高町なのはくん   作:わず

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管理局員としての日々

 

 午前中。

 なのはが定食屋に入り注文を済ませる。客層は作業着の人が大半。朝一ではあるが大盛りで食べている人が散見された。この後の現場作業でたくさんのエネルギーを必要としているのだろう。

 

『次のニュースです。ロストロギアである聖王のゆりかごが発見されました』

 

 なのはの机に食事が運ばれてくる。もちろん大盛りだった。テレビのニュースを聞き流しながら巨大なからあげを頬張っていく。

 

「ここ、いいか?」

 

 なのはの席の前に立つ中年の男性。その男は返事を待つことなく向かいの席へと座った。

 

「ゼスト隊長」

 

 ゼスト・グランガイツ。

 首都防衛部隊を率いる隊長である。高ランクの魔導師であり、騎士としても名高い人物だった。

 

「珍しいですね」

「おまえこそ管理局の食堂で食べないのか?」

 

 食堂で食べればタダである。無論、基本的にはそちらを利用することが多い。

 

「ここの定食、俺の出身世界の料理の味に近いんですよ」

「地球、だったか?」

「ええ」

 

 ゼストがパネルを操作して注文を済ませる。

 

「こっちにいる時間が長くなるとふと思い出す時がありまして、そんなとき食べに来てるんです」

「なるほど」

 

 地位の違う者同士ではあるが、お互いに緊張やぎこちなさはなかった。

 

『管理局、辞めるのか?』

 

 口ではなく、念話で話しかけてくる。

 

『上層部の一部で少し噂になってたぞ』

 

 なのはが手を止め、ゼストの方を見る。怒られるかと思っていたが非難するような様子ではなかった。

 

『おまえの人生だ。俺が口出しすることではない』

 

 そう前置きする。本心でもあるが、内心戦力低下を憂いていた。

 

『ただどこで聞き耳を立てられているかわかったもんじゃないからな。気を付けろよ』

『……すみません』

 

 滅多なことは言うものでないと反省する。

 

『おまえの存在は大きい。犯罪に対してどれほどの抑止力となっているか。自分自身の立ち位置を少しは自覚することだな』

 

 ありがたい説教をいただく。言われるうちが華だろう。

 

「と、すまんな。どうも年取ると口うるさくなってかなわん」

「いえ」

 

 ゼストが言っていることは正しい。そのためなのはは真摯に受け止める。

 

「この後時間あるか?」

 

 お説教を切り上げ、話題を変える。

 

「訓練校に行く予定があってな。訓練生に稽古を付けて欲しいと頼まれてるんだ」

 

 平坦な声色。その声からは微かに面倒な気持ちを感じることができた。

 

「ついでにめぼしい人材がいないか探してこいともな」

 

 声色の違和感の正体はこれだろう。先ほどより気が進まない顔をしていた。

 

「強権を振るう海側に取られる前に確保したいらしい……すまんな、おまえは海の所属だったな」

 

 管理局は大きく分けて海、陸、空と分かれている。海は規模が大きいだけあって人材を多く必要としている。そのため大半の優秀な魔導師は海へと流れていた。

 

「大丈夫です。こだわりとか誇りはありませんので……すみません、注意されたばかりなのに」

 

 こんな発言を誰かに聞かれたら怒られてしまう。しかも言動について説教をもらったばかりである。

 

「構わないさ、それに俺も人のことは言えないらしい」

 

 海を批判したこと。公の場では控えた方がいい内容である。誰しも腹に据えかねていることはあるが外に漏れない場所で発言すべきだろう。

 

「それでどうだ? 無理にとは言わんが」

「大丈夫ですよ」

 

 二つ返事だった。この後は特に予定もない。

 なのはに同行してもらう理由。それは単純に良い人材を見つけるための目を増やしたかったからだ。

 

「さて行くとするか」

 

 二人が食べ終わる。なのはが支払いをしようとするがそれを止める。

 

「先に出てくれ。俺が払っておこう」

 

 いつものことだった。席を一緒にしたとき、なのはに支払いをさせたことはなかった。

 たまに自分が払うと言っても受け入れてはくれなかった。あまり固辞するのも失礼だと思い、奢ると言われたときは素直に奢られることにした。

 

「ごちそうさまです」

 

 先に定食屋から出る。ゼストもそう時間を掛けずに外へ出る。

 

「そうだ、一つ言い忘れていた」

 

 横に並び歩き出す。

 

「近々レジアスから声が掛かるはずだ」

 

 レジアス・ゲイズ。

 管理局の中将であり武闘派として知られる人物だ。手腕は確かなものであり、実力によって成り上がった傑物である。

 

「引き抜き、ですかね」

「あ、ああ……そうなんだが……おまえはたまに鋭い時があるな」

 

 仏頂面のゼストが驚きを隠せずにいた。なのはは勉強が嫌いなだけで頭の回転が悪いわけではない。それについてはゼストも最近気が付き始めていた。ゼストはわかっているなら話が早いと気持ちを切り替える。

 

「推察通り陸に来ないかと誘いがあるはずだ」

 

 現在、レジアスは質量兵器の採用に力を注いでいた。犯罪者への対抗手段を増やすため、ひいては地上の安全性を高めるためであった。しかしレジアスの考えは危険思想だと批判されていた。賛同する者はいるものの、大多数には受け入れられてはいなかった。

 だが高町なのはの存在により状況は一変していた。

 

 安全でクリーンな力である魔法。その魔法だけでは解決しない事件があった。だがそれらを打開した局員が現れた。それが高町なのはである。常軌を逸脱した戦闘能力、それにより解決した事件は多々あるが注目すべきはその制圧の仕方だった。

 容赦のない攻撃、恐怖を抱かせる圧倒的な暴力。それらは現場での有効性を立証することとなっていた。さらに犯罪に手を染めるリスクの提示という形となり、犯罪発生率の低下にも繋がっていた。

 

 魔法だけでは限界がある。

 現場を経験した局員達がそのことに気づき始めていた。

 

 そこに質量兵器の導入についての話題が浮上する。危険思想だから話を聞く必要もない。過去の過ちを繰り返す必要はない。現状、そうやって一蹴するわけにもいかなくなっていた。

 質量兵器の導入は必要である。それは危険な現場から生還した局員であればあるほど首を縦に振るだろう。そうして局内での質量兵器に対しての理解者が増え、レジアスの発言に力が宿り始めていた。本人からしたらあずかり知らぬことだが、なのはの存在がレジアスを後押しする形となっていた。

 

 そしてレジアスはなのはのことを高く評価していた。非難されようが結果を出すことが重要であり、綺麗事を並べて命を落とすよりかよっぽど良いと考えていた。

 海も評価をしていないわけではないが安全性の高い魔法に対する信頼が未だ厚く、血を流すことの多いなのはとは相容れぬ関係となっていた。

 

 なのはを評価しない海。

 なのはを評価する陸。

 

 レジアスも引き抜くなら今と考えていた。

 

「どうするかはおまえ次第だ」

 

 海と陸。なのはとしては本音を言えばどちらでもよかった。

 

「どうしたらいいっすかね」

 

 優柔不断な返事。それはなのは自身も言いながら思っていた。

 

「自分が良いと思った方を選ぶといい。それにおまえはまだ若い。社会経験と思って色々と挑戦するのもいいだろう」

 

 大人としての助言ではあるが、暗に陸へ来いという意味が含まれているように思えた。

 

「俺としては大歓迎だがな。遠慮なく使わせてもらおう」

 

 隠すつもりはないらしい。とは言えゼストの下なら職場環境としては当たりの部類だろう。

 

「ただ陸は海より規則に厳しいからな。そこは覚悟しておけよ」

「ハハ……そのときはお手柔らかにお願いします」

 

 なのはが苦笑いする。

 

(やっぱやめとこうかな……)

 

 気が進まなかった。細かいことまで注意されるのは気が滅入ってしまう。あまり規則に厳しいのは遠慮したいところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練校へと到着する。

 教官に挨拶をし、見学できる位置へと移動する。

 

「おい、あれ」

「ゼスト隊長と……高町一士!」

 

 訓練生が騒ぎ出す。それは伝播していき、やがて訓練生全員から注目されることとなった。

 

 なのはは有名人だった。敵からは畏怖されているが、民衆からは英雄扱いだった。だが大半の一般市民は知らない。英雄と呼ばれるまでにどれだけの血を流したかを。

 

 当たり前のことではあるが、管理局は綺麗で輝かしい部分しか公表していない。なのはが悪を倒し、弱者を救ったことだけを伝える。そこに凄惨な現場が映し出されることはなかった。それは訓練生も同じである。現場に出るようになれば実情を知ることにはなるだろうが今は知らない。

 

 実際のところ高町なのはという存在は圧倒的暴力装置であり、その恐怖により抑止力として機能する存在だった。

 

 その実情を民衆に知られたとき、今まで通りの英雄扱いが続くのかはわからない。わからないのであれば極力イメージダウンを図ることはしないほうがいい。それが管理局としての方針でもあった。

 

「スバル、あそこ」

「あ!」

 

 訓練生の一人がなのはの方を指し示す。

 

「なのはさんだ!」

 

 スバルがわかりやすくはしゃいでいた。過去、スバルはなのはに助けてもらったことがあった。命の恩人であり憧れの存在でもある。そのなのはをスバルが見つめる。

 それになのはが気づき視線が重なる。なのはは顔の高さくらいの位置で手を振った。

 

「え? 私!?」

 

 周りの訓練生がスバルを見る。一気に注目を集めることになってしまった。

 

「他に誰がいんのよ」

 

 ティアナが肘で小突く。スバルが急いでお辞儀をする。

 

「集合!」

 

 教官が号令を掛ける。騒がしくしていた訓練生が一斉に口を閉じ、教官のもとで整列する。

 

「これより魔法の射撃訓練を行う」

 

 本日の訓練予定を話していく。予定は全員頭の中に入っており、教官の話す内容と相違はなかった。

 

「その後白兵戦の訓練へと移る。その際ゼスト隊長が訓練相手として参加していただけることになった」

 

 白兵戦の訓練は予定通りだが、そのあとの話は予定外のことだった。ゼストの参加は仕事の兼ね合いによって決まるものだったため、確定事項としては組み込まれていなかった。

 

「目標は攻撃は当てること。できなかった者は自分に何が足りないのかよく考えることだ」

 

 当てるのは無理だと全員の心の声が一致する。そもそも資質が違い過ぎる。だがそれを理由として発言すればしばかれるのは目に見えている。

 

「質問は?」

 

 教官が訓練生を見渡す。

 

「あの」

 

 訓練生の一人が手を挙げる。手を挙げたものを指名し、質問の発言を許可する。

 

「高町一士も参加されるのでしょうか」

 

 周りも気になっていたのだろう。その質問の答えに期待を膨らませる。

 

「いや、見るだけだそうだ」

 

 表情には出さないが、落胆の雰囲気が見て取れた。

 

「他には?」

 

 教官が再度見渡す。他に質問がないことの確認を終える。

 

「では行動開始。二人に腑抜けた姿は見せないようにな」

 

 各々が指定位置へと移り、いつもの訓練が始まる。

 その様子をなのはとゼストが見る。そのせいか中には動きがぎこちなくなる者もいた。

 

「どうだ?」

 

 魔法で射撃が行われる。その訓練を見ながらゼストがなのはに質問する。

 

「次元世界最強の魔導師のお眼鏡にかなう訓練生はいそうか?」

「そんなんじゃないですって」

 

 尊敬している人から褒められて照れくさそうにする。それから端から端に流すように訓練を見ていく。その途中、ある訓練生のところで目が止まった。

 

「あの子」

 

 オレンジ色の髪のツインテール。

 その女性訓練生を指差す。ゼストも言われた訓練生を注視した。

 

「射撃は頭一つ抜けているが……」

 

 目を見張るほどでもない。他に関してもそれほど目立つ要素はないように思えた。

 

「多分ですけど」

 

 なのはが気に留めたことの理由を説明する。

 

「魔力の集束や固定化、結合が上手いように思えます」

 

 集束のエキスパートであるから気付けたことだ。ゼストもよく観察し、確かにと呟く。

 

「ちょっと見てきます」

 

 なのはが立ち上がる。そうしてティアナのところへと向かっていった。

 

「こんにちは」

「え!!?」

 

 ティアナが驚いて振り向く。訓練に集中していたせいもあり接近に気付いていなかった。

 

「邪魔してごめん」

 

 ティアナが射撃を中断する。

 

「い、いえ」

 

 緊張で声が上擦ってしまう。他の訓練生も二人を気にしていた。気にはなるが教官に叱られてしまうため手は止めない。

 

「あそこの的を撃ってみてくれる?」

 

 なのはが的を指定する。ゴクリと唾を飲み込む音が鳴った。

 

「は、はい」

 

 震える手。それをなんとか抑え込み、ティアナは的に向かって射撃をした。魔力弾は真っすぐに飛んでいき的に着弾する。

 

「上手いね」

「ありがとうございます!」

 

 声に嬉しさがこもっていた。それは誰が聞いてもわかるほどだった。

 

「じゃあ今度はさっきより魔力を込めて撃ってみて」

 

 再び構えて言われた通り魔力を込めていく。先ほどより二倍の大きさはある魔力弾が生成される。出来上がった魔力弾をもう一度同じ的に向けて発射する。

 

「……あ」

 

 だが着弾する前に魔力弾は霧散してしまった。ティアナ自身上手くやれる自信はなかった。けれどなのはの手前ということもあり、良いところを見せようと無理をしていた。

 

「もっかい構えて」

 

 落胆しているティアナに優しく声を掛ける。

 

「上手く教えられるかはわからないけど」

 

 なのはに失望している様子はない。そのことに少し安堵しつつ、ティアナが銃型のデバイスを構える。

 

「感覚でなら伝えられると思う」

 

 ティアナの銃を持つ手。その手になのはが手を重ねる。

 

「いくよ」

 

 なのはが魔力を流していく。ティアナの手を通して魔力弾が生成されていく。大きさは普通。なんなら最初に撃った魔力弾よりコンパクトになっていた。

 

「撃って」

 

 ティアナがトリガーを引く。今度は霧散することなく的に着弾する。しかもヒットした的は粉砕され粉々になっていた。

 

「すごい」

 

 速度も威力も今までと段違いだった。

 

「その集束は武器になる。相手に脅威と思わせる攻撃は持っていた方がいい。それは必ず君の助けになると思うから」

 

 そう言ってこの場から離れていく。伝えたいことは伝えたとばかりになのはが立ち去る。

 

「ありがとうございました!」

 

 腰を九十度曲げて頭を下げる。

 

「頑張ってね」

 

 そう言い残してゼストのもとへと戻る。そして入れ替わるようにスバルがティアナのもとへと来ていた。

 

「いいなぁ」

 

 スバルが羨ましそうにする。ティアナは満更でもなさそうだった。いつもなら否定の一つでもするところだが今回はしない。それに今スバルに構うと叱られてしまう。

 

「ナカジマ、訓練へ戻れ」

 

 案の定教官に見つかり叱られる。

 

 それを尻目にティアナがデバイスを構える。

 とにかく今は訓練を続けたかった。教えてもらった感覚が消えないうちにティアナは訓練を再開することにした。

 

 

 

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