ようやく続きを書けたのなこちらでも投稿します!
一色の襲来から約二週間が経ち、今年の梅雨時も終え、すっかりと太陽の自己主張強めとなって来た今日この頃。
寝汗をかいて出かける前にシャワーを浴びるも、大学に着くまでにはすでに汗だくで替えのTシャツは必需品である。
唯一の救いは構内はクーラーが効いていること。
おかげで講義中は割と快適だった。
しかし全ての講義を終え、さあ帰宅となった時には再び暑さに挑まんとしなくちゃならいので鬱屈とした気分で自転車を押していると、目の前にやたら高級そうな黒塗りの自動車が停車した。
そしてそこから一人、金髪でこの暑さを物ともしない、それどころか一瞬で吹き飛ばしそうな少女が俺の手を引っ張り車の中へと引き摺り込もうとしてくる。
「さあ八幡、夏休みに出かけるための準備に行くわよ!」
突然の出来事に困惑していた俺は抵抗もままならず、あっさり車に押し込まれてしまう。
そして走り出す黒塗りの車。
他にも人がいるところで起きた出来事だから、側から見れば誘拐に見えちゃうんじゃ? とぼんやりと危惧したが、そんなことが一瞬でどうでも良くなるくらいには俺の思考が別のものに支配された。
──車内、めちゃくちゃ涼しいな、と。
× × ×
無理やりとかいきなりとかに慣れてきた俺でも、流石にここまで強引な目に遭わされたのは初めてだ。
本来ならビクビクして、「やめて、酷いことはしないで! 私初めてなの!」とか取り乱しても良いのかもしれないが、そんなことをする必要が無い。
俺を拉致った人物は最近ではよく知るやつだったから。
「……で、これどういう状況だ? 奥沢」
本来、拉致した当人ーー弦巻こころに聞くのが正しい選択かもしれないが、この場においてはおそらくこれが正解。
今この場にいる人の中で、鶴巻の行動原理を理解している一人だろうから。
「えっと……、まず最初に質問なんですが、こころから夏休みに行くキャンプについての話とか聞いてたりします?」
「……してないな」
ですよね、と言いつつ嘆息する奥沢。
その奥沢の隣と俺の隣で愛想笑いをしている松原と羽沢。
俺も小さく息を吐く。
弦巻の対面には青葉もいるが、こちらの会話には加わらず、弦巻と楽しそうに談笑をしていた。
そこでふと思い出す。
「そういや、自転車横倒しにしてきたままなんだが」
言うと、運転席の方から声をかけられる。
「安心してください、比企谷様。そちらの自転車は先ほど我々が回収して比企谷様の自宅へ運んでおきました」
「あ、さいですか」
さすが弦巻さんちの黒服さんというところか、抜かりなさすぎて感服する。
まあ自転車の所在地も安全と分かったので、とりあえず目の前の疑問をひとつひとつ消化していくことにした。
他の人が割り込むとややこしくなると思ってなのか(弦巻と青葉は相変わらず雑談中)、終始奥沢が説明してくれる。
曰く、夏休み……だいたい7月下旬、キャンプに行く予定を立てたこと。
それの現時点参加者はここにいるメンバー。増える可能性もなきにしもあらず。
今日はそのための服やらなんやらを買い揃えたいらしい。
「他、あちらで使うものなどはこちらで用意しますので」
とは、奥沢の説明があらかた終了して補足してくれた黒服さんの言葉である。
スマホを開いてカレンダーアプリをタッチ。
相変わらず予定が真っ白なのは大学生として多少悲しみもあるが、今更そこに落ち込んでも仕方がない。
俺は自然と予定を打ち込んでおいた。
「あの、比企谷さん。これはこころの身勝手なので都合が悪ければ遠慮なく断ってもらっても大丈夫なので」
「ん、まあバイトさえなければ夏休み中基本レポートしかやらないから問題は無い。……けど、俺がいても良いものなのか?」
羽沢はバイト以外でも出掛けたことあるから良しとして、弦巻や奥沢、青葉と松原たちにとって、俺はあくまで"羽沢繋がりで仲良くなった大学生"に過ぎないのではないだろうか。
そんな男を遠出に連れ出すのは自分で言うのもなんだが、嫌な気持ちになる人がいてもおかしくはないはずだ。
と言うことを伝えてみると、奥沢たちはぽかんとした表情を浮かべていた。
「比企谷さん、私たちは比企谷さんが一緒だと楽しいと思ったから誘ったんですよ?」
「ですね。それに、バーベキューとかもする予定なので、男でとかあると助かります」
そんな風に松原と奥沢がストレートに伝えてくるもんだから、俺は顔を逸らして「そ、そうか」と呟くことしかできなかった。
どうにもこう直線的に伝えられるのには何度遭遇しても慣れない。
視線を逸らした先で羽沢と目線が交わり、クスッと微笑まれてしまう。まるで俺の感情を読み取っているのかのように。
そんなことあるわけないのだが、居心地の悪さで身体が落ち着かない。
しかしそんな状態もタイミングよく車が停車したおかげで長くは続かなかった。
「こころお嬢様、ショッピングモールにご到着しました」
「ありがと、黒服さん!」
車外へ出ると太陽の灼けるような暑さが顔を直撃する。
「こころお嬢様、お気をつけていってらっしゃいませ」
「ええ、行ってくるわね!」
ごく自然と、俺は弦巻に手を引っ張られていた。
ただまあ、この暑さと強引さで居心地の悪さが多少解消されたので今回ばかりは感謝しておくことにしよう。
……でも冷静に考えたら、原因の一端も弦巻なんだよなぁ。
× × ×
奥沢の説明通り、基本的に買うものは洋服全般、らしい。
あとは……その、下着、とか? 水着……とかも買うらしい。
や、ならなんで俺呼んだわけ? その辺の物買うなら俺が居たらダメな気がするんだけど?
ただここで動揺してしまうと、下心があるように思われてしまうかもなのであくまで表情は崩さずポーカーフェイスを貫き通す。
おーけーおーけー、ボクレイセイ。
下着コーナーに行きそうな雰囲気を感じたら、すぐさまフェードアウトしようと心に決めた。
そもそも俺は特に買いたいものがあるわけではないので、別行動して終わる頃に戻ってくれば良いだけなのだが、服を選んでる間も何故か弦巻に手を握られているので抜け出すことがかなわない。
こういうとき、無理やり手を離そうと出来ないところが俺の弱いところ。
されるがままに半ば意識を明後日の方に向けていると、いつの間にか服の買い物は終了していて水着ショップへと移動していた。
「こころちゃん、一緒に選ぼ?」
「ええ、良いわよ!」
松原に呼ばれた弦巻は俺の手を離しそそくさと行ってしまう。
俺はそのまま女性水着売り場で立ち尽くす。
や、ようやく解放されたのはありがたいんだけど、ここからどうしろと?
「こころの相手、お疲れ様です」
「そう思うならもう少し早く助けて欲しかったんだが」
言うと、奥沢は苦笑気味に謝ってくる。
「すみません。ちょっと自分の服選ぶのに夢中になっちゃってました」
「や、まあいいけどな」
とにかくこのエリアで一人きりにならなかったことを安堵しつつ、周りに視線を巡らせる。と、視界がいきなり何かで遮られた。
「比企谷さん、これつぐに似合うと思いませんかー?」
差し出されたのはビキニタイプの水着だった。
トップとボトム、どちらもオレンジ色の花柄の装飾があり、とても可愛らしい印象で瞬時に脳内で羽沢に着せてしまい、「ああ、これは似合う」という感想が浮かんでしまう。
「ちょっとモカちゃん、恥ずかしいよっ!」
慌てて隠そうとする羽沢、それを華麗にかわす青葉。
「え〜、だってつぐ、どれにしようか迷ってそうだったから、比企谷さんにアドバイスをもらおうかと」
「うっ……」
ぴとっ、と羽沢の動きが停止する。
そしてチラッと俺に目を向けた。
「えっと、比企谷さん。……その、これどう思いますか?」
青葉の言い分に一理あると思ったのか、青葉と同じ質問を羽沢からもされる。
ここで即答でもしようものなら前のめりすぎてキモがられる未来しか見えないので、あえて考える素振りをして、咳払いをしてから口を開く。
「に、似合うと思うぞ?」
「っ……! そ、そうですか」
かぁっと羽沢の頬が朱に染まる。
自分から尋ねてきてそう反応されると少し困る、というか俺まで恥ずかしかなるからやめてほしい。
「えっと、ごちそうさまです?」
何に対しての挨拶かは知らんがそれは多分間違いだぞ、奥沢。
「そ、それじゃ、この水着買ってきますね!」
言うが早いか羽沢はレジの方へと向かってしまう。
奥沢もいつの間にか水着を手にしており、レジへと歩き出した。
そしてここに残るのは俺と青葉の二人のみ。
「……青葉は買わないのか?」
「たはは、悲しいことにあたしは去年の水着でもサイズが合うんですよね〜、つぐと違って」
なんのサイズ? とか、どうしてあえて羽沢を比較対象にした? とかいうツッコミをすると色々地雷になりそうなので、俺は「そ、そうか」とだけ呟き、さりげなく足を店の外へと向ける。
去年のサイズは知らないが、羽沢は今年になって成長したんだなとか一瞬だけ考えてしまったけれど、仕方がないじゃないか、だって男の子だもん!
水着の後も滞りなく買い物をし、邪な考えを少しでも持ってしまった罪悪感から、ここにいる全員にアイスを奢ってり、来たとき同様弦巻家の車で家まで送ってもらうことになったのだった。
改めて、待っていただいた方、長らくお待たせしてすみません。
最近ようやくぼちぼち筆が進むようになってきたので、未だ本調子ではありませんが投稿させていただきました。
どんなに期間が空いても、読んでくださる方が一人になったとしても続きは出していくつもりなのでこれからもよろしくお願いします!