管理局の狂犬
ミッドチルダから離れた管理外世界。
そこは移住により今は誰もいない無人世界だった。
「弾幕を張れ! 前線を下げるな!」
数十人の管理局員が魔力弾を撃ち続ける。撃つ先はそびえ立つ防壁。元々軍用施設だったこともありその壁は堅牢である。
「グレネード!!」
悲鳴に近い叫び声が上がる。魔力弾のお返しとばかりに手榴弾が投げ込まれる。続けてロケットランチャーが撃ち込まれ、局員の何人かが吹き飛ばされてしまう。
「おい、大丈夫か!」
近くにいた局員が庇うようにシールドを張る。その間に負傷した戦闘員を衛生兵が回収していく。
管理局が相手している集団。それはある軍事組織だった。今日、ある施設にて質量兵器の取引が行われると情報があった。管理局はその情報を事前に掴み、二つの組織を同時に取り押さえようとしていた。片方は軍事組織、もう片方は武器商である。
防壁の向こうにある施設。その施設を制圧しようと時空管理局は奮闘していた。前線を押し上げたいところだが状況は芳しくなかった。
相手は違法組織。規模が大きく人員も武力も十分揃っている。そのため簡単に攻め込むことができずにいた。
「シールドを重ねろ! 一度陣形を立て直せ!」
戦況は不利。むしろ押されていた。このまま行けば後退せざるを得ない。それも時間の問題だった。
戦況が不利な理由。主な理由としては強気に出れるかどうかだろう。軍事組織は殺しも厭わずに攻撃を仕掛けてきている。対して管理局は非殺傷設定によって制圧を行おうとしていた。軍事組織からすれば死ぬどころかケガすることもほとんどない。となれば強気に出てくるのは必然だろう。
それに比べて管理局は命がけである。下手に頭を出せば撃ち抜かれる。魔力による防壁があるためそう易々と突破はされないが絶対ではない。一発や二発ならともかく、機関銃等で攻撃されてしまえばシールドもバリアも耐え切れずにハチの巣にされてしまう。
ならば管理局側も攻撃の脅威を上げるために殺傷設定に切り替えればいい。そう考える者は多少なりともいる。だがその選択肢は取りにくかった。取りにくいだけで選択肢としては存在していた。極論ではあるが、この非常事態において敵勢力を殺傷しても法的に問題はない。ケースバイケースも考慮されるが、質量兵器を使ってくる相手ならば命を奪ったとしても罪に問われることはなかった。
だが相手を殺すようなことはしない。それは殺傷しないで制圧できる手段が存在しているからだった。殺さずに済むなら殺す必要はない。そのように極力努力すべきだろうというのが世論であった。そういった理由もあり殺傷設定を使うことはしていなかった。ただ、その世論によって管理局員の命は危険に晒されることにはなっていた。
敵側が機関銃のセットを完了させる。大量の弾丸が管理局員に向かって発射されていく。次々とシールドが破壊されていき戦線に穴ができる。
「隊長、もう持ちません!」
前線から悲鳴が上がる。魔法のみで対処するには限界だった。
「くっ……!」
引くわけにもいかない。ここで引けば犯罪集団をみすみす逃してしまうことになる。そうなればさらなる被害者が出ることになる。だがこれ以上の継続は厳しかった。戦場に立つ者の命が危ない。最悪全滅もあり得る。
決断を迫られる。作戦の継続より目の前の命を優先すべきと考える。迅速に判断し撤退することを司令部に連絡しようとしたときだった。
『聞こえるか』
隊長の元に一本の念話が届く。今しがた連絡しようとした司令部からだった。
『状況は?』
『被害甚大、撤退が必要だ』
簡潔に伝える。良いタイミングだが同時に悪い予感も覚える。司令部からの連絡で良い知らせがあった試しがなかった。
『後一分持ち堪えることはできるか?』
予感は的中する。到底受け入れることはできない。今すぐに撤退しなければ取り返しのつかないことになってしまう。
『可能だ……可能だが受け入れられない』
『なぜだ』
そのやり取りには現場と司令部の温度差があった。司令部が現場の過酷さをわかっていないというわけではない。だがどうしてもリアルに直面している者としていない者とでは感情に差が出てしまうのは仕方なかった。
『被害が大き過ぎる。そんなことをすれば全滅するぞ!』
語気が強くなる。今は一秒が惜しいときである。他人事のように話す通信兵のイラつくのも無理はない。
『応援を寄越す。それまで耐えて欲しい』
今回割り当てられた戦力は全て投入済みである。応援の予定もなかったはずだ。
『どこの部隊だ。一つや二つの部隊じゃ時間稼ぎにしかならんぞ』
『部隊は向かっていない。応援は一人だ』
血管がブチ切れる思いだった。この期に及んで何を言うのだと怒りをあらわにする。
『何ふざけたことを……!』
『向かっているのは高町一等空士だ』
その名前を聞いて怒鳴ることを止める。怒りから驚愕へ、そして希望へと変わっていく。
『……本当なんだな』
『ああ、間違いない』
怒りはすでになかった。あるのは希望のみ。
『もう一度聞くが到着まで耐えられるか?』
『問題ない。それぐらいなら可能だ』
念話を切る。それから前線にいる局員に今の内容を伝えていく。負けが濃厚となり、怯える気持ちが強くなっていた局員。しかしそれを聞いて全員の目に希望が宿る。士気が戻り始めた局員達。
後のことを考える必要がなくなり、残る魔力と体力を全力投入していった。
「なんかさ」
防壁と施設の中間。そこで連絡役として待機している三人組がいた。
「急に静かになってないか?」
手に持っていたトランプをテーブルに置く。絶え間なく聞こえていた音が止んだことにより違和感を覚えていた。
「管理局が引いたんだろ?」
仲間がいつものことのように言う。そうであれば問題はない。だがいつもと様子が違う。この軍事組織は荒くれ者の集まりだ。仮に管理局を追い払ったのであれば下品で下劣な歓喜の声が聞こえてくるはずである。
それなのに何も聞こえない。拭い切れない違和感のもと前線に連絡を取る。
「……反応がない」
通信が繋がらない。不安感が生まれていく。双眼鏡を手に取り、前線の様子を確認しようとする。
「ん?」
双眼鏡で防壁の方を見る。するとある人物を捉えた。
「……あれは!」
男が目を見開く。双眼鏡が捉えた対象。それは空を飛び、高速で向かってくる魔導師だった。男の顔から大量の汗が噴き出す。口の中は一気に渇き、目は血走っていた。勢いよく振り返り、仲間に向かって大きな声で叫ぶ。
「管理局の狂犬だ!!」
それを聞いて二人が勢いよく立ち上がる。
「急いで戻れ! ボスに報告を……!」
パタリと倒れる。最後まで言い切ることはなかった。倒れた男の後ろには青年。身長は百七十センチほど。白いバリアジャケットに桜色の魔力刃を展開していた。
残った二人が拳銃を取り出す。青年に向けて迷うことなく発砲する。これだけ接近している場合、高ランク魔導師を除き、魔法より質量兵器の方が有利だった。魔法の発動までの時間と比べ、拳銃の発砲の方が遥かに速い。その証拠にシールドが間に合っていなかった。
「へっ……」
発砲した二人は当たったと確信していた。安堵した表情を浮かべるが、すぐに一変することとなる。
「マジ……かよ」
計四発。
男達が発砲した弾数である。その全ての弾が青年の指の間に挟まっていた。掴んだ弾が捨てられ、カランカランと音を立てる。
「死ねぇ!」
再び拳銃を構える。だが再度発砲されることはなかった。最初に倒された男と同様、意識を失って倒れていく二人。それを背に、高町なのはは施設内へと入っていった。
「リスト通りだな」
納品された商品を確認する。対価となる金銭を渡して取引が完了する。
「また依頼させてもらう。どこも紛争は絶えないからな」
「ああ」
武器商人が素っ気なく返事をする。愛想がないのはいつものこと。だが取引成立時は多少喜んでもいいはずだった。
「浮かない表情だな」
気になり質問する。
「昨今管理局の目が厳しくてな。取引が大きくなれば目に付く可能性が高くなる」
「……何が言いたい?」
「取引量は抑えてもらいたい。どこから情報が漏れたのかは知らないが、今回のように戦闘となるのは避けたいところだ」
軍事組織の責任者の表情が険しくなる。あからさまに機嫌が悪くなっていた。それを感じ取ってか武器商人がフォローを入れる。
「あんたのところはお得意様だ。なるべく要望には応えたいが捕まれば元も子もない。それに……」
言いかけて止める。目線は目の前の男からドアの方へと向けられる。ドアの向こうからは銃声と叫び声。
数秒後、音が止む。敵を排除したのか、もしくはその逆か。答えは後者だった。状況を確認する間もなくドアが破壊される。
「噂をすれば、だな」
言いかけようとしたこと。それは専ら噂になっている管理局員のことだった。狙われた犯罪組織は壊滅させられ、その際に抵抗した者は五体満足でいられなかった。
管理局は基本的に重傷を負わせるようなことはしない。犯罪者が相手であろうと魔法による非殺傷設定という方法があるため、強硬手段に出ることはあまりなかった。しかしそんなことは知ったことではないとばかりに猛威を振るう人物がいた。
ゆえにその人物は犯罪組織から恐怖の対象とされていた。出会ったら最後、何もかも蹂躙され地に伏すことを覚悟しなければならないと言われていた。
破壊されたドアに立つ人物。その人物こそ犯罪組織にとっての畏怖の対象であった。
「あれは……まさか!」
軍事組織の男もその人物のことは知っていた。知らないほうがおかしかった。裏社会において超要注意人物としてリストアップされているほどである。
「管理局の狂犬」
顔立ちは幼さを感じさせるが、背丈は大人の男性と変わらない。
「殺せ! はやくし……!」
周りに控えていた護衛に対して軍事組織の男が命令を出す。だが全て言い終わる前に桜色の魔力刃によって斬られ気絶させられてしまう。魔力ダメージによるブラックアウトである。ケガをせず、気を失えたことは幸運に値するだろう。
続けて武器商人の男に向けて刃を振るう。硬い物同士がぶつかり合う音。男を守るように交差してきた剣がなのはの攻撃を防いでいた。近くに控えていた護衛と思われる人物。その護衛が武器商人を守っていた。
「少々不躾なのでは?」
護衛はこの界隈では名の知れた犯罪者だった。管理局員を何人も殺害し、広域指名手配されている犯罪者である。管理局所属の高ランク魔導師を倒した前例もあり、Sランクオーバーと推定されていた。
「挨拶ぐらいしたらどうですか?」
「時空管理局所属、高町なのは」
名乗ると同時に死角から凶刃が迫る。質問をして意識を逸らすことが目的だったらしいが、その手は通用しなかった。死角からの攻撃を難なく回避する。続けざまに他の兵隊が襲い掛かってくる。その向かってくる敵をなのはが切り捨て、時には顔を掴みそのまま地面へと叩きつける。
途切れることなく襲ってくる敵。それらを殴り、蹴り飛ばす。殴られた相手は骨が粉砕される。蹴り飛ばした際には骨が折れ曲がり恐ろしいオブジェへと変形していた。
「う、うわあぁぁぁ!!」
敵がパニックを起こし始める。銃火器を使い、目の前の化け物をどうにかしようとする。しかし全て躱され、適当に撃った弾は仲間に当たる始末だった。銃火器を所持している男の後ろに回り込み後頭部を掴む。そのまま持ち上げて握力を強めていく。
「ぎゃあああああ!!!」
アイアンクローをされた男が叫び出す。今までに味わったことのない激痛が襲う。男は頭を潰されるという感覚を初めて経験していた。
殺される。
そう脳裏によぎったが、胴体を魔力刃で斬られ気絶で済まされる。
人殺しはしない。故意的にすることはなかった。あくまで無力化にとどめていた。中には骨が飛び出している者もいるが、なのはにとっては無力化の範疇である。
「あとは任せたぞ」
「承知」
凄惨な光景が繰り広げられる中、武器商人が立ち去ろうとする。その歩みには余裕があった。
なのはが兵隊を片付け終え、逃げようとする武器商人の方へ向かおうとする。
「そちらへは行かせませんよ」
手練れの用心棒が立ちふさがる。武器商人もこの護衛がいる限り何も問題ないと考えていた。
「若いのですからそう生き急ぐことはないでしょう……いえ、若いから生き急ぐのですかね? それともただの怖いもの知らずなのでしょうか」
なのはが顔をしかめる。お喋りな相手はあまり好きではなかった。
「すみません、ペラペラと喋ってしまって。子どもを手にかけるのは久しぶりでしてね。少々舞い上がってしまいました」
男は紅潮していた。男にとって殺し自体久しぶりであり胸が高鳴っていた。剣型のデバイスをなのはに向ける。当然、そのデバイスは殺傷設定となっていた。
「それでは始めましょうか」
待ちきれないとばかりに飛び掛かる。剣を振り上げ、なのはの肩を斬りつけようとする。
この日、護衛の男の記憶はここで途絶えることとなった。
武器商人がドアノブに手をかける。その瞬間、すぐ横の壁に護衛の男が激突した。
血の花が咲き、壁を赤く彩る。
「な!!?」
相当な驚きようだった。商人は普段から感情を表に出すことは少ない。そのため感情が読み取りづらいと有名だった。にも関わらず、このときばかりは誰が見てもわかりやすい表情をしていた。
護衛が壁からずり落ちていく。振り向けば、高町なのはが一人立っていた。他に立っているものはいない。この場で意識があるのは、武器商人となのはだけとなった。
「な、なんなんだおまえは!?」
Sランクオーバー魔導師の絶対数は少ない。才能が大半を占める世界であり、努力で到達するには相当な覚悟がいる世界である。それこそ人生を丸ごと使う必要があるぐらいだった。人生をかけたとして、それでも到達できない者は大勢いる。結局のところはギフテッドの世界であり、夢追う者に対して努力でSランクになれると言うのは建前でしかなかった。
そしてSランクオーバーは一個人で組織を相手にすることができる存在とされていた。なのはも犯罪組織を壊滅させられるのだからSランクオーバーだという推測は可能だ。
なのはと護衛。
互いに組織を相手にできる怪物同士。同ランク帯の戦いがどう転ぶかは予測不明だったが、倒されるにしてもこれほどすぐにやられるとは想像もしていなかった。
なのはの圧倒的な勝利。いや、勝負にさえなっていなかった。
瞬殺であった。これではランクに開きのある者同士の戦いである。
「おまえ、まさか」
SSSランク。魔導師の最高ランクが武器商人の頭に浮かぶ。
「……はいつだっけ」
なのはが何か呟く。何を言っているのか聞き取れなかったため、武器商人がなのはの言葉に耳を集中させた。
「黒船が来航したのはいつだったっけかな」
「……何の話だ?」
「明日テストなんだよ」
日常会話をするように話す。なのはは地球では高校生をやっており、只今絶賛テスト期間中であった。
「帰ってテスト勉強しないと」
ハァ、とため息をつく。そして散歩でもするかのように武器商人との間合いを詰めた。気づいた時には武器の届く間合い。ケリがつくのは一瞬だった。一秒も経たず、武器商人の意識が刈り取られる。この場に立っているのは一人だけとなった。
『こちら高町、状況終了』
なのはが制圧完了の連絡を入れる。それから武装局員が突入し、違法組織の面々を確保していった。
なのはは時空管理局に所属していた。地球では学生の身分でもあるため、局員としては臨時的に出動していた。
戦闘能力に関しては次元世界最強と噂されていた。もっぱら殲滅戦や、高い戦闘力を持った魔導師の出現時において戦闘に駆り出されていた。
ただ穏便に済むことがあまりなかった。なのはが突入した際、人死にはないものの悲惨な光景を生み出すことが多かった。真っ赤に染まった壁、手足から飛び出した骨、恐怖のあまりブツブツと何かを呟き塞ぎ込む犯人。まさに地獄絵図だった。
とても管理局の行いとは思えない光景だった。それゆえに犯罪組織からは恐れられ、こう呼ばれていた。
管理局の狂犬。
それは犯罪者からしても、管理局からしても当てはまる呼び名だった。
慎重に事を進めたいときにはまず向かない。使いどころを間違えば、大惨事になりかねなかった。ただ焼野原になってもいいと思える場合は持って来いの人材である。
色々と懸念点は残るがそれ以上に事件解決には役立っている。通常の局員では太刀打ちできない相手だとしてもなのは一人いれば即座に制圧可能だった。
事件後、なのはが各方面への報告を完了させる。その後、宿舎の前で友人と海を見ながら雑談をしていた。
「なあ」
芝生に座るなのは。その横には人型のザフィーラが立っていた。
「俺、管理局辞めようと思うんだ」
雑談にしてはなかなかの内容だった。
「なぜだ?」
「向いてない気がする」
なのはのメンタルは強い方だ。ザフィーラはそう思っている。そのなのはが珍しく落ち込んでいるように見えた。相当な理由があるのかもしれない。
「犯罪組織の殲滅。凶悪事件の解決。見事な働きをしているではないか」
「そう? そうなのかな……でもさ、あんま褒められたことってないんだよな」
普通ではできないことをやってのけた。褒められて然るべきだろう。
「報告に行ったときとかさ、もうちょっとスマートにとか。重症を負わせないようにとか。なるべく物を壊さないようにとか」
なのはの功績に対し、各部署からは注意されることが多かった。
「怒られてばっかなんだよ」
「ふむ」
ザフィーラは考える。こうすればいいとか、次からはこういったことに注意すればいいとか、そういうアドバイスはできる。しかしそんなことは本人もわかっているはずだ。ならば掛けてあげるのは励ましの言葉がいいだろう。
「しかし、おまえの活躍で助かっている人はいる。死ななくて済んだ人間がいる。おまえに言葉として感謝が届かずとも、感謝している人間は必ずいるはずだ」
「そんなもんかなぁ」
「ああ」
力強く頷く。
「それとさ」
人生相談はまだ続くようだった。
「試験受かんないんだよね。給料上がんないしさ。しかも後輩がな、もう俺より魔導師ランク上なの。階級も抜かされちゃってさ」
なのはは未だBランクだった。それはランクを上げるための試験に落ち続けているためだった。実技は通っても、ペーパーテストが通らない。それゆえに魔導師ランクBである。
「どうしたらいい?」
「頑張れ。そうとしか言えん」
こちらの話題は突き放す。努力に甘えを感じたので鞭を打つことにした。
「そっか~……そうだよなぁ~」
地面に寝転ぶ。
「あーあ」
両手を頭の後ろで組んで青空を見上げる。
「やっぱ地球に戻って実家継ごうかなぁ……」
ザフィーラは止めない。人の人生に首を突っ込むようなことはしなかった。間違った方向でない限り、どんなことでも応援するつもりである。それがザフィーラの友人としての付き合い方だった。
「ん?」
遠くから車の走行音が聞こえてくる。その車は二人の近くで停車する。高級スポーツカーであり、最新式のモデルだった。
「なのは」
運転席から降りてきたのはなんとフェイトだった。
「え!?」
なのはが飛び起きる。早足にて車のところまで行く。
「どうしたのこれ!?」
「買ったんだ。良い車だなと思って」
「おお!」
なのはの目はキラキラとしていた。
「かっこいいなぁ!」
車を一周してじっくりと見ていく。
「いいなぁ」
とても羨ましそうだった。
「乗ってみる?」
「いいの!?」
「もちろん。一緒にドライブ行こうよ」
ウキウキだった。運転はできないので助手席側に回り込む。そしてドアを開けようとしたときだった。
「なのは君」
後ろを向く。するとそこにははやてがいた。
「これからごはん食べにいかん? あの今話題になってる有名なホテルの」
今話題になっているというのは超が付く高級ホテルのレストランのことだった。
「いやー、行きたいのは山々なんだけど……」
なのはの顔に影が差す。あまり言いたくはないが嘘を付くのも良くないと考える。
「ごめん、今そんなにお金持ってない……今日はパスさせてくれ」
給料が入ったら、いやボーナスが入ったらとなのはが言う。
食べれなくて残念な気持ちが大きいが、自らの懐事情に情けなくもなりしょんぼりとする。なのはとはやて。二人が貰っている額を比べると相当な差があった。
「心配せんでええよ。招待チケット貰ってるからな、タダや」
「え!? 本当!!?」
「ほらこれ」
ヒラヒラとチケットを見せてくる。
「おお!」
悲しみから一変、嬉しそうな表情をする。
「じゃあ遠慮なく……」
「なのは」
はやてのところに行こうとする。だがその動きは強制的にストップさせられた。
「ドライブ行くんでしょ」
腕を引っ張られる。可愛らしい仕草だが腕を掴む握力は万力レベルだった。
「う、腕がぁ!」
最強の魔導師が苦しみの声を上げる。
「フェイトちゃん。なのは君はごはんをご所望みたいや。ドライブはまた今度にしとき」
「それなら大丈夫。ドライブついでに一緒にごはん食べてくるから」
苦しむなのはを余所に会話が始まる。
「でも、なのは君カツカツや言うてたで?」
はやてがフェイトの車を見る。
「奢るにしてもあんま無理せん方がええんとちゃう? 車買うてるから懐寂しいやろ?」
「なのはを一生食べさせる分は別に貯金してあるから心配いらないよ」
二人の楽しい会話が続く。会話に意識を取られたせいかなのはは解放されていた。
「いてて」
痛む腕を我が子のように擦る。
腕の安否を確認している最中、ポンっと肩に手が置かれる。横を見ればザフィーラがいた。
「主夫が向いてるんじゃないか?」
そう告げたザフィーラはとてもいい笑顔をしていた。