高町なのはくん   作:わず

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旅立ち

 

「起きたみてーだな」

 

 横にはヴィータとフェイトがいた。

 なのはが気絶してからすでに一日と半日ほどが経過していた。

 

「なのは! 良かった」

 

 フェイトがなのはの手を握る。

 手のひらからは温かさが伝わってきていた。

 

「なんとかな。今回は結構危なかったけど」

 

 死んでいたかもしれない戦いだった。

 死ぬ思いは何度かしたことはあった。

 だが、今回は初めての殺し合い。お互いに明確な殺意を向け合っての戦いだった。

 今思うと恐ろしいことをしていたと身震いする。

 

「他のやつらも元に戻れたのか?」

「ああ。おかげさまでな」

 

 どうやら他の守護騎士も元に戻れたらしい。

 本当に良かったと思う。戦った意味があったというものだ。

 

 ヴィータは会話を続けていた。

 なのはが寝ている間、色々と事情聴取されていたこと。アースラからは出られず、家に帰ることもできないと愚痴をこぼしていた。

 

「それとよ」

 

 急に話が途切れる。

 ヴィータの顔を見ると少し赤くなっていた。

 

「あんがとな」

 

 言い慣れてないのか、改めて言ったせいかヴィータは恥ずかしそうにしていた。

 

「おう」

 

 茶化そうかとも思ったがやめておいた。

 まだ寝起きで本調子ではない。なので素直に返事だけしておいた。

 

 部屋のドアが開く。見ればアミティエとキリエがいた。

 

「なのはさん。目が覚めましたか」

「よ、元気?」

 

 二人が近くに座る。

 一緒に戦った仲間だが、なのはよりかは元気そうだった。

 ずっと寝たきりの姿勢でツラくなってきたので、なのはは一度起き上がろうとする。

 

「イタタ」

 

 体に痛みが走る。

 回復力に優れているとは言え、流石に無茶をし過ぎたせいでダメージが抜けきっていなかった。

 上半身を起こして座る姿勢を取る。

 

「アミタ、キリエ、助けに来てくれてありがとな」

「当然でしょ。だって私たち」

「お友達ですから。困っていたら助けるに決まっています」

 

 本当に良い友人だった。

 アミティエの真っすぐな気持ちは見習いたいぐらいだ。

 

「リンゴ発見」

 

 見舞い品のリンゴ。

 それをキリエが手に取りむき始める。

 あっという間にむき終わりカットも終わらせる。

 

「はい、口開けて~」

 

 キリエがアーンを仕掛けてくる。

 なのはは口を開けて食べようとするが、それは叶わずリンゴはキリエの口へと運ばれた。

 

 全員、なのはの顔に怒りマークが付いているのを想像できた。

 

「ごめん、ごめん」

 

 キリエが謝り、再びフォークでリンゴを刺す。

 

「はい、アーン」

 

 先ほどの再現。食べようとするなのは。

 だが、リンゴはまたしてもキリエの口に運ばれた。

 

 おいしそうに咀嚼するキリエ。

 それを見てキレるなのは。

 

「それをよこせ! このガキンチョ!」

「ガキンチョはなのは君でしょ!」

 

 なのはが飛び掛かる。キリエはリンゴを死守する。

 駆け回るなのはとキリエ。部屋がワー、ギャーと騒がしくなっていく。

 最終的にはキリエを捕まえてリンゴを獲得していた。

 

 それからアミティエとキリエと話をした。

 最初にグランツの近況を聞くことにした。どうやら病状が悪化する前に療養をすることにしたらしい。おかげで体調はどんどん良くなっているとのこと。

 体を良くしろというなのはの言葉が届いたのかはわからない。ただ、何にせよ回復に向かっているのは良い知らせだった。

 

「また遊びたいって言ってたよ」

「エルトリアに来た際は是非遊んであげてください」

 

 もちろんとなのはは返す。今度は何して遊ぼうかと考える。

 

「なのは」

 

 地球のゲームでも持っていこうかなと考えていると、フェイトが一口サイズのリンゴをフォークに刺して持っていた。

 

「はい」

 

 差し出されるリンゴ。そのリンゴは口元に近い。

 

「いや、自分で食べれるから大丈夫、だよ」

「でも、さっきは食べさせてもらおうとしてたよ」

「それは……そうなんだけど」

 

 キリエが相手だから特に思うところはなかった。

 シグナムにやってもらったこともあるが、アレはおちょくるためにやっていたので恥ずかしさも何もなかった。

 しかし、フェイト相手だと事情が違ってくる。同い年の子だとどうしても気恥ずかしさを感じでしまう。

 

 なのははこの恥ずかしさを言葉にして説明するのが難しかった。これ以上意地を張る理由もなかったので素直に従うことにする。

 

 リンゴを食べる。

 とりあえず食べたが恥ずかしさで味がしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやての見舞いへと出向く。

 なのははアースラにある一室へと入っていった。

 

「おっす」

「なのは君や、おっすー」

 

 ベッドにはやて。その横にはリインフォースがいた。

 はやては元気そうだった。

 攻撃を受けていたので心配だったが、それほどダメージはなかったらしい。

 

「高町なのは」

 

 リインフォースが話しかけてくる。

 

「あなたのおかげで魔導書も守護騎士も取り返すことができた。感謝している」

 

 頭を下げる。

 最近、年上に頭を下げられることが多いなと感じた。

 いたたまれなくなり、頭を上げるようにお願いする。

 

「私もこれから主のお傍で支えていこうと思う」

「もう十分に支えてもろてるよ」

 

 はやてがリインフォースと手を重ねる。

 一拍置いて、はやては確認するかのように問いかける。

 

「もう、大丈夫なんやな?」

「はい。自動防衛運用システムとは完全に切り離されているようです」

 

 話の内容はわからなかった。

 

「そうか。本当に、良かった」

 

 はやてが笑う。

 悪いことではなさそうである。なので、何のことか質問はしなかった。

 

 それよりもテーブルの上に置いてある果物が気になっていた。それらを見てなのはが良いことを思いつく。

 リンゴを手に取り、果物ナイフで皮をむいていく。

 

「上手やね」

「そうか?」

 

 褒められるとどうも調子に乗ってしまう。

 なのはの悪いところであり、好かれる部分でもある。

 

 リンゴを宙に浮かす。

 果物ナイフを見えない速度で振る。

 リンゴが全て一口サイズにカットされ、それらが皿の上に乗っていく。

 一瞬の早業。

 

「お~」

 

 パチパチと拍手が起こる。刃物の扱いに関しては流石の部類だった。

 なのはが自慢げな顔をする。

 

 いやいやと自分自身にツッコミ入れる。

 これを見せるためにリンゴをカットしたのではないと。

 

「はやて」

 

 フォークでリンゴを刺す。

 

「アーン」

 

 口元へ持っていく。

 

「なんや、食べさせてくれるんか?」

 

 はやてがリンゴを食べる。

 嬉しそうにはしているが、恥ずかしがったり怯む様子などはない。

 なのはの思惑とは違う結果となる。

 

「なのは君」

 

 はやてが皿の上のリンゴを刺す。

 

「お返しや」

 

 リンゴを差し出してくる。

 

「どないしたんや?」

 

 なのはが停止する。

 

「はよ」

 

 リンゴを頬にくっつけられる。そのままグリグリと押し付けられる。

 致し方なく、なのははいただくことにした。

 二戦二敗。そんな気分だった。

 

 この類のイタズラは控えようと反省する。

 どうにも分が悪いらしい。

 

 はやてにしてやられた後、なのはは部屋に戻った。

 しばらく部屋で休んでいるとリンディとクロノがやってきた。

 挨拶を軽く済ませ、本題へと入る。

 

「それでね。なのは君」

 

 リンディが言いにくそうにする。若干嫌な予感がした。

 

「確認なんだけど、イリスさんを地球に連れてきたのはなのは君ということで合っているかしら?」

 

 なのはは肯定する。

 間違っている部分はない。

 

「その、ね。なのは君が事件に関与したということで本局から出頭を求められているの」

「……え?」

 

 逮捕される。

 そんな考えが脳裏に浮かぶ。

 

「君が悪いわけではない。それはここにいる誰もがわかっている」

 

 クロノがフォローする。

 それよりもなのはにとって重要なことは一つだ。

 

「俺、逮捕されるの?」

「いや、逮捕はされない。そんなことはさせないさ」

 

 否定される。なのはは胸を撫でおろした。

 

「事件を起こそうと故意にやったわけでもなく、君とフェイトがイリスの言い分を飲んだのも十分致し方ない理由があってのことだ」

 

 なのはに嫌疑を向けられるのもおかしな話だ。

 

「君を事件と関わらせるのなんてこじつけに近い。僕も艦長もあまりな処置だと思ったため反対したんだが……」

「ごめんなさい。私達では力になれなかったわ」

 

 落ち込む様子を見せるリンディ。

 またもや頭を下げられる。

 

「君から事情の確認をしたあと、出頭を取り消すようには申請する」

「じゃあ」

 

 ならば、出向かなくていいのだろうか。

 

「すまない。それでも本局、及びミッドチルダへは行ってもらうことになる」

 

 今回はどうにも圧力が強かったらしい。

 有無を言わさないようなレベルだったとのこと。

 

「事件を起こすきっかけとはなった。なので、今後同じようなことがないように、事件に巻き込まれないように講習が必要と判断されたんだ」

 

 出頭だけではなかった。

 どんな方法でもいいからなのはを一度本局へ招きたいらしい。

 

「講習?」

「魔法関連に合わせて作られた情操教育のプログラム、及び嘱託魔導師としての講習含め、次元世界に関わる犯罪事件について学んでもらうことになる」

 

 情操教育はなのはの年齢が低いため。

 嘱託魔導師の講習は今後も見据えて。

 犯罪事件については、今回みたく事件に巻き込まれないようにするため。色々な事例を参考に注意すべきことを学んでいく。

 詐欺やクスリに関わらないように危機察知能力を高めるのが狙いである。

 

「講習の期間も短くなるように交渉する。生活面も何一つ不自由させるようなことはしない。まあ、僕達のサポートはいらないぐらいかもしれないが」

「悪い扱いは受けないと思うわ。むしろ良くしてくれるはずよ」

 

 リンディとクロノが全力でサポートしてくれるとのことだった。

 本局もかなり手厚く扱ってくれるらしい。

 

「ここまで話しておいてなんだが、これらは表向きだと思う」

 

 クロノが困ったような、あまりよろしくない話をするときのような表情をしていた。

 

「僕の口から言及するのは良くないことなんだが、おそらく本音はスカウトの意味合いが強い」

 

 なのはを本局の魔導師として受け入れたい。

 だからこその手厚い待遇。

 

「こんな強引なことは滅多にない。今回は特別だろう」

「……なんで俺なんかを?」

「君の力は強大だ。先ほど言った通りスカウトの意味もあるだろうし、敵に回したくないというのもある。都市を、ひいては国家レベルを相手にできる力だ」

「国家って……俺が?」

「そうだ。気づいてなかったのか?」

 

 そこまでとは思っていなかった。

 ただ、よく考えれば街を壊滅させる想像はすることができた。

 ナハトヴァールを消し去った一撃。スターライトブレイドであればひとなぎで消し飛ばせる。

 

 本局が強引な手段に踏み切ったのもアレが決め手だろう。

 

「本当に申し訳ない。君には苦労ばかりかける。本局とはまだ交渉を続けるつもりだが、おそらくは……」

「いいよ」

 

 本来なら不貞腐れてもいい場面だ。

 子どもならなおさらだろう。それでもなのはは優しく答える。

 

「いつもありがとな。管理局の知り合いがクロノで良かったよ」

 

 子どもながらに苦労を、痛みを知っているせいか。それともなのは本来のぶっきらぼうな性格から来ているのかはわからないが、クロノにとっては救いだった。

 

「……恩に着る」

 

 きっといい友達にもなれる。

 そうなのはは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスに乗る。

 いつも通り、後ろの席まで行ってアリサの隣に座る。

 ミッドチルダに旅立つまでの間は普通に過ごすことになった。

 色々と予定が決まったらまた連絡を寄越してくれるとのこと。

 

「なのはさ」

「うん?」

「ちょっと変わった?」

 

 何がと目線を向ける。

 

「雰囲気というか、なんだかたくましくなったような」

 

 男子三日会わざればなんとやらだろう。

 死線をくぐり抜けただけあって、確実に成長はしていた。

 

「元からだろ」

「そういうところは変わらないのね」

 

 見間違いかもとアリサが鼻で笑う。

 変わらぬ日常。いつも通りのはずである。なのにここにいないはずの少女が思い浮かぶ。

 

「月村すずか」

「誰、それ?」

 

 つい口に出ていた。

 アリサが不思議そうにしている。

 

「月村ってあの月村家のこと?」

 

 なにやら知っているようだった。

 月村はアリサの家に負けず劣らずの名家である。

 

「というかなのはのお兄さんの恋人も月村じゃなかった?」

「そういえば……」

 

 言われて思い出す。

 確かにそんな名字だった。

 

「月村すずかって子いたっけ?」

「聞いたことないわね。私もうろ覚えだから絶対とは言えないけど」

 

 記憶力が優れているとはいっても、流石にそこまでは覚えていない。

 気にすることでもない。だが、どうにも気になっていた。

 時間があるときにでも調べてみようとなのはは考える。

 

「戻ってくるのよね」

 

 地球にということだろう。

 アリサには隠すことなく事情を話してある。

 

「そりゃもちろん」

「そ。ならいいんだけどさ。最近のアンタ見てると、気づいたらどっか行っちゃいそうに思えてね」

 

 どこにも行かないよと言おうとしてやめた。

 まるで少女漫画のようなセリフ。また思い出しくない歴史が増えるところであった。

 

 取り留めのない日常。

 それらはあっという間に過ぎていった。

 

 三学期が終わり新年度を迎える頃、なのははミッドチルダへと旅立っていった。

 

 

 

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