ガンスモーキー・カプリツィオ 作:豆電球
「おいハルカ、なに無視してんだよ」
「つ〜ん」
「おい。おいバカサイコ侍」
「つんつ〜ん!」
あの凄まじい夜から数日。
夜叉月家の息がかかった病院の、医療ベッドでの待機(当然っちゃ当然だ。というか、既に一人で悠々としてるコイツがおかしい)を厳重に命じられた俺の、見舞いにきたというハルカがこんな状態になって早数刻。
何だってんだこの女はという、胡乱な目を隠さずに差し向ける俺に、変わらずハルカはつんつくつんと珍妙なシカトをこき続けている。
それがカンに触って枕でも投げ付けてやろうかと身動ぎするも、風穴空けられた横っ腹と脚から突き抜ける痛みで思い留まることにした。
あの夜の戦闘で負った俺の脚は酷い怪我を負ったものの、幸いなことに大事になることは無かった。
だが回収してくれた榊さんが言うには、あと少しでも処置が遅れれば。特に右脚は切断されていただろうとのこと。ぞっとしない話だ。
(まあ、ブローニングの弾丸を少ないとはいえマトモに受けて、その上であんだけ走り回ったんだ。当然だろうよ)
むしろ、五体満足でこうしてベッドに寝かされていることの方が不思議なくらいである。
それから、件の暗殺依頼に関しては依頼者の武器商人から成功報酬に上乗せで大幅なボーナスと、今まで以上の綿密な連携取引を確約してくれた。とのことだ。
というのも、俺たちがドンパチ暴れ回り。挙句に爆発しまくったあの倉庫街は武器商人の男にとって、あらゆる密輸武器が集まり適当な額で複数の武器商もどきが捌いていたという、彼にとっては目の上のタンコブな闇市の温床だったのだそうな。
それを、アリスとの戦闘で結果的にとはいえ完全に叩き潰した俺とハルカに、引いては夜叉月家に対して非常に感謝しているそうだ。だから今後も、この家が望むなら優先的に仕入れてくれるらしい。
(・・・・・・俺のスマホに、何故かあの男の名前と連絡先が入っていたのは、秘密にした方が良いのだろうか)
試しに掛けてみたところ、アリスから逃げ回ってコンテナを荒らし回った俺には特に感謝しているらしく、夜叉月家よりも優先して、更には格安で取引をしてくれるとの事だった。
まあ、争いは嫌いだがこの家に飼われている限り、逃れることは不可能なので願ったり叶ったり。有り難く受けることにする。
「それにしても、意外とあっさり決着が着いたな」
「つん〜」
「おい」
アリスについては、彼女は既に死んでいる。
頭部へのマグナム弾の直撃。死んでない方がおかしい。
極めつけに落ちた先は、あの後すぐに火の手が周って全焼。念の為に確認を行ったという夜叉月家の人間が、アリスのDNAが検出された、焼け残りの骨片を証拠に見せてきた。
(一先ずは、安心の種を一個獲得だな)
今後、あって欲しくはないが仕事をするとなった時に、あのキチガイが乱入してくる想定をした作戦を考えずに済む。
そう確約されただけで、なんて晴れやかな心持ちなのだろう。
さて、後は。
「なぁ、ハルカ。お前なんで怒ってんだよ」
「つ〜ん」
「おい。いい加減にしねぇと、そのうざったい髪引っ掴んで頭ごと壁にブチ当てんぞコラ」
「つ〜〜んっ!」
医療ベッドの端にちょこんと座り、声をかける度に顔をあっちゃこっちゃに背けて無視するコイツの、実は考えている事は大体わかる。
「・・・・・・無茶したのを謝りゃいいのか、ハルカ」
これに尽きるだろう。
アリスを確実に殺すため。勝機を掴む為の、賭けにすらなっていない最後のアレだ。
認めたくは無いが、俺を本当の弟として、あ、あぃ、あいし・・・・・・。愛し、て。くれようとしている、コイツが。
自分自身の命を使った駆け引きに、拒否反応と怒りを示すのは当然と言えた。
「なんで」
「あ?」
「なんで、あんな事したの。あの時のセツくん、初めて会った時と同じ目の色してた」
「・・・・・・あー」
とある紛争地帯で、使い捨てでゴミのような少年兵をやっていた頃。俺は夜叉月家の連中と出会った。
当時の俺は今以上に荒んでいて。擦れていて。擦り切れていて。何もかもが、その辺の石ころさえも自分より価値のある物だと教えこまれていて、故に自身の命というモノに執着がなかった。
銃を向ける相手の
だから、簡単に
何度、至近距離で手榴弾を炸裂させたか分からない。
何度、地雷原に誘い込めと命じられ、敵を殺すためにそこを走ったか分からない。
何度、潜入任務で負傷した捕虜に見せかける為に自傷したか分からない。
何度、同輩がやられるのを利用して殺したか分からない。
何度、この手で敵にも味方にも引き金を弾いたか。
今まで冒したそれぞれを数える必要性も、
そんな、俺が。
あの日、敗戦の責任として全ての兵士に掛けられた銃殺刑から生き残ってしまい、ハルカに出会って。夜叉月家の人間に拾われて。
それから。それから。
命がどれだけ大切で、重くて、大事なものか。ハルカに教えられて。
・・・・・・だから、俺は、きっと凄くいけないことをしたんだ。
「・・・・・・。ごめん。ごめん、なさい。ねえ、さ──」
コン、コン。
唐突に病室の扉を叩く音が響く。
気が付けば息がかかるほどの距離で、目に涙を溜めていたハルカが乱暴に目元を拭うと。「次やったら絶交だよ」真剣な声音で告げ、足早に扉を開いた。
「は〜い、どちらさまぁ?」
「お、おい、この病室の主は俺だぞ。勝手に応対すんな」
そんな突っ込みを無視して、開け放った扉から顔を出し右へ左へ首を動かすハルカの、足元で何かがキラリと輝いた。
「んぇ〜? 誰も居ないよセツくん〜。イタズラかなぁ?」
「──。ハルカ、足元」
まさか、そんな。いや。
少しだけ早まる心音を飲み込んで、間抜けな声を上げるハルカに指示を出す。
「足元〜? ・・・・・・。これ、銃弾」
「持ってきてくれ。・・・・・・確認したい」
脂汗が滲む嫌な感覚を覚えながら、それを拾いあげたハルカを呼びつける。
一歩一歩、こちらに近付く彼女の背後で、ゆっくりと閉まる扉にふわり横切る。口元に金属色の指を当てるブロンドと、凶悪な微笑みにチラつく真っ白なギザ歯。真っ黒いフリルのなびきに息が止まった。
「っ!」
それに気が付いたのはハルカも同じなようで、気配でも察したのか弾かれたように振り向いた彼女は、壊れるほどの勢いで扉を開けると周辺警戒。続けて通信機を取り出すと何事か連絡をし、俺の側へ駆け寄った。
俺はと言えば、痛む体に鞭打って。ハルカが振り向いた拍子に転がってきた弾丸を手に、それを眺めていた。
『.44マグナム弾』の、凶悪な薬莢の中間部。胴体と形容すればいいのか、そこにライフリングとは違う、鋭い刃物のような何かに削られた跡が深く残っていた。
その真上には、器用にも小さく『Maximum Lovepower♡』の文字が彫り込まれていた。
「これアリスちゃんだぁ。わぁ・・・・・・」
「・・・・・・あ゛ー、クソッタレな世界だ。マジで」
どうやら、俺の知る気狂いに関する情報が、また一項目増えそうだった。
──これが、俺のいる世界。その日常の一頁。
非日常こそが日常の、クソッタレな畜生以下が綴った物語だ。
気が付いたらアリスちゃんの方に性癖過積載させてた。草。
こんな趣味しかない作品を読んでくれたアナタは優しい人ですね。ありがとうございました。