だ。
(だが、こう見えて奴はミニターボの使い手。ちょっとやそっとの妨害じゃすぐに追い抜かれてしまう。ここからオレが勝つ算段は…)
「ごめん、ちょっとトイレ」
どうやって仕留めようか考えていると、もふらが一時休憩で席を離れて行った。弟の無双っぷりをどう思っているのか、ふと残された2人の男子の方を見るが、その視線に気づくと顔を少し紅潮させながら目線だけ逸らされた。
特段何かした覚えはないのに何故逸らしたのか気になるまひろだったが、今はそんな事よりどうやって勝負に勝つかが重要だ。作戦を考えるにしても1人でやるよりは2人、2人でやるより3人でやる方が成功率も上がる。弟のいない今この時を好機と見計らい、すぐさま2人の側へと近寄っていく。
「ねえ、2人とも~」
「緒山…!?」
「な、なに…!?」
「ちょ~っとだけ手伝って欲しい事があるんだけど~」
人差し指を口元に当てたあざといポーズをしながらゆうたとみなとに頼み事をするまひろ。本人は完全に無意識でこのポーズをしていたと言うのは内緒の話である。
そこには兄としての威厳もプライドもまるで感じない魔性の女の姿だけが映っていたもよう。
「一時はどうなるかと思ったけど、意外と上手くやれてるな」
手を洗いながら安堵の息を吐くもふらは、今朝のみはりとの会話を思い返していく。
『緊急の案件?』
『うん、研究室の同期の人が大変そうでね。普段お世話になってる人だし、同じ同期の立見ありかさんと一緒にその人のお手伝いに行くことになったの』
『…ありかさんってたしか、大学行った時に会った何か妙に親戚のお姉さん感あるあのウェーブ髪のお姉さんだよね…』
名前を聞くとともに少々気まずそうな顔をするもふらの姿に、みはりは何かに納得したような表情をした。
『あ~…もふら、ちょっと苦手そうにしてたっけ』
『良い人だって事は分かるんだけど、初対面でああも距離感近い上に優しく接されると逆に怖いと言うか何と言うか……教授みたいにテキトーな性格してる人だとこっちも気楽で良いんだけどね』
『先輩…』
良い事ではあるのだろうが、仮にも大学の准教授が同じ研究室のメンバーにならまだしも初対面の少年相手にここまでフレンドリー──もとい軽く見られるのはそれはそれでどうなのだろうかと、みはりは自身の指導教員に付けられた評価に少々同情した。
『まあ、それはそれとして。今日帰って来れないんだったら夕食は出前頼んで大丈夫?』
『うん、お金置いておくから何か自由に頼んでてちょうだい。それよりも、お兄ちゃんの事で話があるんだけど…』
『ん? 何か問題あったっけ…?』
『…いい、もふら? よく聞いて。もふらは男の子としての自覚があまりないようだからこの際ハッキリ言うけども』
『え…うん』
発言を窘めるような真剣な眼差しで見つめるみはりの姿に、もふらは少したじろぎながら話を聞く。
『中学生の男子が女の子と一つ屋根の下で暮らすというのは本当はかなり危険な行為なの!』
『な、なんだってー!?』
『本来思春期真っ只中の男子が女の子としての自覚が薄いどころか、自分のことを男だと思っている子に近づかれでもしてみなさい。距離感近くてすぐパーになっちゃうから!』
『そ、それじゃあこのままだと2人は…』
『ええ。お兄ちゃんの手によって間違いなくパーにされるわ』
『そ、そんな…! パーの意味はよく分からないけど一体どうすれば?』
『私から言える事は一つよ、もふら。お兄ちゃんのスキンシップを阻止しながらお泊まり会を楽しみなさい』楽しみなさいなさいさい…
最後の一言に謎のエコーをかけながら回想を終了するもふら。どうすべきかあれこれ悩みながら今にまで至ったが、特に何も起きない事に少し拍子抜けしつつリビングへと戻っていく。
正確に言えば気軽に肩をポンポンと叩いたり、急接近してきたり、胡座かいてスカートの中が見えそうになったり、ゲーム中に危ない叫び声を出したりと既に事は起きているのだが、もふらには姉に言われたスキンシップの基準がよくわかっていなかったもよう。
「お待たせ~。さ、続きやろっか」
「あ、ああ」
「……?」
少ししてから戻ってきたもふらは、ゆうたのぎこちない返答を疑問に思い首を傾げる。そんなもふらの思考を遮るように、まひろがふと1つの提案をしてきた。
「なあもふら、1つ勝負しないか」
「別に良いけど…」
「この試合、勝った方は負けた方に1つ何でも命令を送れる、というものはどうだ」
「良いよ。あまり無茶なお願いじゃなければね」
「よし、交渉成立だ!」
意気揚々と話を進めていくまひろの態度を訝しみ、もふらはふと他の2人の様子を伺った。ゆうた・みなと両名が何だか気まずそうに視線を逸らしたのを確認すると、点と点が繋がったかのような静かに確信に満ちた表情をする。
「……なるほどね」
「ん? いま何か言った?」
「ううん、なんでも」
まひろの疑問に対して首を横に振って否定し、すぐさまレースゲームを再開する。
レーススタートと同時、もふらは一番近くのアイテムボックスの上まで移動すると、すぐさま待機を始めた。
(ん? なんで後ろから動かずにいて──)
「…よし、狙いのアイテムゲット。それじゃ行くよ」
追い越すまひろの疑問も束の間、もふらの画面に映っているアイテムにぎょっとする。
「まずは雷ドーン。そして星を使って猛ダッシュ、からの落ちてるマッシュを拾って加速加速」
「え、ちょっ…!」
「先のアイテムボックスからタートルボールをゲットしてまひーにシュート! そして残りの時間はひたすらミニターボ!」
「うそっ…待っ……あーーーッ…!?」
状況を口走りながら全プレイヤーとCPUを追い抜き独走するもふら。だがそれでも、彼はその勢いを止めずに自機を走らせていく。
「最後にショートカットして──そしてゴールッ!」
「……何これ」
既存のベストタイムより1分近く早くゴールしたその瞬足っぷりに、まひろは思わず目を丸くしてしまった。全くもって訳の分からない結果である。しばらくポカンとしていると、その様子を見たもふらが笑みを浮かべながら口を開いた。
「フッフッフ。ゆうとみなにこっそり協力を依頼していたようだけど甘かったね」
「なん…だと…?」
「実はこのステージのショートカットエリアは前日既に調べていたのさ!」
「な…ななな……ッ」
(まあ、こんな状況でもなければ使う事はなかったんだけど…これは言わなくても良いか)
わなわなと震えるまひろを余所にもふらは独りでに納得する。
「なんて卑怯な奴だ…ッ!」
「
兄の必死の叫びにイヤイヤと手を横に振って反論をするもふらだった。
数時間後。ゲームも一通り終え、出前のピザで楽しい夕食パーティーをし、それから少しすると、突如思い立ったかのようにもふらは口を開いた。
「──という訳で何でも命令権と罰ゲーム、受けてもらいます」
「唐突! …あ、あまり無茶な要望はするなよ…!」
「罰ゲームはお風呂掃除と片付け全般だったかな。さて、命令権の方は何にしようか? うーん、何でもと言うと逆に思い浮かばなくなるんだよねぇ……そうだ、2人は何かある?」
「えっ!?」
「緒山に…何でも、命令……」
いきなり話を振られ、慌てて命令内容を想像するゆうたとみなと。しかし、そこで何を想像したのか。少しすると2人の顔から大量の湯気が吹き出してくる。さすがのもふらもそれを見て様子がおかしい事に気づき慌て始める。
「ゆう!? みな!? しまった、この発言はパーだったのか!」
「…パー? 何のはなし?」
「あ、気にしないで。それより先にお風呂掃除お願い。終わったら先に入っといて! 2人はボクが何とかしとくから!」
「あーわかったわかった、そう焦んなって。敗者は勝者に大人しく従っとくからさ」
「どうどう…」と圧の凄い弟を落ち着かせてから風呂場へと向かうまひろ。その姿を見届けたもふらは、ゆうたとみなとを元に戻す為にしばらく思案する。
(さてどうしよう…こういった事は初めてだから元に戻す方法とか何とか全くもって検討がつかない。でもまひ兄があの場にいるよりはまだマシだと思いたいけどこのままじゃ何も進まないでも何とかしたいけど何も思いつかぬ…ぬぅ~、ぬぅ…Zzz………ハッ)
考えすぎて眠りに落ちてしまい、それから少し経ったところで一つの案が頭に浮かんだ。ゆうたとみなとのある種、妄想の海に浸っている今の状況は夢を見ている状態とそう変わらない。ならばやる事は一つ。起こせば良い。
もふらは2人に近寄ると大きく息を吸っていく。
「ぬぅ~~、わッ!!」
「「…はっ!?」」
大声で短く叫ぶとハッと我に帰る2人。その姿を見てもふらはホッと胸を撫で下ろした。
「よし、何とか成功」
「あ、あれ?」
「俺達たしか──」
「2人とも、これ以上の無理は良くない。もう少ししたらお風呂空くから早く入って頭冷やしてそしてリセットしよう、うん」
何が起きたのか分からず混乱しているゆうたとみなとが状況を把握する前に、肩をガッと掴みながらうんうん頷いて素早く入浴を勧めていく。
2人が疑問符を浮かべながらお互いの顔を見合わせていると、ナイスと言わんばかりの良きタイミングで風呂場から兄の声が聞こえてきた。
「もふら~、上がったぞ~」
「ほらほら、お風呂空いたから着替えの用──」
そう言いかけてもふらは1つの事に思い至る。そう、着替えという単語を口にした事により、1つの状況が頭に浮かんでしまったのだ。
(──そう言えばまひ兄の着替えって基本的にみは姉が用意して……と言うか掃除しに行ったあと着替え取りに来たっけ…? あれ、じゃあ今のまひ兄の格好…)
──瞬間、もふらの脳内にシミュレートされた。最悪の結末。
『おーいもふらぁ~? 返事ぐらいしろっての。まったく──』
『お、緒山…!?』
『な、なんではだかで…』
『──ん? ……あっ!?』
『『パーー!!』』
(あおおおぉぉんッ!!)
ドアを開けた後に出てきた兄の裸を見て壊れる2人の姿を想像したもふらは、すぐさま風呂場へと駆け抜ける。
「間に合え…! 間に合えぇぇえ!!」
ほんの数メートルの距離をスポーツ漫画の如く熱狂的な声を上げながら全力疾走していくもふら。ドアが開き始めるのを確認すると、力強く跳躍した。
「おーいもふらぁ~? 返事ぐらいし──!?」
ドアをスライドしたまひろの視界にまず入って来たのが、こちらへダイブして来る弟の姿など、兄どころか誰だろうと予想出来る筈もなく、「おわーっ!?」と言う叫び声を上げながら、飛んで来た弟にぶつかり、背中から勢い良く床に叩きつけられるのだった。
「いてて……っておい! いきなり何突撃してきて…」
「いっつ…な、なんとか守りき──ってあれ? 服着てる」
ぶつかった際の痛みから我に帰り、ふと正面を見るもふら。その目に真っ先に入ってきたのはピンクのネグリジェを着たまひろの姿だった。
「いきなり裸族扱い! おまえなぁ、兄のこと何だと思っ──ひゃう…」
「……ん? 何か右手に柔らかいものが…?」
固い床ではありえない柔らかさを疑問に思い、自然と視界を自分の右手の方へと移すもふら。その先にあったのは女の子にのみ許された二つの膨らみの内の一つ、要は胸をがっしりホールドしていた。
更に自分の状態をよく見てみると、床の上に仰向けになっているまひろの上を覆い被さってるような態勢をしており、まるで押し倒しているかのような状況に成り果てていた。
「?? 、??? 、?????」
「お、おい。もふら…?」
(え、なにこれやわらか。と言うかいくら相手がお兄ちゃんでもこの態勢はさすがにやわらかマズイんじゃ早く離れやわらかないと色々と誤解されるおっぱいあばばばば)
兄を押し倒した状態のまま自分の右手を見つめ続けはや数秒。しばらく放心したまま動かないでいる弟を心配するまひろだったが、当の本人は初めての体験で脳の処理が追い付かずバグってしまっていることを知らない。
「ぱ……」
「…ぱ?」
ようやく口を開いたもふら。その一文字目が既におかしいと思いながらもまひろは聞き返す。
「ぱーになるぅ…」
「そういうのいいから早く離れてくれ…」
「もふら? 一体何やって…」
「あっ…」
「「えっ…」」
遅れてやって来たゆうたとみなとに現在の姿を見られ、徐々に青ざめた顔になるもふら。ピンチの状況になってようやく思考も現実に戻ってきたようだ。
「…ちちち違うからこれはっ! 違わないけど違うから! とにかく今は見ちゃダメ~ッ…!!」
「み…見てねーし!」
「…それより早くどいてくれもふら! 動けん」
「何故か右手が動かないんだよぉ…!」
「えぇい! この性に疎いピュアブラザーめぇーっ!!」
とある冬休みの夜、おそらく今年一番のドタバタ騒ぎの声音が、この時辺りに木霊していたという。
しばらくして。ゆうたとみなとの両名は湯船に浸かりながら先程までの状況(の極一部)を思い返していた。
「なあ…」
「うん…」
「緒山、凄いイイ匂いしたよな……」
「うん…」
「寝間着姿、イイよな……」
「イイ…」
2人はお風呂にいる間、延々とまひろの良さを確認し合うのだった。
一方その頃。何とかその場を乗り切り、ゆうたとみなとを風呂場へ送ることに成功したもふらは、まひろへ先ほどの行動の謝罪と説明をしていた。
「──という訳。さっきはごめんまひ兄。でもこれ以上2人をパーにするのは止めてほしいんだ…!」
「だからパーって何だ! 分かるよう言えって」
「…実はみは姉にこう言われて」
今朝みはりと話した内容が書かれたメモをまひろに渡す。読み終わったまひろは改めてもふらへと向き直った。
「…いやいやそんな、魔性の女みたいな…大体オレは男同士、そしてある種の先輩として接しているだけであって──」
そう言いながら改めて男子達に接していた自分の姿を客観的に見つめ直す。
「………」
「まひ兄…?」
(…いや待てよ。改めて考えてみると)
行動の一つ一つをまひろは思い返していく。よくよく考えてみると彼らへ行った行動の大半が思春期男子には刺激が強いものだと気づいてしまった。
そんなまひろの姿に困惑したもふらは、これ以上この話題を深掘りするのはいけないと判断し、すぐさま話題を変えることにした。
「そ、そうだ…! まだ命令権残ってたし、そろそろ使っても良いかな?」
「…どうした突然? まあ良いけど」
「よし、なら命令権発動! まひ兄、抱き枕貸して」
「なにその命令? …持ってない」
「じゃあ抱き枕になって!」
「何で…!?」
「駄目か。ならさっきの事故として帳消しを!」
「いや、だから…! ───なんて?」
変な流れが出来ていた為、しばらくこの妙な要求が続くのだろうと思っていたタイミングで予想外の要望が届き、思わず聞き返してしまう。
その予想外の要望を届けてきた当の本人は何だか恥ずかしそうな表情で目を逸らしながら、その理由を口にした。
「不可抗力とはいえ、その…まひ兄の、揉んじゃった訳だし」
いつもの調子は何処へ行ったのやら、弱々しい声でそう呟くもふらの言葉に「ああ~」と納得した声をあげる。
「いやでも兄弟なんだし、そこまで気にする必要…」
「兄弟だからこそ、そういった事にはもう少し繊細であるべきだとボクは思う。その積み重ねで
「それは…」
「ボクはもう、まひ兄に拒絶されたくない…」
「もふら…」
暗い表情になるもふらの言葉を聞いて思い起こされるは、引きこもっていた時の
しばらくの思考の後、意を決したような表情でまひろはもふらへと向き直る。
「…わかった。でも命令権は使用禁止だ。そう言う事は自分の力でちゃんと解決しろ」
「…うん!」
(でも、そうだな。こいつはどれだけ経っても何処まで行ってもオレの弟だもんな)
弟の発言を思い返しながら、まひろは物思いに耽る。
(家族だからこその配慮と積み重ね…か)
その発言に何か思うところでもあったのか、少しするとクスりと笑った。その姿を見て、もふらは疑問符を浮かべる。
「何で笑ってるの…?」
「ん~…いやまあ、何だ。おまえに配慮や繊細さを言われる時が来るなんてなぁ~、と思っただけだよ」
「どういう意味それ…?」
「気にすんなって。それよりゆうた君達そろそろ上がる頃だろうし、おまえも入る準備しておけよー」
「……? はーい」
まひろの発言に疑問符を浮かべながらもふらは自分の部屋へと歩きだす。
「──ホント、幼稚園の頃とは別人になったなぁ…」
部屋に着替えを取りに行くもふらの後ろ姿を見届けつつ、緒山まひろはそう呟くのだった。
深夜前。全ての作業を終え、後は寝るだけとなった時間帯。
ベッドが一時的に移動させられ、幾分か広くなったもふらの部屋のど真ん中には均等に敷かれた3つの布団。その内の中央の布団に座ったもふらは、何だかとてもテンションが上がった状態でゆうたとみなとに話しかける。
「…さぁて! どうするなにする?」
「おちつけおちつけ」
「どうどう…」
まるで桜花あさひのようなテンションの高さで何の話をするか聞いてくるもふらを宥めるゆうたとみなと。何故そんなにハイテンションなのか気になるところだが、ガールズトークならぬボーイズトークをする前にまずは彼に言いたいことがあった。
「なぁ、もふら」
「?」
「その…今日は誘ってくれてありがとな。すごい楽しかった」
「もふらが誘ってくれるの何だか意外だったし、僕もゆうたも嬉しかったよ」
「えと、どういたしまして?」
「何で疑問形…?」
礼を言われるのに慣れていないのだろうか、何処と無くぎこちない返事をするもふらにくすっと笑うゆうた。それに釣られてかみなとも笑い出したので、余計に困惑するもふら。
「…なんかズルいなぁ。2人だけ共感してるその感じ」
「はは、悪い」
「まあ、もふらもクラスの男子にはズルいって思われてるからおあいこって事で」
「えっ、なにその情報。何か嫉妬されるような事あったっけ?」
「いや、それは…」
「ねぇ…?」
「……?」
純粋な瞳で疑問をぶつけてくるもふらに対して、ゆうたとみなとは少し気まずそうに目を逸らす。
クラスの女子と何故か妙に親しげというだけでもアレだというのに、男子と妙に距離感の近い病弱美少女の妹がいるという部分が余計に質が悪かった。まるでギャルゲーの世界からやってきたような男に嫉妬しないのは、おそらくあっち系の住人ぐらいなものだろう。
当の本人にそんな気持ちが微塵もないのは、そこそこ長く付き合ってきた2人にも分かっているが、一から説明しても理解するかどうか怪しいので黙っておくことにした。
「ま、まあそれよりさ! 別のこと話そうぜ」
「そうそう…!」
「えっ? う、うん」
それからは3人で色んな話をした。と言っても漫画やアニメ、映画やゲーム等、男子なら誰だって話せるようなありきたりなものだけではあったが、時に泣いたり笑ったりと、楽しい一時が過ぎていく。
「………」
そんなもふら達の談笑を部屋の入口前で静かに聞いている人物が1人。
(…暇なら映画でも見せようかと思ったけど、どうやらお邪魔だったみたいだ)
静かに微笑みながら、緒山まひろはゆっくりと自分の部屋へと歩きだす。
「…今回ぐらいは朝飯作ってやるか。兄の威厳も保てるしな!」
うんうんと頷きながらそう呟く。出来るのは精々食パンと目玉焼きぐらいではあるが、その行為が男子にどれだけの影響を及ぼすのか、
「──あれ、いつの間にかこんな時間だ」
「話してるとあっという間に時間って過ぎるよね」
時計を確認すると、時刻は既に0時を過ぎていた。成長期の男子がこれ以上起きているのは体に悪い。そろそろお開きにしようかともふらが考えていると、ふと真剣な表情でゆうたが口を開く。
「…なあ、もふら」
「うん?」
「その…どう、だったんだ?」
「どうとは?」
真剣な表情で聞いてくるも、いまいち要領を得ない発言に首を傾げる。
「お、緒山の…」
「まひーの?」
「揉んでただろ。その…あそこ…!」
「どんな感触だったのかなぁ、と……いや、別に興味ある訳じゃないけどね、うん…!」
「そうそう…! 別に興味はないけど、もふらが悩んでいるならちゃんと聞いておかないといけないからな…!」
「別に悩んでる訳じゃ──いや、言うよ。言うから瞳孔閉じて2人とも目が怖い」
言葉とは裏腹に何だか興奮気味なゆうたとみなとの圧にたじろぐもふら。2人を落ち着かせるとオホンと1つ咳払いをしてから真剣な表情で向き直る。
「──長くなるよ?」
もふらの言葉に静かに頷くゆうたとみなと。
2人の表情を見たもふらは覚悟を決めてあの時の感触をゆっくりと説明していく。自らの感想と想像と比喩を用いて、自身の知識をフル稼働させながら小一時間じっくりと説明していった。後半に差し掛かる頃には2人の顔は赤く染まっていたが、もふらは構うことなく感想をぶつけていく。
「──というのがボクの感想さ。どうだった?」
「あ、ああ…!」
「う、うん…!」
上手く言葉が出せないでいるゆうたとみなとの様子を見た後、もふらはあの感触を再び思い返しながら自身の右手をじっと見つめ続ける。
(…ごめん、まひ兄。嫌われたくはないけれど、どうしてもあの感触が、やわらかさがボクの頭から離れなくて…)
何だか悔しそうにも見える複雑な表情をしながら、もふらはここにはいない兄にひたすら懺悔するのだった。
こうして男子3人は全員同じ家にいる
「………」
翌朝。一体何があったのかと思いながらも、目に隈の出来たヤバい表情をしている3人に思わずたじろいでしまい、ゆうたとみなとが帰るまでの間、まひろは無言でその様子をただただ眺めることしか出来ずにいるのだった。
「そんで、結局何があった?」
「おっぱいは宇宙。宇宙はおっぱいって話さ…」
「…は?」
何かを悟ったような表情でそう言うもふら。この日1日中、もふらの発言がおかしくなり、帰ってきたみはりにマジの心配をされて病院に連れていかれそうになったそうな。
閲覧ありがとうございます。もふら、遂におっぱいを知る。男として一歩前進した…のか?ちなみに残った命令権は男子達が帰った後に布団の洗濯と運搬を一緒に行うというもので使いました。もふらにヤバい命令出すような頭脳も度胸もありません。
とりあえず男子ィ達の性癖破壊イベント、これにて終了です。本当はお兄ちゃんとゆうた君みなと君の絡みをもっと出したかったのですが2万文字行きそうだったので泣く泣くカットしました。おかげでほぼダイジェストになってしまった…
補足:ありかさんとは弁当配達の日にみはりに紹介されるかたちで出会っている設定。小さい子供が好きなので身長低いもふらはどストライクだったようだが、行動が裏目に出て逆に距離を取られてるもよう。
一緒に紹介されたつばささんは割と好印象持たれてるらしいが、たぶん猫のコスプレとかして出会ったらこっちも避けられると思う。そんな状況はまずないが。
特に必要ない補足:みはりちゃんとありかさんが手伝いに行った同期の人はオリキャラです。もふらと関わる事が今のところないので本格的に出すかどうか不明。ドジッ子成人女性とかいうリアルに考えると中々ヤバい属性持ち。