やはり俺の大学生活はまちがっている。   作:石田彩真

17 / 20
そして比企谷八幡は考える。

 キャンプの予定としては朝早くに出て午前中に目的地に到着。

 そこで一日何かしらして騒いで帰りは明日の夕方ごろという一泊二日のスケジュールらしい。

 時刻は午前5時。大学生になって自然と目覚ましで起きられるようになってきた俺でも、流石に早すぎてまだ眠い。

 あくびを噛み殺しつつ持ち物の最終確認を行う。

 と言っても俺が持っていくものは着替えやエチケット系のものしかないので確認作業もすぐに終わった。

 

「……はぁ」

 

 よくよく考えたらこれから明日の夕方まで、女子高生たちと一緒なんだよなぁ。

 今からやっぱり行けなくなったってキャンセルしちゃダメかな?

 ここにきて怖気付いてしまう哀しき陰キャ、比企谷八幡にとってこれは最大の試練かもしれん。……あっ、今自然と駄洒落になってたな!

 こんなふうに脳内おふざけお花畑にしてないと、平静を保ってられないくらい動揺していた。

 せめて川崎が来れればなぁ……。

 一応誘ってはしてみたが、「家庭教師のバイトがあるから無理」と一蹴されてしまったのだ。

 まあ、バイトなら仕方がない。

 夏休み中だから小町を呼ぶ手もあったが、あいつはあいつで友達と予定があるらしい。

 さすが小町、お兄ちゃんと違って友達多くて頼もしいね!

 車で迎えにきてくれることになっているので、最後に部屋の戸締りをしていると、スマホが震えた。

 

『比企谷さん、到着しましたよ♪』

 

 羽沢から届いた一通のメール。

 これまで羽沢と積極的なメールのやりとりをしてきたことは無かったが、音符を使うとは珍しい。

 もしやあれだな、友達とのキャンプでテンション上がってるな?

 こんなワクワクしてそうな相手にドタキャンするのは申し訳が立たないので、一言だけ返信してから部屋を出る。

 と、先日俺を拉致った黒塗りの車の前で黒服の方が立っていた。

 

「比企谷様、お荷物お預かりします」

「あっ、どうも」

 

 大人しく背負っていたリュックを預け、開けられた車へとお辞儀をしてから乗り込む。

 すると、すでに集まっていたメンバーから各々挨拶をされる。

 

「比企谷さん、おはようございます」

「ああ、おはよ」

「八幡、元気かしら?」

「弦巻は朝っぱらから元気すぎるくらいだな」

「当然よ。これから楽しいことがあるんだもの!」

 

 羽沢と弦巻に返事をし、それから松原と奥沢にも挨拶を返す。

 

「ん〜、むにゃむにゃ」

「本気で寝てる奴はむにゃむにゃなんて言わないぞ、青葉」

 

 軽くツッコミを入れると青葉はぱちくりと目を開く。

 

「えへへ、ばれちゃいましたかー」

 

 なぜ寝たふりをしてたか知らんが、青葉も平常運転だった。

 結局メンバーはこの六人。他にも誘いはしたらしいが、各々用事があったらしく、俺的にはこれ以上女子比率が増えなくて良かったと内心ほっとしている。

 俺が全員と挨拶を交わし終えると、弦巻が「せーの」と前置き。

 そして──、

 

「しゅっぱつ、しんこー!」

『おー!』

 

 俺以外の全員で掛け声お合わせており、閉口していた俺に視線が集まった。

 あれ何この既視感……。なんか前にもこんなことがあったような。

 そんな些細なことはどうでも良く、多分これやらないと車も発信しないなと思い、ため息を吐きつつ控えめに口を開く。

 

「お、おー」

『おー!』

 

 言うと、車が発進する。

 俺は二日間、このテンションについていけるか先行き不安しかないが、せめて楽しそうにしているみんなを邪魔しないように立ち回るかと考えることにした。

 

「八幡、これあげるわ!」

 

 そう言って弦巻に手渡されたのはマッ缶。

 

「おお、サンキュ!」

 

 これだけでテンションが上がってしまう俺も大概チョロい人間だった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 散々キャンプキャンプ言ってきたが、正確に言うならば弦巻家所有の別荘があるところでテントを張ったり、バーベキューをしたりして楽しむのが今回のイベントだ。

 寝るのとかはテントで行うらしいけれど、別荘の中にはシャワーやトイレもあるからその辺はしたいようにするらしい。

 この日のためにゆるキャンΔでキャンプのことを調べてきた俺には抜かり無い。

 テント設営のイメトレもバッチリだ。

 途中小休憩を挟みながらも順調に車は進行し、やがて目的地に到着した。

 

「とうちゃーく!」

 

 ドアを開け、車から降りると青葉と弦巻が両手を上げそう叫んだ。

 弦巻家所有という時点で別荘の大きさは言うまでもないが、この場所は木々に囲まれていて心なしか空気が澄んでいるように感じる。

 松原や羽沢も空気を思い切り吸い込んで体内に取り込んでいた。

 

「黒服さん、ありがとうございます」

「いえ、では奥沢様、明日の17時ごろにお迎えにあがりますので」

 

 言うと、黒服さんは弦巻に挨拶をしてから来た道を引き返していく。

 帰る素振りを見せてはいたが、おそらく近くで何かあった時のために待機はしているんだろうとは思う。

 改めて黒服さんたちの仕事は大変だなぁ、と辟易していると、手を叩く音が聞こえてきた。

 

「え〜、とりあえず今必要のない荷物は室内に運んで、テントだけ張りますよ」

 

 奥沢の発言に各々返事を返す。

 俺もそれに倣い、適当に荷物を持って中入れた。

 

「バーベキューコンロは出しといても良いよな?」

「そうですね。邪魔にならない位置に置いておきましょう」

 

 奥沢の指示に従いテキパキ作業をこなしていく。

 遊園地の時と思ったが、奥沢はやはりリーダーシップがある。

 指示出しが的確で上手い。

 あらかた荷物を運び終えると全員で一息つく。

 

「比企谷さん、お疲れ様です」

「ん、さんきゅ。でもテント張りはこれからだけどな」

「ですね」

 

 羽沢と会話をしつつ水分補給を行う。

 この後はテントの組み立て、キャンプで使う焚き木拾いなどやることは割とありそうだ。

 近くに本当のキャンプ地があってそこから薪をもらってくるという手も考えてはいたが、弦巻の「そんなんじゃ面白くないわ! 出来ることはあたしたちでやりましょう!」の一声で可能な限り自分たちで用意することと相成った。

 

「じゃあここからは焚き木集め、テント組み立ての班に分かれますか」

 

 奥沢の提案によりジャンケンの結果、奥沢・羽沢・松原が焚き木集め、俺・弦巻・青葉がテント張りをすることとなった。

 

「えっと……、比企谷さん、この組み分けで大丈夫ですか?」

「ま、まあなんとかなるだろ」

 

 三人が帰ってきた時、一向に進んでない状況になってないことだけは祈りたい。

 

「それじゃ比企谷さん、こころのことお願いします」

「ああ」

 

 三人を見送ってこちらも作業を開始した。

 すると意外……というと失礼かもだけど、弦巻も積極的にテントの組み立てに協力してくれ、さらに驚いたのは青葉の手際の良さだった。

 

「あたし、結構器用なので、こういうのは得意なんですよー」

「みたいだな。……この分だと思いの外早く終わりそうだし、二人にここ任せても良いか? 俺はバーベキューコンロを設置しておく」

「ええ、良いわよ!」

「りょーかいです」

 

 ここからは手分けして取り掛かる。

 と言ってもテントはあらかた設営を完了してるし、俺の方も説明書を見ながら難なくこなせた。

 炭も用意されてたやつを別荘内から青葉と弦巻が運んでくれていたので、こちらで今出来ることはあらかたやり終えた感じだ。

 

「しかし、つぐたち遅いですね〜」

 

 青葉に言われて時間を確認すると、別行動をしてからすでに一時間近くが経とうとしていた。

 

「確かに遅いな。あの三人なら流石に迷子になることはないだろうけど」

 

 と言いつつ、そういや松原は方向音痴だという話を以前に聞いたことを思い出す。

 が、松原が一人ではぐれてさえいなければ問題ないはずだ。……はぐれてさえいなければ。

 

「比企谷さん、探しに行きますか?」

「……だな。けど入れ違いになると困るし、探しにいくのは俺一人で大丈夫だ」

「わかりました」

「もし戻ってきたら連絡してくれ。俺も見つけたら連絡するから」

「りょーかいです」

 

 青葉の返事を聞き、俺は森林に足を踏み入れた。

 ひとまずは三人が進んで行ったであろう方向に歩き、捜索する。

 確かこっちを下っていくと、キャンプ場があるとか奥沢が言ってたな。

 ルートが明確なら分かりにくくなる方向よりそちら側に向かって焚き木拾いをしてる可能性が高い。

 少し歩くと【こちらキャンプ場】という看板を見つけたのでさらに歩みを進めていく。

 と、数分歩いたところで話し声が聞こえてきた。

 

「……美咲ちゃん、どうしよう?」

「とりあえず一度戻って比企谷さんたちに応援頼もう」

 

 嫌な予感というのは得てして当たってしまうものである。

 この場に奥沢と羽沢の二人だけ。

 もう一人の薪拾い班である松原の姿が見当たらなかった。

 

「羽沢」

「あ、比企谷さん……」

 

 とりあえず声を掛けてみると、二人はこちらに駆け寄ってくる。

 

「比企谷さん、あの……」

「松原が迷子になったんだな?」

「ええまあ……話が早くて助かります」

 

 少し離れた位置で三人手分けして集めてたところ、いつのまにか松原がいなくなっていたと奥沢が説明してくれる。

 スマホで連絡してみても繋がらないのでどうしようか考えていたところらしい。

 それなりに広い森林でも立入禁止区域とかあるからそう遠くまで離れてしまったとは無いんだろうが……。

 

「状況は分かった。んじゃ、手分けして探すか」

「はい、じゃあ私は──」

「ああ、羽沢と奥沢は二人で探してくれ。無いだろうが、二次遭難しても困るしな」

「ですね。それじゃ羽沢さんはあたしで向こうのほうから探していきます」

「30分くらい探しても見つからなかったら、一度別荘の方に戻るってことでどうですか?」

「ん、了解」

 

 この付近の捜索を二人に任せ、俺ははぐれたと思われる位置から少し道から外れた方向を探すこととなった。

 危ない目に遭って無いことを祈りながら、俺は道なき道を進んでいく。

 

 

 

[newpage]

 捜索開始から数分、流石に大声で呼びかけて探すのは誰にも見られていないとしても気恥ずかしいので、控えめな声量で松原を呼んでみる。

 が、近くで人の気配はしない。

 いっそ弦巻の近くで待機してるであろう黒服さんたちに助力を頼むか……と考えたところで微かにだが声のようなものが聞こえた、気がした。

 

「痛っ……」

 

 位置は遠い。けど誰かいる。

 今の一瞬を頼りに歩みを進めると、再び声が耳に届く。

 

「ふぇぇ〜……、美咲ちゃ〜ん、つぐみちゃ〜ん、いたら返事して〜」

 

 今度ははっきりとした声音。

 間違いなくあれは松原だ。

 俺は少し足を早め、生い茂ってる草を掻き分け進んでいく。と、辺りに視線を右往左往させながら、不安そうな表情を浮かべた松原を無事に見つけ出すことに成功した。

 

「松原!」

 

 名前を呼ぶと松原は驚いたように反応し、けれどこちらの正体に気づくとぱぁっと笑みをみせる。

 

「っ……! 比企谷さん!」

 

 どこか怪我でもしたのか松原は足を引きずっていた。

 服装とかの乱れは特に無いので、派手に転んだとかでは無いらしい。

 

「足、痛めたのか?」

「あっ、はい。……ちょっと捻っちゃったみたいですけど……痛みは少しだけです」

 

 言いつつも時々動きが強張る松原。

 この状態で俺が来た道を引き返していくのは流石に厳しいかもしれない。

 

「ちょっと足見せてもらえるか」

「えっ、でも……」

「そこの岩に腰掛ければいいから」

「は、はい」

 

 腫れていたらとか、悪化したらとかを先行して考えていたから、この行為についての重要性に気付いたのは松原の足に触れた時だった。

 

「ひゃぁっ……!」

 

驚くような声が聞こえる。

顔を上げると、松原の赤面した表情と視線が交わり、俺は慌てて距離をとった。

 

「わ、悪い!」

「い、いえ、大丈夫です……」

 

 気まずい雰囲気が場を支配する……前に俺は立ち上がりつつ咳払いをして場を誤魔化す。

 

「とりあえず腫れとかは無さそうだから、別荘まで戻って冷やせば問題ないと思う……多分」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 松原が靴を履いてる間に羽沢にメッセージを送り、探し出したことと先に戻って問題無いことを伝えておく。

 スマホをポケットにしまうと、松原が立ちあがろうとしたのでそれを手で制し、背中を向けて腰を下げる。

 

「痛めた足で歩くのキツイだろうし、抵抗なかったらでいいんだが……乗っていいぞ?」

 

 いつもの俺なら悩みに悩んで色々建前やら屁理屈を捏ねて、ようやくして背負うと言う結論に至るだろう。

 が、まあ、都内の大学に入学して……それなりに人と関わりがあって、俺も変わってきているのだろうか。

 そこのところは自分でも曖昧だが、今は折角のキャンプなんだから、少なくとも松原たちには楽しい思い出を作ってほしいとは思っているのだ。

 

「えっと、よろしくお願いします。……えへへ」

 

 松原が俺に身体を預けてくるのを確認する。

 立ち上がりそして歩き出して、徐々に冷静になってきて沸々と顔が熱くなっていく。

 ──俺、どの立場でものを語ってるんだ、と。

 

 

 

[newpage]

 俺と松原が別荘に戻ってきたのに気づくと、全員が慌てて駆け寄ってきた。

 

「花音さん、大丈夫ですか⁉︎」

「うん、大丈夫だよ美咲ちゃん。比企谷さんがここまで送ってくれたから。心配かけてごめんね」

 

 言うと、松原は俺の背中から降り、奥沢と羽沢の肩を借りて座れる位置まで移動した。

 

「比企谷さん、お疲れ様です」

「あ、おう」

 

 青葉がドリンクを手渡してくれたので素直に受け取る。

 疲れた身体にスポーツドリンクの冷たさが染み渡っていく。

 

「……んじゃ、そろそろ昼時だし、バーベキューでも始めるか?」

 

 「さんせーい」「良いわね!」と、青葉と弦巻が肯定し、それに反応して羽沢と奥沢は別荘の冷蔵庫から食材を取りにいく。

 

「花音さんは休んでてくださいね」

「うん、分かった。ありがとう」

 

 テキパキと作業をすすめ、これから本格的にバーベキュー開始となるところ、不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「おーい、こころちゃーん!」

 

 一斉に振り返ると、大きく手を振ってこちらに向かってくる人が一人。そしてその後ろから四人ほど歩いてくるのが目に入った。

 

「日菜! 待ってたわよ!」

 

 驚く俺たちをよそに、弦巻だけは知っていたらしく、突如現れた人たちを歓迎ムードで出迎えた。

 

「それじゃ、みんな揃ったことだし、バーベキューを始めるわよ!」

 

 今まで個々で日菜、白鷺、若宮とは会ったことはあるが、こうして五人揃ってるところを見るのは初めてだ。

 Pastel*Palettesが合流して、改めてバーベキューがスタートする。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。