海の上。
そこでフェイトとアルフはジュエルシードを捜索していた。ジュエルシードが海の中にあることまでは判明していたが、正確な位置までは掴めていなかった。
そのため市街地で行ったように、魔力流を発生させて強制発動を試みることにした。
この広域な範囲での魔力流の打ち込みは並の魔導師はもっての外、フェイトでも相当な魔力を消費してしまうことになる。
発動させても封印させるまでの魔力が持つか不安でもあった。
「はあぁ!」
それでも実行に移す。大切な人の願いでもあるため、どんな無茶でもひとかけらも躊躇はなかった。
魔力を溜めて海へ打ち込む。ジュエルシードが発動し、強大な魔力が天にまで昇った。その成功にアルフがガッツポーズを決める。
ジュエルシードの複数発動により暴風が吹き荒れる。その中でフェイトは封印の準備へと入る。
「封印を……!」
封印魔法を行使しようとするが、次々と襲い掛かる雷雨がそれを許さない。
加えて、暴風が邪魔となり飛行も安定しなかった。
「くっ!」
サポートを頼んでいるアルフも苦戦していた。このままだと無駄に体力を消耗していくだけである。
どうすると思考を巡らせる。だがこの状況ではその思考すらも命取りだった。竜巻による風の暴力で吹き飛ばされ、雷がフェイトへと飛んでくる。
「フェイト!」
雷が直撃する。フェイトは頭部から出血していた。飛行魔法が解除され落下していく。アルフが助けに行こうとするが間に合わない。
そのまま海に落ちると思われた寸前、一人の魔導師がフェイトを受け止めた。
「おい、しっかりしろ」
なのはがフェイトを抱える。巨大な魔力の発生を感知してこの場に来ていた。
「どうして」
ここに来ることは予測していた。
けどなぜ助けてくれるのかとフェイトは疑問に思う。
「そりゃ……あのままだと死んじゃうかもだったろ」
抱えたフェイトは辛そうにしている。
か細い。
なのはの筋肉質な腕と比べるとあまりに細かった。
フェイトは細い体でこんなにも頑張っていた。
「ジュエル……シード」
フェイトが起き上がろうとする。
「無茶すんなって」
バルディッシュの魔力刃は今にも消えそうになっていた。魔力切れを起こしそうになっている証拠だ。
『マスター』
レイジングハートに話しかけられる。
『彼女に魔力を分け与えますか?』
「そんなことできるのか?」
『可能です』
気絶しそうなフェイトを見る。多分このままでも封印を行おうとする。そしたら最悪の事態にもなりえる。それは流石に見過ごせない。
「頼む」
『All right』
レイジングハートの宝玉から魔力が放出される。それらはフェイトに向かい取り込まれていった。
魔力を半分ほど分け与えたところで放出を止めた。
フェイトに活力が戻っていく。
「動けそう?」
フェイトが腕からゆっくりと離れる。バルディッシュから出る魔力刃の出力は申し分なかった。
「僕たちもサポートします!」
ユーノがアルフの隣に行く。手いっぱいだったアルフのサポートにユーノが加勢する。
「あんたら」
「今止めないと大変なことになる。ジュエルシードの封印を!」
争っている場合ではない。ユーノが竜巻の動きを止めて行動で訴える。
「だってさ?」
「……バルディッシュ」
『Sealing form』
フェイトが術式を組み上げていく。込めるのはなのはにもらった魔力。
なのはも同じく、封印の準備にかかった。
「行くよ」
『Yes sir』
「レイジングハート」
『All right』
封印魔法が発動する。辺り一面を覆いこむように封印魔法が展開される。
さらに魔力を込めていく。出し惜しみはしない。ここで全て封印する。
一つ、また一つと封印されていく。
暴風は収まり辺りは静かになる。
空中には複数のジュエルシードが浮かんでいた。
なのはとフェイトが向かい合う。お互いに戦う意思は感じられない。
なのはが先か、フェイトが先か。
それはわからないがどちらかが言葉を発しようとしたときだった。
「そこまでだ」
フェイトとなのは。
両者の腕に拘束魔法がかけられる。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
クロノと名乗った人物が両者を交互に見る。
「事情を聴かせてもらおうか」
言うな否や、魔力弾がクロノに向けて放たれる。クロノはシールドを展開し全て防御する。
「フェイト、撤退するよ!」
アルフが魔力弾を続けて撃つ。その最中クロノに通信が入った。
『クロノ君そこから離れて!』
クロノはアースラと呼ばれる次元航行艦からやってきていた。そのアースラから通信が入る。
『次元干渉で強大な魔力が向かってる!』
切羽詰まった声だった。着弾まで数秒とのこと。
考えている暇もなく、空に魔法陣が現れ雷撃が降り注いだ。
それらはこの場にいる全員に等しく降り注いでいく。
「防御魔法を!」
誰が叫んだかはわからない。ただその声に反応するまでもなく、各々はシールドを展開していた。
だが魔力切れを起こしそうになっているなのはとフェイトはシールドを展開することができなかった。
回避することも叶わず直撃してしまう。
「なのは!」
「フェイト!」
ユーノとアルフが叫ぶ。
アルフがフェイトに駆けつけようとする。だが一度立ち止まり方向転換をする。主人の意を汲んでかジュエルシードの回収を優先した。
しかし、その行く先をクロノが阻む。
「邪魔するなぁ!」
アルフがクロノを吹き飛ばす。邪魔が入ったがすぐにジュエルシードの回収に向かう。
「なっ!」
先ほどまでそこにあったジュエルシードが半分なくなっていた。
吹き飛ばした先のクロノを見る。手には半分のジュエルシードがあった。
「うわあぁぁぁ!」
主人が決死の覚悟で封印したジュエルシード。それを取られた怒りをぶつけるかのように海へ特大の魔力弾を打ち込んだ。
巨大な波が発生する。目隠しを作り、急いでフェイトの元へ向かう。
フェイトは気絶していた。かろうじて意識のあったなのはは落下していくフェイトを受け止め抱えていた。
そこにアルフが向かってくる。フェイトを抱えたなのははそのままアルフに抱きかかえられてしまう。
「ちょ!」
離せと言う間もなく転移魔法が発動する。
「なのは!」
ユーノが助けに行こうとするが間に合わない。
そのままなのはは連れていかれてしまった。この場に残ったのはユーノとクロノの二人だけとなってしまった。
ズキリと頭に痛みが走る。
「どこだ……ここ」
意識が戻る。初めての転移魔法のせいか、なのはは意識を失っていた。ダメージのない通常時ならば問題はなかっただろう。
見覚えのない場所。
周りを見る限りどこかの部屋だということはわかった。
「おまえは……」
「目が覚めたか」
人型のアルフが近くであぐらをかいて座っていた。
「ここは?」
「時の庭園、フェイトの家さ」
もう一度部屋を見渡す。
無機質な壁は家というより施設を想起させる。
「なんで俺をここに?」
「残りのジュエルシードをもらうためさ」
アルフがレイジングハートを取り出す。寝ている間に取ったのだろう。
「起動して取り出しな」
レイジングハートを渡される。
「妙な真似はするんじゃないよ」
「……渡したらどうなる?」
「答える必要があるかい?」
今、生殺与奪権はアルフにあった。ただそんな状況でもなのはは怯まなかった。
短い期間ではあるが、幾度と乗り越えた戦いがなのはの精神を強くしていた。それに魔法なしでも渡り合える自信があった。過信とも思える考えだが、事実、なのはにはその実力がつき始めていた。
ついでに負けず嫌いも加速していた。
「そう睨むなよ。アンタはフェイトを助けてくれた。悪いようにはしないさ」
嘘をついているようには見えなかった。
「……レイジングハート」
レイジングハートを起動させる。
アルフを組み伏せる自信があろうとも、わざわざリスクを取る必要はない。それにここは敵の本拠地である。今は従うほうが賢明だろう。
ジュエルシードを全て取り出してアルフに渡す。
これでフェイト側の持っているジュエルシードと合わせるとほぼ全てが揃うことになる。
「なあアンタ、なんでフェイトを助けたんだい?」
争っていた相手だ。当然の疑問ではある。
「危なかったから助けただけだよ」
「敵なのにかい?」
「それでも死んでもいいなんて思えないだろ」
なのははただ普通に答えただけである。それに悪い奴だとは思えなかった。
価値観の違いなのかはわからない。ただその答えにアルフは多少なりとも驚いていた。
「いいやつなんだな、アンタ」
少しむず痒かった。それほど特別なことを言ったつもりはなかった。
アルフは立ち上がり扉に向かう。用は済んだのだろう。
「おそらくプレシアはアンタがここにいることに気づいている。逃げるならバレないようにしな」
プレシアとは誰なのか聞こうしたが、アルフが部屋から出るほうが速かった。
「さて」
とりあえず出口でも探そうと思い立ち上がる。
『マスター』
レイジングハートがピコピコと光り出す。
「どうした?」
『ここから脱出するには転移魔法の術式が必要です』
「転移魔法?」
『はい、ここは次元空間の中です。魔法を使わなければ出ることは不可能です』
「そうなの? でも俺は転移魔法なんて……」
使えないと言おうとするがレイジングハートが言い終わる前に被せてくる。
『わかっています。私の中にも転移魔法のデータはありません。ですのでそのデータをここで手に入れなければなりません』
レイジングハートがやるべきことを示してくる。
「データなんてどこにあるんだ?」
『資料室に行きましょう。もしくはコンピュータのあるところへ』
「わかった……で、どう行けば?」
『わかりません。探索しましょう』
「……そうですか」
行きましょうとレイジングハートが明るく言う。データを探すためこの家を歩き回ることにした。
当てもなく目的の場所を探す。
「ところでさ」
『なんでしょう』
「ディバインソード以外に戦闘で使える魔法ってないの?」
『あります。ですが現状で使用することはおすすめしません』
「なんで?」
『実力不足です。訓練を薦めます』
「訓練、ね」
あまり気は進まない。元々頑張り屋ではない方だ。勝負事に関係し、かつ目的がしっかりしていれば取り組めることだろう。
現状全く訓練をしていないわけではないが、それでも最低限しか行っていなかった。一応魔法の訓練よりも御神流の修行を優先させた結果であるが、どちらにしても積極的に取り組みはしなかっただろう。
ただ積極的に魔法を教わっていれば転移魔法も覚えていたかもしれない。そうすれば今現在迷うこともなかっただろう。今回のこともあり、もう少し魔法を覚えようと反省する。
それとレイジングハートに転移魔法がないのは、ユーノ自身が使えるためである。
『そもそもマスターは魔法による戦闘を熟知していません』
突然、説教が開始される。
『知恵と戦術、それを身に付けてこそマスターのパワーが活かせるように……』
「はいはい、わかってますって」
勉強は苦手である。この類の説教も耳にタコが出来ている。
そのため話を逸らそうとした。
『わかっていません。続けます。まずは基本である魔力運用の理論を学んだ上で使用を完璧に……』
そして始まる魔法講義。逃げることは許されなかった。
今は勘弁してもらえないだろうかと思う。だがそんな思いは届かずビシバシと講義は続けられた。
聞いているフリをしていても最後に質問してくるからたまったものではなかった。答えを間違えると同じところを繰り返される始末である。
休み時間はなく、レイジングハート先生の授業が止まることはなかった。
講義を聞きながら歩き続ける。
ドアを見つけては開ける。今回で四つ目の部屋である。
「ここは?」
『――該当なし』
「ハズレか」
目的の場所とやらは中々見つからず、時の庭園をさまよい続けていた。
「ふぅ」
広い。
時の庭園は中々に入り組んでいた。それにどこにいるのかわからないのは不安でもあった。
「ゲームのダンジョン攻略ならこのやり方で合ってるんだけどな」
どこかにマップが落ちてれば、なんて下らないことを考える。
「おっ」
次のドアを見つける。中に入ると結構な広さだった。
『マスター』
「ん?」
『奥にも扉があります』
空中に矢印が現れる。レイジングハートが方向をわかりやすく示してくれていた。示された方向に行き扉を開ける。
扉の向こうにはSF映画で観る様なカプセルがあった。
「ばいよう液?」
最初に思い浮かんだのがそれだった。中には子どもが一人入っている。
「どっかで見たことがあるような」
近づいてカプセルの中を見る。よく見ればフェイトだった。
「にしてはちょっと背が低い……?」
フェイトよりかは大きくなかった。ただ顔立ちはそっくりだ。
助けた方がいいのだろうか。
一瞬だけ、壊そうかと考えた。
『マスター、いけませんよ』
「……やらないよ」
なのははレイジングハートの読心術に恐ろしさを感じていた。読心の魔法でもあるのかと疑うほどである。
(今はどうしようもないな)
考えても仕方ない。特に用もないので、この部屋から出ようとする。
「何をしている?」
髪、目、服装、全体的に紫色の女性がいた。
「今すぐそこを離れなさい」
やたらと高圧的な態度だった。なんとなく、フェイトに似ている気がした。
「フェイトの、母親?」
「違うわ」
否定される。
「製作者よ」
なのははよくわからなかった。
「どういう……こと?」
なのはが疑問を口にするより、フェイトの方が早かった。
女性の近くにはフェイトとアルフがいた。
「母さん」
フェイトが女性を母さんと呼ぶ。やはり母親で間違いはなかったようだ。
「フェイト、よくやってくれたわね。偉いわ」
その言葉を聞いてフェイトの顔が明るくなる。
「これだけのジュエルシードを集めてくれて、母さんは嬉しいわ」
「……母さん!」
今まで見せたことのないような笑顔だった。目には涙を浮かべている。
「でももう用済み」
優しい雰囲気から一転。プレシアの態度は冷たくなっていった。
「え?」
「最後だから教えてあげる」
プレシアが嫌な笑みを浮かべる。
「あなたはね、ただの作り物。ここにいるアリシアの偽物よ」
先ほどの製作者という言葉が思い出される。
「記憶転写型特殊技術により生み出された人造生命。それがあなたよ、フェイト」
残酷な真実。
「フェイト、あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作」
心を壊す言葉。
「だからあなたはもういらないわ」
目を背けたくなる悪意。
「アリシアを真似た人形。生み出した時から大嫌いだったわ」
プレシアから発せられる嫌悪感。
「私はアリシアを生き返らせる。その準備は整った。だからね、フェイト」
狂ったような憎悪。
「どこへなりと消えなさい!」
それら全てがフェイトに打ち付けられる。フェイトはあまりのショックに崩れ落ちてしまった。
「アンタ、なんてことを!」
アルフがフェイトに寄り添う。フェイトに触れる優しい手とは裏腹に表情は怒りに満ちていた。
「私は向かうわ、アルハザードへ!」
大きな振動が発生する。床が崩れどこからともなく巨大な鎧が現れた。
「傀儡兵!」
身構えるアルフ。一気に緊迫した状況となる。
すぐにでも戦闘態勢を取るべきである。だがなのはは傀儡兵をじっと見ていた。
(カッコイイ)
そう感じていた。なのはは男の子だった。
それも束の間、傀儡兵が動き出すと同時になのはの意識は戦闘へと変わった。
「レイジングハート!」
デバイスを起動する。だが魔力が足りずバリアジャケットの生成に失敗してしまう。
今は一撃が死に繋がる。あまりにも危険な状況である。
そしてプレシアは混乱に乗じ、この場から消えていた。
傀儡兵が剣を振り下ろし、レイジングハートで受け止めようとする。
(あ……)
なのはは直感する。
これは、受けきれない。
――死を直感した。
しかし、待てど予想していた衝撃が伝わってこない。見れば傀儡兵の斬撃は緑色のシールドによって防がれていた。
「ごめん! 遅くなった!」
少年がなのはの隣に降り立つ。見たことのない、初めて見る少年だった。
「だ、誰?」
「誰って、僕だよ」
声が、展開された魔法が、なのはの脳に親友だと告げてくる。
「……ユーノ?」
「もちろん」
「人間だったの!?」
「え?」
ユーノはこの姿を見せていないことに気づく。しかし今はそれどころではなかった。
「今は傀儡兵を倒そう! 説明は後!」
まだ驚きはある。
だがそれよりも安心感があった。
いつだって頼れる親友。盾になり守ってくれるユーノ。なによりなのはの心の支えでもあった。
周りを見ればクロノも来ていた。
クロノとアルフが傀儡兵を倒していく。ユーノも加勢し次々と倒していった。
その間になのははフェイトの元へと駆け付けた。
ぐったりとしていて生気が感じられない。このままでは危険なためフェイトを背中に背負うことにした。
傀儡兵を片づけ終え、それからなのは達はプレシアを追いかけることにした。
ジュエルシードが発動する。
膨大な魔力により次元震が引き起こされる。
「あと、もう少し」
次元震を強くしていく。事はプレシアの計算通りに進んでいく。
「プレシア・テスタロッサ」
プレシアの後ろに一人の女性が現れる。
リンディ・ハラオウン。アースラの艦長である。
そして続くようになのは達が到着する。
「今すぐ魔力を止めなさい。次元震は私が抑えています」
弱まる次元震。
だがプレシアは止めることはしない。焦りもなかった。
この数のジュエルシードを止められるはずがないとプレシアは確信していた。
一時弱まっていた次元震だが再び揺れが強くなっていく。
リンディに焦りが見え始める。抑えるにはあまりにも出力が強すぎた。
「忘却の都アルハザード。彼の地に眠る秘術。そんなものはとっくの昔に失われてるはずよ」
「違うわ、アルハザードは今もある。失われた道も次元の狭間に存在する」
さらに強くなる次元震。少しでも抑えようとリンディも出力を上げる。
「仮にその道があったとして、あなたはそこに行って何をするの」
「取り返すわ。私とアリシアの過去と未来を。取り戻すの。こんなはずじゃなかった世界の全てを!」
アルハザードにはあるのだろうか。時間を戻す術が、死者を蘇らせるが技術が。
なのはは黙って二人の会話をただ聞いていた。
「知らないはずがないだろう! どんな魔法を使っても過去を取り戻すことはできやしない!」
クロノの言葉がなのはに突き刺さる。悪いことを咎められているような、そんな気持ちだった。
背中にいたフェイトが身じろぎをする。意識が戻ったらしい。
「降ろして」
なのはは言われた通りにする。
フェイトがゆっくりとプレシアに向かって歩いていく。
「もう用はないと言ったはずよ」
悲しみを抑え、伝えたいことをフェイトが口にする。
「私はただの失敗作、偽物かもしれない」
自ら口にするのも辛いのだろう。
フェイトの発する言葉は震えていた。
「いなくなれって言うなら遠くに行きます。だけど、生み出してもらってから、今までずっと、今もきっと、母さんに笑ってほしい。幸せになって欲しい気持ちだけは本物です」
全てを知った上で差し出す手。もう一度家族としてやり直したいと手を差し伸べる。
「それが私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」
プレシアはその手を見つめていた。しかしその手を取ることはしなかった。
「下らないわ」
プレシアが魔力を流し込む。
次元震はさらに大きくなり、時の庭園は崩壊していった。
「――開いた」
プレシアが一言呟く。
「私は行くわ、アリシアと一緒に」
プレシアの足元が崩れ落下していく。
下は虚数空間。落ちれば魔法が使えなくなり二度と戻れなくなる。
「母さん!」
「戻れ! フェイト・テスタロッサ!」
クロノが呼び戻そうとする。
それを無視してフェイトは駆け寄る。落ちていく二人に手を伸ばすが届かない。
揺れは大きくなりフェイトのいる場所も崩れてしまう。
なのはも駆け寄り、落ちるフェイトに手を伸ばす。
「フェイト!」
手を掴む。
間に合ったかのように思えた刹那、なのはの足場も崩れてしまった。
「やべっ!」
なのはとフェイトが落下していく。二人は次元の狭間へと飲み込まれてしまった。
最後に聞こえたのはユーノの叫び声だった。
(そういえば、アリサと仲直りしてなかったな)
なのはは落ち行く中、そんなことを思い出していた。