きょうだいはおしまい!   作:虎之丞

5 / 19
話は決まっているのに、流れと文章決めるのに時間がかかりすぎる件。

遅れましたが今回も是非ご覧になってくださいませ。


第5話 もふらとかつての友

 10月中旬。夏の暑さも和らぎ、長袖や合服を着る人がチラホラと現れるこの季節──

 

 

「うーん……」

 

 

 その放課後にて、緒山もふらは悩んでいた。

 

 学級日誌を書くことか、いつの間にか携帯の画像が女の子と化した兄で半分以上埋めつくされていたことか、それとも小テストの点数が思ったより悪いことか。

 

 

 どれもハズレだ。正解は──

 

 

 

「えっと…もふら君、ちょっといい…?」

 

「──っ!?」

 

 

 突如後ろから掛けられた女子生徒の声で心臓が飛びでそうになるもふら。声の主は分かっている。自分の事を「もふら君」と呼ぶクラスメートは現状1人しかいないのだから。

 

 ギギギと機械のような音を鳴らしながらもふらは後ろを振り向く。そこにはボーイッシュな雰囲気を漂わせる後ろ髪をおさげにした短い茶髪の少女、もふら目下(もっか)の悩みの原因である穂月(ほづき)もみじが立っていた。

 

 

「な、ななな何…?」

 

 

 もふらは自分の隣までやって来たもみじに目を合わせる──事が出来ないままどもった返事をしてしまう。

 

 

「今日まひろちゃんに会いに行こうと思ってるんだけど、もふら君の家に行っても大丈夫かなぁって」

 

「あ、あ~~…まひーね。大丈夫大丈夫。むしろ暇してるからどんどん遊んであげて! あっ、そうだ! ボク学級日誌届けて寄り道して買い物して帰り道にいる野良猫触って河川敷で黄昏てから帰らないといけないから先に行って家にあがっちゃっててそれじゃ!」

 

「あっ、もふら君!?」

 

 

 普段のもふらからは考えられない程の早口言葉。聞きとれるかギリギリの速度で喋るだけ喋った挙げ句、まるで風のように走り去っていくのだった。

 途中で「廊下を走らない!」と先生に注意される声が教室にまで聞こえて来る辺り、相当なスピードで走っていたのかもしれない。

 

 

「行っちゃった…」

 

 

 残されたもみじは1人、もふらの態度に思い悩みながらも言われた通り先に緒山家へと向かう事にした。今回は姉である穂月かえでと一緒に訪問するのだから、あまり遅くなる訳にはいかない。

 しかし姉という単語が出た瞬間、もみじは「あっ」と声が洩れてしまう。そういえば、と一つ思い出した事があった。

 

 

「お姉ちゃんも来るって言うの忘れてた…」

 

 

 話の途中で退場したもふらが完全に悪いのだが、後で謝ろうともみじは思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……またやってしまった…」

 

 

 一方のもふらは両手いっぱいの買い物袋を抱えながら1人、河川敷にて物思いに耽っていた。

 

 目下の悩みである穂月もみじ。かつては友達としてよく遊んでいたのだが、二年前、自分の勝手な行いで距離を置いた相手。距離を置いて尚も、こんな自分と関わってくれる優しい少女。そして、かつて憧れたヒーローの1人。

 

 先日、買い物を頼まれた兄が彼女とたまたま知り合い、そして世話になってしまったらしい。もふら自身もその話を聞いた時は大層驚いたものだし、人当たりの良さや面倒見の良さは変わらないままでいてくれたのが嬉しくもあった。

 

「ただそれはそれとして」とさっきまでの話を置き、これからの事を思案するもふら。どう接すれば良いのか皆目見当もつかないでいた。

 兄の数少ない友人になったのなら、自分がこんな調子では気を遣われてしまう。先の事を考えるならば早いところ仲直り? をした方が良いのだろう。だが、もしものことを考えると足がすくんでしまうのだ。もしも拒絶されてしまったらと考えると──

 

 

「──自分で離れておきながら……ホント最低だな、ボク…」

 

 

 もみじがそんな事言う訳ないのは重々承知しているが、恐怖というものは際限なく湧いてくる。そうやって思考が堂々巡りを始め、最初の一歩目がずっと踏み出せないでいると──

 

 

「…あれ、もしかしてもふもふ?」

 

「えっ…!?」

 

 

 突如男の声が飛んできた。いや、声をかけられた事に驚いたのではない。気になったのは昔に呼ばれてたその愛称の方だ。まさかと思い、声をかけて来た男の方へと振り向くと、その先には高校の制服を着た青年が立っていた。

 

 

「ゆ、ゆうやの兄者(あにじゃ)…!?」

 

 

 驚愕の声をあげるもふら。彼が兄者と呼んでいる青年は、もみじと同じかつての友人である桜花あさひ、その兄のゆうやだ。

 

 

「はは、その呼び方、やっぱりもふもふちゃんか。久しぶり」

 

「いや、ちゃんって……男だって知っておきながら未だにその呼び方なの?」

 

「ごめんごめん、癖でつい。ところでこんな所で何してたんだい? 何か悩んでいるように見えたけど」

 

「えーと、それは…」

 

 

 言うべきか、言わずに誤魔化すべきか長きに渡る葛藤の末、少しぼかして相談することにした。

 

 

「うーんと…これは友達の話なんだけどね──」

 

 

 ベタな嘘から始動する物語。もふらの一言一句を時には頷き、時には思案して全て聞き届けてくれるゆうや。その姿は端から見るとまるで本当の兄弟のようであった。

 

 

 

 全ての話を聞き終えたゆうやは少し考える素振りをした後ゆっくりと口を開く。

 

 

「うん、成る程。つまりもふもふはその友達とどう接すれば良いか分からないと」

 

「あれ、バレてる…? 友達の話って言ったはずだけど」

 

「友達の話~から始まる場合は大抵自分の事を指している時が多いらしいからね。ちゃんと覚えておくんだよ、もふもふ」

 

「そうだったのかぁ……うん、了解兄者。覚えとく」

 

 

 やっちまったぁ…と顔を覆い隠したくなる出来事だったが、バレてしまったならばしょうがない。また一つ賢くなれたいう事にしよう。と気持ちをすぐに切り替えるもふらだった。

 

 

「話を戻そうか。僕個人の意見になるけど、まずは正直に気持ちを伝えた方が良いんじゃないかと思う」

 

「やっぱそこに行き着くんだね」

 

「それだけ悩んでも考えても先に進まないのなら、いっそシンプルに行った方が解決する事だってあるからね」

 

 

 実際のところ、この件についてはここ何日も考え続け、考え続けた結果、今の状況に繋がっている。ゆうやの言っていることはごもっともだ。

 

 結局のところ、最終的に穂月もみじとどうなりたいのかを明確に伝えなければ、この問題を解決なんて出来やしない。

 

 

(気持ちを伝える…か)

 

 

 もふらは考える。この先何が起こるかなんて誰にも分かりはしない。かといってこのまま燻っているのは論外だ。

 

 それしか選択肢がないのなら覚悟を決めよう、とでも言いたげな表情でゆうやの顔を真っ直ぐに見つめるもふら。

 

 

「兄者…もしこの作戦が成功したら」

 

「成功したら?」

 

「お祝いパーティー…は無理そうなので、代わりにお菓子1つ差し上げます」

 

「パーティーする気だったの?」

 

 

 無駄にスケールをデカくしようとするもふらに苦笑しつつ「楽しみにしとくよ」とだけ告げるゆうや。もふらの顔を見て、もう問題はなさそうだと判断し、挨拶をして1人家路につくのだった。

 

 残されたもふらも、それを見届けてから帰宅していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー……えっ!?」

 

 

 家に帰宅して早々のリビングにて、もふらの瞳に入ってきたのは穂月もみじ──ではなく、その姉の穂月かえでの姿であった。

 

 

「あっ、もふら。久しぶりじゃーん☆」

 

「か、かえでの姉御(あねご)ぉ…!?」

 

「相変わらずカタイ呼び方だなぁ~。ほらほら、もっとリラックスしなって」

 

「は、はいぃぃ…」

 

 

 力を抜いて貰う為なのか、かえでに肩を揉まれるもふらだったが、余計に力んで固まってしまう。すでに緊張と力みのせいで、さっきまでの覚悟と作戦が何処かに飛んで行ってしまいそうになっていた。

 

 

「と、ところで何で(あね)さんがここに!?」

 

「あれ? もみじから聞いてない? みはりに勉強教えてもらいに来てたんだけど」

 

「……あ」

 

 

 放課後、もみじとの会話を切り上げて即ダッシュした事を思いだす。あの時ちゃんと話せていればこんな事にはならなかったのだろう。報連相大事。

 見事に全部自分のせいなので軽く自己嫌悪に陥りそうになる。これから先はきちんと最後まで話を聞こうと決めるもふらだった。

 

 

「そ れ よ り。最近全然会ってくれないけど、もしかして嫌われちゃったのかなぁって思ったり?」

 

「いや、偶々(たまたま)だよ偶々! それにボクが姉御を嫌いになるなんて天地がひっくり返ってもあり得ないから」

 

 

 少し悲しげな表情をしながら疑問符を浮かべるかえでを見て焦ったもふらは、聞く人によっては勘違いさせそうな言葉で返答する。

 

 

「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ~、このこの!」

 

 

 そしてそんなかえでも、特に勘違いはしないまま揶揄うように肘をピシピシともふらの身体に当ててくる。

 

 これが二人の関係性だ。姉弟のような距離感で接するかえでと、距離感が近い故にスキンシップも多くて緊張しがちなもふら。

 彼にとってかえでは、みはりとはまた違った意味で逆らえない存在となっている。

 

 そんなこんなで少し時間が経つと、ちょうど入れ違いで席を外していたみはりが廊下の方からやって来た。

 

 

「あ、おかえりもふら。買い物ありがとね」

 

「ただいま。助けて」

 

「いきなり救助要請?」

 

 

 頭をわしゃわしゃされながら表情1つ変えずに送るもふらの救難信号を受け取り、手早くかえでを引き離すみはり。やれやれと言いたそうな顔になっている辺り、いつもの事なのかもしれない。

 

 

 

 

「はい、それじゃ休憩終わり。続き始めるよ」

 

「はーい。それじゃもふら、続きはまた今度ね~☆」

 

「やりません」

 

「つれないなぁ~」

 

 

 わざとらしくふて腐れ気味な態度になるかえで。これもコミュニケーションの一環みたいなものなので、お互い特に気にして話している訳ではない。

 

 そんな何でもないような変わらない態度とやり取りが、もふらに勇気を与えてくれた。いつの間にか身体からも力が抜け、リラックスした状態になっている。

 

 心の中でかえでにお礼を言いつつ、もふらは自分の部屋へと戻りに行く。

 

 

「あっ、もふら。おに……まひろちゃんともみじちゃんは部屋にいるから、用がある時はちゃんとノックしてから入りなさい」

 

「りょーかーい」

 

 

 みはりの意見を聞きつつ、手をぷらぷらさせながら返事をし、自分の部屋がある二階へと姿を消していくのだった。

 

 その姿を見届け、いなくなったのを確認してから二人は問題を解きつつ、もふらの事を話していく。

 

 

「それでみはり、最近もふらはどうなの?」

 

「うん。最近はよく本音で話すようになったし、たまにお友達とも遊んでいるみたい」

 

「そっか。良かった良かった。昔はもみじ達と一緒に結構やんちゃしてたからさ、急に大人しくなった時はビックリしたなぁ」

 

「あはは…その節はご心配をおかけしました」

 

「いいっていいって~。調子が戻ってきたなら何よりだし。後はもみじ達とも昔みたいに接してくれれば言うことなしなんだけどねー」

 

「………」

 

 

 かえでの意見を聞いて思案するみはり。それを見つめるかえではただただ疑問符を頭に浮かべていた。

 

 

「…みはり?」

 

「あっ、ごめんねかえで! ちょっと考え事してて」

 

「大丈夫? みはり忙しいんだし、無理はしないでよ?」

 

「大丈夫だって。ちょ~っと先の予定を考えてただけだから。テストが終わったらかえでにも相談しておくね」

 

「そう? それじゃ良い点取れるように頑張らないといけないなぁ。宜しくお願いします、みはり先生」

 

 

 時には厳しく時には優しく。笑顔の絶えない二人の今回の試験勉強はかつてない程捗っていたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のもふらは階段を登りながら、現在兄と部屋で二人きりになっているもみじの事を考えていた。

 

 

(改めて思い返してみると…学校でのあの態度、まひ兄を随分気に入ってそうな雰囲気だったな。まさか、いかがわしい関係になってたり?)

 

 

「…なんてね」と言いその考えをすぐに払拭する。兄が自分の弟と同い年の女子にそんな考えが浮かぶ訳はないし、もみじからすれば相手はそもそも同性なのだから、万が一にもあり得ないことだ。

 

 うんうんと頷きつつ兄の部屋の前までやって来た途端、中からドシャーン!! と重い物を勢いよく落としたような音が部屋から鳴り響いた。

 何かトラブルが起きたのかもしれないと思い、慌てて兄の部屋のドアを勢いよく開けて中に入ると──

 

 

「まひー! 何があっ──」

 

 

 そこに映しだされるは、布団の上で仰向けに押し倒されている緒山まひろと、その上から兄の胸を揉んでいる穂月もみじの姿であった。

 あまりの出来事に思考が止まっていたもふらであったが、数秒経過した後ハッと目を覚ます。覚めた瞳でもう一度その光景を目に入れるが状況は特に何も変わっていなかった。

 

 

──マジでいかがわしい関係だったぁーーー!!!!

 

「待て待て待て待て! 違うぞもふら! こ、これはだな…」

 

「も、もふら君…! これはね…えっと、その誤解で──」

 

「せめておっぱいから手を離して言い訳してよぉ!」

 

 

 態勢を一切変えないで弁明する二人の姿を見て「うわあぁぁん!!」と叫びながらも頭は冷静だったのか、携帯を取り出し写真を一枚撮った後に素早く部屋から出ていくもふら。

 

 これは後に、しばらく放心した顔になる程のキャパオーバーな出来事第二位にランキングされる出来事となるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

「あぁ…やはり人は変わるものだった。宇宙の真理を知る為に我々は──」

 

「あっ、もふら。お兄ちゃん達大丈夫だった?」

 

「アッ、ウン」

 

 

 心配して部屋の前までやって来たみはりに無事だった事を先程撮った写真を見せて確認させる。明らかに別の問題が起きているのだが、そこはみはり、圧倒的頭脳で状況を理解したようである。

 

「こういうのって普通逆じゃないの…?」と呟いただけで終了、事なきを得たようだ。

 

 

 

「人はいつだって変わるもの。まひ兄は可愛いし彼女はカッコいいし、二人なら同性だろうとそんな関係に発展するのもおかしくはない。ないのか? えっ、マジでこんなあっさり決めて良いのか? 気になった我々は真理を知る為にアマゾンの奥地へ──」

 

「ほらもふらー、戻ってきなさーい」

 

 

 呪文のようにブツブツと謎の言葉を発するもふらだったが、みはりに身体を揺さぶられて目を覚ます。

 かつての友人と兄がそんな関係になってしまったと勘違いし続けては後々厄介になりそうなので、後でちゃんと説明しておこうと思うみはりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがと~~おかげで良い点取れそう!」

 

「テスト頑張って!」

 

 

 そして日の沈む前の時間。挨拶も程々に、かえでともみじが帰っていく。

 結局この後一言も話せないまま、もみじとの仲直り? 作戦は失敗に終わったのだった。と言うか余計に溝が深まった気がする。

 

 

(ごめん兄者…何も出来なかった。でもアレは衝撃(インパクト)がありすぎるよ……)

 

 

 親身になって相談に乗ってくれたゆうやの姿を思い浮かべつつ、もふらはただただ反省を頭の中で繰り返すのだった。

 

 

「………」

 

 

 そんなもふらの様子を見つめつつ、みはりは1つの作戦を組み立てていた。

 

 

(お泊まり会…ううん、旅行が良いのかな?)

 

 

 まひろ、もふら両名ともみじの親睦を深める。その為に行える事と言えば、緒山家へのお泊まり会か皆で旅行の二択になる。

 

 さて、どうするか。かえでにも後で説明するのだし、少しずつ考えて行くとしよう。とみはりは先をお楽しみにしつつ弟妹達とともに家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

「だからもふら、あれはただの事故なんだって!」

 

「ウン、大丈夫ダヨ。ボクハイツダッテオ兄チャンノ味方ダカラ」

 

「やれやれ。こっちの解決がまず先ね」

 

 

 それから、まひろの弁明とみはりの説明を小一時間続けることによって、もふらの誤解はようやく解けたのであった。

 




閲覧ありがとうございます。みはりみたいに察してはくれない弟。だがこの出来事が、おしまいへの序曲となることを彼はまだ知らない。

かえでのもふらへの呼び方を君付けにするか呼び捨てにするか小一時間迷った末に呼び捨てにしました。実は時が経った故に仲良くなったゆうた君みなと君にも名前呼び捨てにされているので、呼び捨て勢がめっちゃ多いという。


そんなこんなで次回は温泉回。長さはそんなでもない予定ですが、一応前後編に分けようかと思っております。
温泉回が終わればオリジナルの話がようやく書ける。ここまで長かったぞい(気が早い)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。