高町なのはくん   作:わず

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フェイトの戦う理由

 

 落ちていく。

 

 強制的に意識が閉ざされていく感覚。それはブラックアウトダメージという現象だった。魔力ダメージの受けすぎ、もしくは魔力を使用しすぎると意識を失うことがある。

 それが今まさにフェイトに起きている現象だった。

 

 大切な人の笑顔が脳裏に浮かぶ。

 野原で二人。母と一緒に遊んだ記憶。辛いことなんて何一つない楽しい記憶。

 

 逆さまに落ちていく。このままでは頭と地面がぶつかってしまう。だがフェイトは自分自身への心配な気持ちはなかった。ただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。自分が役に立てなかったことが悔しかった。

 

 消えゆく意識の最中、思い出の中の母親が手を伸ばしてくる。

 その手を掴もうと手を伸ばす。

 母の手を掴む。それは確かに握ることが出来た。

 

 ぎゅっと握りしめる。

 けれどその手が掴んだものは戦うための杖だった。

 

 ほんのわずかに残った意識を繋ぎとめる。強靭な精神力にて再び動き出す。

 リンカーコアの限界を超えて魔力を爆発させる。

 

「あきらめて、たまるかぁぁぁ!」

 

 全身に魔力を走らせる。

 

 閃光。

 フェイトが体現したのはまさにそれだった。なのはの背後に一瞬で回り込む。

 

「はあぁ!!!」

 

 雷光一閃。

 なのはの背中に魔力刃が突き刺さり体を貫通する。

 

「こ、の!」

 

 倒したと思っていた。もう戻ってくることはないと思い込んでいた。

 

「はあああ!!」

 

 突き刺したままフェイトが降下する。このまま行けば地面との衝突は免れない。

 

(体が……!)

 

 抜け出そうとする。しかし身動きが取れなかった。体が痺れて上手く動けずにいた。

 そして一秒もしないうちにコンクリートへと叩きつけられてしまう。激しい音とともに道路がへこむ。

 

「はぁ……はぁ」

 

 フェイトが息を荒くして立ち上がる。それからジュエルシードの場所を確認し、そちらへと歩いていく。

 

「なのは!」

 

 ユーノがなのはに駆け寄る。

 

「く……そぉ」

 

 体を起こそうとするが全身に力が入らなかった。体が痺れ、足や腕が痙攣を起こしていた。

 フェイトの魔力変換資質による影響だった。雷撃効果が付与された魔法により体の自由が奪われていた。なんとか頭だけを動かしてフェイトのほうを見る。

 目に映るのはよたよたと歩くフェイトと強い光を放つジュエルシード。

 

「ジュエルシードが、暴走しようとしている」

 

 さらに光が強くなる。今まさに巨大な魔力が爆発しようとしていた。

 

「暴走?」

「ジュエルシードが誰の願いを叶えるでもなく、その内に込めた魔力を解放しようとしている。多分、魔力の余波にあてられたせいだと思う」

「暴走するとどうなる?」

「まず僕たちは助からないと思う。最悪次元震を引き起こし、この世界を滅ぼすことに……」

「……やばいな」

 

 ならば今すぐジュエルシードを封印しないといけない。無理やりにでも立ち上がろうとする。だがやはり体に力が入らない。気合でどうにかなる問題ではなかった。

 それでもじっとしていることはできない。そうしてなのはがもがいているうちにフェイトはジュエルシードの元へと辿り着いていた。

 

「ちょっと、フェイト!」

 

 アルフが慌てた声を出す。しかし止める間もなく、フェイトは構わず浮いているジュエルシードを手で掴んだ。

 

「おとなしく、して」

 

 掴んだ手から血が飛び出る。同時にジュエルシードの光がおさまり暴走させることなく止めてみせた。

 

「そんな……」

 

 ユーノがありえないとでも言いたげだった。無理もないことである。

 デバイスの補助もなしに、それも一瞬で抑えつけたことは普通ではない。

 

「行こう。アルフ」

 

 フェイトは振り向くことなく去っていく。そのあとにアルフも続く。

 追いかけることなんてできやしない。また去っていくのを見ていることしかできずに終わってしまう。ユーノの回復魔法が終わるまでじっとしているしかなかった。

 

「……ちくしょう」

 

 三度目の敗北。悔しさが胸に残る。残るだけでなくさらに積み上がっていた。

 二人が帰宅する。その足取りは元気と言えるものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に着いたのは夜の八時過ぎだった。

 遅くなったので忍び込むように家に入ろうとする。まずは家の周りの気配を探る。

 

(よし)

 

 外には誰もいない。そのことを確認して玄関へと向かった。

 

「おい」

「うわ!」

 

 心臓が飛び出そうになる。

 後ろには兄がいた。気配を探ったはずなのに全く感知することができなかった。

 なのはは結局叱られることとなった。ただどのみちお叱りを受けることは確実だっただろう。

 それから温め直してくれた晩ごはんを食べ、風呂に入った。そうして疲れ切ったなのははようやく部屋へと戻ることができた。

 

「はあぁ~」

 

 大きいため息を一つ。

 

「お疲れさま」

 

 ベッドに横になる。目を閉じればすぐにでも寝てしまいそうだった。

 

「少し話があるんだけどいいかな?」

「いいけど、疲れてるからあんまり難しい話すると寝ちゃうかもよ?」

「はは、配慮するよ」

 

 これについては本気だと思ったらしい。

 

「まあ、僕が話をするというよりかはレイジングハートに話をしてもらうと言ったほうが正しいのかな」

『いかがしましたか?』

 

 レイジングハートが反応する。机の上に置いてある赤い玉が点滅していた。

 

「今回の戦闘でも使ったディバインソードについて聞きたいんだけど、あれはレイジングハートが組んだ魔法なんだよね?」

『その通りです。マスターに適正のある魔法を選び、それを組み直したのがあの魔法です』

 

 元々組み込まれている魔法ではなかったらしい。

 

「そっか、それじゃあもうひとつ。ディバインソードの強さについてなんだけど、あの魔法はそんなに強力な方ではないよね。僕にはただの魔力斬撃にしか見えなかったし」

『はい』

 

 ディバインソードは高ランク魔法ではない。

 Cランクの魔法であり、一般的な魔導師なら使用は困難ではない。

 

「僕が疑問に思ってることはディバインソードが最終的にあの子のバリアを突破出来たこと。最初こそバリアを傷つけることすらままならなかったのに、最後に見せたあの破壊力……なのは自身不思議には思わなかった?」

「そういえば、そうだな」

 

 言われてみればそうだった。戦いに夢中だったため気づかなかったらしい。答えのわからない二人にレイジングハートが回答する。

 

『あれはマスターの魔力資質を活かした結果です』

「なのはの魔力資質と言えば、集束のことかな」

 

 ユーノの方を向いてなんだっけと聞く。

 過去に聞いたことがあるような気がしたが、なのはの記憶には残っていなかった。

 

「魔力を集めて固定することだよ。それがなのはの得意とする技術」

 

 ユーノの説明に付け足すようにレイジングハートが点滅した。

 

『加えて説明すればマスターは拡散した相手の魔力も集束することが可能です。戦闘中は無意識で行っていましたので上手く出来ていませんでしたが、私が補助をすることで高度な集束の実現に成功しています』

「本当に!?」

 

 ユーノでも予想外だったらしい。

 

『彼女の使いきれなかった魔力、及び破壊した魔力弾から拡散していった魔力を集めディバインソードの強度を高めていった結果、強固なシールドを破るまでに至ったということです』

「……そうか、大体わかった。ありがとうレイジングハート」

『No problem』

 

 話が終わる。レイジングハートの話を聞いてユーノが考えているポーズを取る。

 フェレットが顎に手を当てて考える姿は中々に面白い光景だった。

 

「それを聞いてどうするんだ?」

「自分の持ってる武器を理解することは大切だし、これを参考にこれからはなのはに合わせた魔法を教えないといけないと思って」

「なるほど」

 

 ユーノはなのはのことを考えて行動してくれていた。くすぐったくも思うが嬉しいとも感じていた。

 

 ディバインソードは状況に応じて強さが変化する魔法である。

 発動時はCランク相当の魔法。

 しかし散らばった魔力を集束して強度を高めていけば強力な魔法となる。

 フェイトのシールドを破った段階ではAAAランク相当となっていた。それにこの集束スキルのタチの悪さはこれだけではない。

 自分の魔力はそれほど使わず強力な魔法を作り上げるという点、そして相手が魔法を使えば使うほど魔力が散ってディバインソードが強くなっていくという特性があった。

 

 今後、なのははこの魔法を主軸に戦略を立てていくことになるだろう。

 

「ふわぁ」

 

 眠気が限界となる。

 

「疲れたから寝るよ」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」

 

 電気を消してベッドに入る。目を閉じると十秒も経たないうちに眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元空間に漂う移動庭園。

 フェイトの母親がいるところであり、フェイトが帰るべきところである。

 

「酷いありさま」

 

 広間にて椅子に座る女性。その女性は倒れているフェイトを見下ろしていた。

 

「たったの六つ、それでも私の娘なの?」

 

 フェイトの母親であり大魔導師でもある人物。

 名をプレシア・テスタロッサという。

 

「ごめんなさい」

 

 声が震えていた。フェイトの身体には所々に焦げ目がつき、雷撃による傷が残っていた。

 

「失望したわ。長い時間待たせておいてこれだけしか集められないなんて」

 

 あなたなんて必要ないわとプレシアが続ける。途切れそうだった意識が繋がる。

 フェイトにとってこれほど聞きたくない言葉はなかった。

 

「わかるわね? フェイト」

「……はい」

 

 必要とされる子になるために、もっと頑張らなくてはいけないと自分自身に言い聞かせる。

 

「そう、ならさっさとお行きなさい」

 

 フェイトはゆっくりと立ち上がり、ふらつきながら歩いていく。扉を開いて広間から出ると近くでアルフが待っていた。

 

「大丈夫かい?」

「うん、大丈夫」

 

 大丈夫なはずがなかった。足元はおぼつかず、腕や足からは血が垂れあざが出来ていた。そんな体でもフェイトは自分の足で歩こうとする。無理をしたためかフェイトが倒れそうになる。

 

「フェイト!」

 

 アルフが受け止める。いくら我慢していても無理なものがあった。

 フェイトの傷ついた体を見て、アルフはどうするべきか考える。使い魔は主のために存在し何よりも主を優先する。今フェイトのためになることとは何か、今アルフにとって重要なことはそれだけだった。

 

 今の状況を抜け出すには一日でも早くジュエルシードを集めてしまうことだ。そうすれば、とりあえずはフェイトが傷つくこともなくなるはずである。

 

 他にも手段はある。それは一番手っ取り早い方法。だがフェイトを悲しませることになり、心を壊しかねないことだった。プレシアの顔を思い浮かべ、怒りと殺意が湧き出てくる。

 

「アルフ」

 

 殺意が薄れる。名前を呼ばれて正常な思考へと引き戻された。

 

「母さんを喜ばせること、出来るかな?」

 

 フェイトはプレシアがいなくなることを望んでいない。そんなのは当たり前のことだった。

 

「もちろんさ」

 

 少しでも安心させるために肯定する。

 ただ主が危険になったとき、そのときは迷わないと心の中で誓った。

 

 

 

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