高町なのはくん   作:わず

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休息

 

 時が動き出していた。

 木々が揺れ、風が吹き抜けていく。

 人がいないせいか、鳥や虫の鳴き声がよく聞こえていた。

 

 世界が息をしていた。

 

 あれからなのは達は比較的損傷の少ない病院へと移動していた。ドクターは自分の治療のため手術室にこもりっきりである。

 

 十数人は入れる大部屋の病室。

 その病室に置かれているベッドでアリシアが寝ていた。

 死んでいるものかと思っていたが、息をしているのを確認したのでここまで連れてきていた。

 

 アリシアを横にした後、なのはは食料を探しに外へ出かけることにした。

 食べるものはすぐに確保することができた。店などに置いてある食料品が無事に残っていたのである。生鮮品などもあり、見た感じ状態は悪くない。経験上新鮮そのものである。

 しかし、それでも手を出すのは怖かったので、なるべく加工品を持ち帰ることにした。

 

 なのはは戻ってきて早々に食事を終わらせた。全部は食べずにちゃんとドクターとアリシアの分も残しておく。

 栄養補給を終えて一度アリシアの様子を見に行く。

 するとアリシアがベッドで上半身を起こしていた。

 

「ここ、どこ?」

 

 不安そうな声。

 

「アルハザードってとこ。それ以外は俺もよくわかんないや」

 

 怖がられないように注意を払う。

 

「きみは?」

「高町なのは」

 

 なのはが名乗り、聞き返す。

 

「……アリシア」

 

 やはりアリシア本人だった。

 

「そっか。よろしくな」

 

 愛想よく笑いかける。

 慣れないことをしているせいか、その笑顔は若干引きつっている。

 

「ママは?」

 

 プレシアのことだろうと推測する。残念ながらその行方は知らない。

 

「今どこにいるかわからないけど、とりあえずここにはいないよ」

 

 嘘にならないように伝えられる範囲で答える。それをどう取ったのかわからないが、アリシアは泣きそうな顔をしていた。

 

「う……」

 

 目元には涙が溜まっていく。

 

「うぅ」

 

 こぼれ落ち、ついには泣き出してしまった。

 

「うあぁぁ!!」

 

 なのはが慌てる。

 泣いている小さい子の対処などしたことがない。しかも泣いている理由が親がいないというなんともハードな内容だった。

 アリシアのもとに行き、優しく頭を撫でる。

 

「大丈夫」

 

 泣き止むことはない。

 それでもなのはには落ち着くまで撫で続けるという選択肢しかなかった。

 

「大丈夫だよ」

 

 少しでも安心してもらえるように、優しく声を掛け、温もりを伝える。

 

 そうして、泣き終わった頃には疲れてしまったのか再び寝入っていた。

 

 なのはが椅子に座り腰を落ち着ける。

 どうしたものかと悩む。アリシアがここにいるということは、もしかしたらプレシアもどこかにいるのかもしれない。

 探すべきか、放っておくべきか。

 ただ、どちらにしてもまずは生活基盤を固めることが優先事項になるだろう。ドクターが言うにはすぐに帰ることは難しいらしい。

 

「てか、一方通行の旅行だったのかよ」

 

 独り言のつもりだったが、それに反応する者がいた。

 

「普通の旅行ではつまらないだろう?」

 

 ドクターが病室に入ってくる。傷はふさがり、消失した左腕も復活していた。

 

「男二人の旅行だ。冒険心は大事にしないとね」

 

 ツッコミが口から出掛かる。けど、それよりも気にすべきことがある。

 

「腕、治ったの?」

「機械の腕を取り付けたのさ。かっこいいだろう?」

 

 見た目は普通の人の腕と遜色ない。ドクターが何か操作する動きをする。すると左腕が音を立てて変形していった。

 工具のようなものに変わり、人間の腕とはかけ離れた形となる。

 それを見せびらかして楽しそうにしているドクター。その姿を見て心配な気持ちもどこかへと飛んでいた。

 

 悪いことではないのだろう。人に余計な心配をさせないのはドクターのいいところなのかもしれない。

 ただ、自分自身が本心から楽しんでいるだけで他人のためにそういう態度を取っているわけではなかった。

 

「食べ物、取ってきたやつそこに置いてあるから」

「ありがたくいただくよ」

 

 食事をして休息を取る。話し合う議題は山のようにあった。

 あるが、ひとまずそれは置いておく。とにかくこの日は休むことにした。

 二人もベッドで横になり、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。

 窓から日が差し込む。

 

「ぐへっ!」

 

 なのはの腹部に衝撃が伝わる。

 何事かと目を開ければ、目の前にアリシアがいた。

 

「おきて」

 

 アリシアが上に乗っかり、なのはをゆする。

 

「おなかすいた」

 

 腹が減っているらしい。

 

「そっか。じゃあ準備するからドクターも起こしてくれ」

「ドクター?」

「そこに寝ている人だよ。思いっきり乗っかってあげて」

「わかった」

 

 なのはが起き上がり、朝食の準備に取り掛かる。とは言っても、出来合いの物を並べるだけではある。

 

「うぐ」

 

 ドクターから苦悶の声が聞こえてくる。

 なのははその声を聞いて気分が良くなる。人数分の食事をテーブルに並べて、朝ごはんの支度を終わらせる。

 

 三人で朝食を囲む。

 

「わたしアリシア。あなたは?」

 

 パンを食べながらアリシアがドクターに自己紹介する。

 

「ジェイル・スカリエッティ。好きに呼んでくれて構わないよ」

 

 ドクターが名乗る。アリシアはもちろん、なのはも初めて名前を耳にする。

 

「そういえば君に名乗るのは初めてだったかな?」

「そう、だな。結構一緒にいたけど初めて聞いたよ」

 

 今になって知る名前。

 だがなぜ今になって名乗ったのか不思議だった。

 

「なんで内緒にしてたんだ?」

 

 最初に会ったときは名乗らなかった。名乗らずドクターとだけ答えていた。

 

「あのときはまだ知られるわけにはいかなかったからね。知られてもそれほど問題にはならなかっただろうが。万が一を考えてね」

 

 何か悪いことでもしたのだろうかと勘繰る。

 

「なんか悪いことでもしてたの?」

 

 思ったことをそのまま口に出ていた。

 

「悪いことはしていないさ。多分ね」

 

 多分という回答にツッコミは入れない。馬鹿正直に付き合うと疲れるだけだとなのははわかっていた。

 ジェイルの言葉を流して食事を進める。

 

「なのはくんのパパじゃないの?」

 

 全くもって見当違いなことを言われる。

 だが、アリシアから見たらそう思えたのかもしれない。

 

「いや、違うよ」

「私はそれでも構わないがね」

 

 ややこしいことを言うなとなのはが睨む。

 

「そうなんだ。なかよしさんだからそうなのかなっておもっちゃった」

 

 仲が良いかと言われると疑問が残る。

 悪くはないが、友達ともまた違う関係。あやふやではあるがそのうちこの関係にも名前が付くことだろう。

 

「アリシアは父親と仲良かったのかな?」

「わかんない」

 

 アリシアは特別気にする様子もない。

 

「あったことも、みたこともないの」

「そうか。悪いことを聞いてしまったね」

 

 ジェイルに気を遣うという言葉は存在しない。だからこの謝罪も言葉の上だけである。

 

「だが安心してくれたまえ。ここでは私が父親代わりだ。なんでも相談してくれて構わないよ」

 

 どういう風の吹き回しか。

 なのはが不思議な生き物を見るような視線をジェイルに向ける。しかし意に介していないのかジェイルはちぎったパンを口に入れる。

 

「さて」

 

 食事を終えて、ジェイルとなのはが話し合う。

 

 最終目標はミッドチルダに戻る手段を確立すること。

 それは時間を掛ければジェイルが解決するとのことだった。

 

 現状優先すべきこと。

 それは生活基盤の安定である。まずは衣食住を満たす必要があった。

 衣と住はそれほど難しい問題でもない。

 着るものは店から持ってくればいくらでもある。住む場所も腐るほどあるくらいだ。好きなところを選んで住めばいい。

 

 問題は水と食料だった。これらを確保しなければならない。

 

「水は心配いらない」

 

 ジェイルが言うには水に関しては問題ないみたいだった。

 自動生成器があるらしく、それを使えばいいとのこと。

 

 食料は流石に調達しないといけないらしい。

 今のところは食料品売り場から持ってくれば事は足りる。しかも幸いなことに時が止まっていたため保存状態は良好だ。

 どのくらい持つかはわからないが、三人分と考えれば半年以内に餓死することはないはずである。食いしん坊が一人いるので不安ではあるが。

 いつまでいるかはわからないが、農業をやり出す事態に発展するのは避けたいところだった。

 

「そもそもなんでアルハザードに来たんだ?」

 

 一通り話し合うべきことを終える。それからここに来た理由を聞いた。

 

 イタズラっ子のような笑みを浮かべるジェイル。それに対して、なのはが旅行などというふざけた理由を先に封じる。

 それを言おうとしていたのだろう。

 一瞬ではあるが、珍しくジェイルがムッとした感情を見せた。ほんの少しの変化だったが、ある程度付き合いのあるなのはにはその変化が読み取れた。

 

「探し物があるのさ。それを見つけなければ来た意味がない」

 

 口を挟まず話の続きを聞く姿勢を取る。

 

「私が帰還する手段を構築している間、君にはそれを探して欲しい」

 

 警戒心が強くなる。

 

「その探し物って?」

「イデアシード。ロストロギアさ」

 

 聞いたことのない名称。

 当然といえば当然である。

 

「ハァ」

 

 ロストロギアと聞いて溜息が出る。一筋縄でいかなそうな案件だ。

 

「わかった。探してくるよ」

 

 素直に従う。

 その様子にジェイルが少し興味を示す。

 

「なぜ、とは聞かないのだね」

「聞いても教えてくれないんだろ?」

 

 なのはが机に肘を着く。悪態とまでは言わないが、不貞腐れているようには見えた。

 

「まあ聞いてもわかんないだろうし、何かそれっぽいこと言われて流されるのがオチでしょ?」

 

 ジェイルが足を組む。両手は右膝の上。

 目線はなのはに向けたままである。

 

「それに」

「それに?」

 

 ジェイルが続きを促す。

 

「探してこないと帰る手段用意しないつもりだろ?」

 

 なのはとジェイルの目線が重なる。

 

「――ふむ」

 

 目を閉じ、肩を揺らす。

 ジェイルは楽しそうにしていた。

 

「君は決して頭が悪いわけではないんだね。それともとてつもなく勘がいいだけのか」

 

 微笑をこぼす。

 

「私は自らの欲望に忠実なのでね……フフ、あまり怖い顔をしないで欲しいな」

 

 ジェイルからは怖がっている様子など微塵も感じられない。

 むしろ楽しそうである。

 

「君の前では私は無力に等しい。それこそ救済を求めるがごとく、神に祈りを捧げることしかできないだろうね」

 

 大げさな物言い。

 そのふざけた振る舞いを見せられてなんだか毒気を抜かれる思いだった。

 

 なのはが椅子から立ち上がる。

 食料を調達しに出かけようとしたときだった。

 

「……ママ」

 

 袖を引っ張られる。

 アリシアが寂しそうな表情をしていた。

 なのはとジェイルが目を合わせる。

 

 プレシアの捜索。

 やることリストの項目に一つ付け加えることした。

 

 

 

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