高町なのはくん   作:わず

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日常

 

 割れた窓。

 そこから入ってくる夜風。

 その風がはやての髪を撫でていく。

 

 今はやての部屋は人でいっぱいになっていた。

 ひざまずく守護騎士に拘束されたなのは、それを静観するイリス。

 

「ベルカってとこの魔法の本で、名前は闇の書、みんなはその守護騎士」

「はい」

 

 はやてが聞いた話を確認していく。

 

「そんで、私はその主っと」

「これまでの日々や覚醒の際、闇の書の声を聞かれませんでしたか?」

「うーん。どうやったかなぁ」

 

 シグナムが問い、はやてがあやふやな返答をする。

 

「けど、わかったことは一つあるで」

 

 はやてが守護騎士の方を向く。

 

「闇の書の主としてみんなの衣食住、きっちり面倒見なあかんゆーことや」

 

 守護騎士が面食らったような反応をする。

 はやてに向けられた優しさに少し動揺していた。

 今までには考えられない。もしかしたら過去あったかもしれない。

 しかし何にしても初めてのような感覚だった。

 

「てことでな」

 

 はやてがなのはを見る。それから守護騎士のほうを向いてお願いした。

 

「そろそろ解放してあげてくれへん?」

 

 縛られたままのなのは。

 はやては最初に解いて欲しいと頼んでいた。

 しかし、主人に危害を及ぼす可能性があるため解放できないと拒否されていた。

 ひとまず話を聞いて欲しいと守護騎士が申し出たため、その通りにすることにした。

 

 守護騎士の話は聞いた。はやては事情を理解した。

 その上で友達だから解放して欲しいと再度お願いする。

 守護騎士もわかったようで、なのはの拘束を解除した。

 

「ふぅ」

 

 なのはが自由を得る。

 

「ん?」

 

 視線を感じる。

 ヴィータはなのはのことをにらんでいた。まだ警戒しているらしい。

 それに気づき、なのはもにらみ返す。

 

 やんのかコラと二人の間に火花が散っていた。

 

「こーら!」

 

 はやてが、なのはとヴィータにおしおきする。

 とは言っても、ペシッと雑誌を丸めて叩いただけである。

 

「いでぇ!」

「ふぐぅ!」

 

 二人は悶え苦しむ。

 張り詰めていたものがなくなったせいか痛みに油断していた。

 ヴィータはお腹を押さえ、なのはは全身をくねらせている。

 

「ふ、ふふ……ご、ごめんな」

 

 はやては悪いと思いつつも、なのはの変なポーズに笑ってしまう。

 

 色々話したいことはあった。

 だがお互いケガをしているため、とりあえずこの日は解散とすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはが家に到着する。

 部屋に入り、イリスに事情を聞くことにした。

 

「一体全体なんなんだ」

 

 イリスは沈黙していた。

 あんなことがあったのだから、流石に話してもらわないとダメだろとなのはが言う。

 

「ごめん、危険な目に合わせて」

 

 イリスはそう言って話を始めた。

 闇の書はかつて、惑星エルトリアを崩壊させた原因だという。

 本の力が暴走し、元々いた研究員達が殺されてしまったこと。再度暴走しないように止める必要があること。

 そのために地球に来たのだと。

 

「だからね、闇の書について調べるのを続けさせて欲しいの」

 

 なのはは考える。それほど危険なものなら、個人で対処することこそ危ないのではないだろうか。

 

「そんな危険なことなら管理局に言った方がいいんじゃないか」

 

 イリスは首を横に振る。伝えない方がいいと。

 強大な力は利用されて酷い目に合う。それこそ、はやてがどうなってしまうかわからない。

 

 続けて、自分なら対処が可能だとイリスは言う。なんとかするからとなのはに強く願う。

 

「それならさ」

 

 なのはが言おうとしたことは予測していたのだろう。

 イリスは先回りで、管理局に伝えた上で対応するのも難しいことを告げる。

 

 聞いたこともない星から来たやつのことなんか信じてもらえないだろうし、知らない技術を用いて対処をするのなんて認めてもらえないと。

 

「うーん」

 

 なのはは悩む。他に思いつくことはなかった。

 丸め込まれている気もしたが、これ以上イリスに太刀打ちは不可能だった。

 はやてのためであることは理解した。他に反論もないため、この場は了承することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。

 

「おはよう」

 

 ベッドの横に女の子が立っていた。

 

「早くしないと学校遅刻しちゃうぞ」

 

 イリスが実物としてそこにいた。

 

「あれ? なんで?」

「もう、寝ぼけてるの?」

 

 ほっぺたをぷくっと膨らます。

 

「ほら着替えて着替えて」

「え、え?」

 

 とても困惑していた。

 

「ふふっ、冗談だよ」

 

 イタズラに成功して喜ぶイリス。

 

「こっちに来てから少しずつ生命エネルギーを集めてたの。昨日の守護騎士達から流れ出た強いエネルギーで一気に身体を作れるまでになったんだ」

「そう、なんだ」

 

 イリスの姿を見る。

 大き目のリボンを使い、サイドポニーを作っている。

 

「家族になんて言えば……」

 

 どうしようと悩む。

 イリスも確かにと呟いた。

 

「はやてちゃんの家にお世話になろうかな」

 

 窓を開ける。

 

「その方が監視できるしね」

 

 開けた窓に足を掛ける。

 

「じゃあね。色々とありがとう」

 

 言うが早いか、イリスは飛び立ってしまった。

 あっという間の出来事だった。

 なのはが何かを言う暇もなかった。

 

「まあ、いっか」

 

 去ってしまったものは仕方ない。

 それに居場所がわからなくなったわけでもない。また今度様子を見に行こうと考え、なのはは学校に行く支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守護騎士が現れてから幾日か過ぎた頃。

 八神家からは賑やかな声がしていた。

 守護騎士とイリス、そしてはやては幸せに暮らしていた。

 

「はやて! アイス食べていい?」

「ええよー」

 

 ヴィータが冷蔵庫に行く。

 

「アイスってこれ?」

 

 しかしアイスは先回りしたイリスの手にあった。

 パクリとアイスを食べる。

 

「あ! 何勝手に食ってんだテメー!」

「へっへっへ」

 

 イリスは愉悦を顔に浮かべる。

 ヴィータが思いっきりすねを蹴とばす。

 イリスは声にならない叫びを上げた。

 

「シグナム」

「はい」

「蒐集はせーへんよ」

 

 はやては闇の書の主として告げた。

 魔力の蒐集は行わないことを。

 

「約束」

 

 それを守護騎士達にも約束させる。

 

「はい」

 

 星空の下、主と騎士の約束が結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家のチャイムが鳴る。

 訪問者をイリスが出迎えた。

 

「いらっしゃい」

「よ」

 

 イリスとなのはが挨拶を交わす。どうやらイリスは上手くやっているようだった。様子見も兼ねて、なのははたまに遊びに来ていた。

 

 八神家に来た時、イリスはなのはに話したことと同じことを伝えていた。

 付け加えて、闇の書に危険がないことを確認でき、かつ帰る準備が整うまでここに置いて欲しいことを伝えた。

 闇の書を調べて対処したいということはまだ伏せていた。もう少し信頼を得てから口にしようと考えてのことである。

 

「おい、なのは」

 

 ソファに座る三つ編み少女。

 

「今日は負けねーぞ。新コンボも覚えたからな」

 

 ヴィータが挑発のポーズを取る。その喧嘩を買い、なのははコントローラーを持った。

 ボコボコにされるヴィータ。まだ、なのはに勝つには早かったようだった。

 ヴィータがはやてに泣きつく。そして、はやてがなのはをボコボコにした。

 いつもの流れである。

 

「なあ」

「なんだ?」

 

 犬型のザフィーラ。

 

「ちょっと頼みがあるんだけど」

 

 ザフィーラは嫌な予感がした。なのはの目はキラキラとしている。

 

「背中に乗せてくれ」

 

 予感は的中する。

 

「私は主はやての守護獣だ。それ以外の命令は聞けん」

 

 お堅い返事である。

 

「私は別にかまへんよ。ザフィーラがええなら乗せてあげな」

 

 ザフィーラは少しだけ考え込む。主人が許可を出している以上断る理由もなかった。

 本音を言えば面倒だと断りたかったが、性格上それは口にしなかった。

 

 人目の付かない山奥に移動する。

 ついでとばかりにはやてはサンドウィッチを作ることにした。急遽ピクニックにしゃれこむこととなる。

 なのはを背に乗せて、ザフィーラが野を駆けていた。

 

「おお!」

 

 はしゃぐなのは。

 一回りしたところで、みんなのところに戻る。

 

「はやても一緒に乗ろうよ」

 

 なのはが誘う。

 

「ええ? 平気かなぁ」

「お任せください。主はやて」

 

 ザフィーラは尻尾を振っている。

 

「大丈夫、しっかり掴まえてるから」

 

 なのはも後押しする。

 はやてはそこまで言うならとザフィーラに乗ることにした。

 

 まずはやてを乗せて、なのはが後ろに乗る。落ちないようにはやてを後ろから抱きかかえた。

 ザフィーラは先ほどよりゆっくりと走り出す。大切なものを扱うかのように、優しく駆けていく。

 

「気持ちええなぁ」

 

 風がはやてを撫でていく。

 その様子をシグナム達はシートに座って見ていた。

 

 シャマルがサンドウィッチをシグナムに手渡す。

 口に入れる。シャマルが作ったものと知らず死にそうになる。

 

 陽気な昼時。

 平穏な日常が流れていた。

 

 イリスはその日常を大いに楽しみ、みんなの中に溶け込んでいた。

 イリスは機を待つことにした。一度失敗はしたが、まだチャンスはある。

 今は信頼と信用を積み上げていくべきだと考える。

 

 いつか来るべき時に、頼ってもらえるように、信じてもらえるようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり寒くなった頃。

 

 なのははいつも通り登校し、自分の席に座った。

 ただホームルームはいつも通り終わることがなかった。どうやら転校生が来るらしい。

 新しいお友達が来ますと先生が告げる。

 

 転校生を先生が呼ぶ。

 教室に入る金髪少女。

 それは見知った顔だった。

 

「フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」

 

 かわいい、髪きれいなどの言葉が女子たちから聞こえてくる。

 

 フェイトがなぜ学校にいるのか。しかも同じクラス。

 なのはは叫びたい気持ちを抑えていた。

 

 黒板の前に立つフェイトと目が合う。

 ニコッと微笑んでいた。

 

 周りが、なのはを見ていた。

 

 時間が止まる。なのはの息も止まる。

 少し不思議そうにしていた先生だが、構わず話を進めた。

 フェイトが席に着き、ホームルームが終わる。

 

 女子はフェイトに集まり、男子はなのはに集まった。

 

「おい高町、知り合い?」

「親戚とか?」

 

 なんて答えたらいいのか。

 

「いや、なんつーか」

 

 冷や汗が止まらず、上手く質問に答えられない。

 それよりもなのは自身がフェイトに質問をしたくて仕方なかった。

 

「ちょっと、なのは」

 

 お嬢様からのお呼びである。平民が道を開け、通り道ができる。

 なのははそのまま廊下へと連れていかれた。

 

「あの子、もしかして」

「ああ」

 

 アリサには魔法関連について事情を話してある。その中には当然、フェイトのことも話してあった。

 アリサは頭が良く、察しがいい。すぐに気づいたのだろう。

 

「あんた知らなかったの?」

「いや、全然、全く」

 

 全力で否定する。

 未だに心臓の鼓動が速かった。

 

「あの」

「ほわっ!」

 

 素っ頓狂な声が出る。横を見ればフェイトが近くまで来ていた。

 

「なのは」

 

 随分と久しぶりに言葉を交わす。

 実際に会ったのなんて別れてからこれが初めてである。

 

 連絡自体は取り合ったことはあるが、本当に数えるくらいだけだった。

 それも裁判の結果についてや、リンディが保護者になったことなどの報告のみである。

 それだってリンディがなのはに連絡を取り、報告後にフェイトと少し会話をするといったついでの流れみたいなものだった。

 

 元々なのはは自分から連絡を入れる方ではなかった。電話もメールも来たら返すのみである。

 フェイトからしたら不安で仕方なかった。なにより寂しい気持ちが積み重なっていた。

 

 そんなとき同じ学校に通うのはどうだろうとリンディから提案があった。

 フェイトはすぐに承諾した。迷うことなどなかった。

 けどやはり不安は残った。もう忘れられてしまったのではないかとも思っていた。

 

 リンディは大丈夫と優しく言う。

 なのははそんな子ではないし、フェイトのことを大切に思っていると。

 フェイトの顔に明るさが戻る。確かにとも思う。

 フェイト自身、なのはが自分を忘れてしまうような人ではないと思っていた。

 

 一緒の学校に通える。

 フェイトはなのはに連絡する用事が出来たと喜び、早速通信を行おうとした。

 

 そこにリンディが待ったをかける。

 連絡を寄越さないなのはにちょっとしたドッキリを仕掛けようと提案した。

 

「女の子を悲しませる悪い子にはおしおきが必要です」

 

 そうしてなのはに対するサプライズが計画された。

 諸々の手続きをいち早く終わらせ、準備を進めていった。

 

 一緒の学校へ行くと決まった日、フェイトは泣いた。

 とても嬉しくて、泣いていた。

 

 そして今、フェイトはこの学校に来ていた。

 

「……なのは!」

 

 フェイトの目から涙が零れる。なのはも思わず、もらい泣きしそうになった。

 お互いに再会できて嬉しい気持ちが溢れていく。

 なのはの目頭が熱くなっていく。やっぱ我慢できないかもと思ったときである。

 

「……はっ!!」

 

 アリサが、教室のみんなが、なのはとフェイトを見ていた。

 これはアカンとなのはが動揺する。

 授業開始のチャイムと同時に先生が席に着けと指示を出す。それを合図に各々が席に着いた。

 とりあえず放課後に話をしようとフェイトに伝え、その場は解散とした。

 

 

 

 放課後になり、なのはとアリサはフェイトから話を聞いていた。

 なのはは少し反省する。もう少し連絡をするべきだったと。

 けど、やりすぎだろとも思った。今度チャンスがあったらリンディに仕返ししてやろうと誓った。

 

「私、アリサ。アリサ・バニングスよ」

「フェイト・テスタロッサです」

 

 よろしくねと言って握手する。

 

 金髪が二人。

 金髪を引き寄せる能力でもあるのだろうかと、なのははくだらないことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 久しぶりに会ったということで魔法の練習をすることにした。

 場所はリンディが用意してくれるとのことである。そのため今はフェイトが住んでいる場所にお邪魔していた。

 

「久しぶりね、なのは君」

「よ、なのは」

 

 リンディとアルフ。二人が歓迎してくれる。

 

「おじゃまします」

「ソファに座って待っててちょうだい」

 

 なのはとフェイトはソファに座る。リンディが飲み物を運びテーブルに置く。

 

「あら、お茶菓子忘れてたわ」

 

 リンディが再びキッチンへと戻る。

 

 今だ、そう思った。

 

 なのはがテーブルの中央にあるミルクを手に取る。

 それをリンディのお茶の中に入れた。だが周りはそれを見て何も言わない。

 リンディが戻ってきてテーブルにお菓子が置かれていく。

 

「それじゃあいただきましょう」

 

 リンディがそう言って、ミルクに手を伸ばす。

 それを自らのお茶に入れた。

 

「え?」

 

 信じられないものを見たという感じに驚く。

 それをおいしそうに飲むリンディ。

 一応、そういう飲み物もある。だがなのはは知らなかった。

 なのははミルク入りのお茶を飲むリンディから目が離せなかった。

 

 一休みして、訓練場の空間へと入っていく。

 リンディの提案で実戦形式で行うこととなった。なのはとフェイトの模擬戦である。

 非公式ではあるが、リンディが魔導師ランクの参考にしたいらしい。

 

 借りを返す日が来たと、なのはは意気込んでいた。

 

「フェイト、全力で来いよ」

「うん、なのはこそ」

 

 デバイスを構える。開始の合図が鳴り、二人は戦闘を開始した。

 

 なのはが近接戦を仕掛ける。

 フェイトも望むところであり、斬り合いが繰り広げられていった。

 

 二撃、三撃、四撃と目にも止まらぬ速さで攻防が続く。

 息をつく暇がなかった。

 

 強い。

 

 お互いに思う。以前よりも、遥かに強くなっていた。

 それもそのはずだった。二人は尋常ならざる肉体を得ている。

 筋力、骨密度、身体能力は以前より何倍にもなっている。それらは成長とともにまだまだ強くなっていた。

 

 若干、なのはが押し始める。近接ではなのはに分があるらしい。

 フェイトが一度距離を取り、中距離戦に持ち込もうとする。

 そうはさせまいとなのはが距離を詰めようとした。だがフェイトの魔力弾が行く手を阻んでくる。

 

 全て斬り捨てるが、中々自分の距離に持ち込めない。

 こういう状況のときのために考えていた手段があった。

 せっかくの練習の場でもある。なのはは新しい技を使うことにした。

 

「え!?」

 

 なのはが一瞬で間合いを詰める。再びのインファイト。

 

 新しい技。

 それは魔法で小さい足場を作り、踏み台とする技。

 その足場で踏み込み、フェイトまで駆け抜けていた。

 飛行では出せるスピードに限界がある。それにフェイトの方が熟練度が高く、追いつくのも難しかった。

 だがこの方法であれば追いつくことができる。地上にいるときのように動くこともできた。

 

 フェイトがもう一度距離を取ろうとする。しかし逃がさないようになのはが一瞬で後ろに回り込んだ。

 空中では信じられない動き。足場を利用し、直角に移動をしていた。

 

「やるね! なのは!」

「おまえもな!」

 

 デバイス同士がぶつかり合う。

 フェイトは考える。

 長期戦になればなるほど、なのはに有利である。

 散らばった魔力を集束して、ディバインソードがどんどん強度を増している。

 そろそろ手がつけられなくなる頃合いだろう。

 

 そうなる前に決着をつける必要があった。

 勝つには短期決戦。

 

 フェイトも新たな境地へと踏み出した。

 

『Blitz Rush』

 

 ブリッツラッシュ。

 高速移動魔法である。加えて、本人だけでなく生成した魔法の速度も加速させることが可能だった。

 ただこれだけではなのはに勝つことは難しい。

 

 ここから先は、フェイト自身も知らない未踏の地。

 

 高速処理を行い、魔法の発動も早めていく。

 そして攻撃魔法とブリッツラッシュをほぼ同時に発動させる。

 通常、攻撃魔法を発動してからブリッツラッシュを使うという方法が一般的である。しかしこの方法では少しだけ隙が生まれるという欠点があった。

 

 魔法を二回発動させる必要があるため、その間隙(かんげき)を狙われてしまうでのある。

 ただこの心配をする魔導師はほとんどいない。その隙を狙えるほどの魔導師はそうそういないためである。だがフェイトが今相手にしている魔導師はそれを可能としていた。

 

 そのためフェイトは並行して魔法を発動させていた。

 魔法の才能で言えば、フェイトはなのはを遥かに凌駕していた。

 

 そして自ら高速移動をしつつ、ヒットアンドアウェイを繰り返しながら中距離から魔力弾を撃ち込んでいった。

 さらに長距離からは砲撃魔法。

 どれも高速移動を行いながら、間髪入れずに放っていく。

 信じられない光景だった。魔法の才能のみならず、それを戦闘にて発揮するセンスもあった。

 

 オールレンジからの攻撃で確実になのはを削っていく。

 ただし、フェイトの魔力もかなりの速度で減っていた。それも当然の結果だろう。

 魔法を高速で、かつ並行して使っているため、魔法に流す魔力量を調節することができなかった。

 普段の二倍、それ以上かもしれない魔力を次々と放出していく。

 

「はぁ、はぁ」

 

 フェイトに疲労が見え始める。体力、魔力の減りもそうだが、何より精神のすり減りが激しかった。

 

 試合の終わりが見えてきていた。

 試合用に設定された数値。

 なのはのバリアジャケットが規定値以下となるか、フェイトの残存魔力が規定値以下となるか。

 どちらが早いかの勝負だった。今のところこのままだとフェイトの勝利となるだろう。

 

 破れていくバリアジャケット。規定値の限界近くになり、勝負が着くと思われたときだった。

 

(ここだ)

 

 なのはは賭けに出ることにした。

 

 向かってくる砲撃魔法。

 片足に魔力を集中させ、その足で砲撃を思いっきり蹴り上げた。

 

「うおらぁ!」

 

 飛んでいるフェイトに砲撃が向かっていく。

 

「うそ!」

 

 予測していない事態。こんなの想像すらしていなかった。

 急いで防御魔法を張る。砲撃を防ぐことはできた。

 だが、フェイトの首元には桜色の剣が突きつけられていた。

 

 試合終了の合図が鳴る。

 高町なのはの勝利である。

 

「よっしゃあー!!」

 

 なのはが両手を上げる。大喜びだった。

 なのはの目標である一つが達成できた瞬間だった。

 

 観戦していたリンディとアルフ。

 アルフはもう少しだったのにと残念そうにしていた。けれども、すぐに二人を称えるように拍手をする。

 

 リンディは画面を見て、静かに呟く。

 

「SSSランク」

 

 魔導師の最高ランク。それがSSSランクである。

 それは言い過ぎかとリンディは考え直す。

 けれどもそう思わせるくらいの戦いではあった。それに戦闘能力だけがランクを決めるわけでもない。作戦遂行能力、状況判断能力、適切な行動をするための知識、その他諸々が問われるのである。

 

 とは言っても、やはり戦闘能力に重きが置かれるのは仕方ないことでもある。命が関わる職種である以上、強い力はいつの時代も必要とされていた。

 

 また戦闘能力だけで言えばSランク以上はあると確信していた。

 正式に測定したらどうなるか興味深いところではある。

 

 なのはとフェイトが芝生の上に降り立つ。

 

「へへっ、俺の勝ちだな」

 

 フェイトは悔しそうにしていた。実力はほぼ同じだったので余計に悔しさを感じる。

 

「いっ……!」

 

 フェイトが少しだけ痛そうな顔をした。

 

「どうした?」

「ちょっと、指痛めたみたい」

 

 フェイトは突き指をしていた。気づかないうちに痛めていたらしい。

 

「テーピングしようか?」

 

 なのはが学校のカバンからテーピングを取り出す。

 なのは自身ケガをすることが多いため、絆創膏に消毒液、テーピングは親に持たされていた。

 

 芝生の上に座り、なのはがフェイトの手を握る。

 慣れた手つきでフェイトの指にテーピングを巻いていった。

 

 フェイトは、じっとなのはを見つめていた。

 

「よし」

 

 指を固定するためのテーピングが完了する。

 

「できた」

 

 フェイトの指から痛みが少し消えていた。

 

「あ、ありがとう」

 

 巻かれたテーピングを見る。

 

「戻ろっか」

 

 なのはが立ち上がり、訓練場を後にした。

 フェイトも続き、家へと戻る。

 戻るとリンディとアルフからの賞賛が待っていた。なのはは気恥ずかしそうにしていた。

 それからは少し休憩をして、なのはは自分の家へと帰っていった。

 

 なのはが帰ったあと、フェイトはベッドで横になっていた。

 腕を伸ばし、手を広げる。

 人差し指にはなのはに巻かれたテーピング。

 明日には指が治って、捨ててしまうだろうそれを見つめていた。

 

 ゆっくりと腕をおろす。

 テーピングがされている指。

 その指でフェイトは唇に触れた。

 温かい気持ちが体中に広がっていく。

 

 その日、フェイトは幸せな気持ちで眠りについていた。

 

 

 

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