午前中。
道行く人々をコーヒーの匂いが誘う。
とても香ばしく、つい寄りたくなってしまう匂いだった。
ここはある喫茶店。
女性に人気があり、オシャレな喫茶店で有名である。
その喫茶店のテラス席でなのはがパンケーキにかじりついていた。さらに木目調のテーブルに三皿目のパンケーキが運ばれてくる。
朝から食べる量ではないし、ゆったりと過ごす雰囲気の喫茶店では異様な光景だった。
しかし特に気にすることなく食事を続ける。
「高町なのは君、だよね」
パンケーキを口に頬張る。気付けば青年が近寄ってきていた。
咀嚼しながら顔を上げる。
金髪に青い目。スラッとしたモデル体型。
爽やかな雰囲気を纏った青年がそこにはいた。
「ここ座ってもいいかな?」
咀嚼中だったので声を発することができない。代わりに首を縦に振って返事をした。
青年はなのはの対面に座り飲み物を注文する。
「僕はベル。ベル・ロードスター。よろしくね」
やわらかい微笑みを向けられる。
(イケメンだ)
素直な感想だった。
何の用かと思い質問しようとする。
「何の……」
「あ、あの」
質問が遮られる。
横を見れば女性がいた。新たな来訪者である。
「ベルさんですよね。今日の試合も応援してます!」
「ありがとう。頑張るね」
声を掛けられたのはベルだった。
女性に対してニコっと微笑む。
「は、はい!」
女性は顔が紅潮する。
わかりやすい反応である。
「握手、してもいいですか?」
「うん。いいよ」
ベルと女性が握手をする。
女性は感極まり、黄色い声を上げて逃げるように立ち去っていく。
ベル・ロードスター。
前回の優勝者であり、今回も優勝するだろうと予想される選手である。
またミッド式ストライクアーツの名手でもあった。
「モテモテだな」
興味なさそうに呟く。
羨ましくないと言えば嘘になるが、そこまで妬ましくも思っていなかった。
花より団子。恋よりゲームである。
「君も人のことは言えないんじゃないかな?」
なのはは心当たりのないことを言われて顔をしかめる。
「かわいい顔してるよね。君って」
休まず動かしていた食事の手が止まる。
なぜだが寒気がした。男に言われても嬉しくないし、カッコよく見られたいなのはには受け入れがたくもあった。目だけ動かしてベルを見る。
「自信持っていいと思うんだ」
「あ、ありがとう」
涼しい顔で言われる。
他意はないのだろう。なのはは気にしないようにしようと思い食事を再開させた。
「でも、試合中の君は恐ろしく感じたよ。これがギャップ萌えってやつかな?」
「……違うと思う」
ベルはアレンとなのはの試合を観戦していた。
次の対戦相手はアレンだろうと予測して観ていた試合。だがその予想は裏切られていた。
「すさまじいの一言だったね。君のような選手がいるなんて聞いたことがなかったし、どこのジムでも見かけたことがない」
先ほどとは違い真剣な口調。
「あれほど強烈な試合……しかも突如現れた選手ともなれば興味を持つことに何ら不思議はないさ」
なのはに近寄った理由。それは一人の選手としての興味からだった。
「会場に向かう途中に君を見かけたんでね。つい声を掛けてしまった」
近寄ったとは言ってもただの偶然である。接触の機会を待っていたとかではなかった。
なのはの前に四皿目のパンケーキが運ばれてくる。
平らげられた後の皿が積み重なっていく。
「……試合前にそんな食べて大丈夫なのかい?」
今度はベルが引きつる番だった。
「え? もしかしてダメだった?」
「……そうだね。試合前に食べるにしてもその量は中々見たことがないかな」
「そうなんだ」
そう言いながら口に運ぶ。
人の話を聞いてるのか聞いてないのか。
「まあ、ほどほどにね」
ベルが立ち上がる。
「今日はよろしくね。高町なのは君」
ベルは会場へと向かう。
足取りは綺麗で重心にブレがない。歩き姿一つだけでも強者であることをうかがわせた。
インターミドルの覇者、ベル・ロードスター。
前大会の優勝者であり今日のなのはの対戦相手だった。
都市本選一回戦目。
前座とも言える試合が終わり、本日のメインイベントが始まろうとしていた。
『本日大注目の一戦。その一戦がまもなく開始します!』
満員の会場。
誰もが今か今かと始まるのを待っていた。
『王者とスーパールーキー。両選手の入場です!』
金色の髪をなびかせる。
動きやすい軽装のバリアジャケット。色合いは全体的に白く、まるで白騎士を思わせるような恰好だった。
『ストライクアーツの名手であり、優勝候補の一角。放つ打撃は光の如し! 閃光、ベル・ロードスター!!』
大歓声が起きる。
ベルの登場に会場全体が揺れていた。
『迎え撃つは今大会の超ダークホース! ステージを粉砕した膂力は圧巻の一言! 人間粉砕機、高町なのは!!』
こちらも歓声が湧き上がる。
凄惨の試合をしたとは言え、その後の見ごたえある試合で着実にファンが増えていた。
どれもインパクトのあるKO試合。
派手な試合は観客受けが良かったのだろう。
両者が中央に歩み寄る。
「よろしくね。なのは君」
「こちらこそ」
二人が握手をする。
距離を取り、相対する。
「両者、構えて」
レフェリーが二人を確認する。
準備万端と捉え、試合開始の合図をした。
同時に踏み出す二人。
中央でお互いが攻撃を繰り出す。それを互いに防御する。
すかさず、次の攻撃へと移っていく。
試合開始から五秒。高速の乱打戦へと移行していた。
拳と足技、それらが次々と交わされていく。
都市本戦に出場する選手は相当な実力者である。
この大会に出場する以上、本戦出場を一つの目標として掲げる選手は多い。何年かけてもこの場所にたどり着くことができない者もいる。
ゆえに試合のレベルは相当高いものとなる。
だがそれらを加味したとしても、都市本選一回戦目とは思えないハイレベルな戦いが繰り広げられていた。
高度な技術、高いフィジカル。
まるで前倒しで観る世界代表戦だった。
続く攻防。
まだ互いにクリーンヒットはない。
(上手くて、速い!)
当然の話ではあるが、ベルはアレンとは違い技にキレがあった。
アレンも一流選手と変わらないほどの実力はある。だとしても天と地ほどの差があった。
(それに、見えねぇ……!)
なのはの顔に一筋の汗。
今のところ避けたり防御はできたりしている。ただそれを可能としているのは今までの戦闘経験や傑出した直感によるものだった。
見てから動くのでは遅い。予測して事前に回避する。それができているからこそ、なのははどうにか応戦できていた。
イーブンと思われていた乱打戦。およそ一分後、その均衡が崩れる。
油断と言うにはあまりにもわずかな隙。この戦いにおいては命取りになる隙だった。
なのはが回避のために飛び上がる。
(やべっ!)
すぐに気づく。悪手であると。
両足が地面から離れたところにすかさず拳が入る。
見えない拳。光ったと錯覚するほどの打撃。
ベルが閃光と言われる所以である。
強烈なオープニングヒット。なのはが場外へと飛ばされる。
LIFE 8,032
「大丈夫かい?」
ドクターに声をかけられる。
「痛いけど。まあ大丈夫」
立ち上がり、ステージへ戻る。
ベルは構えたままだった。
油断も隙も無い。年下であり、ぽっと出のなのはのことを一切格下とも思っていなかった。
「強すぎだろ」
「君もね」
本心から言っているからか、嫌味には聞こえなかった。
試合が再開される。また先ほどの攻防が繰り返される。
だがやはりなのはが押される形となっていた。
少しずつ削られるライフ。ラウンド終盤は防戦一方となり、そのまま一ラウンド目が終了となった。
歓声が上がる。
息つく暇もない打撃戦に観客が興奮していた。
「苦戦しているみたいだね」
まるで他人事だった。
「何かアドバイスとかないの?」
ドクターは仮にもセコンドである。
対策の一つや二つ期待したいところだった。
「戦術を変えるのはどうだい?」
特に何も期待していなかった。そう思っていたところに何やらそれらしいことを言い始める。
「戦術?」
「徒手を止めて剣を使ってみたりとかね」
寝耳に水だった。
「デバイス禁止じゃないの?」
「禁止ではないよ。現にバリアジャケットを着用しているではないか」
確かにその通りである。
「そ、そうだけど、いや、え? だって、最初にダメって言わなかった?」
「選考会はね」
あっさりと返答される。
「武器として使ってもいいの?」
「もちろん。それに他の選手もデバイスを武器として使用しているのを見ているだろう?」
それもそうだった。
最初にダメと言われたのが頭に残っていて、てっきりダメなのだと思い込んでいた。
大会のルールを確認しなかったなのはに非があるとも言えないが、振り回されている身としては少々酷な話だろう。
詳しく確認しなかったなのはと説明を怠ったドクターの半々の責任である。
「もうちょっと早く言ってくれよ」
「おや、これは申し訳なかった。心から謝罪しよう」
いつものことだが反省している様子はない。
「光明は見えたかな?」
「そう、だな」
一番得意な戦い方。
剣術に切り替えればおそらく有利に進められる。けど、今更使う気にもなれなかった。
今使ったらなんだか負けなような気がした。
なのはとドクターの会話をベルが見つめる。
内容までは聞こえないが、試合の対策をしているようには見えなかった。
まるで日常会話をしているかのような様子が目に映っていた。
「フゥ……」
タオルで汗を拭う。
そのタオルが大量の汗を吸収する。
「どうだ? あの少年は」
「強いね」
セコンドの言葉に正直に返す。
「一発だってもらえない。すべてがKOパンチ級だよ」
大量の汗は必死の証拠だった。
防御の上からでも響かせる攻撃。それは過去に見ないほどの破壊力だった。
「でも、勝つのは僕だ」
勇ましく立ち向かう。
積み重ねた練習に裏打ちされた自信が彼を戦場に立たせる。
両雄が再びステージで構える。
二ラウンド目の開始である。
「行くよ、なのは君」
開始直後、またもや二人が肉迫する。
洗練された動き。なのはに襲い掛かる素早い打撃。それらを回避し、なのはが腕でいなしていく。
(動きが、変わった)
ベルが面食らう。
だが驚きも一瞬。動きが変わったからと言って何も特別なことはしない。
練習して来た通り試合に臨むだけである。
左ジャブの二連撃。また腕でいなされる。それはベルの動きを理解しているかのような動きだった。
このとき、なのははストライクアーツのおおよそを理解していた。
ストライクアーツには色々な流派が存在している。
それらの本流として存在しているストライクアーツがあった。それはミッド式のストライクアーツである。
魔法と格闘技の混合により生まれた技術。
手と足の打撃戦を中心とし、魔力付与による攻撃を与える格闘技。
重要なのがこの魔力付与の攻撃となる。
ミッド式のストライクアーツは基本的に魔力ダメージによるノックダウンを目的としており、なのはのように人体粉砕を目的としていない。
ゆえに当てればいい。その考えに基づきストライクアーツの打撃は構築されていた。
力み、伸びきった攻撃のバリエーションは少ない。ヒットアンドアウェイが基本であり、攻撃した後の引きの技術が重要となるのである。
ただ、これを理解して使っている選手は少なかった。
派生が多くなり、ジムの数だけ教え方も異なってしまったのが主な原因だろう。
だがそれが悪いというわけではない。自分に合った形に変えていくのも一つの手段である。
自らの資質に合わせて変化させていくのも必要なことである。変化は必要だが、それでもやはり本流のミッド式ストライクアーツは伊達ではなかった。
当初の理念から離れず洗練され続け、近代化されてきたミッド式ストライクアーツ。
その理念を理解して使いこなすことができれば確実に最強格だった。極めれば他者を寄せ付けない格闘技を体得することが可能となる。
だが悲しいことに現状は型を覚え、その動きを再現することに力を注ぐ選手がほとんどであった。
当然、ベルはあるべき姿のストライクアーツを理解して使用していた。アレンの動きが悪いわけではなかったがなのはは何か違和感を感じていた。しかしベルのお手本となるべき動きを見てなのはの中で歯車が噛み合っていく感覚があった。
型を覚え、使い方を理解する。
ベルの動きからミッド式ストライクアーツの理念を学びなのはの中でストライクアーツが完成していった。
ベルの攻撃を捌き切ったなのはが再び構える。今までとは違い、その姿は堂に入っていた。ストライクアーツの選手と言っても過言ではない姿である。
普通なら真似をされて不快に思うところである。馬鹿にされていると感じて激昂してもおかしくはない。
だがベルは一層警戒心を強めていた。技術も精神も優勝候補としては相応しいものであった。
(ストライクアーツを習得したか)
なのはがストライクアーツをものにしたことに気づく。なのはに対する意識をストライクアーツの名手へと切り替える。
(フィジカルでは敵わない。距離を取り、リーチ差を活かして突き放す!)
ベルが方針を決める。
なのはも心の内で状況を確認していく。
(こっちは付け焼刃もいいところだ。技術じゃ一歩届かない。だけど……当てれば勝てる!)
再び戦闘が開始される。
ストライクアーツの使い手同士のぶつかり合い。
組み技も投げ技もない。逃げずに立ち向かう、打撃のみによる男同士の戦いがここにあった。
同レベルの打ち合いが続いていく。
(――行ける!)
連続で二発なのはにヒットする。
LIFE 5,400
同レベルとは言え、やはり技術はベルが上である。
さらにもう一発入る。それを機に徐々にベルが攻勢を強めていく。
LIFE 4,951
LIFE 3,330
LIFE 2,121
なのはのライフが削られ、形勢はベルに有利になっていく。
なのはの形勢が不利になった理由。
それはなのはの戦い方が変わったためであった。
ストライクアーツの競技者としてのレベルを高める一方、その分ベルが警戒していた破壊力が犠牲になっていた。
ミッド式ストライクアーツの性質上、一撃必殺はない。
攻撃を当てることに重点が置かれているため、なのはの破壊力は多少なりとも減衰していた。
一撃で倒される心配がないならば攻撃も前のめりになる。
完全に防御を捨てたわけではないが、ベルは勝負を決するためにさらに回転数を上げていった。
LIFE 1,600
猛攻がなのはを襲う。激減していくライフ。
だが今度はベルが隙を見せる番だった。
LIFE 980
なのはのライフがもう一押しとなる。
逸る気持ち。急いてしまった心。そこに生まれるわずかな一瞬の隙。
攻撃にかなり傾倒していたこともあり、引きの技術が甘くなっていた。
嵐のような攻撃の中、わずかに攻撃が伸びきった瞬間を狙いなのはがカウンターを放つ。
閃光の打撃が放たれる。
それはベルの技そっくりそのままだった。
なのはの拳がベルの顎を完璧に捉える。
「がっ……!」
パァンと乾いた打撃音が響き渡る。
ベルが仰け反る。目に映るのは追撃をしようとするなのは。
回避は不可能。出来ることと言えば即席のシールド展開のみである。
攻撃を食らって、ダウン判定をもらう。それは決着を急いだ自らの責だろう。
ある程度のライフを犠牲に仕切り直しを考える。ストライクアーツを使用している以上、一撃で倒されることはない。
そう、ミッド式ストライクアーツに一撃必殺はない。
当てたら引く。それが基本である。
ただその考えが通用するのは同じレベルの域に達しているストライクアーツの選手に対してである。
もちろん、なのはに対してその考えは通用する。
それは正しくもあり重大な誤りでもあった。
見誤ったことがあるとすれば、なのはを格闘技の選手と位置づけたことだろう。
なのはがどれだけ高度な技術を使用していようとも、所詮、試合という形式の中で人の真似事をして戦っているだけである。
人と試合をしていたという認識が誤りであり、正しくは人の皮を被った猛獣と戦っていたと認識するべきだった。
その本質を見誤ったのがこの試合の敗因だろう。
なのはの腕の筋肉が隆起する。
力の解放。
技も何もあったものではない。
ただただ、圧倒的な暴力が放たれる。
ベルとなのはの間にシールドが展開される。
そんなものは紙同然であり、あっさりとシールドが砕け散っていく。
拳は顔面へと直進していき、勢いよく叩き込まれた。
抗えぬ暴力がベルを襲う。
勢いよく吹き飛び、場外の壁に激突する。
LIFE 0
インターミドルチャンピオンシップ、都市本選一回戦目。
事実上、この試合が決勝戦であったと、この場にいた全員の記憶に残ることとなった。
『しょ、勝者! 高町なのは!!!』
大歓声と大喝采。
会場中が熱気に包まれていた。なのはを讃える声があちらこちらから聞こえてくる。
少し恥ずかしく思いつつも、なのはが手を天に向かって突き上げた。
さらなる歓声が会場に響き渡っていく。
その後、なのはは順調に勝ち上がり世界戦へと駒を進めることになる。
そして大会初参加にして、なのはは世界戦で優勝を果たすこととなった。
優勝した翌日。
お祝いをしたいとのことでドクターから呼び出しを受けていた。無視しても良かったのだが、悲しいことに他にやることもなかった。
そのため、なのははドクターとの待ち合わせ場所に向かうことにする。
都市部からやや離れた場所。
森の中に建てられた建造物。なんとも人目に付きづらい場所だった。
(なんでこんな場所に……)
見つかりにくいようにあえてここに建てたとしか思えない場所だった。
入り口と思わしきところに近づく。するとひとりでにドアが開き始める。
中に入れということだろう。
奥に進むとドクターがいた。
「やあ、待ってたよ」
スーツに白衣。
いつもの姿だが、この空間にはよくマッチしていた。
精密機械に囲まれ、研究施設と思わせる空間。事実、研究施設ではある。
ただ生活感があるようには全く見えなかった。
「わざわざすまないね」
また妙なことにならなければいいのだがと、なのはが不安を抱く。
「実験とかされないよね?」
「そんなことはしないとも。今日はささやかながらプレゼントを渡すだけさ」
「本当?」
疑わしくもあるが、少し楽しみな気持ちもある。
「ちょっとした旅行でもどうかなと思ってね」
「旅行?」
意外なプレゼントだった。
「君にとっては珍しいものが見れるはずだよ」
ドクターが何かの装置の前に立つ。
「ただその前に準備が必要でね」
手が差し出される。
「君のデバイスを貸してくれないか」
「デバイスって、レイジングハート?」
ドクターが頷く。
なぜと不思議に思うが、とりあえず素直にレイジングハートを渡してみる。
「これが鍵であり、道しるべになっているのさ」
レイジングハートを優しく丁寧な手つきで扱う。
「今から行く星で保管されていたものだからね」
レイジングハートを装置に入れて、ドクターがスイッチを押す。
「ちなみに君はこのデバイスの名前をどうやって知ったんだい?」
質問の意図がわからなかった。
わからないがとりあえず質問には答えておく。
「それをくれた友達に」
「なるほど。君はこのデバイスに直接名前を聞いたことがあるかい?」
「いや、多分ないと思うけど……」
「そうか。ならば今度問い掛けてみるといい」
なんでそんなことをと思うと同時に、最初にレイジングハートを握った時のことを思い出していた。
その時にある名前が心に浮かんでいた。それは今となっては忘れてしまった名前。
なんだったかなと思い出そうとするが出てこない。
考えをめぐらせている最中、装置の作業が終了する。レイジングハートを取り出してなのはに返却する。
それからドクターは転移装置へと入っていった。
「さあ」
横に来るようになのはを招く。
今回もいつの間にか成り行きで事が進んでいた。
誘われるがままに装置へ入る。
入ったことを確認しドクターが起動スイッチを押す。
「一体どこに?」
なのはが見上げる。するとドクターの嫌な笑みが目に映った。
「アルハザードさ」