ガンスモーキー・カプリツィオ 作:豆電球
「セツくんセツく〜ん、待ってよぉ〜!? お姉ちゃんを置いていかないで〜」
「うるせえよ、着いてくんなハルカ。鬱陶しい」
「あ〜! また呼び捨てにした〜! 私は、セツくんのお義姉さんなんだから、セツくんは私のこと、お姉ちゃんって呼ばなきゃなんだよぉ」
「それが鬱陶しいってんだよ!」
傍らには見事な庭園。枯山水が敷き詰められ、その反対側では小川が流れ、小さな橋がかけられている。
その向こうに、古めかしくも趣のある日本家屋が見えた。
其処はつい先刻まで喧騒と阿鼻叫喚の地獄絵図だったというのに、原因となる存在が全て斬り捨てられたとなれば、残るのは風流な庭先だけなものだ。
しかし、風雅に静謐な伝統芸能を見回ろうにも、そこかしこに飛び散った血肉と、自分が斬られたことを理解し切る前に絶命したのだろう、酷く間抜けなツラした首が転がっていては台無しだった。
「なんで、お前のカチコミに俺が付き合わなきゃならねーんだ。必要ないだろ、俺の存在」
「か、カチコミじゃないよぉ。ご近所さんと、えと、国の偉い人が迷惑してるからって、お父様から言い渡された大事なお役目だよぅ」
「やってる事は変わんねーだろポンコツ女。刀振る以外に脳みそ使えねーのか」
「うう・・・・・・。そんな言い方しなくても〜。セツくんの意地悪ぅ」
言われて当然の事をしているのに、目の前のちみっこい女──夜叉月ハルカは、困ったようにへにゃり笑って、相変わらずちゃんと目を開いてんだか分からない、細いそれの上に携えた形の良い眉を八の字に歪めた。
一般的な高校生男子の平均身長よりやや上の、俺の腰を僅かに越す程度しかない背丈が持つには、あまりに物騒な刃物を帯刀し。腰に佩いた雅な彼岸花の拵えが目を引く鞘の、人斬り包丁で切った張ったの大立ち回りを繰り広げていた殺しのエキスパートとは思えない、なんとも形容しがたく、録な思考をせず植物の種を齧っていそうな。
そんな小動物めいた雰囲気の漂う女が、俺こと夜叉月セツの、不本意ながら義理の姉という事になっている人間だった。
「だいたい、俺は裏方に徹する予備戦力だし、何より争い事は大嫌いなんだ。なんでこんな、殺しの最前線に引っ張り出されなけりゃならねーんだ。後始末の手配程度ならお前一人でも出来んだろ」
本宅と枯山水を繋ぐ中間に建てられた無駄に豪奢で、こじんまりとした。しかし金が天高く積まれて出来たであろうに、内装は見るも無惨な返り血塗れの茶室は縁側に座り、今はもう大人しくなったインカムとタブレットを置いて嘆息。
「う、うー。だって、その。私がお掃除屋さんにお願いすると、なんでか何時も怒らせちゃうから。だったら交渉事はセツくんの方が得意だから〜って、お父様が・・・・・・」
その言葉に、つい先程まで愚痴愚痴と小言を交えた通話相手とのやり取りを想起する。
「そら、仕事場と状況説明だけすりゃいいのに、世間話やら斬った感想やら、直前に殺しをしたとは到底思えないサイコな無駄話に付き合わされりゃ、誰だって怒るわな。・・・・・・チッ、やっぱこれ、俺じゃなくても普通に会話出来る奴なら誰でも良くねーか?」
「それはダメ! 私はセツくんが良いの!」
なんでだよ。
珍しくムキになって、野暮ったく長い黒髪が波打つ程度には勢いよく詰め寄ってきた
(・・・・・・クソッタレな日常だ)
それでも、この夜叉月家に気紛れに拾われる前までとは。ゴミのように扱われ、使い捨てのセントリーガンのように戦場で使われていた時とは、比べ物にならない程、良好な日々を送れているのが余計に腹立たしかった。
これは、そんな俺の非日常的を綴った。畜生のクソにも劣る物語である。