高町なのはくん   作:わず

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魔導師の戦い

 

 フェイトとの戦いから翌日。

 なのははいつも通り登校していた。

 

 授業中、昨日の戦いを思い出す。

 金髪の少女、フェイト・テスタロッサ。

 同い年ぐらいの女の子で、ジュエルシードを集めているが理由は不明。

 実力差はかなりあって今のままでは勝てる気がしなかった。

 

 ジュエルシードを探していれば再び相まみえることになる。そうなれば戦うことは避けられないだろう。

 それにやられっぱなしは性に合わなかった。

 

 放課後。

 

「なのは、今日家でゲームしない?」

「ごめん、今日も無理なんだ」

 

 アリサにゲームを誘われる。悪いと思いつつも今日も断る。

 

「また大事な用事?」

 

 ちょっと機嫌が悪そうだった。連日断っているためだろう。

 

「ふん、いいわよ別に」

「ごめんって」

「謝るくらいなら事情くらい聞かせて欲しいわよ」

 

 事情は話せない。ユーノにも止められていることだ。

 

「ごめん」

 

 そっぽを向く。そうしてアリサは一人で帰ってしまった。

 

(後でもう一度謝ろう)

 

 いつか話せるときが来たらちゃんと話そうと考える。それからなのはも帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻る。

 夕飯までの間、一人考え事をしていた。フェイトに勝つには今よりも強くならないといけない。そのためには何が必要か。

 魔法技術を向上させる必要がある。けれど一朝一夕で身に付くものではない。短期間訓練を積んでもフェイトと渡り合えるまでになれるとは思えない。

 それならば長所を伸ばしたほうがいい。魔法の訓練は継続するにしても、そこに時間を割きすぎるのは良くない。

 フェイトに太刀打ちできる武器――それは何か。

 

「ユーノ。ちょっと道場に行ってくる」

「僕も行くよ」

「いや、いいんだ。夕飯には戻ってくるから待ってて」

「う、うん。わかった」

 

 ユーノを置いて部屋を出ていく。一人で道場へと向かい中に入った。

 道場の中では姉が修行をしていた。名前を高町美由希という。

 

「なのは?」

 

 修行を中断する。普段道場に来ることがない弟に目をパチパチさせていた。

 

「ちょっと見ててもいいかな」

 

 美由希は不思議そうにしていたが、特に断る理由もないので承諾する。

 

「珍しいね。剣術に興味でも出た?」

 

 木刀を一振り。綺麗な太刀筋である。

 なのはの暴力的な振り方とは違っていた。

 

「ちょっとね」

 

 邪魔にならない場所になのはが座る。

 

「構わないけど、面白いものでもないよ?」

 

 美由希が修行を再開する。

 両手には木刀。深呼吸をして構えを取る。最初はゆっくりと動き、徐々に速くしていく。

 木刀が空を斬る。ブレのない綺麗な動き。しばらくの間見学を続ける。

 それからなのはは美由希にお願いをすることにした。

 

「姉ちゃん、頼みがあるんだけど」

「なにかな?」

 

 美由希も何かあると予想していたのだろう。

 向き合い、話を聞く姿勢を取る。

 

 なのははしっかりと、目を見て頼みごとを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝。

 普段なら起きていない時間帯。

 

 なのはが道場の真ん中に立ち深呼吸をする。それを美由希が見ていた。

 外からは小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 だがその声はなのはには聞こえていない。なのはの耳には耳栓がしてあった。しかも目は閉じたままである。

 

 なのははある技を習得しようとしていた。今はその技を美由希に教わっている最中である。最終目標は目と耳を使わないで人のいる場所を把握することである。

 

「こら、目を開けちゃだめだよ?」

 

 頭をポンッと叩かれる。気配だけで居場所を探るのは容易ではなかった。感覚はまだあやふやでだいだいの位置しかわからない。

 知覚した位置と実際にいる位置が合ってるか不安でつい目を開けそうになる。なのははその度に美由希に叱られていた。

 

 再度、美由希が気配を消す。一瞬で違うとこに移動していく。その居場所を探るために、気配を見つけ出そうと感覚を研ぎ澄ます。感覚を輪っかのように広げていく。

 

 右側にいる気がするが、やはりなんとなくしかわからない。絶対にそこにいるとは言いきれずちゃんとした距離も測れない。

 ただこれでも昨日よりかは上達していた。後は動き続ける相手を捉え続けられればいい。

 

 修行を初めて二日目。

 美由希は驚愕していた。なのは自身はそれほど上達していないと感じているだろうが、美由希からすれば常軌を逸している上達速度だった。才能が桁違いなのだろう。

 すでにおおよその感覚は掴んでいるはずである。

 

「よし、朝はここまで。後は学校から帰ってきてからだね」

「わかった。ありがとう姉ちゃん」

「どういたしまして」

 

 一休みする。垂れる汗を袖で拭こうとしたところにタオルを渡される。

 

「ありがと」

 

 タオルで汗を拭く。この修行で動くこと自体は少ないとはいえ、意識をかなり集中させている。そのため気力と共に体力も消耗していた。

 なのはが今教わってるいる技。それはこの家に継がれている技の一つだった。

 家族は御神流と呼んでいる。その中のひとつである「御神流 心」という技を覚えようとしていた。

 

 目に頼らず、音と気配で相手の居場所を知る技。

 

 フェイトの速度に追いつくのは至難の技である。それならば、せめて見失わないようにしようと考えてのことだった。

 音だけで場所を探ることは昨日の時点でなんとなくできていた。最初に言われた練習は道場内を動き回る美由希を目をつぶりながら音だけで追い続ける練習。

 とは言っても目をつぶったまま走りまわる美由希に体を向けるだけで、そう難しくはなかった。そう、なのはは思っている。

 そして気配を探る練習に移っていった。これに関しては昨日から続けているが中々上手くいかない。そのため少し焦りを感じていた。

 

「そんなに落ち込むこともないよ。最初から上手くなんてできないものなんだから」

 

 美由希は苦笑いをしている。何か言いたげそうな顔もしていた。壁に寄りかかってうつむいているなのはの頭を撫でる。

 

「ごはん、食べよっか」

 

 そう言って道場から出て行く。

 腹が鳴る。朝早くから活動したせいかお腹が減っていた。立ち上がり、美由希の後を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業中。

 人が多い中でも練習を続けていた。流石にこの人数全ては把握しきれないので、一人に集中して気配を探ることにする。

 

 アリサ・バニングス。

 意識を集中して居場所を探る。アリサは早くに見つけられた。気が強いせいか他の人より目立っていた。

 他にも知り合いを探って気配を読み取っていく。

 

 休み時間。

 アリサの方に顔を向けるとちょっとだけ目が合った。だがすぐに逸らされてしまう。立ち上がり後ろのドアから出ていく。

 まだ機嫌は良くないらしい。その日、なのはは誰とも話すことなく放課後を迎えていた。

 

 帰り道。

 道に落ちている小石を蹴りながら歩く。胸に穴が開いた気分だった。

 

「……はぁ」

 

 自然と足取りが重くなる。気持ちも晴れやかではない。落ち込んでるときは何かして気分を紛らわすのがいいと聞いたことがあった。

 家に帰って技の特訓でもすれば少しは気が晴れるかもしれない。

 

(……そうするか)

 

 ただ落ち込んでいるだけよりかはマシだろう。そう決めてとっとと帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明りが街を照らす。ビルの上には人影が二つ。

 

「大体この辺りのはず」

「でも細かい位置が特定できない。ちょっと乱暴だけど魔力流を打ち込んで強制発動させるよ」

「大丈夫?」

 

 優しい声でフェイトは返事をする。

 

「平気だよ」

 

 バルディッシュを掲げて大きな魔力を流し始める。

 

「私、強いんだから」

 

 その魔力は広く、遠くへと拡がっていった。

 

「――見つけた」

 

 同時に結界が広がる。日常の世界とは別に世界が切り離されていく。

 

「あっちも気づいてる。フェイト!」

「早いとこ片付けよう。バルディッシュ」

『Sealing form』

 

 切っ先に魔力が溜まっていく。そしてジュエルシードに向かって直射された。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

 あっけなく封印が完了する。ジュエルシードは沈静化され、空中に留まり続けていた。

 フェイトがジュエルシードの元に向かおうとする。だが行く手が阻まれる。

 目の前に現れた白い魔導師。少年が桜色の刃を水平に振る。

 

『Defencer』

 

 防御魔法が張られる。ディバインソードは盾によって防がれた。

 

「よお」

 

 剣を押し当てて盾を斬ろうとする。けれど削ることもできなかった。強固な盾である。

 

「今度は手加減できないよ」

「上等だ!」

『Photon Lancer』

 

 ほぼゼロ距離。

 魔力弾がなのはの胸部目掛けて射出される。スレスレで回避したため、バリアジャケットが少し破れていた。

 

「はぁ!」

 

 アルフが横から飛びかかって来る。その突進をモロにくらい道路へと吹き飛ばされてしまった。

 

「なのは!」

「ユーノ。ごめん、少し遅れた」

 

 飛ばされた勢いを殺し、ゆっくりと地面に足を着く。

 

「ううん、大丈夫。それよりもジュエルシードを……!」

 

 ユーノが上を向く。落下してくるアルフからなのはを守るようにシールドを展開した。ぶつかり合い、アルフが飛び退く。

 

「助かった」

 

 ユーノに礼を言う。フェイトはまだビルの上にいた。

 

「あの使い魔は任せた」

「うん!」

 

 飛んでいきフェイトと対峙する。

 

「ジュエルシードは、譲れない」

「事情も話せない、だったっけ?」

 

 悲しそうな目をする。

 さんざん痛めつけられてはいるが、本当に悪い奴とは思えなかった。

 

「じゃあ俺が勝ったら話してくれるか?」

 

 返事はない。

 その代わりに金色の魔力弾が生み出される。

 数は三つ。

 真っ直ぐに飛んでくるそれらをディバインソードで斬り落とす。切り落としながら距離を詰めていく。

 

『Scythe Form』

 

 フェイトも近接用の魔法を発動させる。両者の杖が衝突する。

 

(……重い)

 

 フェイトがなのはの攻撃を重く感じる。

 以前であれば軽く受けきれたはずである。それが今では脅威を感じるほどとなっていた。身体強化の魔法を上達させたのだろうかと考えを巡らせる。

 

 しかしその考えは外れていた。単純に力が増しているのである。

 なのはの身体は戦闘を繰り返す度に成長を遂げていた。重ねた戦いの数だけ身体は強靭なものへとなっていた。

 

 なのははそのまま杖を振り切り、フェイトを後方へと吹き飛ばす。

 勢いを止めきれずにフェイトが後ろのビルに激突する。すかさず距離を詰めてレイジングハートを突き出した。フェイトは慌てる様子もなく回避する。ディバインソードがフェイトの居た場所に突き刺さっていた。

 

(以前と動きが違う)

 

 パワーだけでなく、戦闘技術も向上していた。

 フェイトがより一層気を引き締める。

 二人が杖を、魔法をぶつけ合わせる。前と比べるとやられっぱなしではなくなっていた。

 

 だとしても依然として傷を増やしていくのはなのはの方だった。

 フェイトが距離を取り魔力弾を放つ。なのはが斬り落として、隙を見てはフェイトに近づこうとする。しかし上手いこと逃げられてしまう。

 距離を置かれたまま魔力弾を飛ばされ続ける。この攻防が何度か繰り返されていた。

 

(あまり時間は掛けたくない)

 

 簡単に倒せないなのはに対してフェイトが戦法を変える。

 

「悪いけど、これで終わりにする」

 

 フェイトの姿が消える。連続の高速移動。目で追える速さではなかった。

 対してなのははその場に留まっていた。

 慌てるようなことはしない。落ち着いて、目を閉じて集中する。

 体内の空気を全て吐き出すように体の中をカラにしていった。

 

 心を――静かに。

 

 動き回り、フェイントを掛けながら一撃を入れてこようとするのを感じる。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ――上斜め右後ろ。

 

 感じた方向にレイジングハートを振る。

 

「――うそっ」

 

 必殺の鎌をはじく。

 信じられないといった顔がなのはの目には映っていた。

 

「お返しだ!」

 

 フェイトの腹に渾身の蹴りが入る。

 

「うぐっ!」

 

 続けてガラ空きになった顔に蹴りを入れる。フェイトにやられた攻撃とほぼ一緒である。

 攻撃を受けたフェイトは後方へと吹き飛んでいく。

 

(勝てる!)

 

 高揚感がなのはを包む。杖を構え、意気揚々とフェイトに向かっていった。

 

 思わぬ反撃をくらう。

 フェイトはなのはを見据え現状分析をした。

 魔法自体を知ったのは最近だと考えられる。戦うことすら初めての経験に思える。

 ただし、戦闘の才能には侮れない部分があり運動能力は極めて高い。

 直情的だが、その分攻撃に迷いがない。それが高町なのはに対するフェイトの評価だった。

 

 しかしいくら運動能力が高くても魔法の戦闘に関しては素人。

 冷静に対処すれば勝てない相手ではない。

 

 最初にフォトンランサーで牽制をする。

 なのはがそれを回避した後、こちらに必ず接近して来る。クロスレンジになればディバインソードで攻撃を仕掛けてくる。それをディフェンサーで止め、次の一瞬で斬り伏せる。

 

(それで一気に片を付ける)

 

 なのはの行動パターンと自分の攻撃手段を照らし合わせて必殺の手順を組み上げていく。

 後は失敗しないように細心の注意を払うだけである。

 心の中で再確認して実行に移していく。

 フォトンランサーを五発。それらをバラバラのタイミングで発射する。

 

 一発目は避けられる。二発目と三発目は杖を横なぎにされて切り捨てられる。なのはが段々と近づいてくる。警戒しつつ、残った二発を上下で挟み込むように発射する。

 

 桜色の刃が一閃。

 

 下から振り上げられたレイジングハートがフォトンランサーを二発とも破壊する。会った時はただ力任せに杖を振り回し、到底戦いを知っているものではなかった。それが今となってはこれである。

 当初と比べて振り方には無駄がなくなり、デバイスを一つの武器として使うようになっていた。

 

 これが戦いを始めて一か月も経たない動きなのかと驚愕する。

 

 だが今はそんなことを考えている暇はない。すでになのはが攻撃の届く距離まで接近していた。

 今まさに杖を振り下ろそうとしている瞬間である。算段通りに事は進んでいる。今は勝つことに集中するべきである。

 

 ディフェンサーを展開する。対してなのはが渾身の一撃を放ってくる。

 防げない攻撃ではない。一度は受けきっているこの魔力刃を恐れることはなかった。最初よりも魔力を込めたディフェンサーを盾にカウンターのタイミングを計る。

 

 ディバインソードとディフェンサーがぶつかり合う。だが受けきると思っていたディフェンサーは桜色の刃によって真っ二つに斬り裂かれてしまった。

 

「――か、はっ」

 

 ディバインソードがディフェンサーごとフェイトの体を袈裟切りにしていく。

 肺に溜まっていた酸素が口から吐き出される。

 

(ありえない)

 

 そんな思考が頭を埋めていく。一度は完璧に止めていた魔法。

 しかも最初に展開したディフェンサーより魔力は込めたはずである。

 

(それなのに、どうして)

 

 疑問が次々に頭を駆け廻る。

 だが意識は遠のいていき、ただ地面に向かって落下していくしかなかった。

 

 

 

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