ピクシブにて先行で投稿してますが、この話をこちらで投稿出来てなかったのでしようかと!
この後からの話がまだ書けてないですが、構成が出来ていないわけではないんです。ただ、文が思いつかなくて四苦八苦しています。
なのでピクシブの方も読まれてる方、遅くはなるかもですがもう少しお待ちくださいませ!
不意に一色いろはは襲来する。
六月半ば。梅雨の晴れ間というものだろう。
久しぶりに太陽が姿を現し、主婦はまとめて洗濯物を干していそうな心地よい天気。
連日の雨のせいで蒸し暑さは残るものの、極めて過ごしやすい空気である。
今日は昼まで大学があり、午後はバイトも休みなので予定は特に無い。
現在は十五時。
帰宅してからはレポートに勤しんでいた。
俺はレポートがそれほど苦手では無い。
ゼロから制作するのは面倒ではあるのだが、全て一人でこなせる分、気兼ねなく自由にできる。
だから、マジでグループに分かれて英語でスピーチするのは地獄だ。あれ、無くなんねぇかな。
川崎が同グループになってくれたのがせめてもの救い。
あと二人は川崎が引き連れてきた恐らく友達。
高校では孤高を気取ってた同志だと思ってたのだが、まさか川崎に友達ができるとは……。
なんか負けた気分。
まあでも高校時代よりは物腰柔らかくなってるし、普通に美人だから、話せるようになればそりゃ友達の一人や二人出来てもおかしく無いな、と思う。
片や俺は大学でも相変わらずコミュ症発揮中である。
年下や商店街での買い物とかでの会話は慣れてきたけど、同級生が難敵すぎて困りもの。
そういや川崎にこの前の代筆のお礼しないとなと考えていると、甲高い音が部屋中に鳴り響いた。
………………居留守使うか。
俺の家に来るのなんて新聞の勧誘か宗教の勧誘くらいだ。
たまに宅配を頼むけどそれは昨日届いたのでありえない。
よって、面倒ごとを避けるには居留守が最適解だ。
俺が息を潜めつつパソコンと睨めっこをしていると、もう一度インターホンが鳴らされる。
………………。
続いてもう一回。
…………。
さらに一回。
……。
段々感覚が短くなり、もはや連打に近かった。
やだなに怖い。新手のいじめ?
途中三三七拍子を挟んだり、遊んでる雰囲気を漂わせてるのがさらに怖い。
俺は音を立てず立ち上がり、玄関まで行って靴ベラを手に取った。
果たして鬼が出るか蛇が出るか、俺は覗き穴から確認すれば良いものを恐怖でそんな思考を失い、無警戒にそのまま扉を開けてしまった。
すると──、
「あっ、先輩、おそーい!」
「……お前」
俺の姿を見やると、ビシッと敬礼ポーズをとり、笑顔を向けてくる美少女が一人。
「先輩、お久しぶりですっ!」
出てきたのは鬼でもなく蛇でもなく、小悪魔。
俺の高校時代の後輩である、一色いろはであった。
× × ×
「……へー、意外に綺麗にしてるんですね」
「ああ、まあな」
思わぬ来訪者に動揺し、玄関でどんな言葉を交わしたのか思い出せなかったが、何故か後輩を部屋に招き入れる状況に陥っていた。
一色は布団の上に座ったかと思いきや立ち上がり、クローゼットを開けたりしている。
おいやめろ。人の家勝手に物色するな。
勝手にパンツ見て顔を赤らめるな。男でも普通に恥ずかしいんだぞ!
とにかく好き放題していた。
「……一色、まずは状況を説明してくれ」
「? なにがですか?」
「や、何がって……、どうしてお前がここにいるかだよ。あと、なんで俺の家知ってる? そもそも今日平日だし、学校は?」
矢継ぎ早に聞くと、一色はやれやれとため息を吐いた。
「先輩も千葉を離れて東京色に染まっちゃったんですね、残念です」
「は? や、何が……」
「今日は何月何日ですか?」
「そんなの……」
今日は六月十五日である。
流石に大学とバイトで一日潰れることが多くても、日にち感覚がバグるということはない……あっ、いや、そういうことか。
「県民の日か」
「ですです!」
正答を聞き、嬉しそうに頷く一色。
ようやく一通りの物色が済んだのか、一色は再び布団の上に腰を下ろした。
「先輩の家を知ってたのは、お米ちゃ……小町ちゃんに聞いたからで──」
「おい一色、そろそろ人の妹を米と同種に扱うのはやめようか。俺も出るとこ出るぞ」
「えっ、でも本人が『あっ、もうそれで良いです』って言ってくれてますよ?」
「それ諦めてるだけじゃねぇか」
あざとさでは互角の勝負でも粘り強さでは一色に軍配が上がったか。
や、まあ、俺の家を教えるくらいだし、仲は悪くないんだろうな、二人とも。
ってかそうじゃない。なんで小町は勝手に人の家教えちゃってるんですかね? 俺のプライバシーはどこいった。
俺はため息を吐いて、とりあえず冷蔵庫から麦茶を取り出す。
グラスは小町用のがあるのでそれに注いで一色に渡す。
「あっ……」
「……なんだよ」
「いえ、先輩もちゃんとおもてなし出来るんだな、と」
「はっ、実家にいた頃はよく小町にコーヒー淹れてんだぞ。これくらい楽勝だ」
「うわー、隙あらば妹ですか」
なんか冷めた目つきをされてる気がするが気にしない。
一色はグラスに口をつけると、喉を鳴らして一気に飲み干した。
電車に長時間揺られ、数分歩いてたら確かに喉も渇くだろう。
ぷはぁと豪快に飲み干すと、グラスをテーブルに置いた一色と目があった。
「先輩、あまり女の子が飲んでるところ見たらダメですよ? なんかいやらしいです」
「あっ、や、悪い……」
そんなつもりはなかったのだが、確かに良くはないか。
一色は喉が潤って満足したのかパタンと俺の布団へと倒れ込んだ。
おいやめろ。いい匂いが移って今日寝れなくなるだろうが。
「一人暮らしいいな〜。わたしも大学入ったら一人暮らししたいな〜」
「ちょっと寛ぎすぎだろ。……ってかなに? 君何しに東京まで来たの? 冷やかし?」
言うと一色は頬を膨らませた。
「そんなわけないじゃないですかー。先輩が一人寂しく大学生活を細々と過ごしてるのかと思って、わざわざ会いに来てあげたんですよ? 感謝してください」
「上から目線なうえに押し付けがましいんだよなぁ。……押しかけるなら小町が良かった」
「は?」
おっといろはす〜、あざとい仮面が剥がれてますよ〜。
やだなー、このおっちょこちょいさん!
俺は誤魔化すために咳払いをした。
「んで、用が済んだなら帰る? 今なら駅まで送る特典付きだぞ?」
「それはちょっと魅力的ですけど……、はっ、もしかして泊まって行ってほしいの裏返しですか? 明日は学校ありますし誘うならゆっくりできる休日にお願いしたいので今日のところはごめんなさい」
なんか手を前に出してふりふりしながら振られた。
久しぶりだな、このやりとり。
「……で、帰るの?」
「……先輩、反応薄すぎませんか? まだ帰りませんよ。あっそうだ先輩、この辺案内してくださいよ! 先輩のバイト先とか!」
「やだ──いえなんでも、喜んでお供します」
だからそんな目で睨まないで!
雪ノ下の冷ややかな眼光と張り合えるレベル。
まだレポートが残っていたが、このまま素直に帰ってくれそうもないので、俺は出かける準備を始めた。
「はぁ……面倒」
「なんでそんな嫌そうなんですかー」
実際嫌なんだよなぁ。
コンビニバイトとかやってて知り合いが来るとなんか気まずいじゃん? そんな感じ。
……やっ、でも高校一年でバイトしてた時、同じクラスのやつにすら気づかれなかったな、俺。
なんなら鈴木さんとは席も隣だったのに、スルーされたのは悲しい思い出。
「先輩、何ぼーっと突っ立ってるんですか! 早くいきましょ?」
「あっ、うん、そうだね」
いつの間にか玄関を開けていた一色に促され、俺は靴を履いた。
とりあえず虫が入ってくるから開けっ放しはやめようね?
× × ×
商店街をぶらつき、北沢精肉店でコロッケを買ってたべ終えたところで、さあ帰ろうと提案するも、そうは問屋が卸さない。
「先輩のバイト先、行きましょうよー!」
「やだよ、面倒くせぇ」
「面倒って……、あそこにあるじゃないですか」
言って一色が指をさしたところには羽沢珈琲店が存在していた。
あっ、こいつ、俺のバイト先の名前も知ってたのね……。
まあ、北沢精肉店と羽沢珈琲店って目と鼻の先だもんなぁ。
だからこそ俺はよくバイト帰りに立ち寄って夜飯のおかずを北沢精肉店で調達させてもらっているのだ。
もう週三くらいはここのコロッケ食べてるんじゃないかな?
俺の身体の三割くらいはここのコロッケで出来ている、とのんきなことを考えている間に、一色は歩き出して羽沢珈琲店へと向かっていた。
まあバレてるなら諦めるしかない。
俺は羽沢珈琲店の中へと入っていく一色の後に続いて、扉を抜けた。
「いらっしゃいませ〜、……比企谷さん?」
「おう、お疲れさん」
出迎えてくれたのは羽沢珈琲店の看板娘、羽沢つぐみだった。
今日は学校のはずだから、終わってからすぐに手伝いに出たのだろう。
いやな顔ひとつせず家の手伝いをしているのにはいつも感心させられる。
ふと店内を見渡す。
混みすぎていると言うわけではないが、久しぶりの天気のおかげか、気持ちここ最近よりお客様が多い気がする。
辺りを確認し、空いてる席にロックオン。
仕事の邪魔をしないように席につこうとしていると、それよりも早く一色は羽沢に話しかけていた。
「羽沢つぐみちゃんだよね! いつも先輩がお世話になってます!」
「あの……、えっと」
「あっ、わたし、先輩とは一つ違いの後輩で一色いろはって言うの。先輩っていうのはこの人で高校ではよく使って……お世話になってて──」
「おい羽沢が困ってる。あと、人を指差すな。……ってか今、使ってって言ったよな? まあ間違いではないが……」
羽沢が珍しく愛想笑い。
ほんとごめんね、うちの後輩が。
しかし接客業をやっているだけはある。
羽沢は状況を理解したのか、ふっと力を抜いてからいつものような可愛らしい笑みを浮かべた。
「えっと……、一色いろはさんですね。私は羽沢つぐみです。比企谷さんにはいつもお世話になってます!」
「お世話……、先輩、つぐみちゃんに何してるんですか?」
「やめろそんな変態を見るような目付きするな。ただのバイト仲間としての発言だろ」
ってか、もう名前呼びかよ。
小町もそうだったけど、女の子ってもれなく初対面は名前呼びしなくちゃいけないルールでもあるの?
羽沢が気にした様子はないから、俺から口にすることは無いんだけどさ。
一色が羽沢に向き直る。
「あっ、ごめんねいきなり名前呼びしちゃって」
「いえ、大丈夫です」
「そっか、良かった。わたしのことも気安くいろはって呼んでいいからね?」
「えっと……、はい。いろは、さん」
照れたように名前呼びする羽沢。
それを見た一色は俺の耳元に口を寄せてきた。
「先輩、つぐみちゃん可愛すぎませんか。お持ち帰りしちゃダメですかね?」
「や、ダメだろ」
とりあえずこれ以上は仕事の邪魔になると思ったので、一色を連れて席に座ろうとする。と、新たな客が店内に訪れた。
「つぐ〜、おつかれ〜」
「あっ、モカちゃん!」
顔を向けるとそこにいたのは羽沢の幼馴染である青葉モカ。
手をあげて羽沢に挨拶をしてから、俺と目が合う。
「比企谷さんも、こんにちは〜」
「ん……」
軽く頷くだけで済ませると、次に青葉が目を移したのは俺の隣の一色いろは。
「どもども〜、あたしは青葉モカって言います」
「わたしは一色いろはです」
流れるように自己紹介を済ませる青葉と一色。
いつみても女子高生のコミュ力はえげつない。
俺には一生真似できない芸当だ。
二人が挨拶を交わし終えたところで、三人が座れる席へと案内される。
「つぐ〜、あたしはケーキセットで」
「あっ、じゃあわたしもそれでお願いします」
「はい、分かりました!」
比企谷さんは? と目で問いかけてくる羽沢に対し、コーヒーだけお願いする。
と、青葉と一色は既に二人で盛り上がっていた。
しかし地元の知り合いと東京で出会った知り合いが仲良さそうにしているのは、なんとも不思議な光景だ。
いや小町も仲良くしてたけど妹だし、遅かれ早かれ会っていたとは思う。
まあ仲がいいことは悪いことじゃ無い。
「ほうほう、いろはさんは生徒会長なんですね〜」
「そうなんだよねー。先輩にどうしてもやってくれって泣きつかれて」
「おい待て、捏造するな。俺は損得を提案しただけだ」
「でも先輩が幼気な後輩を[[rb:誑 > たら]]し込んで生徒会長に持ち上げたのは事実じゃないですかー」
「ぐっ……」
幼気な後輩かはひとまず置いておいて、微妙に間違ってないから否定しきれない。
けどまあ、俺が提案したのが二年前でそれからずっと生徒会長を務めてきたのだから、大したものだ。
そんな一色をじっと見つめていると、ふと目が合ってしまう。
慌てて目を逸らすも今度は青葉と視線がかち合う。
「比企谷さん、なんかいつもと違いますね〜」
「? そうか?」
「そうですよ〜、なんていうか、いろはさんと喋ってる時はいつもより素の比企谷さんというか……」
「へぇ、先輩、東京に来て猫かぶるようになったんですねー」
常にあざとさの仮面を常備してる君に言われたく無いですね、はい。
そもそも俺は猫を被ってなどいない。
ただ、ここで出会った人は今まで俺が関わってきた人とどこか違う。
強引な部分もあるが、それでも歩み寄り方がなんというか──。
「お待たせしました、ケーキセット二つとコーヒーです」
羽沢が注文の品を持ってきたことで俺の思考が途切れる。
羽沢と関わってからだよな、俺の外出が多くなったのは。
それが別に悪いことだとは思わない。むしろ心地良い。
ときどき奉仕部で過ごした紅茶の香りを思い出すが、今はコーヒーの香りに心落ち着く。
俺は自然と羽沢を見つめていた。
「っ……、ど、どうかしましたか、比企谷さん?」
「あ、や、なんでも……」
顔を赤く染めふいと視線を逸らす羽沢。
そんな態度を取られると俺も恥ずかしくなってくる。
それを見た青葉はニヤニヤした笑みを浮かべ、一色はぶすーっと頬を膨らませていた。
「なんだよ」
「いえいえー、別になんでもないですよ〜」
「わたしもなんでもないです。ただ、先輩も変わったんだなーって思いまして」
俺が変わった、か。
それは違うと断言できる。
俺は変わらない。
一色が俺に変化があったと錯覚するならば、それは環境のせいに他ならない。
商店街の優しいおじさんたち。
道で会えば強引に連れ回す弦巻や、会話をしてくれる青葉や氷川姉妹。
そしてバイト面接で初めて会った時から、変わらず優しく接してくれる羽沢。
それら全てが今の俺を作っていると言っても過言では無い。
たった二ヶ月。されど二ヶ月。
それでも俺は東京の大学に進学したことを良かったことだと思えている。
「先輩。今日はわたしだけしか来れませんでしたが、雪ノ下先輩たちも先輩に会いたがってたので、夏休みには帰ってきてくださいよ?」
「……あいつが俺に会いたがるわけないと思うが、小町には会いたいから考えとく」
「うわっ、出たシスコン」
「ばっか、違ぇよ。俺は小町を愛してるだけだ!」
俺がキッパリ答えると羽沢は首を傾げて呟いた。
「? 愛してるのとシスコンってどう違うんですか?」
「や、大いに違うぞ羽沢。……良いか、シスコンっていうのはだな──」
「あーはいはい、先輩のくだらないシスコン談義はともかく、つぐみちゃんってバイト終わったら暇? もし良かったら、三人で少しお話しよ?」
「あの、一色さん? もう一人ここにいる存在忘れてますよ?」
「あっ、もう少しで終わるのでぜひ!」
俺の発言は華麗にスルーされ、羽沢はレジの方へ戻っていく。
そういや仕事中だったな。
長く引き止めて悪いことをした。
いつの間にか青葉と一色で女子トークに花を咲かせていたので、見事に俺は蚊帳の外である。
「いろはさんにも機会があれば、あたしたちのバンド演奏聴いてほしいです」
「うん、わたしも楽しみにしてるねー」
まあ、楽しそうでなによりだ。
……だから俺もう帰って良いかな?
レポートの続きやりたいし、友達が出来たなら駅まで送ってもらえるでしょ、多分。
そんなことを口にして盛り上がりを邪魔する勇気はなかったので、ここは陰に徹し、羽沢が合流した後も俺はコーヒータイムを満喫するのみであった。