高町なのはくん   作:わず

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イデア――それはものごとの真の姿である。



ジェイル・スカリエッティ

 

「フェイト」

「うん?」

 

 仕事終わりのフェイトを呼び止める。

 振り返ったフェイトは元気がなさそうだった。というよりも何か不満気と表現した方が適切かもしれなかった。

 

「お疲れみたいだな」

「うん、ちょっとね」

 

 フェイトは執務官に対しての講習を受けていた。内容は改正された法律のインプットと改正の影響による今後の活動についてだった。

 

「筋が通らないというか、いや全く筋が通らないというわけじゃないし、そう決定したと言われれば納得するしかないんだけど」

「なんか大変そうだな」

「うん、犯罪者にとって有利に変更されている気がして……特に私が追っていた人物に対して都合が良すぎるというか……」

 

 フェイトがブツブツと呟く。

 未だに納得はしていないらしい。

 

「何か不都合でもあるのか?」

「……私が追っていた人物を捕まえることができなくなった」

 

 それはつまり犯罪者だった者がそうではなくなったということである。

 

「でもそれを不都合というのは私のわがままなのかも……」

 

 不都合だと思ってしまうのは私情が入っているからだった。

 そもそも今回の改正で表立って騒ぐ執務官はいなかった。

 騒ぎこそはしないが今回を含めてここ最近の改正に対して不信感はあった。だが不満を言ったりはしない。なぜならば仕事が減ったからである。現状、捕まえる対象が減ることにより喜ぶ者が多いぐらいだった。

 執務官となり犯罪者を捕まえて平和を実現する。夢を叶え、皆初心を忘れずに正義のもと活動はする。だがいつしかそれは風化し、正義をメシの種にする者が大多数だった。

 

 しかしフェイトはその大多数に含まれていない。自らの心に打ち立てた正義の旗印は朽ちていなかった。

 

「あ、ごめん。何か用だった?」

 

 自分の話ばかりしていたことに気づく。なのはとしてはもう少し愚痴に付き合ってもよかったのだが、人を待たせているので話を進めることにした。

 

「ちょっと会って欲しい人がいるんだけど」

「……え?」

 

 なのはが神妙な面持ちで伝える。

 どうにもいつもと雰囲気が違った。

 

「だ、誰に?」

 

 フェイトの額から脂汗がにじみ出る。

 

「か、彼女、とか?」

 

 もしその場合は手段を選ばず行動に移す必要があるかもしれなかった。

 フェイトは正義の旗印を抜き取り心の押し入れにしまい込む。

 

「いや、違うけど」

「そっか……改まって言うから身構えちゃったよ」

 

 アハハとフェイトが笑う。

 

「じゃあ悪いんだけど付いてきてくれるか?」

「え、今から会うの?」

「うん」

 

 急なことで少し驚くがこの後用事もないため了承する。

 なのはがジェイルの研究施設へと向かう。道中、一体どこに行くのか、誰に会ってほしいのかと聞かれたが全てはぐらかした。

 普通なら怒られても仕方ないところだが、なのはが相手な故全てが許された。

 

 目的地へと到着し施設の中に入る。見たことも聞いたこともない施設。こんなところがあるとは知らなかったという顔をしていた。

 

 フェイトが片手に待機モードのバルディッシュを握る。なのはを信じていないわけではないが、仕事柄反射的に身を守る準備をしてしまう。

 

 少し進むとそこには一人の少女がいた。

 

 自分の小さいころとそっくりな見た目。

 決して忘れることのない姿。

 

 ずっと前に母と共に虚数空間に落ちてしまった姉がいた。

 

 

 

「アリ、シア」

 

 

 

 声が震える。しかしフェイトの声はハッキリと聞こえた。

 

「どうして」

 

 あらゆる疑問が駆け巡る。頭の中で色々な情報が交錯し、逆に思考停止の状態と同じになっていた。

 

「お姉ちゃん」

「え?」

 

 アリシアがフェイトに向けて言う。

 

「お・ね・え・ちゃ・ん!」

 

 聞こえてないと思ったのか、今度は力強く言い放つ。

 

「え、え?」

 

 困惑する。ただでさえ整理がついていない状況である。正常な判断ができるはずもなく、さらに頭が混乱する。

 

「お姉ちゃんって言ってあげて」

 

 なのはが助け舟を出す。アリシアの気持ちを知っていたがためにできた手助けである。

 

「お、お姉、ちゃん」

「うん!」

 

 アリシアは満足そうだった。その笑顔を見てかフェイトの心に少しだけ落着きが戻ってくる。

 

「フェイト」

「は、はい」

 

 なぜ敬語なのだろうかと思ったが、なのはは今は黙っていることにした。

 

「初めまして、だね」

「え? う、うん」

 

 アリシアがフェイトを真っすぐ見る。お互いの視線が交差する。

 

「ずっと、会いたかった」

 

 目が潤んでいた。アリシアはこの瞬間を待ち望んでいた。

 

「ずっと、話したいと思ってたんだ」

 

 今までなのはとジェイルが支えていたとはいえ、やはり家族には会いたいものである。

 

「フェイトは、どう、かな」

 

 そう質問したアリシアは下を向いてしまう。

 拒絶されるのが怖かった。それでもアリシアは一歩踏み出すことにした。とても勇気のいることである。

 

「どう、ってのは」

 

 いつものフェイトなら察することができただろう。けど今は脳の大半がショートしている状態である。

 なのはに肘で小突かれ、ようやくアリシアの質問の意図を察することができた。

 

「えっと、嬉しい、よ」

 

 何やらたどたどしいが、アリシアの質問に返答した。

 

「本当?」

「うん、嬉しい、嬉しいよ」

 

 フェイトは少しずつ自分の気持ちを確認していく。ゆっくりと自分の心と対話し、この気持ちが嘘ではないと確信を持つ。

 

 アリシアが生きていること。

 それは嬉しいことである。

 

「よかった」

 

 アリシアの足元には涙の落ちた跡ができていた。

 

「はい」

 

 アリシアが両手を広げる。

 

「会えたお祝い」

 

 笑顔で待つ。今度は何を言われずとも察することができた。

 フェイトがアリシアを抱きしめる。

 

 とても、温かった。

 

 お互いに温もりが伝わる。アリシアが生きていることを実感していく。気づけばフェイトの目からも涙が伝っていた。

 

 なのはの目頭が熱くなる。

 感動で胸がいっぱいになっていた。

 

「……あれ?」

 

 二人には聞こえない声で呟く。

 このあともう一人出てくるはずなのだが一向に現れない。

 不思議に思いその人物がいるであろう場所へと向かう。二人の横を通り過ぎて角を曲がる。

 するとこちらに背を向けて立っているジェイルがいた。

 

「おい」

 

 声をかける。しかし返事はない。

 

「どうした?」

「いや、なんでもないさ」

 

 今度は返事があった。なのははその声に何か違和感を感じる。

 ジェイルは少ししてからなのはの方に振り向いた。

 

「……ドクター」

 

 なのはがジェイルの顔を見る。

 若干ではあるが目が充血していた。

 

「え、もしかして……」

 

 泣いていたのだろうか。あのドクターが。

 なのはがそう推測し、だから出て来れずにいたのかとも推測する。

 

「さて、行こうか」

「ドクター、もしかしてよ」

 

 なのはが追求しようとする。だがそれをジェイルは無視して歩く。

 

「なあなあ? 娘の姿に感極まっちゃったんだろ? なあおい、恥ずかしがんなって」

 

 ウイーと言いながら肘でジェイルの背中をつつく。

 なのははニヤニヤ笑いながらジェイルに絡みまくっていた。

 

 全てを無視し、ジェイルが二人の前に行く。

 

「やあ」

 

 フェイトがジェイルを視認する。

 その瞬間、勢いよく立ち上がった。

 

「あなたは!?」

 

 デバイスを展開する。バリアジャケット着込みバルディッシュを握る。

 

「お、おい」

 

 なのはが何事かと驚く。フェイトは何やらジェイルを知っている様子である。そのためなのはがフェイトにどういうことか説明を求めた。

 

「天才的な頭脳を持ち、違法な研究を繰り返した人物……そして」

 

 フェイトにとって続ける言葉には複雑な感情が入り混じっていた。

 

「プロジェクトFの考案者」

 

 プロジェクトF。

 フェイトを誕生させた技術であり、プレシアが発展させた技術である。

 

「元、違法研究者さ。遡及適用もされないはずだろう?」

 

 ジェイルが行っていた研究は違法とされていたものばかりだった。そして不自然なほどに彼にとって有利なように法律は改正されていた。

 結果としてではあるが、現状ジェイルを逮捕することはできなくなっていた。

 

 フェイトがアリシアを見る。

 それからジェイルを睨んだ。

 

「まさか」

 

 アリシアの正体。

 それは記憶転写型クローンによる実験体と予測する。だがその考えは違うため否定しようとするが、ジェイルが口を開くよりもアリシアの方が速かった。

 

「違うよ、フェイト」

 

 ジェイルが言うよりも自分で言った方が説得できる。

 そう思ってのことだった。

 

「パパにどうこうされたわけじゃないよ」

「パ、パパ?」

 

 本日、何度目かの驚愕。

 

「アハハ」

 

 アリシアが困ったように笑う。

 

「パパ」

 

 アリシアがジェイルを指で差す。フェイトからは困惑が見て取れる。執務官様の頭脳でも混乱は避けられないようだった。

 

「えっと、あっちでゆっくり話そっか」

 

 アリシアがテーブルにある席に連れていく。フェイトを座らせ、アリシアを席に着く。

 

「なのはくん、飲み物お願いしてもいい?」

「おう」

「パパ、私がお話しするから静かにしててね」

「承知した」

 

 この場における力関係が垣間見えた瞬間だった。

 

 アリシアがフェイトに事情を話していく。

 アルハザードの存在、ヒドゥンがアリシアの中にいること、そして、プレシアのことを。

 

「ごめんね、本当はすぐに会いに行きたかったんだけど」

 

 事情は十分に理解できる。このことをなのはがフェイトに黙っていたこともわかる。自分も同じ状況ならおそらく口を閉じていた。

 怒りや悲しみはない。ただアリシアが生きていて嬉しい。それだけである。

 

 けど、ちょっといじわるしてもいいかもとも思えた。

 

「知ってたんだ」

 

 フェイトがなのはを見て言う。

 

「いや、まあ、はい」

「ふーん」

 

 なのはがオロオロとする。事情があるとは言え強く出ることはできない。どうしようもできないなのははアリシアにヘルプの視線を送る。

 しかしアリシアはあさっての方向を見てしまう。

 

「駅前のクレープ屋」

 

 フェイトがなのはにある提案をする。それをもって罰とすることにした。

 

「今度奢ってもらおうかな」

 

 ここに執務官の判決が下される。実に温情に満ちた判決だった。なのはからしたら謂れのない罰ではあるが。

 

「アリシアも……お姉ちゃんも一緒に」

「うん! 楽しみにしてる!」

 

 二人が楽しそうにお喋りをする。

 すでに仲の良い姉妹に見えていた。

 その光景を見てなのはは心の底から良かった思っていた。

 

「少しいいかね?」

 

 一通り話が終わった頃、ジェイルがフェイトに話しかけた。

 

「君と二人で話がしたい」

 

 今なのはとアリシアはお菓子と飲み物を取りに行っていた。

 ジェイルは一対一の話し合いがご所望らしい。

 

「無理にとは言わない。君が私に向ける感情はそれなりに理解しているつもりだからね」

 

 ジェイルはプロジェクトFの考案者である。その他にも数々の違法な研究を繰り返している。真っ当な執務官の立場としては仲良く話せる相手ではない。

 

「私がいなければ生み出される悲劇もなかった。そうだろう?」

 

 ジェイルの研究により悲劇が生まれたこともあった。

 直接関与したわけではないが、それがなければと思わずにはいられない。

 

「とはいえ私を責め立てるのは間違いではないかね? 私の技術を利用し悪用した者が悪い。私自身は技術を発展させただけなのだから」

 

 ジェイルの言っていることは事実である。技術を悪用したわけではない。ただ直接関与がなくとも、明らかな技術提供及び違法な研究をしていたため逮捕の対象ではあったのだが、ジェイルに関しては今はそれが適用できない。

 上手い具合にジェイルにだけは当てはめることができなくなっていた。

 

「だから私を捕まえることはできない。そのように改正されたのだからね」

 

 フェイトが苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

「それが管理局の決定であり方針だ。納得できずとも君自身理解しているのだろう? フフ、気に障ったかな?」

 

 ジェイルが一旦口を閉ざす。

 これ以上余計なことを言うとただでは済まなそうな雰囲気だった。

 

「一つ訂正しておこう。私を責め立てるなとは言ったがそれは自由にするといい」

 

 フェイトが怪訝な表情を見せる。

 それは罪を認めるということだろうか。

 

「私を恨むのは自由だ。好きなだけ憎むといい。それをお門違いなどとは言わないさ」

 

 まだ話が見えなかった。何が言いたいのかと話の続きを促す。

 

「私は私がしてきた研究で後悔することはない。例え研究を続けることにより命を奪われることになろうとも構いはしない」

 

 ジェイルの考えを聞き、話が理解できるようになってきていた。

 

「今ここで命を絶たれようとも後悔はないと?」

 

 フェイトがジェイルを試すような物言いをする。

 

「ないとも。私が生きたいままに生きた結果だ。どのような結末だろうと後悔はない。まあ、だからと言って黙って殺されるわけではないがね」

 

 ある種の覚悟を感じ取る。ジェイルが本気で言っているのだと理解した。

 

「そう難しく考えることはない。私がいなければ平和だった。悲劇は起きなかった。今後のことも考えれば殺してしまった方が世のため人のため、だから殺そう」

 

 まるで悪魔の囁きである。

 

「それぐらい単純でいいのさ。少なくとも私に対してはね」

 

 極論だった。精神的健常者であればそんな思考回路は持てない。フェイトはジェイルと話していると頭がおかしくなりそうだと感じた。

 

「話したいのはあなたの持論ですか?」

 

 話題を変えることにする。わざわざこんなことを語り合うのが目的ではないだろう。

 

「いや違うとも」

「ここで話せない内容ですか?」

「話せない……話せないが、これだけは言える」

 

 そろそろ二人が戻ってくる。そのためジェイルはフェイトを最大限説得できる材料を投げることにした。

 

「私が君と話したいこと。それは君が今後高町なのはと過ごしていくために必要不可欠な情報であるということだ」

 

 まだ信用したわけではない。

 けれどもジェイルの言ったことは聞き捨てならないことだった。

 

 聞くに値しないと思えば切り上げればいい。

 そう思い、フェイトはジェイルの申し出を了承することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはが魔法と出会う頃。

 その頃ジェイルは最高評議会の依頼により研究を進めていた。

 

 そんなある日のことである。

 ジェイルは一人の少女を研究所の近くで発見した。

 その少女は意識がなく、何かを抱え込むかのように宙を浮遊していた。

 

 少女の名前はヴィヴィオ。

 ただこの世界においてその名を知るものは誰もいなかった。

 

 ジェイルはその少女について調査をすることにした。

 

 そして知った。

 この世界が少女の願いによって作られたものだということを。

 

 突如、世界が色褪せていた。

 何をしても意味がない。少女の持つジュエルシードに封印魔法を施してしまえば何もかもがなかったことになる偽りの世界。

 

 もはやどうでもよくなっていた。研究に対する意欲などこれっぽちも残っていなかった。

 ただ一人だけ苦しむのも癪だった。だから最高評議会に世界の真実を伝えることにした。

 

 目に見てわかるほどの動揺だった。三つの脳みそは慌てふためいていた。

 良い気分だった。復讐としては物足りなく感じたが多少なりとも溜飲は下がっていた。

 

 最高評議会はジェイルに新たな指示を出すことにした。最優先事項として誰かに封印作業をされないようヴィヴィオを保管しろとのことである。

 

 従う必要はなかった。どうせ消え失せる世界ならいっそここで自分もろとも全員殺してしまってもよかった。だがもう少し苦しむ様子を見てからでもいいと思った。

 

 保管場所は聖王のゆりかごの中とした。現状、誰にも見つかっておらず秘匿するにはちょうど良かった。

 

 ジェイルは状況把握の一環として、またこの状況を打開する何かがないか探るためにヴィヴィオの抱え込むジュエルシードについて調べることにした。

 願いを叶えると言われる宝石。だがその実体は魔力に指向性を持たせるというものであった。その膨大な魔力を多様に変化させ使用者のイメージを具現化するというものである。

 

 ただ複雑な願いであるほど歪となり、本来の願いとはかけ離れたものとなってしまう。

 逆に純粋で単純な願いであればあるほど正しく発現することとなる。プレシアはジュエルシードに願うだけでは娘の蘇生が実現しないことは理解していた。そのためアルハザードまでの道を開くという単純な使用方法を取っていた。

 この時点でジェイルはジュエルシードに関してはあまり期待できなさそうだと結論を出す。

 

 それよりも有益な情報があった。それは高町なのはという存在だった。

 正確にはその少年が持っているデバイスが重要だった。そのデバイスはアルハザードに繋がる鍵だった。ジェイルに一筋の希望が見え始める。アルハザードに行けるのであれば何かしら打開する手段があるはずと考える。

 

 しかも幸いなことにすでにアルハザードまでの道が開かれていた。場所を特定することすらできなかったが、プレシアのおかげで道は開かれていた。

 

 そしてアルハザードにあるとされるロストロギアに目を付ける。対象の本質を暴くことのできるロストロギア、それこそがイデアシードである。

 記憶を読み取り魔力に変換するという使い方もあるが、それは本来の使い方である過程の一部であった。

 

 ジュエルシードは使い道がないと思っていたが、イデアシードと組み合わせれば有効に使えることがわかった。

 

 ヴィヴィオの抱えているジュエルシードに封印魔法を施すだけではこの世界が消えてしまう。

 だがイデアシードで世界本来の姿をさらけ出し、ジュエルシードによって封印されるべき世界の対象を本来あるべき世界にベクトルを向けさせ誤認させる。そうして無理やり変更を加えることができれば封印魔法を施したときに本来あった世界が消え去り、今ある世界だけが残ることになる。

 

 この偽りの世界を真実の世界へ書き換えてしまおう。

 そう考え、ジェイルは計画した。

 

 その計画を最高評議会に伝えた。希望を持たせることになるため、できれば伝えたくなかったが最高評議会のバックアップは必須である。

 最高評議会はジェイルの提案を受け入れた。あらゆる研究を一時凍結し世界を上書きすることに全力を尽くすこととなった。

 今何を成したとしても、世界が上書きされない限り何の意味も持たない。

 

 まずは高町なのはと接触を図った。

 少年は類いまれなる戦闘能力を秘めていた。だからどうということもない。ただその程度の認識だった。

 しかし存外なのはとの日々は楽しいものだった。その日々は新たな刺激がたくさんあった。

 

 感情豊かな少年。

 知らず、なのはと行動するうちにジェイルの世界に色がついていた。

 さらにアリシアを迎えてのアルハザードの日々はかけがいのないものとなっていた。自覚はしていない。自覚をしないようにしていた。

 

「いよいよだ」

 

 ジェイルが聖王のゆりかご前で呟く。

 計画は最終段階。必要なものは揃い、後は実行に移す日を待つだけである。

 

 ジェイルの目的は今でも変わらない。

 変わらないが目的に対する熱意と執着は以前よりも強くなっていた。

 

 なのはとアリシアのいる世界。

 それを存続させること。

 

 それは、決して譲れない願いとなっていた。

 

 

 

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