高町なのはくん   作:わず

8 / 33
帰還

 

 目をゆっくりと開ける。

 

 見覚えのない天井、見たことのない家具。

 前回から引き続き、またもや知らない場所だった。

 

「目が覚めましたか?」

 

 隣には女性がいた。赤い髪は腰まで届く長さで、それを三つ編みにしていた。

 

「ここは?」

 

 昨日も同じようなことを言っていたなと思い出す。ただ昨日と比べて安心感が違った。

 起きた時の光景が荒野と家の中ではまるで違う。

 

「ここは私たちの家です」

 

 女性が立ち上がる。背丈は日本の中学生か高校生くらいに見えた。

 

「少しお待ちください。父さんと母さんを呼んできますので」

 

 なのはが何か言う前に行ってしまう。色々と聞きたいことがあった。しかしすぐ戻ってくるだろうと思い、呼び止めることはしなかった。

 

 隣ではフェイトが寝ていた。苦しそうな様子はない。今は落ち着いていると思われる。

 なのはも今は苦しくはない。むしろいつもより体が軽い気がしていた。

 

「おはよう。具合はどうだい?」

 

 四人が部屋に入ってくる。男性が一人。女性が三人。

 声を掛けてきたのは男性である。なんだかやつれているように見えた。もしかしたら自分より元気がないかもしれない、そう感じるほどだった。

 

「えと……大丈夫そう、です」

「それは良かった」

 

 優しそうな雰囲気だった。怖い人ではなくて少しほっとする。

 

「私はグランツ。グランツ・フローリアン。そしてこっちが妻のエレノア」

 

 女性が微笑みかけてくる。母親も優しそうな雰囲気だった。

 

「アミティエと言います」

「キリエよ。よろしくね」

 

 娘二人が続けて自己紹介する。

 二人は姉妹である。

 真面目そうなのが姉、くだけた挨拶をしたのが妹である。

 

 なのはも自己紹介をしようとする。だがそれよりもお腹が鳴るのが早かった。

 その音は大きく、魔物が現れたのかと錯覚するほどであった。

 

 なのは自身、今まで聞いたことのない音だった。大きい音が部屋中に響き渡る。

 その音のせいかはわからないが、隣にいたフェイトが目を覚ましていた。

 

「……ここは?」

 

 起き上がるフェイト。

 それと同時になのはに負けず劣らずの音がフェイトのお腹から聞こえてくる。ちょっとだけ恥ずかしそうにしながら、フェイトはお腹を押さえていた。

 

「ふふっ、ごはんにしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぐっ、はぐっ!」

 

 勢いよくごはんをかき込む。最初に出された物はすぐに平らげていた。

 フェイトも同様である。いつもは丁寧に食事をするフェイトだが、かなりの勢いで食べていた。急いで食べたせいか二人とも口元が汚れている。

 

「はい、どうぞ、おかわりよ」

 

 足りないと思っていたところにおかわりが運ばれてくる。エレノアは察して次の分も作ってくれていた。

 

「いっぱい食べなー」

 

 キリエがジュースを飲みながら二人を見ていた。キリエもアミティエも二人の様子に驚きはしない。どうやらこの状態に心当たりがあるようだった。

 

「ありがとうございます」

 

 フェイトが律儀に答えてから食べ始める。対してなのはは食べ物が置かれた瞬間に食べ始めていた。

 

 二人は倒れてから丸二日寝ていた。当然、お腹も減っている。

 しかしそれを考慮してもこの食事量は異常だった。二人が運ばれてくる料理を次々と平らげていく。積み上がっていくお皿。現時点で子どもが食べる量を遥かに超えていた。

 

「……ふぅ」

 

 今までにないぐらいに食べていた。食べ過ぎたぐらいだった。

 少し苦しいが満足な気分だった。フェイトも同感のようである。

 

「ねぇ」

 

 キリエが話しかけてくる。キリエの髪はピンクでふわふわしていた。

 彼女からは食卓に着く前に教会にいたことは内緒にして欲しいと言われていた。

 

「君たちはどこから来たの?」

「俺は地球ってとこから」

 

 フェイトに視線を寄越す。

 

「私は……」

 

 フェイトはまだ整理が追いついていなかった。

 作られた存在であるフェイトはどう答えればいいかわからなかった。

 記憶にある自分の出身地――けれどそれはアリシアの記憶であり、本当の自分の記憶ではなかった。

 素直で嘘の付けない性格だった。

 

「同じところだよ」

 

 なのはが助け舟を出す。嘘は言っていない。

 エルトリアに来る前は地球にいた。それは本当である。

 

「帰る手段はあるのですか?」

 

 アミティエが聞いてくる。二人は首を横に振る。今のところ帰還手段はない。

 

「そうですか」

 

 アミティエは同情してくれていた。根が真面目で優しいのだろう。

 

「しばらく休んでいくといいよ」

 

 そうグランツは言ってくれた。なのはとフェイトが顔を見合わす。

 どうすることもできないので、二人はお言葉に甘えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 グランツからこの星についての説明があった。

 死触について、感染していたことについて、そしてそのために施した処置について。

 

 二人の体にはナノマシンが打ち込まれていた。

 なのはとフェイトの体は強靭なものとなり、過酷な環境でも生きれるようになっていた。

 もう少し正確に言うのであれば体の構造がより外敵に打ち勝つために変化していた。

 今現在無事でいられるのは免疫の向上が生存確率を飛躍的に上げたためだった。

 

「なのはさん、フェイトさん」

 

 アミティエがボールを持ってくる。今から四人でドッチボールをするところである。

 

 体は治ったが、作り変わった体にまだ慣れていなかった。

 イメージ通りに体を動かすことができなかった。物を取ろうとしたら掴む前に弾き飛ばしてしまい、グラスを持ち上げようとしたと思ったら握力が強すぎて割ってしまっていた。

 

 力をコントロールする必要があった。今の運動能力に慣れるため体を動かした方がいいとグランツに勧められていた。

 そのついでに地球の遊びを教えて欲しいとアミティエとキリエから要望があった。

 

 なのはは簡単にできる遊びを提案する。それがドッチボールだった。

 

「ふーん、このボールを当てればいいのね?」

 

 キリエがボールを指で回す。アミティエは真面目に準備体操をしていた。

 

 なのはがコートを準備しようとする。線を引こうとしたとき、レイジングハートが魔法で作れると提案してくれた。

 なのはがコートのイメージをレイジングハートに伝える。それからすぐに桜色の魔力線でできた簡易的なコートが作り上げられた。

 

 そのコートに四人が入る。

 

 二対二。

 フローリアン姉妹対なのは&フェイト。

 

 レイジングハートが気を利かせてか空中にReadyと表示させる。

 互いに準備万端と判断し、続けてGoと表示された。試合開始である。

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 キリエが思いっきり投げる。

 なのはの顔に目掛けて一直線。

 とんでもない剛速球が投げ込まれる。

 

 全く予測していない一撃だった。

 

 なのはは楽しいドッチボールの授業を想像していた。

 ボールを投げ合う少年少女。青空の下で放物線を描くボール。

 だがそんなものはここに存在しなかった。

 

「ぶへっ!」

 

 顔面直撃である。なのはでなければ気絶していただろう。

 衝撃によって足が宙に浮く。そしてなのはは背中から後ろに倒れてしまった。

 

「やった!」

 

 キリエがガッツボーズをする。

 なのはは大の字に倒れていた。その横をボールがコロコロと転がる。

 

 フェイトが近づき心配そうになのはを覗き込む。その顔にはボールの跡が付いていた。

 赤い模様がなのはの顔にくっきりと浮かんでいる。

 

「ふ」

 

 フェイトが手で口を押さえる。

 

「ふふっ」

 

 フェイトは笑っていた。

 

「なのは君アウト!」

 

 キリエが勝ち誇ったようになのはを指差す。

 

「顔はセーフだから」

「ええ? そうなの?」

 

 レイジングハートがSafeと宣告する。

 

「フェイト、ボールくれ」

 

 フェイトがボールを拾い上げなのはに手渡す。

 

「反撃だ!」

 

 もはや手加減の必要はないと判断する。年上ではあるが、相手は女の子であるため全力でやるべきでないと考えていた。しかしその考えは間違いだった。

 調子に乗っているキリエに向かったボールを投げる。キャッチされ再びボールが相手の手に渡る。キリエから投げ込まれたボールを今度は上手く受け止める。攻守が目まぐるしく入れ替わっていた。

 

 四人が遊ぶ。

 アミティエとキリエが楽しそうにする。久しく感じていなかった感情だった。

 二人は長い間家族と共に過ごしている。楽しくないわけではないし、寂しいと思ったこともなかった。

 

 だが友達と遊ぶという感覚は忘れかけていた。二人はそれを思い出していた。

 

 楽しくて、いつまでも遊んでいた。

 そうして四人は夕飯までボールを投げ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古びた教会。

 そこでイリスはキリエに二人のことについて聞いていた。

 地球から来たという二人。そして魔法を使用するということ。

 

 その魔法はかつて見たものと似ていた。

 かつて見たものはベルカ式と言われているものだった。しかしなのは達が使うのはミッドチルダ式という。

 体系は違うのだろうが、目的を達成するための手掛かりになるかもしれないとイリスは考えていた。

 

「地球、地球っと」

 

 イリスが地球と呼ばれる星がどこにあるのか探る。

 普段から宇宙を、次元を超えたその先を広く捜索していたこともあり作業は早くに終わった。

 

「見つけた」

 

 地球、青い星。

 惑星エルトリアと比べると豊富な資源が存在していた。水、緑、空気、どれを取っても人間に最適な環境だった。恵まれた星だという印象を抱く。

 イリスが地球をクローズアップする。

 

「あれは!?」

 

 偶然か。

 イリスが探し求める物がそこにはあった。一人の少女をクローズアップする。その少女は魔導書を所持していた。

 

「夜天の書」

 

 ギリッと歯を噛みしめる。イリスはその少女の観測を続けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 体にも慣れてきたことで不自由なく過ごせるようになってきていた。

 細かい作業もできるようになったので、なのはとフェイトは家の手伝いをしていた。フローリアン家の誰かが頼んだわけではなく、自ら申し出て手伝いをしていた。

 色々と面倒を見てもらっているため、じっとしているわけにもいかなかった。

 

 最初は断られた。

 

「子どもは元気に遊んでくれていた方がいい」

 

 そう言われた。

 

「その方が私達も元気が出る」

 

 グランツが言い、その言葉にエレノアが頷いていた。

 その意味を、理由を、気持ちを、まだ子どものなのは達はわからなかった。

 

 子ども扱いされることは仕方ないことである。それでも甘え過ぎていると感じていた。

 そのためなのはとフェイトは引かなかった。その気持ちを汲むことにしたグランツは折衷案ということで、午前はお手伝い、午後は自由時間という提案をした。

 

 午後になり、グランツとなのははキャッチボールをしていた。

 たまには体を動かした方がいいと、エレノアの勧めもあり外に出ることにした。

 

「おっ、と」

 

 グランツがボールをキャッチする。グローブで取ったボールをなのはに投げ返す。ボールとグローブは新たに作ったものだった。

 エルトリアには独自に進化を遂げた技術があった。

 

 フォーミュラシステムとヴァリアントシステム。

 

 フォーミュラシステムは解析と分析に長けたシステムである。

 ヴァリアントシステムは物質のエレメントに干渉し、形状を自在に変えることができるシステムである。

 これらを併せて使用し、ボールとグローブを作り出していた。

 

「よっ」

 

 なのはが高くジャンプする。

 あらぬ方向に飛んでいくボールをキャッチする。

 

「すまない」

「へーきへーき」

 

 なのはが投げ返す。それをグランツがキャッチする。

 男同士、打ち解けあうのは早かった。

 グランツは笑っていた。楽しくて、とても嬉しくて笑っていた。グランツが投げ返そうとする。だがボールを投げることはなかった。

 突然、膝を着いてしまう。

 

「ごほっ、ごほっ!」

 

 グランツが苦しそうに咳き込む。

 なのはが駆け出す。しかしそれよりもアミティエが一足早く到着していた。

 

「父さん!」

 

 グランツを抱える。そのままアミティエはグランツを家まで運んで行った。その動きは慣れていた。今回が初めてではないのだろう。

 

 グランツがベッドに横たわる。それを申し訳なさそうになのはが見ていた。

 

「ちょっと、はしゃいでしまったね」

 

 顔色は先ほどより幾分かは良くなっていた。

 

「男の子と遊ぶのなんて初めてだったから」

 

 そう言って笑っていた。

 最近体の調子が良くないときがあるとも話す。

 

「ごめん」

 

 なのはが謝る。

 事情を知らなかったとはいえ、無茶をさせてしまっていた。

 

「いいんだ、こちらこそ遊んでもらって楽しかった」

 

 グランツは嬉しそうに話す。

 

「大人が子どもと遊べるのはとても幸せで、とても嬉しいことなんだ」

 

 逆ではないのかと、なのはは思った。子どもは大人に遊んでもらえると嬉しい。なのははそう思っている。

 だがツッコミは口にせず今は休んでもらうことにした。

 

「元気になったらまた遊ぼう」

 

 なのははそれだけ言って部屋から出ていく。

 話すのも辛そうであった。だけどグランツは弱音を吐くことはしない。おそらくなのはに罪悪感を感じさせないために我慢していたのだろう。

 それをなんとなくだがなのはが察し、早々に部屋を出ることにした。

 

「ああ、きっと」

 

 グランツはどこを見るでもなく、一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランツの様子をエレノアとアミティエが診ている間、キリエが二人に声をかけていた。

 なのはとフェイトはキリエに連れられ教会まで来ていた。

 イリスが二人に話があるらしい。

 

「無事良くなったみたいだね」

 

 イリスが良かったと続ける。

 それほど会話もしておらず、他人事のはずなのにやけに嬉しそうにしていた。

 そんな違和感を覚えつつもイリスに呼ばれた理由を聞く。

 

「君たちを地球に帰してあげる」

 

 唐突に突きつけられる朗報。

 帰る手段がなかったため、そのうち迎えが来るのを待つしかないと考えていた。

 来てくれるかはわからない。もしかしたらユーノなら助けてくれるかもと楽観的には思っていた。

 そこに提示される帰還の手段。

 

「これを使えば次元跳躍が可能だよ」

 

 大きい石板を指し示す。これを使えば帰れるらしい。

 

「その代わり条件があるの」

 

 イリスが胸に手を当てて言う。

 

「私も連れて行って欲しいの。そこであることに協力してもらいたい」

 

 イリスからの申し出。

 イリスは地球への同行を願い出た。

 

「え、イリス?」

 

 キリエが悲しそうな顔をする。キリエにとってイリスはかけがえのない友達である。

 

「そんな、どうして」

「どうしても行かないといけないの。私は地球に行ってやらなきゃいけないことがある」

 

 イリスとキリエが見つめ合う。

 

「大丈夫、ちゃんと帰ってくるから」

 

 イリスは約束する。ここに帰ってくると。

 

 なのはとフェイトに断る理由はない。ただ地球に行く理由を聞いても教えてはくれなかった。

 理由はまだ話せないらしい。話せないことも条件の一つだと言われる。

 帰れるのであれば帰りたい。帰らないといけない。なのはには家族が待っている。

 

 辺境の惑星。通信が届かない状況。

 もはや手段は選んでいられなかった。どのようなリスクがあるか考えている暇はない。

 そもそも適切な判断を下すことは難しくもあった。

 

 なのはとフェイト。

 二人の精神は実年齢より成長が進んでいた。辛い過去を経験したことにより、人の気持ちを考えられるようになっていたからである。

 だがそれでも子どもである。レスキュー隊でもなければ、遭難に関しての深い知識があるわけでもない。

 

 あからさまな危険がない限り、目の前に帰還の手段を提示されれば受け入れてしまうだろう。

 

 そのためイリスの提案を承諾することにした。

 

 それからなのは達は一度フローリアン家に帰り、地球に帰れる手段が見つかったと報告した。

 

「また、いつでも来ていいからね」

 

 エレノアがフェイトの頭を撫でる。両者とも寂しそうな顔をしていた。

 

「元気でね」

 

 グランツがなのはの頭に手を置く。

 父という存在を、家族を守る存在を、その手から感じていた。

 

「体、良くしろよ」

 

 親子にも友達にも見える関係。

 

「ああ、わかった」

「また、来るから」

 

 それからお礼を言ってなのは達は家を出た。

 なのはとフェイトが教会に戻る。だがその場にキリエの姿はなかった。

 

「それ持って行って」

 

 イリスに小さい石板を持っていくよう頼まれる。

 この石板はイリスの分身みたいなものらしい。

 

「そこに立って」

 

 イリスに指示される。

 指定の場所に立ち石板が光る。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 次元跳躍が発動する。

 短い期間だったが楽しい思い出を作ることができた。

 

(また会いに来よう)

 

 今度は何して遊ぼうかなと考えつつ、なのは達はエルトリアに別れを告げ地球へと飛んだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。