きょうだいはおしまい!   作:虎之丞

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原作で時間軸の分からないストーリーは自分のイメージで時期を書いています。1話目は6月中旬~下旬のイメージ。


それと原作では1人称がわたし→私になっているキャラが多数いますが、この作品では誰が話しているか分かりやすくする為に一人称を固定させて頂きます。
以下1人称一覧


わたし→まひろ(妹)、みよ
私→みはり、もみじ
あたし→かえで

他1人称

俺→ゆうた
オレ→まひろ(兄)

僕→みなと
ぼく→なゆた
ボク→もふら

以上




最後に

今回は一人称視点を交えて構成しております。視点切り替え時は♂♀マークを間に挟んでおりますので、どうかご了承を。


第2話 もふらとヒーローとの出会い

 6月下旬。春が終わりを告げ、暑い季節へと移り変わるこの日は、兄真尋が女の子になってから訪れる初めての休日。

 

 さて今日は何をしようかと、もふらが思い悩んでいると──バァン!! という音と共に、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「ジョギングするわよ、もふら!」

 

「もっと静かに()けて?」

 

 

「普通にビックリするから」と付け加えつつ、何故か妙にやる気とテンションの高い姉の意見に従い、運動用のジャージに着替えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「ま、まひ兄が……外に出てる」

 

「ううう~…」

 

 

 外に出た途端、目に飛び込んできたのは小学校の頃のジャージを着たポニテヘアーの兄の姿。明らかに運動する為の格好で準備万端といった感じなのに、やけに怖がっているのが少し気になるところではあったが、二年以上も引きこもっていた事実を考えれば成果は上々だ。その姿に少々涙が出てきそうになった。

 

 姉のテンションの高さにも納得が行ったし、兄の引きこもり改善と体力作りにも繋がって万々歳だろう。みはりが本気で走ったりしなければではあるが。

 

 

「な、なぁもふらぁ……お前は兄ちゃんを置いて行ったりなんてしないよなぁ…?」

 

「え?」

 

 

 涙を浮かべながら震え、肩をぎゅっと掴んで弱々しく問いかけるまひろ。もふらには質問の意味がちょっとよく分からなかったので、とりあえずスマホのカメラでその姿を連写しつつ、みはりの方へと向き直った。

 

 

「みは姉、もしかしてボクらを置き去りにして行くつもりだったり…?」

 

「しないしない! お兄ちゃんの為のジョギングなんだから最初から一緒に走るつもりだって。あとカメラは置きなさい」

 

 

 みはりの話を聞いてホッとするまひろ。その姿に兄の威厳というものが欠片程も感じないのは、正直気のせいだと思いたい弟であった。

 

 

(…これじゃあホント、どっちが妹なんだか…)

 

 

 小さな兄の態度の変化に苦笑しながら、みはりは目的地へと向かって先導して行った。

 

 

 

 

 

 

「──じゃあ、この辺で軽くジョギングね」

 

「「はい…」」

 

 

 人通りの少ない河川敷に着いてからのみはりの話に弱い返事をする二人。

 二年間引きこもってた上に女子にされて運動能力最低レベルの兄と、二年間通学と体育以外の運動をほぼしていないが故にみはりが少しでも本気だして走る事を危惧している弟は、正直先行きが不安であった。

 

 

 

 

 

 

「ゼ──…ちょ……ハ──…ま……みはり……ゼ──……速いって……!」

 

「ふっ…ふっ……はっ…はっ!」

 

 

 案の定の結果が走り出して数分で発生していた。二人とみはりの間には既に何メートルもの差が開いていた。

 まひろの渇いた叫びに気づいてからは、なんとかペースを落としてはくれたが。

 

 

(そういえば、みは姉は中学の頃に陸上の大会で記録を残したって言ってたっけな……)

 

 

 ペースダウンにより余裕が出来たからか、もふらは走りながら少し思考に(ふけ)る事にした。

 

 

(その頃から運動勉強の両方で頭角を現して来ていたみたいで本当に凄かったな。でも、その代わりのようにまひ兄は──)

 

「…お兄ちゃん?」

 

 

 みはりの声でふと我に返り、後ろの方を振り向くと沈んだ表情で立ち止まっているまひろの姿があった。

 

 

「………」

 

(どうしたんだろう…? まさか薬に副作用があって体に悪影響でも…!?)

 

 

 無言のまま立ち尽くすまひろの姿に慌ててかけよるもふら。しかし、その先で発せられた言葉は自分の心配とは全くの無縁の物だった。

 

 

「乳首が痛い……」

 

「……?」

 

 

 どゆこと? と首を傾げるが、みはり曰く女の子はそうなるものなのだと、ざっくりと説明された。男のもふらに詳しく説明しても理解出来るものではない、と諦められたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあもふら、入口の方で待っててね。なるべく早く終わらせてくるから」

 

「ゆっくりで良いよ。ボクも暫く休みたいし」

 

 

 まひろを連れて女性の下着コーナーに入って行くみはりを見届け、近くにあるベンチに座り一休みするもふら。先に買っておいたスポーツドリンクを飲んで一息つく。

 

 

「疲れた身体に沁みるなぁ」

 

 

 まるで酒を飲んだ大人のような感想を述べるもふら。

 一気飲みするとトイレが近くなってしまうので、ゆっくりチビチビと飲んでいく。飲みながら兄と姉の昔の出来事を考えていた事を思い出すものの、これ以上兄達の昔を詮索するのは心の傷を勝手に開いて閉じるのと変わらない。もう止めようと振り払い、代わりに自分のことを思い耽る事にした。

 

 

「みは姉が中学の時か…その時のボクがやってた事といえば──」

 

 

 

 もふらは少しうとうととしながら、ゆっくりと記憶を振り返っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ♂♀♂♀♂♀

 

 

 みは姉が中学に入った頃、ボクは小学三年生だったかな。あの頃は今までずっと姉にベッタリ引っ付いてた反動なのか、特に友達もいなかった。友達がいなかったからいつも1人でプログラミングの本を読んでいたんだ。

 まあ、あの頃のボクは家族さえいれば友達なんて別に欲しいとは思ってなかった甘えん坊だったのだからしょうがない。そう思っておく。

 

 

 

 

 

 

「……早く学校、終わらないかなぁ」

 

 

 体育の授業中、1人何となしに呟いた。どうせ誰にも聞こえやしないし、学校が嫌いな子供なら誰だってそう思うだろうし。早く家に帰ってお兄ちゃんやお姉ちゃんと遊ぶほうが何倍も有意義だ。

 

 

「今日は皆でドッジボールをしましょう」

 

「うぇ…」

 

 

 体育の先生から発せられた言葉に思わず拒否反応で声が出てしまった。よりにもよってドッジボールだなんて……

 

 ドッジボール。それはクラスのNo.1を決める仁義なき闘いであるとともに、いかに早くボールを当てられて外野にまわるかを競うゲームでもある。

 だって内野に長く残ると目立つし、変な期待とかされた上に後で当てられてがっかりされるとかたまったもんじゃない。勝てばヒーローだけど、負ければ失望の嵐。「ドッジボールはクソゲーだ!」って真尋お兄ちゃんもそう言ってた。

 

 とりあえず適当に構えだけとってさっさと落ちよう、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──どうしてこうなった…」

 

 

 構え方が良くなかったのか、それとも皆に存在を認知されてないのか、全くこちらにボールが飛んで来ないまま内野の人数はとうとうボクを含めて3人になっていた。ここまで来るとどう転んでも目立ってしまう。

 

 

「3対9か~。なあなあ、もみじろう。1人何人倒せば勝てるんだぁ?」

 

「もみじろうは止めてってば。え~と、1人につき三人でいけるかな」

 

 

 茶色みがかった黄色い髪の女の子と、もみじろうと呼ばれているちょんまげのように後ろ髪が束ねられた茶髪の男の子が作戦? を練っている。この状況でも勝つつもりでいるなんて凄いな。片方は女の子なのにやる気満々だし……

 

 ……アレ? 今ナチュラルにボクも数に入れられてた? 

 

 

「えっ、ちょっと…あの」

 

「あっ、二人だけで話しててごめんね。緒山もふら“ちゃん”、だったよね?」

 

「ん?」

 

 

 ……アレ? 今ナチュラルにボクの事ちゃん付けで呼んでた? 

 

 

「いや…あの──」

 

「もみじろう、もふもふ。いい作戦が思いついたぞ!」

 

「もふもふ!?」

 

「じろうは止めてって…いや、今はいいや。それで作戦って?」

 

 

 ……アレ? 今ナチュラルにボクの事あだ名で以下略。

 

 

「ふっふっふっ! 名付けて、あさひがボールを全部受け止めて皆で1人ずつ倒そう作戦だ」

 

 

 それは作戦とは呼ばないような。

 

 

「それは作戦とは呼ばないような」

 

「うん、作戦じゃないね」

 

 

 うっかり口に出してしまったが、もみじろう? 君も同意してくれた。二人は仲が良さそうだし、あさひと言う女の子はいつもこんな感じなんだろう。

 

 

「まあ、あさひは何時(いつ)もこうだからさ。もふらちゃんも深く考えずに楽しんで行こう?」

 

「う、うん…!」

 

 

 優しい笑顔で(うなが)してくれるもみじろう君。ボクが女の子だったら今ので惚れてたかもしれない。恐らくこれが真尋お兄ちゃんの言ってたイケメンというやつなのだろう。将来はアイドルにでもスカウトされそうだ。

 

 

 ──うん。少し位、頑張ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

「あさひガ──ドッ!! そしてもふもふ、今だぞ!」

 

「わっ、とと…う、うん!」

 

 

 こちらに飛んで来たボールを見事にキャッチしたあさひちゃんは、手慣れた様子でボクにボールを渡してきた。それを受け止めて思いっきり投げたんだけど、上の方に飛ばしすぎて勢いが止まった後、ヘロヘロと落ちて行く。

 

 

「ご、ごめん…!」

 

「大丈夫大丈夫。まだ次があるからさ」

 

「まだまだあさひは元気だからな~。どんどんボールを止めて、もふもふが当てるまでやってやるぞぉ!」

 

 

 

 失敗したボクを励ましてくれるもみじろう君。作戦? 通りに全てのボールを受け止め、時に鼓舞してくれるあさひちゃん。

 圧倒的な数の差を物ともせずに立ち向かっていくその姿は、とっても眩しくて──

 

この二人の姿が、まるで本に登場するヒーローみたいに見えて、とってもカッコ良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

「あさひガー──んべッ!」

 

「あ、あさひちゃん…!!」

 

 

 戦いも終盤。ボクを庇ったもみじろう君が落ちてこちらは二人、相手は残り一人になったところだ。残った体格の大きい相手男子の投げたボールをジャンプして受け止めようとしたあさひちゃん。でも、ボールが予想より高く飛んでたおかげで顔面に直撃してしまった。

 

 所詮はゴムボールなので大した怪我にはならないし、顔面セーフのルールで退場にはならないのだが、この時のボクは相手の男子に多少なりとも怒っていたのだろう。あさひちゃんの無事を確認した後に人生最初にして最後かもしれない全力投球を相手に向けて放った。

 

 

「うおぉぉ、りゃあぁぁあ!!」

 

 

 大袈裟な掛け声とともに投げる。小細工も作戦も何1つない投球。今までのボクの投球とはかけ離れた速度と声が迫る一球に男子生徒は一瞬たじろぎ、そして──

 

 

 

「ゲームセット! 1組の勝ちです」

 

「勝った……?」

 

 

 見事に命中し、勝利した。正直、実感が暫く湧かなくてボケーっと放心してたけど、でも──

 

 

「やったな~、もふもふ!」

 

「うん。凄かったよ」

 

 

 あさひちゃんともみじろう君の声援にハッと我に帰った。そうだ、二人にはお礼を言わないと──

 

 

「あ、あの二人とも…」

 

「「?」」

 

「その…ありがとう!! 二人のおかげで今日とっても楽しかったよ!」

 

 

 ボクの精一杯の感謝に二人は顔を見合わせ、やがてこちらに笑顔を見せてくれた。

 

 

「うん。こちらこそありがとね」

 

「もふもふも頑張ってたからな~。こっちも楽しかったぞ」

 

「二人のおかげでボクも頑張れたんだ。だから、その…ボクと──」

 

 

 人生で初めて紡ぐ言葉。緊張したけれど、それでもボクはこの言葉を精一杯の力を込めて言う。

 

 

「ボクと、友達になってくれませんか…?」

 

 

 二人はお互いの顔を見合わせた後、間髪入れずに返事をしてくれた。

 

 

「「よろこんで!!」」

 

 

 

 

 ボクはこの出会いを生涯忘れる事はないだろう。この先数多くある出会いの中で、これ以上のものなどきっとないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

「──もみじろうはおバカだな~。短気は損気って言葉があるみたいだぞ。にーちゃんが言ってたー」

 

「あさひにバカ呼ばわりされるのは何か納得いかない。あともみじろうは止めてってば! もふらちゃんもあさひに言ってやってよ~」

 

「あはは……あれ? 何か大事な事を言い忘れているような?」

 

 

 その大事な事をしっかり覚えてさえいれば、とボクは後に後悔することになるのだが、その話はまた今度にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♂♀♂♀♂♀

 

 

 

「…ふら……て」

 

「んぁ…?」

 

「もふら起きて。帰るよ」

 

 

 姉の声にハッとなって、もふらは目を開ける。いつの間にか寝てしまっていたようだった。

 

 

「うぇ…! いま何時!? どんだけ寝てた!?」

 

「落ち着いて。まだ戻ってきたばかりだから」

 

「そ、そっか」

 

 

 ホッと胸を撫で下ろす。店内で何時間も居眠りなんかしてたら正直恥ずかしさとか情けなさとかが色々と爆発しそうで恐ろしい。

 

 

「それにしても……もふらもこんな短時間で疲れて寝ちゃうなんてね。これからはもっと体力付けさせた方が良いかも」

 

「勘弁して!?」

 

 

 たまに発揮されるスパルタな姉にビビって、本日は帰ったら早く寝ることに決めたもふらであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばまひ兄、ずっと静かだけど大丈夫?」

 

「自己統一性の危機だぁ……オレは男なんだぁ」

 

 

 ブラを付けられて茫然自失となっている兄の姿に苦笑しつつ、その日暫くの間、優しく頭を撫でてあげるのだった。




閲覧ありがとうございます。今回は原作3話+αで話を進めさせていただきました。
小学三年の時期なので、もみじとあさひは出会って二年経っておりますが、この作品でもみじろう呼びを止めるのはもう少し先という設定にしております。少なくとも出会い時は、この呼び方にしておかないと、もふらがもみじの事を男と勘違いしなさそうだったので。




以下もふらの設定

もふらは小学生の頃みはりにべったりだった故か、みはりの真似をして髪を伸ばしまくっていました。それプラス顔が女子っぽいせいで、もみじやあさひに女の子と勘違いされ続け、とある件で下の部分を見られるというハプニングが起きてしまったもよう。まだ小3だったからセーフじゃセーフ。

あさひには「もふもふ」という変なあだ名で呼ばれたり、この件以降クラスメートにちょくちょく女子と勘違いされたりしたので、後に思いきって髪を切り今の短髪ヘアーへと至った(これ以降のあさひには「もふらん」と呼ばれている)。

この後はあさひに倣って相手をあだ名で呼ぶ真似をし、あさひの事を「あっさーちゃん」、もみじの事を「じろちゃん(本人がじろう呼びを嫌がってたので後に別の呼び方になったもよう)」と呼ぶようになった。
真尋やみはりの事もこの頃はまだ略称ではなく、普通にお兄ちゃんお姉ちゃんと呼んでいたが、あさひ達との出会いがきっかけで今の呼び方に変わっていったもよう。







中学生もふらの顔イメージ書きました。


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