やはり俺の大学生活はまちがっている。   作:石田彩真

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※一つ矛盾があったので訂正。
こちらでつぐみが八幡の連絡先を聞く描写があったのですが、新入生歓迎会の時に八幡はつぐみと連絡をとっていることを思い出したので削除しました!

いつもは新作をpixivで投稿してからこちらも載せるんですが、今回は前回との繋がり回なので早めに載せておきます!
なので、次はほんの少し間が空くかもしれません!


いつでも羽沢つぐみの可愛さには敵わない。

 どこか気恥ずかしい雰囲気を残したまま、俺たちはとあるイベント会場へ向かっていた。

 最近の運が向いてきているのか、福引に続いてこちらの抽選も無事勝ち取れたのだ。

 

『ペンギン餌やり体験』

 

 着ぐるみのペンギンが看板を持って案内してくれる。

 俺と羽沢は抽選券を見せて中へと向かう。

 

「……楽しみですね」

「ああ」

 

 俺たちの他に数人の客がすでに来ていた。

 家族、友達、恋人同士などなど。

 俺たちはどれの部類に入るんだろうと考え、先ほどのやりとりを思い出しそうになり、誤魔化すように咳払いをする。

 

「? 大丈夫ですか?」

「ん、ちょっと埃がな……」

 

 適当な理由ではぐらかす。

 こういう時は何か話題を提供した方が良いのだろうか。

 けれど俺にそんなスキルはないので早々に諦める。

 遊園地とかの待ち時間で恋人同士の会話がなく、別れちゃう理由がなんとなくわかった。

 まあ、そもそも俺と羽沢はそんな間柄じゃないので問題ないな。

 うん、問題無い。

 だから早く始まってくれないかなー、とスマホの時計をチラチラ見ていると、俺の願いが通じたのか係員のお姉さんがマイクを手に取った。

 

「はい、みなさん! 本日は花咲川水族館にお越しいただきありがとうございます!」

 

 拍手が鳴り響く。

 羽沢も拍手をしていて俺だけしないのは不自然なので、適当に手を叩いた。

 

「これからここにいる皆さんにはペンギンさん達への餌やりを行っていただきます! まず最初に──」

 

 それから係員はやり方、手順、注意事項などを懇切丁寧に説明してくれて、羽沢は真剣に聞いていた。

 

「それでは順番にやっていきましょー!」

 

 係員のお姉さんの合図を皮切りに一組ずつ順番に餌やりが始められる。

 俺たちは最後尾に並んでいるので少し先だが、羽沢が隣でそわそわしてるのが目に入った。

 楽しみ、というのが隠しきれていないのが可愛くらしくて、思わず微笑んでしまう。

 それを羽沢に見られ、俺が笑ってる理由に勘付いたのか、少しだけ頬を膨らます。

 

「むっ、比企谷さん、どうして笑うんですか!」

「やっ、良いと思うぞ、楽しみだもんな」

 

 堪えきれず、くくっと声に出して笑ってしまった。

 すると、羽沢はそっぽを向いてボソッと呟く。

 

「比企谷さんだって、ジンベエザメのところで内心はしゃいでたくせに……」

「や、今言わなくても……」

 

 それを言われると返す言葉がございません。

 ただ可愛いと思っただけなんだけど、それを不服と思われたのなら謝るしか無い。と、謝罪の言葉を口にしようとするも、その前に羽沢が微笑んだ。

 

「ふふっ、冗談ですよ? ちょっと意地悪したくなっただけです」

 

 口元を抑えて笑う羽沢。

 こういうやりとりを羽沢とするのは珍しいかもしれない。

 やっぱり羽沢と一緒は心が落ち着く。

 ここ最近女子高生に振り回されてる気がしまくってたから……いや、それはそれで楽しんではいたけど、こうしてのんびり過ごすことも時には大事だ。

 徐々に列が進み、やがて俺たちの番が回ってきた。

 

「はい、次の方〜」

 

 前に進むと女係員がアジの入ったバケツを渡してくる。

 それを俺が持ち、羽沢は係員の指示に従い、ペンギンにアジを食べさせていく。

 一羽のペンギンが食べたのを見ると、羽沢は嬉しそうに笑い、他のペンギンにも均等に配分していた。

 それを眺めていると心が温かくなっていく。

 と、そこでマイクを持った係員が喋り出す。

 

「あれ〜、彼氏さんはペンギンさんに餌をあげないのかな〜? あっ、もしかして彼女さんに見惚れて自分がお腹いっぱいになっちゃいました?」

 

 観客へのリップサービスだろう。

 言うと、観客からどっと笑いが起こり、一気に俺へと視線が突き刺さる。

 やめろやめろ恥ずかしい!

 今日はこんなのばっかりな気がしてならない。

 羽沢もきっと恥ずかしがってるだろうなと目を向けてみるも、意外なことに観客と一緒に笑っていた。

 もう恋人に間違われることに抵抗が無くなったのだろうか。

 やだ、女の子は強すぎ!

 まあでも、気まずくなるよりは全然良いので、俺はアジを一尾だけ近くにいたペンギンにやり、残りは羽沢に任せることにしたのだった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 続いてやってきたのはイルカショー。

 少し早めにやってきてちょうど良さそうな席に座り、俺たちは休憩をすることにした。

 

「……ん」

「あ、ありがとうございます」

 

 羽沢に買ってきた飲み物を手渡す。

 お金を出そうとしたのを手で制し、俺も席に座る。

 

「また私たち恋人同士に見られましたね」

 

 それはさっきの餌やり体験でのことを言っているのだろう。

 俺は頷き、ドリンクで口の中を潤す。

 

「羽沢まで客と一緒に笑ってるから裏切られた気分だったんだが」

「えへへ、すみません。比企谷さんの動揺っぷりが可愛かったので」

 

 そうやって楽しそうに笑われると、恨み言を言えなくなる。

 まあ元々言うつもりはないのだが、年上である俺だけが動揺してるのは負けた気分。

 こうなったら気障な台詞で羽沢を赤面させてやる! と心の中で意気込むも、自爆する未来が見えたのでやめておいた。

 ……ふっ、今日のところはこれくらいにしといてやる、って感じ。

 ただの負け惜しみなんだよなぁ。

 

「あっ、そう言えば比企谷さん。こころちゃんにキャンプに誘われましたか?」

「えっ、いや……、誘われてないな」

「……あれ? この前こころちゃんにあった時、比企谷さんも誘うって話が出てたんですけど……」

 

 なにそれ俺にとって初耳学。

 そんな寝耳に水な話を聞かされ、でも弦巻だからなぁ、あいつ絶対直前に誘ってくるタイプだろ、と考える。

 いっそこのまま忘れてくれれば、俺はそのキャンプに行かなくて済みそう。

 まず弦巻に誘われたら勢いに押されて、断れる自信がないからな。

 俺が誘われてしまった場合の策を講じていると、羽沢は遠慮がちに口を開いた。

 

「そのキャンプ、私も誘われてるんですけど、比企谷さんもきてくれますか?」

「あっ、やっ、……そう、だな。まあ誘われたら行くかな」

 

 羽沢の誘いにも俺は弱かった。

 いやどちらかと言うと遠慮なしにこられるよりも、羽沢みたいにこちらを気遣いつつ、けれど期待のこもった眼差しの方が俺は弱い。

 

「ふふっ、楽しみが増えましたね!」

「……ああ」

 

 なんか不思議な感じだ。

 このえも言われぬ感情は。

 

「? 比企谷さん、どうしましたか?」

「あ、いや……」

 

 何か言おうとしたが的確な言葉が見つからずゆっくりと息を吐き出す。

 答えの出ない回答を求めても時間の無駄。

 考えるのを放棄した。

 ただ、イルカショーを笑顔で見る羽沢に俺は終始目を奪われていたのは確かだ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「ゲンくんすごい高く跳んでましたね!」

「ああ、そうだな」

「ミルくんは泳ぎ早かったですね!」

「ん、だな」

「ハルちゃんはみんなにいっぱい手を振ってましたね! 人懐っこい感じが可愛かったです!」

「……だな」

 

 羽沢が感情的に話すのを聞き、俺は機械的に相槌を返す。

 正直どれがどの子か全然分からん。

 羽沢が伝えてくれた特徴でなんとなくイメージはできたが。

 

「でもちょっと服濡れちゃいましたね」

「今日は暖かいからそのうち乾くと思うけど……」

 

 どうする? と言う意味を込めて羽沢を見ると、少し考える素振りをしていた。

 

「この水族館の隣に植物園あるんですよね? 服を乾かすついでに行ってみませんか?」

 

 ディナーは水族館に併設されてるレストランだが、半券があれば今日一日戻ってくることは可能だ。

 時間もまだ余裕はあるし、全部見終わった場所をもう一度周回するよりは有意義な提案だろう。

 俺は断る理由もなかったので頷く。

 

「んじゃ、少し行ってみるか」

「はいっ!」

 

 水族館を一度出て数分、植物園に到着した。

 ちなみに服はすでに乾いている。

 植物園入る必要なくなったなー、とはならずきちんとチケットを購入し、中へと進んだ。

 

「……あの、本当に良いんですか?」

「今日は俺が誘ったから良いってことにしてくれ」

 

 羽沢が聞いてきたのはここの料金も俺が払ったからだ。

 まあ、「デートの金は男が出すもの」って考えを持ち合わせているわけではないが、基本バイト代は自分のお小遣いとしてだけなので、これくらいは痛くも痒くもない。

 しかしそれを伝えたところで羽沢は納得しないだろう。

 現に今も申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「またコーヒー淹れてくれればそれでいい」

「えっ……?」

「……好きなんだ、羽沢が淹れてくれるコーヒー」

 

 自然と言葉が漏れ出ていた。

 俺はこんなセリフがすんなり出るなんてコミュ力ランク上がった? とどうでも良いことを考える。

 羽沢は少し戸惑った表情をしていたが、しばらくして破顔した。

 

「分かりました、比企谷さんのためなら何十杯でもお出しします!」

「や、そんな出されると年中不眠症になりそうなんだけど」

 

 クスクス笑う羽沢を見て俺の顔も綻ぶ。

 フラワーロードを歩きながら優しく微笑む羽沢の写真をスマホでパシャリ。

 屈んで香りを楽しむ姿もついでにパシャリ。

 数回写真に収め、なんか楽しくなってきたので、いろんなアングルで撮影していく。

 良いよー良いよー、次はもっとこう身体をくねらせてみようか! と、ひとりでカメラマンごっこをしていると、スマホのレンズ越しに羽沢と目が合った。

 

「比企谷さん……、そんなに撮られると恥ずかしいです」

「っ、す、すまん」

 

 流石に言われた後でカメラを向け続ける勇気は俺に無い。

 大人しくポケットにスマホをしまおうとしたところ、ブルブルっと震える。

 通知の主は小町だった。

 

「タイミングが良いのか悪いのか……」

 

 『楽しんでるー?』の後に、『流石にお持ち帰りはダメだよ?』と、おじさんみたいなことを言い出したので、とりあえずさっき撮った羽沢の写真を送っておく。

 すると、『二人で撮った写真は無いの?』とすぐさま送られてきた。

 そんなものない……と送ろうとして、一枚だけ撮ったのを思い出したから花の香りを楽しんでる羽沢に声をかけた。

 

「羽沢、水族館の写真もらっても良いか?」

「写真、ですか?」

「ああ、サメのところで撮ったやつ。小町が二人で撮った写真を見たいんだと」

 

 言うと羽沢は快く頷いてスマホを取り出してから、すぐに画像が送られてきた。

 

「これ、小町に見せても良いか?」

「大丈夫ですよ……、えへへ、でも少し恥ずかしいです」

 

 照れ笑いをする羽沢を写真に収めたい衝動に駆られたが、先ほど撮影してたのを止められたのでやめておいた。

 とりあえず許可が取れた写真は小町へ送っておく。

 そういやさっきは羽沢単体の写真を無許可で送ったことを思い出し、謝罪するが羽沢は笑って受け流してくれる。

 それからは花に彩られた道をぐるっと回り、お花を存分に楽しんで出口まで向かう。

 植物園を出た頃にはちょうど良い時間になっていた。

 

「比企谷さん、そろそろ行きましょうか!」

「だな……」

 

 Afterglowの曲を口ずさみながら歩く羽沢の横に並ぶ。

 今までの俺なら小町以外の異性と横並びに歩くことにすごい違和感を感じていたと思う。

 だからこそ、こうして羽沢が隣で歩いてることをすんなり受け入れてしまっている自分に心底驚いた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 大体の予定時刻通りにレストランへ到着すると、待ち時間がある人たちを差し置いて、俺たちは中へ通された。

 席に座りほっと一息。

 対面に座る羽沢と顔を見合わせ、そして逸らす。

 

「……このレストラン、個室あったんですね」

「ああ、俺も知らんかった」

 

 水族館については事前に調べたが、レストランは食事するだけだし、コースも決まってるから調べる必要性を感じていなかった。

 

「カップル限定オプション付きコース、ね」

 

 小さくひとりごちる。

 チケットには確かにそう書いてあった。

 まさかのここに今日一番の落とし穴。

 個室に通されたのもその一環として、コース料理にカップル限定を謳うなら何かしら用意されてるとしか考えられない。

 ……いや、オプションってことはコースじゃなくて別の要因?

 嫌なところで頭の回転が速くなる俺だった。

 

「なんか、緊張します。こういう雰囲気のレストランあまり来ないので」

 

 羽沢がそわそわしてるので俺も釣られてそわそわする。

 二人合わせてソワソワーズ!

 なんかヴィシソワーズみたいで良い響きだな。

 ちなみにこの冷製スープは名前からフランス料理と間違われがちだが、実際のところアメリカを代表するスープ料理である。これ豆な。

 豆知識を披露したところで落ち着けるわけもなく、互いの視線は右往左往。

 そんだけキョロキョロしたいんなら、あっち向いてホイでもやれば一石二鳥じゃね? ってくらいには首を動かしまくっていた。

 俺たちの居心地の悪さが限界を迎えそうになる前に、扉の向こうから声をかけられる。

 

「失礼します。……こちら、前菜になります」

「わっ、美味しそう……」

 

 置かれた前菜を見て羽沢の目がキラキラ輝いていた。

 確かに美味そうだ。

 料理を目の前にして、そういや今日は昼飯を早めに食べたからお腹がすでに減りすぎていたことを思い出す。

 料理の説明を終え店員が退室すると、俺たちは目を合わせた。

 

「……食べるか」

「はい……」

 

 いただきます、と口にしてまずはひとくち。

 ……美味っ、えっなにこれ? 美味しすぎるんだけど。

 前菜でこのレベル……というか、このレストラン全体のレベルが高いんだな、きっと。

 正直、商店街の福引の景品だからと舐めてたところはある。

 二等でこれなら、一等は一体なんだったのか……ちゃんと見ておけばよかった。

 

「比企谷さん、これすごく美味しいですねっ!」

「ああ、まじそれな」

 

 俺と羽沢はもれなくテンション高めだった。

 先ほどまでの緊張はどこはやら、食べ終わったタイミングで来た次の料理も、その次の料理も美味しいと口にしながら舌鼓を打っていく。

 そもそもチケット提示しただけでメニュー表を見てなかったので、あと何品あるのか分からなかったが、そろそろ終わりだろうと思っていた時に次の品が運ばれてきた。

 

「こちら、カップルドリンクとなっております」

「……おぉ」

「わぁ……」

 

 油断していたところでこの仕打ち!

 現実でこのストローが存在したことに若干驚いていたりする。

 その正体はよく漫画とかで見かけるハート型に交差されたストローだ。

 二つの方向から飲み物を吸えば、ちょうどよく液体がそこを通り綺麗なハートが仕上がるという優れもの。

 誰がこんな頭悪い商品を開発したのか小一時間ほど問い詰めたい。

 けど、最悪交互に飲めば問題ないかと考えていたのだが、店員はカメラを構えていた。

 

「どうぞ……」

 

 手をドリンクへ向けて俺たちに飲むように促す。

 ……………………。

 これ写真撮影するつもりだよね?

 なるほど、ここでオプション付きの効果を発動するわけだ。

 いやなに一人で納得してるんだよ。今日一番の大ピンチだよ。

 羽沢を見ると、あわあわしていて可愛らしいじゃなくて困った様子だった。

 だとすると、ここは俺が助けるしかないのだが、今さら恋人じゃないって定員に伝えると気まずい空気が三方向で流れるのが目に見えている。

 しかし羽沢を困らせたままにしておくのも気が引けた。

 なのでここは正直に店員に伝えようと思ったところで、羽沢は飲み物に顔を近づけ、遠慮がちにピンク色のストローの先を唇で挟みこんだ。

 

「んっ……」

「羽沢……?」

 

 潤んだ瞳を俺に向けてくる。

 顔が赤い。耳まで真っ赤だ。

 それでもやろうとしてるのはどういう心情なのだろうか。

 ……いやダメだ。こういうグダグダ考えてしまうのが、俺の悪い癖で面倒なところだ。

 羽沢が折角勇気を出してくれたのにこっちが躊躇してはいられない。

 俺は羽沢と反対、青いストローを咥えた。

 すると、思っていたよりも顔が近くなる。

 

「っ……⁉︎」

 

 羽沢は一瞬の動揺を見せるも、少しずつ中の液体を吸っていく。

 俺もそれに倣い飲んでいくとフラッシュが炊かれる。

 

「こちら現像してお持ちいたしますので、少々お待ちください」

 

 言って店員は退室していった。

 俺たちは至近距離で見つめ合ったまま、完全にストローから口を離すタイミングを逃してしまい、そのまま中身を二人で飲み干したのだった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「またのご利用お待ちしております」

 

 最後のドリンクがカップルコースオプション付きの最後の品だったようで、俺たちは現像してもらった写真を持って店をあとにした。

 そして帰りの道中、駅に向かうまでの間無言。電車の待ち時間も無言。電車の中で座った後も、やはりというか無言になるのはある意味必然なわけで……。

 

「…………」

「…………」

 

 最後の最後で絶賛気まずい状況を味わっていた。

 やはり最後のあれはやめておくべきだったかと反省する。

 ああいうのは恋人……や、仮に恋人が出来たとしても素面であの飲み方をやれる気はしないなぁ。

 ふと羽沢が至近距離にいた状況を思い出し、すぐに脳内から消し去った。

 

「ふふっ……」

 

 不意に微かな笑い声が聞こえ顔を向けると、先ほど店員からもらった写真を眺めて羽沢が笑みを浮かべていた。

 

「……どうした?」

「あっ、いえ……」

 

 言うと、羽沢は写真を俺に見えるようにして、言葉を紡いでくる。

 

「私たち、すごい緊張してる感じで顔が真っ赤だなって思って」

 

 見ると確かに羽沢の言う通り。

 顔の赤面具合が茹でだこのようで、この写真だけを見れば付き合って一週間も経ってない初々しいカップルに見えなくも無い。

 

「恥ずかしかったけど、貴重な体験が出来て楽しかったです」

 

 そう告げてくる羽沢は本心からそう言っているようで、心底楽しかったという表情を見せてくれる。

 

「比企谷さん、今日は誘っていただきありがとうございました」

「……いや、俺のほうこそ付き合ってくれてありがとな」

 

 言って頭を撫でてしまう。

 紗夜に言われたことを思い出し咄嗟に引っ込めようとしたが、どことなく嬉しそうに見えたのでそのまま継続する。

 羽沢に嫌な思いをさせたと思いこんでいた。

 それで気まずくなったとそう解釈していた。

 しかしそれは俺の勘違いで、楽しいと伝えてくれる。

 それもとびきりの笑顔で。

 

「──っ」

 

 息を呑む。

 国語が得意で語彙力にはそれなりに自信があると自負している俺でも、付けられない、よく分からない感情が胸の中でざわついていた。

 けれどそれは全く嫌なものではなく、むしろ心地いい。

 いつかこの感情に正確な名前がつく日があるとしても、それは悪いものには決してならない。

 なぜだかそう思えるような気がした。

 

「比企谷さん、また一緒に二人でお出かけしましょうね!」

 

 俺は力強く頷いた。

 




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