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それは私──穂月もみじが小学三年生になって少し経った頃の話。
『ボクと、友達になってくれませんか…?』
『『よろこんで!!』』
体育の授業中に行ったドッジボールの試合を経て、1人の
名前は緒山もふら
そんな私達がお友達になって数日。雨上がりの日に近所のグラウンドでサッカーをしていた時のこと。
「あさひシューート!!」
「なんのっ! もふらガーード!!」
あさひの放つ弾丸シュートを体ごと飛び出して弾くもふらちゃん。初めこそ反応が遅れていたものの、徐々に防ぐ回数が増えていき、今では私達も手こずる程の凄いキーパーになりつつあった。
「やるなぁ! もふもふ」
「フフフ、お兄ちゃんに(半ば強引に)秘密の特訓に付き合ってもらったからね。この程度の動き、朝飯前さ」
「今は昼だぞ…?」
「そう言う意味じゃないから…」
もふらちゃんの言葉に疑問をぶつけるあさひへ言葉の意味を説明した。最後まで聞いても理解してたのかどうかは怪しいところだったけど。
「それにしても、みんな随分と汚れちゃったねぇ。早く家に帰って洗った方が良いかも」
「うわ、ホントだ。ちょっとはしゃぎすぎたなぁ…」
指摘を受けて初めて自分の格好を確認したもふらちゃんは、ちょっと落ち込んだ表情をする。
「どしたぁ? そんなに落ち込んで」
「その服、汚しちゃ駄目だったとか…?」
「ううん、そうじゃなくて……その…2人と遊ぶのが楽しかったからさ。もうお別れだと思うとね」
残念そうにするもふらちゃんを見て、あさひが何かを思い付いたような表情をする。
「だったらもみじろうの家でお風呂に入ってから遊ぶのはどうだ? ここから近いし」
「も~、だからもみじろうって呼ばないでよ……でも今は家に誰もいないし丁度良いかもね。もちろん──」
「もふもふが良ければだけどな~!」
大事な部分をあさひに取られた……まあでも、もふらちゃんの気持ちが一番大事だし気にしないでおこう。
「……いいの?」
「もちろん。あっ、着替えは私のやつで大丈夫? あまりかわいいのはないけど…」
「気にしないで。と言うか可愛いのはさすがにボクも抵抗が…」
どうやらもふらちゃんもかわいい格好は苦手らしい。何だか親近感が湧く。
「そんじゃ、もみじん家まで出発~!」
「お~~! ……ん? そういえばなんで可愛いのが必要か聞いてきたんだろう?」
家に向かって歩きながら、先程の言葉に首を傾げるもふらちゃん。
この発言にきちんと耳を傾けていれば、この後の事件が起きずに済んだのかもしれない。と後悔することになるとは、この時の私は思いもしなかったのだった。
「ちょっと狭いかもしれないけど、みんなで一緒に入っちゃおっか」
「もみじと一緒に入るの久しぶりだな~!」
「この間入ったばかりじゃなかったっけ…?」
家に帰ってすぐ、お風呂を沸かしてから脱衣場に入る私たち3人だったが、もふらちゃんはなんだか困惑した表情をしながら立ち尽くしていた。
「……え?」
「どうしたの?」
「え…えっ…? 一緒に…入るの? あさひちゃんも…?」
「?」
「みんな同性なんだから問題ないと思うけど…もしかして一緒に入るの嫌だったり?」
「みんな…同、性……?」
その単語を聞いたもふらちゃんは頭の処理が追い付いていないのか、大層困惑した表情でしばらくその場で考え込み、やがてその顔が血の気が引いたような表情へと変化していく。
「そ、その…! ぼ…ボク後で入るから! しばらく外で待ってます!」
「えっ…急にどうしたの!?」
いきなりの離脱行動に私が驚いていたところを、あさひはもふらちゃんの両肩を素早く掴んでその動きを止めた。
「まあまあせっかくだしな。もふもふも一緒に入るぞ~」
「わ~~ッ!! ダメダメ止めてッ!! ボクは──」
もふらちゃんの叫びをよそに、あさひは遠慮なしに下着ごとズボンを脱がした。少しは加減してあげなよとは思うけれど、早くお風呂に入らないといけないし、こうなったあさひを止めるのは凄く苦労する。もふらちゃんには悪いけど、仕方ないと思って許容しておこう。
「……生えてる」
「へ…?」
急に静かになったあさひの言葉に思わず着替える手が止まってしまった。
──生えてる、って一体何が…?
おそるおそる振り向いたその先にあったのは──
「──ボクは男だよぉ…っ!!」
あさひによって下半身が丸裸にされて涙ぐんだもふらちゃん──いや、もふら
──男の、子…? ……え?
「えぇぇぇええーーっ!!?」
この時の私は、音の籠る脱衣所にいながら明らかにご近所迷惑になるぐらいの声量で叫んでいたと思う。だってしょうがないでしょ。
こんなに可愛い子が男の子だなんて、普通思わないもん。
「……う…うぅぅ…っ」
リビングの隅で泣きながら体育座りをして縮こまるもふら君。お風呂から上がった後でも辛い体験は中々消えないものらしい。
「あ…その、ごめんね気づかなくて…!」
「ハハ…謝らないで……二人の着替え見なかった分ダメージは低いし…ボクが恥を捨てれば良いだけの話だし…と言うかむしろあんな物見せてこっちこそごめん…」
言葉とは裏腹に表情が乾いているもふら君。相当ショックを受けてるみたい。
「──ねえ…ちなみにあさひにだけ一緒に入るのを疑問に思ったのって、もしかして私のこと…」
「はい…男の子だと思ってました。もみじろうなんてあだ名付けられてる子が女の子だなんて普通思わないじゃないか…」
「………」
私自身、彼の事を女の子だと勘違いしてたのもあって、あまり深くは言い返せないのが現状ではある。
でも私に関しての勘違いは大体隣で笑っている女の子のせいだと思う。
「あーさーひー…?」
「ごめんごめん~」
軽い口調で謝るあさひ。本当に悪いと思っているのかな。
「ただいまー」
あさひを窘めていると、不意に帰宅の挨拶が届いてきた。この声は──お姉ちゃんだ。ドアを開けて入ってきたお姉ちゃんは、もふら君に気づかないまま、まずこちらの方へ目を止める。
「あら、あさひちゃんいらっしゃい。今日ももみじとスポーツ帰り?」
「もみじのねーちゃんだ。今日は3人でサッカーしてきた!」
「うんうん、元気なのは良いことだね……ん? 3人? あともう1人はどんな子──」
キョロキョロと辺りを伺うお姉ちゃんの視線は隅で縮こまっているもふら君へと止まった。
「……あっ…こんにちは、もふらと言います……お邪魔してます…」
「あ…うん。こんにちはー……何かあった?」
沈んだ表情で挨拶するもふら君に困惑しながらお姉ちゃんは疑問をぶつけてきた。
「えーっと…」
「裸見たら凄い落ち込んだ」
「え、裸…?」
「あさひ、ちゃんと説明しないと伝わんないから。実はねお姉ちゃん──」
さっきまでの出来事を簡単に説明した。それを聞いたお姉ちゃんは何だか納得したような表情になる。
「──なるほどねー。たしかにショック受けるよそれは。もみじだって男の子に見られたら嫌でしょ?」
「うん。だからこそ対応に困っちゃってて…」
「そっかぁ…それなら後はお姉ちゃんに任せてもらえる?」
「え、でも…」
「こういう時は第三者が寄り添うのが相場だって決まっているものなの。大船に乗ったつもりで待ってなさい」
そう言ってお姉ちゃんはもふら君の下まで近寄って2人でこっそり話し合う。こういう時、お姉ちゃんはいつも頼りになる。
「──ね? こう考えるとあまり気にならないでしょ?」
「…たしかに! ありがとうお姉さん──いや…姉御!」
「あ…姉御!?」
「むぅ~…」
お姉ちゃんとものの数分話すと、もふら君はいつもの調子を取り戻していた。でもそれはそれとして、いくらなんでもこの短時間で距離が縮まりすぎじゃない? 一体何を話してきたんだろう。
「姉御かぁ…何だか変な感じするねその呼び方」
「あっ…嫌だった?」
「ううん。むしろ新鮮な感じだし、親近感も湧いて嬉しいかな」
「ほっ…良かった」
「ふふ、これからも妹達と仲良くしてね、もふら君」
「それはむしろこっちからお願いと言うか何というか…」
「なんだか謙虚な子だね~。しかし、こう改めて見てみると…」
「?」
「この子、誰かに似てるような…?」
そう呟いたお姉ちゃんの姿を、もふら君は不思議に思ってそうな表情でただただ見つめているのだった。
この事件があった数日後。もふら君は髪をバッサリと短くしてきた。さすがに私やあさひ、それにクラスの皆や先生にもだいぶ驚かれていた。本人曰く、戒めの意味も含まれているらしいけれど、どこまで本気で言っているのかは依然として不明のままだったりする。
以前の髪型がかわいかった分、ちょっと勿体なく感じたけれど、それは私の心の中にしまっておくことにした。
それから数年が経過し、ふとした拍子に温泉旅館に泊まることになった。疎遠になりつつあったもふら君から謝罪とこれまでの体験の告白をされてから仲直りをし、一緒に温泉に入った彼の双子の妹であるまひろちゃんの様子がおかしいのを確認したその夜中。
皆が寝静まったこのタイミング。私はある確認をする為にまひろちゃんの浴衣の下を見ることにした。
──もふら君の例がある以上、まひろちゃんにだってその可能性は十分にある。でももしそうなら、どうしてもふら君と一緒に入らなかったのかが分からなくなっちゃう。出会った時に女の子の格好をしていた事への誤魔化しだったのか、それとも他に理由があるのか。
いずれにしても、確認するのが一番早いのはたしかだった。眠っているまひろちゃんが被っていた毛布を取り払い、浴衣を脱がしていく。
ごめんねまひろちゃん。どうしてもこの確認だけはしておかないといけないから。
浴衣の下にあったのは。
「……つるつる」
「…つるつる?」
いつの間にか起きていたまひろちゃんの言葉も耳に入らないまま、私の心は何だか安堵に包まれていた。
ああ…今度はちゃんと──女の子だった。
「……あの…もみじさん…?」
「……あっ…」
まひろちゃんの一言で我に返る。自分の手は未だにまひろちゃんの浴衣にかかっている。この状態をどう説明するべきか考えていると。
「ななななななな…っ!!」
「……ハッ!!」
まひろちゃんの隣の布団から驚いている声が聞こえてきた。もふら君だ。どうしようこの状況……どう説明すれば……こうなったら。
「う…うーん…むにゃむにゃ」
何も思いつかないので寝たフリをすることしか出来なかった。さすがに男の子だと思ったから確認しました、なんて言える筈ないよ。
「~~~?」
「~~~!?」
2人が小さな声で何かを言い合っている声が聞こえる。私の行動についてと言う事なのは想像に難くなかった。
その日、私は謝罪や気まずさや言い訳を考えたり等、色んな要素が絡みあって一睡も出来ずにその夜を過ごした。
翌日の朝。お姉ちゃんにヘアアイロンをかけてもらったまひろちゃんの髪には、ふわっとしたウェーブが出来上がっていた。
「おお~! まひーの髪にウェーブが」
「やっぱふわふわはいいな~~」
興味津々な表情を見せるもふら君に、ふわふわになった自分の髪の感触を嬉しそうな表情で堪能するまひろちゃん。
そういえばもふら君はかわいい格好するのは抵抗あるって言ってたし、それに比べればまひろちゃんはいつもかわいい服を着て喜んでる。今回のパーマもそうだけど…性別が分かれているなら双子でもそういったところで差があるのかもしれない。
「………」
うん…そうだよね。こんな可愛い子が男の子だなんてこと、二度もあるはずないよね。
「ふむ…ウェーブの作り方にメイクの仕方、と。姉御の言うことはいつも未知の物ばっかりだなぁ。今の内にメモメモっと」
「何で記録してんの? まさか自分に使うなんてこと、ないよな…?」
困惑した表情をしながらツッコミを入れるまひろちゃん。
──もふら君、ホントに男の子…だよね?
昔と少し違う行動をする彼に、何だかしばらくの間、混乱しそうな気がした。
閲覧ありがとうございます。旅館でのもみじの行動理由がちょっとプラスされています。だいたいもふらが悪い。
出会って数分で姉御呼び。高校デビューしてからも派手な子チームに姐さん呼びされる辺り、そう言う運命にあるのかもしれない。ちなみにもふらの姉御・姉さん呼びは商業版のおまけ見る前に考えてたので、被ったの確認した瞬間どうしようかと思いつつも結局そのまま進めました。字が違うからセーフ。