今回結構好き勝手書いております。
『御覧くださいこの華やかなイルミネーション。街はカップルであふれかえり、クリスマス一色です』
12月24日。世間はクリスマスムードとなっている。テレビから流れるカップルへのインタビューを耳にしつつ、まひろはゲーム、みはりは雑誌、もふらはスマホを見ながら、それぞれ思い思いにゆったりと過ごしていた。
しかしそんな最中、インタビューを耳にしたまひろはふと毒気づいた。
「…か~~ッ、まったく目の毒だ! こんな日は家でまったりゲームに限る…なぁみはり!」
「お兄ちゃんと一緒にしないでよ」
ソファーの上でゴロゴロしながら同意を求める兄に呆れた表情をしながらみはりは言葉を返した。しかしその呆れ顔はやがて悪戯っぽい笑みへと変わる。
「私はこれからデートだし♪」
「…………………なにぃ!?」
「……?」
突然の衝撃発言にただただ驚愕するまひろに対して、もふらは姉の一挙一動にどこか違和感を感じているのだった。
みはりのそんな宣言から数十分後。デートへと出かけに行ったみはりを見送った矢先、まひろは訝しんだ顔をしながらおもむろに口を開いた。
「…おかしい」
「なにが?」
「デートだよデート。家事に研究三昧でロクに遊びに出かけてもいなかったあいつが? どう考えてもおかしいだろ」
「それはだいたいボクらのせいじゃ…」
混ぜるな危険と書かれた洗剤を複数入れる兄の姿と、真っ赤に染まった料理と言うのも
ぶっちゃけかなり足を引っ張っているが、その自覚は自身にもあるみたいなので、まひろは特に反論はせずに話を逸らすことにした。
「…と、とにかく考えても埒があかん。こうなったらみはりを追うぞもふら。今ならまだ追いかけられるし」
「なんで?」
「おまえは気にならんのか! あのみはりの相手だぞ」
「うーん…みは姉はしっかりしてるし、そこまで気にする事ないと思うけど」
「おまえはあいつの事を何も分かってない! 普段からオシャレ・メイク・ヘアアレンジという女子の嗜みから遠くかけ離れたやつだぞ。絶対相手に何かあるに決まってる!」
「なんて怒られそうな発言を…!」
興奮した様子で力説するまひろ。それを見ていたもふらは、姉が今の話を聞いてなくて良かったと心の底から思うのだった。もし聞いていたらその時どうなるのかは…あまり想像したくない。
そんな想像を掻き立てていると、兄はふと説明を止めて頼み事をしてくる。
「って訳だから一緒に付いて来て」
「ごめんまひ兄、ボクも今から用事あるから出かけないと」
「……なん…だと…!?」
当てが外れたのか驚愕の表情を浮かべるまひろ。納得がいかないのか、すぐにグイッと物理的な距離を詰めながら問い詰めてくる。
「まさかデートか!? おまえもデートとか言うつもりなのか!」
「いやいや! それこそまさかでしょ」
「だったら何だ。やましい事がないなら大人しく言ってみろぉ!」
「ええー…」
兄の剣幕に押されて今回の用事の内容を考える。本日行うはみはりの指導教員である吾妻ちとせへのまひろの学校生活の報告、そしてある問題点に対する相談だ。断じてデートではないのだが、これを当人にそのまま伝えるのは確実に良くない事はもふらにもわかっている。
考えに考え、とりあえず簡潔に述べることにした。
「うーん……分類的に言うなら宿題、かな」
「………なんか…ごめん…」
(同情された…)
さっきまでの勢いは何処へやら。もふらの発言を聞いたまひろはいたたまれない気持ちになったのか、なんだか気まずそうな表情を向けていた。しかし、少しすると何が頭に浮かんだのか、その顔が次第に焦りを持ったものへと変わり、あわあわしだす。
「…ハッ! いや待て待て。そんなことより、もふらが来れないならオレは一体どうやってみはりを追えば」
「そろそろ1人でも行けるようになりなよ……とりあえず誰か一緒にいれば問題ないんでしょ? つっきーとか誘ってみたらどう?」
「もみじ…? たしかにもみじなら来てくれるか?」
「………」
もふらの意見を聞いて思案したまひろは、すぐにスマホを取り出してメッセージを入力し始めた。その姿を見やりながらふと、もふらは姉の相手の事を考える。
(…みは姉も今にして思えばなんか怪しい表情してたし。あの表情から察するに相手はたぶん……姉御かな。もしそうだったら、つっきーもまひ兄の頼みだし断ることもそうないよね)
うんうんと頷きながらそんな考えを張り巡らしていると、スマホのメッセージ着信音が鳴った。まひろが緊張した面持ちで画面を覗いていたが、そこに書かれていた内容を見ると、その表情は緩んでどんどん明るいものへとなっていった。
どうやら一緒に行ってくれるらしい。その姿を見たもふらは一安心して息を吐く。
「よ、よーし…もみじも了承してくれたし、これで護衛の心配はいらないな。待ってろよみはりめぇ…オレの目が黒い内は絶対にデートなんぞさせんからな!」
「目的すり替わってない?」
そう怨みつらみを述べるまひろに対し、相手の確認するだけでは? と言いながらもふらは疑問符を浮かべるのだった。
そんな兄との会話からしばらくして。宣言通りにお出かけしたもふらは用事の為にやって来た目的地であるとある街中にて1人ポツリと佇んでいた。
「…思ったより早く着いちゃったなぁ。何して時間潰そう」
時間を確認すると予定より30分程早く着いていた。普段引っ掛かっている信号に1つもかからなかったのが大きいのだろう。こんな日に限って無駄に運が良かった。
しかし今回に限っては良くない。この寒空の中、外で何もせずにボーッと立ち尽くすのは辛いものがある。どうしようかと悩んでいると、ふとスマホが振動しだした。どうせ暇だから丁度良いか、と思いながらメッセージを見ると。
「これは…」
『メリカニ~』
あさひからクリスマスメッセージと蟹を持ちながらピースしている彼女の画像が送られていた。今夜か明日には蟹パーティーなのだろう。
「はは、豪華だなぁ」
『メリクリ』
『メリークリスマス』
あさひの画像を見てそう呟いていると、続けて2つのメッセージが届いた。ゆうたとみなとからだ。2人からは画像を送られることはなかったものの、この先のパーティーを楽しむような文章が届いた。皆、それぞれ思い思いのクリスマスを過ごすようだ。
「タイミング良いな皆…実は示し合わせてた?」
そんな考えを口にしながらも、自身の口元は緩んでいた。そんな自分の状態に気付かないまま、皆のクリスマスを見たもふらはふと思ったことを呟く。
「…そういえばみは姉、今年のクリスマスは何かするのかな…?」
昨年も一昨年もパーティーはしていない。と言うよりその場にいない兄を除け者にしたままパーティーが出来るほどみはりももふらも厚かましくはないのだ。
しかし、今年はその兄が女の子になり、外に出て、友達も出来、何事もなかったかのように兄妹皆で普段通りに交流してきた素敵な年だ。みはりもそれは分かっているだろうし、何かプレゼントを用意してくる可能性は充分にあるだろう。
それならば、自分が何も用意しないという選択はあり得ない。思い付く限りで一番無難に喜ばれそうなものを考えた。
「…とりあえず、後でケーキでも買いに行こう」
皆で仲良く食べる姿を想像し、口元を緩めながらもふらはそう呟いた。無難すぎる物ではあるが、問題はないだろう。早速近所にあるケーキ屋さんをスマホで調べていく。
「…しかし、最近ケーキも色々あるからなぁ…どれが一番喜ばれるのか皆目見当もつかないや」
「これとか喜ばれるんじゃない? みはりちゃんも一度食べてみたいと言ってたしねぇ」
「へ~なるほどなるほど。みは姉はこのケーキがオススメと…………ぬわぁっ!?」
ぶつぶつと呟きながら購入するケーキを探していると、突如後ろからアドバイスが飛んできたことに驚き、急いで振り向いた。その先にはもふら目下の待ち合わせ相手である女性、吾妻ちとせがにこやかな顔をしながら立っていた。
「やぁもふら君。息災なようでなによりだ」
「教授、いつからここに!?」
「『今年のクリスマスは何かするのかな…?』って呟いてた辺りからかな~♪」
「結構前! 来てたなら普通に声かけてくださいよ……って、ん?」
「おっと、ようやく気づいたみたいだね」
「キミはたしか──」
ちとせにぎゃいぎゃい言いそうになるところで、彼女の後ろに寄り添っている人物に目が移った。もふらもその人物には覚えがある。以前とは違い、全体的に防寒性に長けた服装となっているが、その特徴的なニット帽と肩ぐらいの長さに揃えられた青い髪は忘れる筈もない。そう、姉の大学に行く際に道案内してくれたあの少女だ。
「──そうだ! あの時の親切な名無しの子!」
「名無しではないのです」
「わざわざ大学に来てるから誰かの知り合いじゃないかとは思ってたけど…」
「はは…実は私の知り合いだったとは予想していなかったようだね」
「予想なんて出来ませんよ。まさか…」
驚愕の事実を耳にし、大層驚いた表情を浮かべるもふら。そんな表情を浮かべながら口元に手を当てて言葉を続ける。
「…まさか教授のお子さんだったなんて!」
「そんな歳じゃないやい」
本気なのか冗談なのかわからない声色で言ってきたもふらの発言を、ちとせはバッサリと切り捨てるのだった。
寒空の中、長話をするのもなんだったので、近くの喫茶店に入り一息ついてからちとせ達は話を再開する。
「それじゃあ改めて自己紹介しとこっか」
「天川なゆたです。名乗るのが遅れて申し訳ないのです」
「………」
丁寧な口調でペコリと一礼をする青髪の少女ことなゆた。彼女の自己紹介を聞いていたもふらは口をポカンと開けたまま彼女の姿をじっと見ているのだった。
「どうしたのですか?」
「いや、なんか随分あっさりと名乗ったなぁ…って思って」
「あの時は一度きりの出会いだと思っていたもので…」
「なるほどそういう……あれ? ところでどうして今日は一緒に? もしかして…」
「うん。おにーさん──まひろ君の事については既に説明済みだよ」
皆まで言わずともわかっている。と言わんばかりに、ちとせは先んじてもふらの聞きたい事を口にした。それを聞いてもふらは納得と同時に安心した表情をする。
「なるほどやっぱり…それでは改めて質問を。今回は何故2人でここに? まひ兄の学校生活について報告するだけの筈では?」
「ふふ、それはだねもふら君。1人寂しく佇んでいる君に、なゆちゃんと仲睦まじいところを見せつける為──あっ、待って! みはりちゃんに連絡するのは止めて!」
「反応が早くなってる…だと…?」
スマホを取り出した瞬間、止めにかかったちとせの姿にもふらは驚きを隠せずにいた。何故ならこの教授、変なところで成長を遂げているのだから。
「おねーさん、いじわるはダメですよ?」
「うーん…なゆちゃんにも叱られちゃったし真面目に答えるとしようか」
(最初から真面目にやってほしいんだけどなぁ…)
指でバッテンマークを作りながらそう言ってくるなゆたに諌められ、話を仕切り直すちとせ。場の緊張を解きほぐす為なのか、それともただ揶揄っているだけなのか。若干呆れ気味になるもふらを余所に、ちとせは衝撃の発言を口にする。
「単刀直入に言うとね、なゆちゃんを君たちの通う学校に転入させようと思っているんだ。今回はその為の挨拶と言ったところかな」
「…………え?」
「まひろ君の学校生活でのサポーターというやつさ」
転入、そしてサポーター。予想外の単語にもふらはしばらく理解が追いつかないでいた。反面、彼のその反応を見て予想通りの展開だと言わんばかりの表情をするちとせは、もふらの意見を待つことなく話を続けた。
「君の報告はおそらくこうじゃないかい? 学校での関係は良好。しかし、性別の壁が原因で体育等の男女別で受ける授業でのサポートが出来ないので、この時もし薬の効果が切れてしまえば文字通りおしまいになってしまう。と」
「うっ、気づかれてた……その通りです。だから今回はその点をふまえて女の子になる薬をみは姉に内緒でくすねてボクにこっそり渡して貰おうかと思って報告…いや協力を依頼しに来ました」
「そう言うだろうと思ったよ。やはり君は…」
「?」
心配そうな顔でもふらを見つめるちとせ。何故そんな顔をするのだろうか、と言わんばかりの表情をしながらもふらは疑問符を浮かべる。
少しの間沈黙の時が流れると、ちとせはそれ以上は何も言わない方が良いと判断したのか、話はそこで切られるのだった。
「……いや、何でもない。とにかくその件はこれにて解決さ。手続きにはまだ時間がかかるけど、次に薬の効果が切れる頃には十分間に合う」
「…キミはそれで良いの? 元の学校の友達とも下手をすれば会えなくなるかもしれないよ?」
話を戻すちとせの言葉を聞きながら、もふらは先程の彼女の態度を気にしつつも、当事者でありながら静かに会話を聞いていたなゆたへと話を振った。
「問題ないのです。おねーさんとは既に話し合いましたし、それに…」
「?」
何だか言いにくそうな表情をするなゆたの姿に疑問符を浮かべていると、ふとスマホのバイブが鳴りだした。「ちょっと失礼」と言って開くと、そこに書かれていたのは目の前にいる女性から送られたもので……
『メールで失礼するよ。当人には内緒にしておきたいので静かに見てほしい。実はなゆちゃんに同い年の友達と言える子は殆どいなくてね。この子は同世代の子達には人見知りし、大人相手なら平気だという変わった子なのさ。今回の話も本当は中身が大人のまひろ君を通して友達を作ってほしいってだけなんだ。君たちを利用しているようで申し訳ないけれど許してほしい。そして出来ればどうか君も、なゆちゃんの友達になってあげてほしい。この子が歳の近い子相手にここまで普通に話すことは珍しいし、きっと仲良くなれる筈だから』
(…教授)
これだけの長文だ。きっとこの展開になる事を見越してあらかじめ書いておいたのだろう。天川なゆたの為を思ってのその行動は、なんだか姉が自分に対して行う行動に少し似ているような気がした。
何を思いながらなのか、ふともふらは視線をスマホからちとせへと移した。
「おや? そんなに見つめてきてどうしたのかな?」
「…何でもありませんよ」
こんなメールを送っておきながら、いつも通りの悪戯っぽい笑みを浮かべながら質問してくるちとせ。その表情を見たもふらはなんだか敵わないなと思いながら、送られてきたメールに『勿論』とだけ返信してスマホを閉じた。
「もう大丈夫?」
「ええ」
「それは良かった。まあ、とにかく…なゆちゃんの事は心配しなくても大丈夫だよ。今はこれからのことを考えるとしようか」
「そうですね。それじゃあ、まずは学校内での事を──」
…ありがとう、もふら君。
報告中、微かな声でそんな言葉がもふらの耳には入ってきたような気がした。
「──さて、挨拶も報告も済みましたし、今さらですが1つ思った事を聞いても良いですか教授?」
「いいともいいとも」
全ての予定が一段落し、ちとせの姿を…主に目の辺りを見ながら改まってそう口に出すもふら。その疑問に対しておちゃらけたような返しをするちとせ。それに対しもふらは特に何もツッコミを入れることなく話を進めていく。
「目の隈凄いんですけど、大丈夫なので?」
「ははは、たしかに今さらだ。大丈夫大丈夫、ちょっと四徹したぐらいだから」
「全然大丈夫じゃなかった…」
あからさますぎる空元気を見て開いた口が塞がらなくなるもふら。
「もっと余裕のある時にしても良いのに、どうして
「大人とは仕事に追われた悲しい生き物でね…」
「そういうのいいですから」
わざとらしく悲しげに振る舞うちとせの言葉をもふらは無表情のままバッサリと切り捨てた。もふらもその可能性は考慮していたが、ちとせの態度を見る限りこれが主たる理由ではないと判断したのだ。
そんなちとせも彼にバッサリと言われたからか、真面目な顔をしてもふらへと向き直り口を開く。
「そうだねぇ。実は君と一緒にクリスマスを過ごしたかった…と言ったらどうする?」
「早く休みましょう」
「少しくらい真面目な質問として受け取って欲しいんだけどなぁ」
「真面目に捉えた上で言ってるんですよ。時間はボクに使うよりもっと自分の体調管理に使ってください。それでも聞かないならばこれを飲んでもらいます」
もふらのそんな宣言と共にゴポゴポと謎の音を発する赤い液体が入った水筒がドンッ! とテーブルの上に提示された。
「…いまそれ何処から出したの?」
「ポーチから。約12時間熱が冷めないカイロ代わりにもなる優れもの。もふら特製の栄養ドリンクでございます」
「ドリ…ンク…?」
「熱気が凄いのです…!」
暖房の効いた喫茶店内で何故か湯気が出てる上にゴポゴポと音が鳴る謎の液体を見てちとせは表情が固まり、なゆたはそのあまりの熱気に思わず
「…え、大丈夫これ? 本当に飲んでもいいもの?」
「あぁ、大丈夫ですよ。一応飲んでも意識が飛ばないのは我が身を持って証明したので」
「まさかの自己確認済みかぁ…と言うか意識が飛ぶのもあったんだね…」
研究者さながらの人身御供っぷりにちとせは少し引いた。意識が飛ぶ可能性がありながら飲んだところに余計ヤバさを感じたからだろう。
「今回のは意識の代わりに眠気を飛ばす逸品ですよ。しかもカフェイン0で栄養価もそこそこ、冷え性にも効き目あり。それがお値段なんと今ならタダです」
「通販かなにか?」
「どうです奥さん? これを飲むか今すぐ休むか早く選んでくださいな」
「誰が奥さんだい。飲むのは少し──いやかなり躊躇われるけど、しかし効能が本当ならば興味深い。ここは……南無三!」
一杯注いだ赤い液体をまるで恐ろしいものを見るかのような目をしながら、ちとせは一気に飲み干した。明らかに飲まない方が良いものについ手を出してしまうのは研究者の性なのだろうか。隣で見ているなゆたがハラハラしているのにも関わらず、普通に飲んでしまう。
対面で見ていたもふらも(マジか…)とでも言いたそうな目でそれを見ていた。
「…まさか本当に飲むとは。実は研究者ってみんなこんな感じなのかな」
「あれ…もしかして飲んだら危ない感じ?」
「それは教授の耐久力次第かと。効き目はあると思いますけど、味の酷さと激辛による痛覚の刺激が凄いですからねこれ」
「何でそんな物持ってきてるの君…しかし、その程度のことは既に織り込み済みさ。研究者としてこの程度の経験、何度も──あっ、待って。何だか胃の奥から変な感覚が…」
「いけない、早速効果が! …すいません、ミルク1つ──いや2つお願いします!」
数分後。謎の液体RXを飲んでダウンしていたちとせは甘いミルクと持ち前の研究者ガッツにより何とか回復することに成功した。なゆたに背中をさすられながら話を進めていく。
「…おねーさん、大丈夫ですか?」
「けほ…っ……はぁ…っ! うん、なんとか…ね……何だろうこの、二日酔いとも研究中の薬を誤って飲んでしまった時とも違う感覚……喉と胃の中がまだ熱いんだけど…君よくこんなの飲んでたね?」
(こんなの呼ばわりされた…)
「しかしこれは新しい研究材料…もしくは栄養ドリンク代わりになるかも。後でみんなにも共有しておこうかな」
「…新手の地獄?」
至って真面目で真剣な顔をしながら公開処刑を宣言してくる教授に、もふらは後に来るこの難局をどう乗り切ろうかと考えるのだった。
「それにしても、確かに効き目が凄いねこのドリンク。嫌でも目が覚めてしまう…と言うか目が冴えすぎて逆にヤバい気さえしてくるよ」
「それだけが利点みたいな物ですからね……さて、これで教授を休ませるのは失敗しましたし説得するのは諦めます。これから何をするので?」
「もちろん決まっているとも。3人でデートだよデート♪」
「………」
勢いよくそう宣言するちとせの声を聞き、もふらはしばらく某宇宙の猫のような状態になった。理由を考えてみるも正直全く意味がわからないので素直に問いかけることにする。
「……聞き間違い?」
「いや、合ってるよ?」
「…なんで会ってまだ間もない相手とその発想になるので?」
「ふっふっふ…君がナンパ男子だという話をなゆちゃんから聞いていてね。一度ぐらい付き合ってあげないと可哀想だろう?」
「キミ…」
よりにもよって何故その部分までこの教授に伝えたの、と言いたげな恨めしい表情をしながらなゆたの方へ視線を向けた。そんな視線を向けられたなゆたはブンブンと首を横に振って否定の意を唱える。
「おねーさんの曲解なのです…!」
「…んん?」
「ああ、なゆちゃんの話を聞いて私が勝手に判断しただけだからそこは安心していいよ。しかし反応を見るに、ホントにナンパ男子だと言われてたみたいだねぇ?」
悪い笑顔をみせるちとせ。あの時の行動こそ伝えたものの、ナンパ男子だとかの冗談めいた会話までは彼女に伝えていなかったらしい。まあ結局バレてしまっては正直意味はないが。
「…まああの発言じゃあ、正しくはあるんだけども…なんだかなぁ…」
もふらははぁ…とため息を吐いて1人ごちるように呟くのだった。
喫茶店を出てから少し歩き始めると、ちとせは何か気にかかっていたのか、突如もふらにちょっとした注意のようなアドバイスを送りだす。
「しかしまあもふら君。なゆちゃんがせっかく自己紹介したというのに、いつまでもキミキミって呼ぶのは男としてどうかと思うよ?」
「それは男としてと言うか人としてだと思いますけど…たしかにそうですね。でもこうして友達になったのなら普通に呼ぶだけじゃなんか味気ないしなぁ…何かあだ名を考えないと」
「…友達」
友達という単語に嬉しさと驚きが混じったような複雑な表情をするなゆたを余所に、うーんと唸りながら色々なあだ名の候補を浮かべては排除していく作業を頭の中で繰り返していくもふら。
やがてその考えが纏まったのか、誰に見せるでもなく1人軽く頷いてからなゆたの方へと向き直る。
「…うん、それじゃあしっかりした雰囲気を纏っているところに親しみを込めて──なゆた助手、って呼んでも?」
「助手?」
「…なんで助手?」
「え~っと…サポートしてくれるところとか合ってそうだし、それになんかいつも教授の身の回りの世話とか率先してやってそうなイメージがあったもので」
「君の目には私がダメ人間として映っているのかなぁ?」
「い、いやそうでなく…! むしろ忙しくて自分の世話が出来なくなってる所謂社畜みたいなイメージがあるというか…!」
「社畜じゃないよ。徹夜作業する時もあるけど違う違う」
「説得力が死んでる…」
はは、と笑いながら手を横に振って否定するちとせ。その反応を見たもふらは、つい先ほどの
そんなもふらの考え等つゆ知らず、ちとせは「それよりも」と言いながらなゆたの方へと向き直る。
「…普通に名前で呼ぶより長くなってるけどこの呼び方で良いの? なゆちゃん」
「……は、はい! それで良いのです……いえ、間違えました」
ずっとあだ名の事について考えていたのか、何だかボーッとしていたなゆたはちとせの言葉に促され、流されるかのように返事をしてしまうが、少し思案すると首を横に振って訂正した。
「──それが良いのです!」
笑顔でそう返すなゆた。嘘偽りなく気に入ってくれたようでもふらは何だか嬉しくなった。愛称を決めるだけだったが、これ程喜んでくれるならよく考えてから決めておいて本当に良かったと思い、うんうんと頷く。
「…これで堂々とおねーさんの助手と名乗れるのです!」
「……あだ名だよ?」
むふーと満足げに鼻息をたてながらそう述べるなゆた。実はそっちが目的で喜んでいたのだろうか、とちとせは思うのだった。
「ただいま~」
「おかえりー」
「おかえり。随分と遅かったね?」
その後、あっちこっち移動と遊びを繰り返したちとせ達とのデート? を終えたもふらは夜になってようやく帰宅する。先に帰っていたまひろとみはりに出迎えられると、一息ついた後に本日行った内容をある程度…というより大部分をぼかしながら説明するのだった。ちとせ曰く、「報告内容となゆちゃんのことについては、2人にはまだ内緒でね…♪」とのことだ。
「ふーん…先輩とお出かけねぇ」
「あの人も色々と考えているみたいだよ。今回もみは姉の負担軽減の為らしいしさ」
「…本当にそれだけ?」
「う、うん…!」
訝しんだ目をしながら聞いてくるみはりにビクッとしながら返答するもふら。明らかに疑われているのは自分のせいなのか、それともあの教授のせいなのか。そんな考えを巡らせていると、当の姉は一応は納得したかのように態度を軟化させる。
「まあ、それなら良いんだけど……でも気をつけてよね? 下手な事すると先輩が捕まっちゃうから」
「いったい何の話? 下手な事? 捕まる?」
みはりの言ってる事が1ミリも理解出来なかったもふらは、終始疑問符を浮かべ続けるのだった。
「──まあ、それはそれとして」
(はぐらかされた…!)
「はい、これ」
そばに置いてあった紙袋から取り出されたのは見るだけで温かそうなマフラーだった。みはりはそれをもふらの首に巻いてあげる。
「これって…!」
「メリークリスマスもふら」
「……うん! メリークリスマス」
プレゼントを用意しているという予想はしていたが、それでも渡されるとやはり嬉しいもので、思わず涙が出そうになるのをグッと堪えて返事を返すのだった。
「おお~っ、ホールケーキ!」
「そっちは教授からのプレゼント。そしてこっちはボクから2人に」
「あら? このケーキ」
「食べてみたいって言ってたんだよね?」
「…うん! ふふっ、ありがとねもふら~♪」
「ちょっ、頭撫でないでよ~っ」
「肉だ! ケーキだ! 宴だ~っ!」
「あっ、いま取り分けるから待ってお兄ちゃん!」
クリスマス。夜の緒山家にて、家族の談笑が響き渡る。三年越しのそのパーティーは、今までの穴を埋めるかのように今までよりずっと楽しい時間になりそうだった。でもきっとこれからのパーティーも、彼らの心に今よりも楽しい思い出を刻んでくれるのだろう。
きょうだいの絆が続く限り。
「「「メリークリスマス!!」」」
閲覧ありがとうございます。長々と書きましたが、今回の話はもふらのなゆたんの呼び方決めがメインです。あまり深く考える必要はありません。
次は.5話枠として省いたデート?回を書きます。次は早く書けると良いなぁ…